チュートリアルの終わり・11
黒葉会。
その存在をアンカルヤが知ったのは、ゴブリンシャーマンとの戦いの後に合流したゴブリン討伐隊総指揮官のリゴウズとの会話においてである。
ゴブリンの群れと討伐隊の戦いの背後で暗躍し、アンカルヤを襲った偽ロウギスとも関連していると思われる集団。
リゴウズによると、黒葉会は魔女に関わりのある組織であるらしい。それ以外のことはまだわからないが、魔女関連というだけでも面倒事の予感しかしない。
「暖房がなくて悪いな。長い話にはならないから、寒さは我慢してくれ」
ロウギスはスツールをアンカルヤに勧めると、自分は傍らに無造作に置いてあった木箱に脱いだマントを敷いて、その上に腰を下ろした。
「このテントに暖房がないことは知っている。しかしキミは以前テントについて、風雨が凌げればそれだけで十分だ、とか言っていなかったかね?」
「確かにそう言ったが、お前のテントの快適さを知った後だとな。いや、そんなことよりも、雑談はここまでにして本題に移ろう。とはいえ、黒葉会については話せることは少ない」
アンカルヤがスツールに腰掛けるのを待って、ロウギスは黒葉会の概要から説明をはじめた。
彼が聞いた話によると、黒葉会は遺跡街においても謎に包まれた組織なのだそうだ。
魔女系のプレイヤーが集まるクランであるということは判明しているが、いつ結成し、拠点が何処にあり、どれほどの規模なのか、何を目的に行動しているかなどの詳細は不明。そして、プレイヤーが組織したクランやパーティーによくみられる素人臭さやごっこ遊び的な緩さが全く感じられない集団である。
「冗談の通じない連中、といった感じか」
「一説には、もともとこの世界に存在していた秘密結社に、魔女系のプレイヤーが合流した組織ではないかともいわれている。あくまで噂だがな」
「それは本格的だね」
リゴウズたちが黒葉会の気配を感じて苦い顔をしていたのも納得だ。
「拠点が不明というのはともかくとして、活動の目的が不明というのは?」
「黒葉会の活動自体は、遺跡街でも割と頻繁に目撃されているらしい。だが、その活動というのが随分と不可解なものなのだそうだ」
これまでに確認されている黒葉会の活動は不明な点ばかりであったが、一点だけ共通する特徴があった。
それは、元の世界に戻ろうと行動しているプレイヤーに対して、一方的に干渉してくるというものだ。
だがその内容は、あるときは支援であり、あるときは妨害でありと、一貫性が見られない。
そのため、確認されている黒葉会の活動内容から、その目的を推測することはできなかった。
「それは、私たちには心当たりのある話だな」
「ああ。俺たちの状況にピッタリと当てはまるよな」
理由は不明だが、黒葉会は元の世界に帰還しようとしているプレイヤーに対する関心が高い組織らしい。ならば、日本出身という設定を持つリフィリシアは無視することのできない存在だろう。
だが、そうなると気になるのは、黒葉会はどのようにしてその情報を知ったのかということだ。
「お前も色々と疑問や質問はあるだろうが、残念ながら答えられることはない。俺が知っていることは、これだけだ」
「ん? 話はこれで終わりなのか? しかし、聞いた限りではリフィリシアに秘密にしなければなからない内容とも思えない。何故、この話で彼女を避けたのだ?」
するとロウギスは、申し訳無さそうに顔を伏せた。
「無責任な話だが、わからなかったのだ。俺にはその判断がつかなかった。だから、この話を嬢ちゃんにも伝えるかどうかは、お前の判断に任せたい」
「私に?」
「黒葉会とリフィリシアに繋がりがある可能性を推察したのは、お前だ。以前にお前からその話を聞かされたとき、俺はまだ真半信半疑だった。そんな俺よりも、お前のほうが状況を正確に把握している。だから、お前だけに話した」
アンカルヤが状況を把握しているというのは、全くの買い被りだ。
黒葉会とリフィリシアに何らかの接触があったとする推測は、あくまで状況からの想像に過ぎない。一連の事態の背後に黒葉会が存在していると断言できるような根拠は、まだ一つもつかめていないのだ。
