覚醒?
三つ、四つ、五つ。
注文の多い指示役とマナ溜まりを散らしていく。
慣れればどうということはない。
"天才"の呼び名は伊達ではないのだ。
「そこちょっと残ってますよ」
伊達かもしれない。
肩を落としながら残ったマナ溜まりを払おうとする。
が、それは払う前にどこかに消えた。
「おい、今なんか……」
振り向くとリゼットがどこかを凝視している。
不思議現象には目がなさそうなのに。
同じ方向を見てみるが、なにもない。
「……リゼット?」
「ちょっと待ってください……あ〜、ヴァンさん盗み聞き使えます? 向こうの方の音を聞いてほしいんですけど」
「盗み聞き?まあたぶんできるが……」
聞きたいものに意識を集中させて……。
いや、違った、聞きたいと思えばいいのか。
リゼットの指差す方向に耳を傾ける。
それにしても音って曖昧すぎるだろ。
だいたい霊園で音なんて――
――聞こえる。
呻くような声……声?
何かを吐いているような不快な音。
「……っ」
「聞こえましたか! やっぱりそうなんですね!」
「わかってて聞かせたのか!?」
これ耳に残って、めちゃくちゃ気持ち悪いんだが。
「先生のところまで戻りましょう」
「見に行くんじゃないのか?」
こういうのは直接確認したがるタイプだと思ってたが。
「あれ、たぶんゾンビです。見たことはないですけど見たくはないですね」
「ゾンビ?」
「動く屍です。しかも人襲うタイプの。詳しく説明させていただくと――」
「よし、撤収」
聞いてる暇なんかない。
リゼットもさすがに説明を切り上げる。
俺たちは教師の待つ霊園の入り口に向かって走り出した。
盗み聞きした場所から徐々に離れているはずなのに、あの不快な音が直接耳に入る。
「これ大丈夫なのか!?」
「大丈夫じゃないです!」
「おい、なにがあった!」
珍しく険しい顔をした教師が駆け寄ってくる。
「ゾンビです! あ、直接見たわけじゃないですが状況から考えるとそれしかありえないといいますか――」
「いい、わかった。もう見えてる」
振り向くとゾンビ……屍の群れがすぐそこまで迫っている。
足早すぎるだろ。
という疑問は即座に解決した。
「墓から這い出てる……」
霊園の奥からゾンビに追いかけられていたんじゃない。
奥から順に、伝播するように地上へ這い出していたのだ。
「ゾンビは珍しくないが、この数は初めてだな」
立ち昇る火柱がゾンビを焼き払う。
肉の焼けた匂いが鼻を刺激する。
牛か豚なら嬉しいが、人なんだよな。
「だから死体は焼いた方がいいと――」
なにやらぶつぶつ呟きながら魔法を使い殲滅していく。
「ウェルダム先生の火炎魔法! あれなかなか見られるものじゃありませんよ!」
興奮気味にリゼットがぴょんぴょん跳ねる。
たしかに迫力はある。
それにあれだけいたゾンビが一瞬にして……減ってない?
「増えてるな……元から絶たんとダメか。リゼット・ベルンハルト=アークライト!」
不意に呼ばれたリゼットが今度はビクリと跳ねる。
「はい!」
「マナ溜まりがどこにあるか確認して報告。どこかにデカいのがあるはずだ。まったくこれだからもっとこまめに――」
またぶつぶつ言ってる。
マナ溜まりとゾンビって関係あるのか。
だったらちゃんとノルマ決めた方がいいのでは。
いや俺たち……俺はちゃんと掃除していたが。
ぐるぐると見渡しながらマナ溜まりを確認するリゼット。
「うーん、こうもゾンビが多いとノイズが多くて……」
小さいものでも歪んで見えるのだから、デカいマナ溜まりなら目視もできるはずだ。
それこそ魔力計がなくとも。
「なあ、ゾンビって下から出てくるよな」
「死体は埋められてるんだから当たり前じゃないですか!」
「ちょっと下の方見てもらえるか」
「まあいいですけど……あ〜」
この反応、あったな。
「ウェルダム先生! 地下にありました!」
「地下だと? なんでそんなところに……いや、地下だから発見が遅れたか……」
ウェルダムはしばらく悩んでから口を開いた。
その間もゾンビを焼き払い続けているのは器用というかなんというか。
「最も避けたいのはゾンビが霊園から街に出ることだ」
仕方がないが、俺たちの命が二の次なのは決定した。
「次に可愛……い生徒も守る義務もある」
なんでちょっと言い淀んだんだ。
まあ可愛くはないか。
問題児二人だからな。
「幸いゾンビは生者に引き寄せられるので、我々がここにいる限りはその心配はない」
つまり囮か。
霊園から出られないのは困るが安全ではある。
「でもそうすると先生が力尽きたら終わりじゃないですか?」
こいつにはデリカシーが存在しないんだった。
本当のことだとしても、人のやる気とか気力を削ぐようなことを言うのはよくないと思うぞ。
いや俺も気をつけるべきか。
「だからその前に元を断つ。移動するぞ、離れたら……死ぬだけだ」
「でも霊園の地下ってどう行くんです?」
ウェルダムは上着のポケットから古い鍵を取り出した。
なんで教師がそんなもの持ってるんだ。
「実家なんだ」
牧師じゃねえか。
補習が実家の掃除って公私混同ってやつなのでは。
「霊園の地下ってなにがあるんですか?」
それどころではないが気にはなるので聞く。
「面白いものはないぞ、下水道だ」
本当に面白くないものだった。
「ちなみに下水道からゾンビが出たりとかは?」
地上にこれだけゾンビがいるのに、原因のマナ溜まりがある地下にはどれほどいるのか想像もできない。
「……ヴァン・グランフィールド、内申点をやろう。急ぐぞ」
嬉しいけど嬉しくない。
俺たちは走った。
その間も先生は片手間にゾンビを焼き払っていく。
そんなつもりはないが、この人に逆らうような真似をするのはやめておこう。




