ポケット転移魔導陣
結論から言うとベルンハルト家は超金持ちだった。
そんなの見ればわかるだろって?
それもそうだ。
「うちは魔道具の研究開発流通をちょっとだけやらせてもらっていてね。3割くらいだったかな」
シェアが?
シェアが3割なのか?
「お父さん、今年度は4割になりそうって言ってなかった?」
「そうだったそうだった。陛下から大口の受注があってね。おっと、これは聞かなかったことにしてもらえるかな? 色々とあって、わかるよね?」
わかりたくないし、聞きたくなかった。
一応無言で頷く。
「うんうん、いい返事だ! リゼットのお友達をここで失いたくはないからね」
帰らせてください。
「もう遅いから今夜は泊まっていきなさい」
「い、いえ、親が心配するので……」
嘘、俺が心配なんてされるはずもない。
いなくなった方がいいくらいに思われているだろう。
「そうか、それはよくないな。家まで送るよ」
「いえ、お構いなく1人で帰れますので」
そうして出ていこうとして気づく。
ここって街のどの辺なんだ。
こんな城みたいな建物見たことないぞ。
「歩いて帰るなら数日かかりますよ?」
リゼットが恐ろしいことを口走った気がする。
「どうやって拉致した」
「担いで」
そんなわけあるか。
ダメだ、こいつのペースに呑まれるな。
「担いだあと、どうやってここまで移動させた」
リゼットは、そんなことも知らないのか、という顔でこちらを見る。
リゼット父も信じられないようなものを見るような表情だ。
変なこと言ったか?
「ポケット転移魔導陣、知らないんですか?」
そんなポップな名前のアイテム知らん。
「我が社の主力商品なんだけどね……」
ポケット転移魔導陣が!?
すごいな、ちょっと気になってきたぞ。
「ちなみにおいくらなんですか?」
便利そうだし持っておいた方がよさそうだ。
「ああ、これは1つ――」
買えるわけねえだろ! という言葉を飲み込んだ。
一瞬知らない方がおかしいのかと思ったが、明らかに一般家庭には存在し得ないものだ。
恐るべしポケット転移魔導陣。
「まあ見てもらえばわかるかな」
ポケット転移魔導陣の場所まで案内される。
ポケットじゃないんかい。
何かで見た異国の畳なる敷物くらいの大きさあるぞ。
「け、結構大きいんですね。ポケットと言うからてっきり持ち運びできるくらいのサイズだと思ってました」
「みんなそう言うんだよ。そんなサイズで人を移動できるはずないのにねぇ」
「だからポータブルくらいにしておいた方がいいと言ったじゃないですか!」
もう畳とかでいいだろ。
「これに乗れば帰れるんですか?」
こんなものでどこまで行けるのか。
「いやだなぁ、乗るんじゃなくて持ち上げるんですよ」
持ち上げる!?
これを!?
「こうやって持ち上げて、魔導陣の下に潜り込んで――」
そのまま畳……ポケット転移魔導陣に潰されたリゼットが消えた。
「さあヴァンくんも……」
「怖いわ!」
転移したんだから消えるのはいいとして、出る時どうなるんだよ!?
「絶対に安全だから落ち着いて。今のところ事故とか起きてないから」
今のところ!?
さあさあと背中を押され畳の下に潜り込まされる。
畳が降りて、暗転――
「はっ!?」
気がつくと俺はポケット……もう畳でいいや。
畳が敷き詰められた部屋にいた。
「遅いですよ! 何してたんですか?」
紙でできたスライド式の扉――襖というらしい――を開けて部屋に入ってくるリゼット。
「これ出てくる時どうなってるんだ!?」
「あ、それ企業秘密なんです! 出てくるところは見られないようになってて! ただ技術部の話だと量子転移魔法?とかいうのを使ってて……あっ、これ口外しないでくださいね」
こいつに秘密を話したら一瞬で広まりそうだな。
「転移魔法はなんとなくわかるが、量子って何だ?」
聞いたことない物質?概念?だ。
「うーん、その辺は専門外なので私からはなんとも説明し難いですね」
そんなことより、と詰め寄ってくる。
「最後にもう一度だけ魔法擬き見せてください!」
「帰る」
この部屋がどこかはわからないが、流れ的に学園の近くだろう。
頼むから学園の近くであってくれ。
建物から出ると見慣れた通りだった。
「魔法擬き〜」
非常にしつこい。
さっさと逃げるか、と考えたところで思い出した。
こいつには俺を気絶させた何らかの方法がある。
「待てリゼット、交渉しようじゃないか」
また拉致されても困るからな。
「魔法擬きを見せるか拘束されるかですか?」
一緒じゃねえか!
「協力はする! 協力はするが俺の都合でさせてほしい」
こちらとしても魔法を使えるようになるのは願ってもないことだからな。
「なんでですか! 歴史に残る大発見かもしれないんですよ!? 早く解明したいです!」
歴史に残る、なんて魅力的な響き……いやいや。
「これが大発見だとしよう」
「はい」
「研究機関とかにバレたとする」
「はい」
「どうなると思う」
「はい」
ダメだ、こいつ。
「俺が研究機関に拘束されでもしたら、お前はこの大発見を調べることができなくなるんだぞ」
青ざめるリゼット。
なるほどこういう感じでいいのか。
「わかり……ました。仕方ないですね、研究成果を取られるのは別に構いませんが、サンプルを手放すのは惜しいです」
俺がサンプル扱いなのは変わらないのか。
「……まあいい、そういうことだから今日はやらない。もう疲れた」
主にお前のせいで。
リゼットはこの期に及んで悩んでいる。
こいつ我慢というものを知らないのか。
そのまま帰ろうとすると呼び止められた。
まだ何かあるのか。
「あの! お名前なんでしたっけ?」
俺、あいつの前で名乗ったよな?
「ヴァン・グランフィールドだけど……」
リゼットは口を開けてぽかんとして……。
「ああああ! あの! 神童! 天才! ヴァン・グランフィールド!」
いきなりなんだ気持ち悪い。
いや、気持ち悪いのはずっとだが。
「そういうことだったんだ!」
リゼットはそう叫ぶと、今出てきたばかりの建物へ駆け戻っていった。
「……は?」