状況証拠だけで判断すれば、黒葉会が一連の事態の裏で暗躍していたと考えるのは不自然ではない。
しかし、だとすれば黒葉会がアンカルヤたちの情報を手に入れた経緯がわからない。
いや、心当たりは一つだけあった。
リフィリシアだ。
だからロウギスも、この話題から彼女を避けたのだろう。
だが、彼女と黒葉会の繋がりについても状況からの推察に過ぎない。これについても確証は何処にもないのだ。
「リフィリシアか……」
黒葉会とリフィリシアの間に接点がある可能性は高いとも低いともいえないが、少なくともゼロではない。
仲間を疑いたくはないが、実際のところリフィリシアの言動に不可解な点があるのは事実だ。
森が魔法の霧に包まれる直前、彼女は自ら別行動を取ることを申し出ている。彼女が霧の中に姿を消したのは、その提案をアンカルヤが却下した直後のことだ。おそらく偶然だと思われるが、別行動の申し出を却下した直後に姿を消すというのは何とも不審だ。
「俺もリフィリシアが黒葉会の一員だとまでは疑っていない。だが、日本出身という設定を持つリフィリシアの存在を知った黒葉会が接触を試みたというのは、いかにも有り得そうな話だろう?」
「そうだな……。他に、何か私が聞いておくことはあるか?」
「いや。今の所は、これだけだ」
アンカルヤは、「そうか」と頷いてスツールから立ち上がった。
「では私は自分のテントに戻るよ。薪を受け取りに来ただけなのに、帰りが遅くなるとリフィリシアも不審に思うだろう」
「そうだな。話が終わったら茶を出そうと思っていたが、確かにリフィリシアを一人で待たせるのは可愛そうだ」
「君のお茶というのはなかなか興味をそそられるが、それはまたの機会に頂こう。今日は貴重な話をありがとう。黒葉会についてリフィリシアに話すかどうかは、今はまだ判断ができない。後でキミに相談することになるかもしれないが、かまわないかね?」
「その時は、遠慮なく相談してくれ」
「ああ。頼りにしているよ」
エンチャント薪の束を小脇に抱えると、アンカルヤはテントの出口に向かった。
ロウギスのテントを出ると、外の冷気にアンカルヤの肌がピリッとする。
ちらつく雪が彼女の頬に触れ、透明な滴となった。
アンカルヤを見送るために、ロウギスも彼女の後に続いてテントから出てきた。
「もう昼過ぎだというのに、まだ随分と寒いな。明日はもう少し天気に恵まれればよいが」
「そうだね。しかし、昨夜は短い時間で、よくこれだけ多くの情報を集めたものだな」
「たまたま最初に声をかけた奴が話し好きの説明上手でな。おかげで随分と話が捗った」
ロウギスが不自然なほどに多くの情報を一晩で入手できたのは、その幸運のおかげだった。
「その情報源には、私も感謝しなければならないね。どれも貴重な情報だった。五つの帰還の可能性に、遺跡街と兎のうろ傭兵団――そういえば、街と傭兵団の関係はあまり良くないのだろう? 何故、共同でゴブリン退治などしていたのかしら?」
「そういう対立状況をよく思っていない者もいるということらしい。共に困難に挑むことで、相互理解を深めようという考えがあったようだ」
「なるほど。そういえばデルトカンがそのようなことを言っていた気がする」
その話をいつ何処で聞いたのかアンカルヤが思い出そうとしていると、不意を突くようにロウギスが彼女の肩に手を乗せた。
「ん?」
「……小さいな」
「は?」
「こんな小さな肩に、何でも彼んでも背負い込むな」
「いや、何の話だ?」
ロウギスが何を言いたいのかわからず、アンカルヤは彼の言葉に反応を返せなかった。
「黒葉会の件をお前に丸投げした俺に言えることではないが、お前は一人でいろいろと抱え込みすぎだ」
「そのようなつもりは、ないのだが……」
薪の束なら脇に抱えているが、もちろんロウギスが言っているのはそういうことではないだろう。
「少なくとも、今日は休養日だ。午後は肩の荷を下ろしてゆっくり休め」
「うむ、そうするよ」
アンカルヤに自分が何かを抱え込んでいるという自覚はなかったが、疲れているという実感ならあった。休息の必要性については、ロウギスに指摘されるまでもない。
ロウギスに別れを告げると、彼女は自分のテントの入口を潜った。
