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【書籍化決定・コミカライズ企画進行中】悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜  作者: ましろ
第三章

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17.ずっと聞きたかったこと

 結局、レイモン様たちが昼食に現れることはなかった。

 私たちはお祖父様の王都でのお話を聞いたり、ジョイと遊んだりと楽しく過ごした。

 すっかり日も暮れ、晩餐の時間になった頃、ようやくレイモン様たちが帰ってきた。

 晩餐に現れたレイモン様は、憑き物が落ちたかのようにすっきりとした顔をしていた。

 反対に、コンスタンス夫人には疲労の色が見える。


「どうした、レイモン。ずいぶんとさっぱりした顔をしているじゃないか」


 お祖父様の言葉を受け、レイモン様が楽しげに笑った。


「はい。長年頭を悩ませていた問題が、ようやく解決したんですよ」

「それはよかったです。父上には健やかに過ごしていただきたいですから」


 リシャール兄様は少しおどけて言ったが、きっと本心なのだろう。


「うちの孫は立派だな」

「当然です。ダンドリュー公爵家の血を引いているんですよ?」


 リシャール兄様の自信に満ちた言葉を、お祖父様はどう受け止めたのか。

 その凛々しい眉が、ほんの少しだけしかめられた。


「だよな! 俺──じゃなくて、私もそう考えています。いずれ、父上や兄上を守れるくらい立派な騎士になりますから!」


 ロラン様の未来に向けた宣言に、皆の表情がほころんだ。

 そこからは和やかな晩餐となり、普段よりも豪華な食事に舌鼓を打った。

 そろそろ食事も終わりを迎える頃、ミュリエルが居住まいを正し、声を上げた。

「あの! 私、どうしても聞きたいことがあって」

「どうしたの、ミュリエル。何かあった?」


 ベルティーユさんが驚いたように声をかけた。


「あのね? ずっと気になってたことがあってね? ……でも、もしかしたら間違いかもしれなくて、どうしても気になって」


 次第にミュリエルの言葉が尻すぼみになっていく。


「遠慮しないで? この家では、家族として過ごしてほしいと思っているのよ?」

「そうだよ。不安なことがあるなら、遠慮せず言ってくれていいんだよ?」


 コンスタンス夫人とレイモン様の優しい言葉に、ミュリエルが意を決したように頷いた。

 そして、ミュリエルの真剣な眼差しがお祖父様へと注がれた。


「ん? もしや、このじいさんに伝えたいことでもあるのかな?」

「……うん……でも、怒らない? ですか?」

「ハハッ、もちろんだとも」


 お祖父様がミュリエルの不安を明るく笑い飛ばした。

 しかし、ミュリエルの表情は逆に引き締まった。


「……お祖父様は、どうしてお母様のことが嫌いなの?」


 誰も予想していなかった言葉だったのだろう。

 しん──っ、と空気が張り詰めた。


「……嫌いなどではないよ」

「でも、王さまが決めたことより、怖い罰にしたんだよね?」


 お祖父様の表情がわずかに強張った。


「それは……オレリーが、それだけのことをしたからだ」

「でもね? ミリ、大好きならそんな意地悪しないと思うの」


 ミュリエルは不思議そうに首を傾げた。


「それに、お祖父様はどうしてミリのことが嫌いなの?」

「そんなことはない!」


 今度は、はっきりとした否定だった。

 けれどミュリエルは納得しなかったらしい。小さな手で、自分の髪をひと房つまんだ。


「えっとね? 先生が最初ミリにあんまり優しくなかったの。悲しかったけど、ミリ、いっぱい考えたの。ミリが兄様たちを独り占めしちゃってたから、先生は代わりに姉様のお兄様になって味方したんだよね?」


 ミュリエルが私に問いかけた。

 どうなのかしら。シルヴァン兄様の心の内を私が勝手に返事するのは違う気もするけど。


「……そうね。シルヴァン兄様は、私の兄になってくれたわね」


 憶測ではなく、真実のみを答えた。


「うん! だから先生はわかったの! それに、先生なエルフェ様はちゃんと優しいもん。でも、お祖父様は違うよね?」

「……何を」

「本当は髪の色で好き嫌いしてるの、お祖母様じゃなくてお祖父様なの? ミリ、母様と同じ色だよね。だから、嫌い?」


 お祖父様は答えなかった。

 コンスタンス夫人が何かを言おうとしたが、レイモン様がそっと止めた。


「母様も髪の色で姉様に意地悪したもの。お祖父様とおんなじだね」


 ミュリエルはそこで少し考えるように眉を寄せ、それから真っ直ぐにお祖父様を見た。


「お祖父様は母様に意地悪をしたのに、『へんきょー』に行かなくてもいいの?」


 そこまで言うと、ミュリエルはくるりとこちらに顔を向け、満面の笑みを浮かべた。


「姉様、言いたいことは全部言いました!」

「よかった。でも、まだ答えを聞いていないのに」

「んー。だってお祖父様、いっつも屋敷にはいないもん。もういいかなって」


 そう。これは私がミュリエルに頼んだことだ。この子の勘を信じた上で、素直な気持ちをお祖父様に伝えてほしいと願った。


「……これはどういうことだ、ブランシュ」


 お祖父様から笑みが消えた。……そうこなくては。


「私からお伝えしたら、何かの策略だと疑われると思いました。ですが、ミュリエルの言葉なら、本心からのものだと受け取ってくださいますでしょう?」


 ふふっ、だって私は策略が得意なほうですもの。


「ちょ……待ってよ、ブランシュ。今のやりとりは何? 髪色とか……辺境って、なんの話なんだ?」


 いつもはお日様のように明るいロラン様の表情が、不安そうにかげってしまった。

 ……ごめんなさい。あなたにとっては自慢のお祖父様なのに。それでも、私にとっても譲れないことなのよ。

 




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― 新着の感想 ―
おじい様は公爵だけど公爵家の血は引いていないし、王家の犬だからなぁ・・
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