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【書籍化決定・コミカライズ企画進行中】悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜  作者: ましろ
第三章

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14.奪われたもの

 姉妹二人で深呼吸するというおかしな絵面に、なんとなく気まずくなった。

 ミュリエルはといえば、まだ怒りが収まらないのか、私をひと睨みしてからそっぽを向いている。

 そんなミュリエルの前でシルヴァン兄様が腰をかがめ、視線を合わせた。


「ミュリエル。君のお姉さんは、ちゃんとお約束を守ったんだよ」


 シルヴァン兄様の言葉に、ミュリエルが訝しげに眉を寄せた。


「……お約束?」

「そう。君に必ず説明すると、ジュール様のお屋敷で約束したじゃないか」


 ……うん。ようやくその約束を果たすことができた。

 でも、ミュリエルの表情は晴れるどころか、悲しげに歪んでいった。


「じゃあ、そんなにも前なの? ……母様、ずっとお水の中なの?」


 ミュリエルの瞳が不安げに揺れ、涙がにじむ。


「そうだね。事故からだいぶ時間が過ぎた。そして、まだ君たちの母君は見つかっていない」


 ぽとりとミュリエルの涙がこぼれ落ちた。


「……どうして教えてくれなかったの?」


 それはきっと、私たちが子どもだから。

 幼くて哀れだから、何も知らなくていいのだと目隠しをされていたのだろう。

 いつか、()()がわかってから知らせればいいと、私たちはただ笑って暮らしていればいいのだと──馬鹿にしているわよね。

 もちろん、皆それぞれに事情はあるのでしょう。

 純粋な同情。子どもを庇護する心。

 ……でもその中に、この状況を使い、私達を懐柔しようとする心があったなら。

 だめね。私からの言葉ではミュリエルを救えそうにない。

 私は答えを求めるように、シルヴァン兄様を見た。


「理由の一つは、こうやって泣いてしまうことがわかっているからかな」


 シルヴァン兄様が優しくミュリエルの涙をハンカチで拭った。


「……泣くよ。……泣いたら駄目なの?」

「悪いはずがない。ただ、大人たちもね。そんなに強くはないんだ。それに万能でもない」

「ばんのー?」

「どんなことでもできる、すごい人かな」

「……母様……見つけられないの? だって、先生はすごい魔法使いなのに」

「うん。ごめんね」


 ……ああ。結局、兄様に謝らせてしまった。

 私が早く決心しないから、こうして代わりに話させてしまっている。

 駄目ね。こんなにも甘え癖をつけるなんて。

 慕うことと依存することは違うでしょう? 大切なものを守りたいなら、自分の足でしっかり進まなきゃ。


「聞いて、ミュリエル。私は諦めていないわ」


 兄様を真似て、ミュリエルの前に身をかがめた。さっきまでそらされていた瞳が、真っ直ぐに私へと向けられた。


「……でも、先生でも無理なんだよ?」

「いいえ。私はこれがただの事故だとは思っていない」

「えっと? 事故じゃない……なら?」

「事故に見せかけて、お母様を連れ去った可能性もあるでしょう?」


 最初はただ、事故に見せかけて暗殺したのかと思っていた。

 でも、それなら確実に死体を発見できる状態のほうがいいはずだわ。生死不明なんて、誰の得にもなりそうにないもの。

 私の説明を聞いていたミュリエルの瞳が輝きを取り戻した。


「母様、お姫様なの⁉」


 ――どうしてそうなったの?


「……不思議な感想はやめて」

「だって、さらわれちゃうのはお姫様だもん!」


 一体どんな本を読んだのかしら。ミュリエルは案外ナタリーと友達になれるかもしれない。


「……わかった。だから、まずはそのお姫様を助けるために、力を貸してほしいの」

「母様を、助けてくれるの?」


 ──助ける。それは、何から?

 シルヴァン兄様からお母様の事故の話を聞いてから、ずっと考えていた。

 お母様とお別れをしたあの日。お母様は、お祖父様が用意した馬車で辺境に向かった。

 事故のあった現場は、事故当日を含め、ずっと晴れた日が続いており、がけ崩れの兆候はなかった。

 それなのに事故は起きた。穏やかな日差しの中、心地の良い風が吹く見晴らしのよい場所で、たまたま辺境へと護送されていたお母様の馬車が、あの場所で川へ転落する確率はどれくらい?

 ……私は、利用されたのではないかしら。

 いつ、どこから。もしかすると、私が張った罠を誰かが乗っ取っていたのかもしれない。

 ――あれは、私が何年もかけて組み上げたものだった。

 エマへの、別館の皆への……お父様とお母様への私の思いを丁寧に紡いで作り上げた、渾身の一手だったはずだったのに。

 ……想像しただけで胃がねじ切れそうだ。

 お母様を守る強固な砦であった伯爵家。

 家を出てから知った、あの屋敷に施された魔法での保護。

 そんな絶対の守護からお母様を引き離すために、利用されたのだとしたら――


「許可もなく奪うのですもの。やり返されても文句など言わせないわ」






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― 新着の感想 ―
強いなー そして周りの大人どもはロクデナシばかりだなー
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