冷えた体がテント内の暖かな空気に包まれて、肩がブルッと震える。ロウギスが薪ストーブを羨ましく思う気持ちがよくわかった。
「おかえりなさい」
テントに入るとすぐに、リフィリシアが出迎えてくれた。
「ただいま。すまない。薪を受け取った後に少し雑談をしていたら、遅くなってしまった」
アンカルヤはエンチャント薪の束をテントの入口の横に置くと、ロングコートを脱いでコートハンガーに掛けた。
「雑談ですか?」
「彼のテントに暖房がないことや、またの機会にお茶をご馳走になるとか、そのような話だ」
嘘は言っていない。ただ、全てを言っていないだけだ。
「エンチャント薪は、とりあえず入口の側に置いておくよ。見た目は普通の薪と違いがないから、他の薪と同じ場所に保管すると見分けがつかなくなる」
「わかりました。お茶の片付けは済ませておきました。この後はどうします? そろそろお昼の時間ですが」
「時間なら、もう昼は過ぎて……ああ、昼食のことか。朝食がまだ腹の中に残っているから、私は不要だ。キミはどうする?」
「私も同じです。それでは、どうしましょうか?」
どうしようと聞かれても、今日の予定はもう終わった。特にしなければならないことは残っていない。
「では、ゆっくりと休むことにしよう。そもそも、そのための休養日だ。午後は昼寝でもして過ごそう」
そしてアンカルヤは愛用のソファーに腰を下ろした。
「いいですね。今日はのんびり過ごしましょう」
そう言いながらリフィリシアはアンカルヤの隣に座りかけ、ハッとした表情で動きが止まり、それから顔を赤くして駆け足でロフトに向かった。
「あっ、その……。私は上で休みます!」
よかった。彼女があのまま隣りに座っていたら、アンカルヤは緊張でのんびりと休むことなどできなかっただろう。
「ああ。ゆっくりお休み」
ロフトの階段はしごを登る彼女の後姿を見送りながら、リフィリシアは可愛いなと思うアンカルヤだった。
ロフトの上でゴソゴソとリフィリシアの気配が動いていたが、しばらくするとそれも消えて、テントの中は時間が止まったかのような静寂に満たされた。
アンカルヤは天井に吊るしたランタンの光量を下げると、ソファーの上で目を閉じる。
脳の奥が熱く、鈍い頭痛が不快で鬱陶しい。
ゆっくりと休もうと思っていても、ついついあれこれと考えてしまう。
これからの先行きについての不安や心配事が、次から次へと脳裏に浮かぶ。
自分たちの身に何が起こったのか、元の自分に戻ることはできるのか、果たして星去り峰は元の世界に繋がるのか、遺跡街での立ち回り、兎のうろ傭兵団との話し合い、偽のロウギスの背後にいる何者か。そして、あの魔法の霧の中でリフィリシアに何があったのか。
なるほど。これがロウギスの言っていた、いろいろと抱えすぎているということなのだろう。
そもそもアンカルヤの置かれている状況は、困難ではあってもシンプルだった。
気がついたら、何故かゲームの世界の中にいた。
同じ境遇の他プレイヤーと出会った。
彼らと協力して、元の世界への帰還を目指すことにした。
文章にすれば、それだけのことだ。
だが、森の中で魔法の霧に包まれた瞬間から、状況がいきなり複雑化する。
正体不明の何者かから目的不明の干渉を受けたのだ。
元の世界への帰還を目指すだけでも手に余る困難だというのに、更に正体も目的も不明の何者かにも対処しなければならなくなったのだ。ただでさえ困難な状況にさらに厄介ごとを追加してくれた何者かに対して、アンカルヤは「ふざけるな!」と叫びたい気持ちだった。
アンカルヤたちを取り巻くこの一連の事態の背後に、未だ正体の掴めぬ何者かが存在していることは間違いない。
このアンノウンを、仮に黒幕と呼ぶことにしよう。
黒幕がアンカルヤたちに干渉してきた目的は不明だが、偽ロウギスの目的はその行動から推測できる。
魔法の霧が発生する直前まで、リフィリシアはアンカルヤの隣りにいた。にもかかわらず、霧の発生直後にリフィリシアに声をかけても返事はなかった。これは明らかにおかしな現象だった。あのときアンカルヤはその場を一歩も動いていないし、一瞬で声が届かないところまでリフィリシアが移動するということもありえない。つまり、アンカルヤが偽ロウギスと遭遇するよりも以前に、この時点で既に黒幕からの直接的な干渉を受けていたのだ。
