街へ出かけませんか?
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「セシリア様。今日は、街へ出かけませんか?」
ルイスとのお茶会を何度か重ね、もはや恒例となってきた交流。そんなある日、ルイスに笑顔で提案された。
「・・・街?」
「はい。セシリア様は、皇女殿下というご身分ですので、あまり街にでたことはございませんよね?」
「ええ。一度くらいかしら。母が一度、街へおりたいと申しまして、その折に付き添いとして街へいかせていただいたときのみですの。また、いってみたいと思っておりましたわ」
わたしが目をきらきらと輝かせて、首肯すると、ルイスはほっとしたような安堵の笑みをうかべた。
「良かったです。実は、もう皇帝陛下に許可はとってあるのですよ。皇女殿下の護衛は抜かりなく、公爵家からもご用意致しておりますので、ご心配なく」
「まあ!わざわざ、陛下にも確認してくださって、さらに護衛も用意してくださったのですか!?ありがとう存じますわ」
わたしが笑顔で承諾すると、ルイスは良かったと、白い歯を零して笑った。
「町娘用の服も用意致しておりますから、そちらに着替えてくださいますか?」
「ええ、分かりましたわ。何から何まで、用意してくださって、ありがとうございます!」
わたしは、微笑むと、マリーとメイドたちとともに着替えを行う。ルイスが用意してくれたのは、少しくすんだ黄色のブラウスと、マットな質感の赤色のロングスカートだった。
「このように着るんですね」
上級侍女として働いているマリーは、子爵家の長女だったはずだ。貴族は、後ろをリボンで結い上げるワンピースやドレスしか着ないので、着方が分かるようにと簡単に着衣ができるものを選んでくれたらしい。わたしも、皇女として過ごしてきたので、このような簡単に着ることができる服は初めてだ。
「わたくしも、初めて着るわ。マリーは、今まで街にでたことはないの?」
「ありますけれど、大抵は馬車でしたから。ワンピースを着ていっても、問題なかったのです。一人歩きをするならばともかく、馬車ならば、もう既に貴族だっていうことがばれてますもの」
「なるほどね」
確かに、一人で着ることができないような、複雑なワンピースは貴族しか着ない。一人で着れないということは、人をたくさん雇えるという誇示でもあるからだ。だから、大抵、後ろがリボンで結い上げるようなワンピースは貴族の女子で間違いない。
ただ、貴族だということがばれると、物取りにあったり、襲われる可能性が非常に高くなるのだ。それも、一人歩きはもう確実に助からない。だが、マリーは馬車に乗っている時点でもう貴族とばれているのなら、ワンピースを着たって良いじゃないか、と判断したらしい。
「さあ、できましたわ。髪の毛は、簡単なお団子にしましたけれど、これでよろしかったのですよね・・・?」
マリーが少し不安そうにわたしを見つめる。わたしは、マリーを安心させるような笑顔を浮かべると、
「ルイス様に見せてくるわ。駄目だったら、そうね。おさげにしてもらって良いかしら」
「分かりました!」
マリーは大きく頷くと、ルイスを呼んでくれた。ルイスも、今の間に着替えていたらしく、茶色のトラウザーズに、くすんだ白色のシャツをきている。サスペンダーをつけているところは、わたしの想像する平民そっくりだ。
「どうでしょう?」
「うん、とっても似合っていますよ、セシリア様。さあ、街へいきましょうか!」
目を細めて、褒めてもらう。マリーが視界の端で小さくガッツポーズをしているのが見えた。
「案内してくださるのですか?」
「ええ、もちろん。こう見えても、私は悪戯が大好きな生意気な少年でしたから」
「あら、過去形なのね?」
少し揶揄うようにいってみせると、ルイスはあははっ、と声に出して笑った。
「もちろん、過去形ですよ。筆頭公爵家の当主が、悪戯好きの生意気な青年だったら、嫌でしょ」
「うふふっ、そうですね」
二人で笑い合いながら、宮殿から出る。今日は、宮殿のすぐ傍に広がっている街へいくらしい。
「どんなところなのかしら。実は、屋台というものを見てみたかったんですの」
「屋台ですか?それならば、美味しいジュース屋さんがありますよ。私が毒味致しますから、飲みませんか?」
「まあ、ぜひ!けれど、筆頭公爵様を毒味役にするのは心苦しいですわ。もう街へ出ましたから、毒味なんて気になさらなくってよろしいと思いますけれど。命を狙われるなんて、そうそうないでしょうから」
わたしの本音に、ルイスはきらりと水色の瞳を光らせた。
「駄目ですよ。流石に、口にするものは全て毒味するよう、皇帝陛下から仰せつかっています。ここは、
私に華を持たせてくださいよ」
「・・・。では、お願い致します」
ぺこり、と頭を下げるとルイスが焦っている気配がした。
「ちょっ、やめてくださいよ!皇女殿下に頭を下げられていると知られては、私の名誉がだだ下がりですからね!?」
自分の名誉がだだ下がりといっておいて、相手の頭をあげてもらう。この人は、とても優しいのだな、と感じた。迷惑だとハッキリいわないところに優しさを感じるのだった。
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