第六話 初めての依頼。
ご馳走をたらふく食べると、ルイとリンは眠ってしまった。
母親がよい香りのする葉に熱いお湯を注いでお茶を淹れてくれた。
春夏は生葉のまま蒸らすが、これも秋になる前に森に採りに行って干して乾燥させておかなければならない。
ラナは岩場の奥でアブラノキを見つけた事を父親に話した。
「そんな遠くまで行ったのかい」
「食べられるものを探していたら……」
ラナの言葉に父親は困ったような表情を浮かべた。
それには気づかないふりをして、ラナは話を続けた。
「それで、その実がまだあるから、それを町で売ってきてほしいの」
「何か欲しいものがあるのかな?」
「畑に撒く肥料を買ってきてほしいの! 森の土と肥料があれば、ボーショももっとたくさんとれるようになるでしょ?」
「…………」
父親は母親と一瞬顔を見合わせた。
「分かった。今度帰る時に買って来よう」
「ありがとう、お父さん」
ほっとすると、急に眠気が襲ってきた。
くたくたに疲れていた。
ベッドに潜り込むと、両親が何やら小声で話し合っているのが聞こえたが、あまりに眠くて何を言っているのかは分からなかった。
翌朝、父親は朝早くから畑に出て、ラナが森から持ってきた土を鋤で混ぜていた。
ラナと母親は父親に持たせる弁当を作ったり、着替えの用意をしていた。
昨日の残りのパンと蒸したボーショで昼食を済ませ、父親は町に戻る準備を始めた。
ラナが採ってきた岩塩とアブラノキの実を幾つか布で包むと腰にくくりつけた。
「じゃあ、行ってくるね」
そう言って笑うと父親は町へと戻って行った。
これでまた、しばらくは父親には会えない。
そう思っていたが、父親は次の日に再び帰ってきた。
何かあったのだろうか、と心配していると父親は重そうな袋をラナに見せてくれた。
「ラナ、肥料が買えたよ」
「本当!?」
よかった、アブラノキの実が売れたのだ。
ラナがほっとしていると、父親は小さな巾着袋をポケットから出した。
ちゃり、と金属の擦れる音がした。
まさか。
ラナが父親の顔を見ると、父親はうん、と頷いて袋の中を見せてくれた。
銅貨が何枚も入っている。
「アブラノキの実一つが、銅貨八枚で売れたんだよ」
「ええ!?」
岩塩の大きな塊一つは銅貨一枚の値だ。
「それでね、お店に売りに行った時にたまたまそこにいた旅の人がもう少し手に入らないか、と話しかけてきたんだよ」
油は通常陶器の瓶などに入れて持ち運ぶ。
移動中に割れて、せっかくの油が台無しになってしまう事もよくある。
それに比べて、丈夫な殻を持つ実は持ち運びもしやすい。
「明日の午後までに欲しいって言われてね」
「うん! まだあるよ!」
ラナは〈収納〉の中に残していた実を全て出した。
家で使う分はまた採りに行けばいい。
翌朝、父親はアブラノキの実を包んだ布をしっかりと腰にくくりつけて再度町に戻って行った。
父親が買ってきてくれた肥料を母親が鋤で畑の土に混ぜ込んだ。
明日は種芋を植えなければならない。
またアブラノキの実も採りに行かなければならないし、やる事はたくさんあった。
(やった! 売れたんだ!)
これできっとボーショの色も濃くなり、たくさんとれるようになるだろう。
ラナはわくわくしていた。
そして、三年が経った。
ラナは十三歳になった。




