第七話 ラナの夢。
十三歳にもなればよほどの事情がない限り、奉公に出るのがラナの村では普通だった。
近くの町に奉公先が見つかれば運が良い方だ。
だが、ラナは奉公には出ないと決めていた。
安い給金で働くより、ラナのスキルで手に入れたものを売る方がよほど稼げるからだ。
ラナの元にはアブラノキの実だけではなく、特定の種類の茸や、腹痛に効く薬草の根を探して欲しい等の要望が届くようになっていた。
また、村の人達にもアブラノキの実を渡し、礼としてフライリザードの肉や薪などを受け取っていた。
自分達でアブラノキの実を手に入れようとした人間が何度か岩場に向かったようだが、誰一人として迷路のような道の奥までは辿り着けず、何日も帰って来ない事が何度かあった。
三年の間に畑の状態はだいぶ良くなった。ボーショの色も濃くなり、収穫量も増えた。
わずかだが、人参や豆などほかの作物も植え始めた。
先日は、レッドバードと呼ばれる鶏をオス・メス1羽ずつ手に入れた。
鶏達の世話は八歳になったリンの役目だった。
近くの草むらから鶏達の好む草を取ってきて与えたり、暗くなる前に鶏小屋に入れたり、甲斐甲斐しく世話をしている。
十一歳になったルイは背もだいぶ伸び、もう少しでラナを追い越しそうだった。
力も強くなり、最近では母親を手伝って畑仕事をしている。
ラナは、遠くの大きな街まで働きに行く事を決めていた。
前よりは余程マシになったとはいえ、決して裕福になったわけではない。
ルイやリンを奉公に出さずにすむように、また、ラナ自身の夢のためにも、もっとお金が必要だったからだ。
ラナは、学校に行きたかった。
この世界の識字率は高く、ラナの両親も村の人達も読み書きや簡単な計算は出来た。
近くの町には子供達が通う学校もある。
一度、父親に連れて行ってもらい、学校を見学もさせてもらったが、前世での知識があるラナにはとっくに知っている事ばかりであった。
そんなおり、町に立ち寄っていた旅人から、学園都市の話を聞いたのだ。
そこでは、ありとあらゆる事が学べるらしい。
前世でのラナは家で安心して眠る事も出来ず、部屋の隅で布団を被って息を殺し、ただでさえ小さかった身体を小さく小さく丸めて朝になるのを待っていた。
そんな状況ではまともに勉強できるはずもなかった。
高校を卒業して家を逃げ出したあとは夜間の工場で働き、朝、仕事帰りにすれ違う学生達を眺めていた。
本当は、大学にも行ってみたかった。
最初はラナが遠くに行く事を反対していた両親も「学校に行きたい」というラナの話を聞くと、それ以上は強く言わなかった。
ラナがいなくなれば収入が減るが、その事を言うと、父親は少し怒ったように「そんな事は気にしなくていい」とそう言った。
「ルイとリンも大きくなって手伝ってもらえる事が増えたし、畑も少しだけど大きくなった。レッドバードもそのうち増やせるだろうし、そうしたら肥料も買わなくて良くなるし、卵も売れるようになる」
だから、と言って父親はラナの顔を見て笑った。
「ラナは、自分の好きなようにやりなさい」
「でも、危ない事はしちゃダメよ」
微笑みながら、母親が言葉を付け足す。
「…………」
この感情は何だろう。
ラナにはやっぱり分からない。
けれど、胸の奥がぎゅうっとなり、鼻の中がつんとして涙が出そうになる。
「お父さん、お母さん、ありがとう」
私、頑張るね。と涙目で言う娘に、両親は優しい目をして笑った。