その直後に現れた偽ロウギスは、アンカルヤを誘導して性急にその場を離れようとする。そして彼女が引き返そうとした途端に、力尽くでそれを阻止しようとした。
この二つの出来事は、明らかにどちらもリフィリシアからアンカルヤを遠ざけることを目的としている。
何故、そのようなことをする必要があったのか。
黒幕がリフィリシアを孤立させた理由。
それはおそらく、黒幕がリフィリシアに接触するにあたって、近くにいたアンカルヤの存在が邪魔だったからだ。だからアンカルヤは、リフィリシアの側から雑に追い払われた。
つまり、アンカルヤたちが巻き込まれた不可解な事態は、リフィリシアを中心として進行しているのだ。そしてアンカルヤは、たまたま近くにいただけの脇役にすぎない。
薄暗いテントの中、ロフトの上に視線を向ける。ここからではリフィリシアの姿は見えないが、そこに彼女は確かに存在している。あの霧の中でのように、また突然彼女が消えてしまうのではないかという漠然とした不安を、首を左右に振って頭の中から追い出す。
魔法の霧の中で離れ離れとなる前と後で、リフィリシアの様子は明らかに変化している。その間に彼女が偽物と入れ替わっているとまでは思っていないが、彼女に変化をもたらす何らかの出来事があったことは間違いないだろう。
そして、それはアンカルヤとロウギスに対して秘密にしなければならないことであるらしい。
だが、秘密の内容は明かそうとはしないのに、秘密の存在自体は全く隠そうとしていないことが、どうにも気になる。本気で秘密を守りたいのであれば、その内容のみならず秘密の存在そのものを隠すべきだ。なのに彼女は、秘密の存在については隠す素振りが見られない。
矛盾している。秘密を隠したいのか、それとも隠したくないのか。この秘密に対するリフィリシアの言動は、ちぐはぐで整合性に欠けている。
まるで疑って欲しがっているようにさえ見える。
いや、実際に疑って欲しいのだろう。
あのわざとらしい言葉の濁し方と誤魔化し方は、そうとしか思えない。
つまりリフィリシアは、アンカルヤがこの秘密の答えに辿り着くことを望んでいるのだ。
リフィリシアが自ら秘密を明かすことはできないが、アンカルヤが秘密を解き明かすことには期待している。そういうことなのだろう。
回りくどすぎる。意味がわからない。
だが、いくら思考をめぐらしたところで、現状で答えに至ることは不可能だ。パズルの全体像を推測するために必要な重要なピースはリフィリシアの手の中にあり、そして彼女はそのピースを明かしていないのだから。
どれほど考えても、答えは出ない。それがわかっていて、自分は何故考えることを止められないのだろうか?
そんな疑問が、ふとアンカルヤの脳裏を掠めた。
今はまだ、考えるだけ無駄。
そう思うほどに、逆に考えることが止められなくなる。
もしかして、自分は何かを見落としてる? とても重要な、何かを――。
根拠のない不安が、アンカルヤの焦燥感を駆り立てる。
いや、根拠がない?
それは違う。
根拠なら、ある。
リフィリシアの一連の不可解な言動が、アンカルヤがこの秘密の答えに至ることを期待してのものだとすれば――。それは言い方を変えれば、現在の状況でもアンカルヤであれば謎の解明が可能であると、リフィリシアがそう判断したということだ。
その判断を信じるなら、アンカルヤは既に答えに手の届く位置にいることになる。にもかかわらず、未だに答えに至っていないということは、なにか重要なことを見落としているのだ。
だとすれば、いったい何を見落としている?
――まてよ。ひょっとしたら、自分は最も根本的なところで思い違いをしていないか?
それは、閃きに近い感覚だった。
思考の角度が少し変わったことで、アンカルヤは唐突にある可能性に気が付いた。
もしこの可能性が真実に触れているならば、現状について最初から考え直す必要がある。
アンカルヤはリフィリシアに、霧の中での出来事についてはこれ以上追及しないと約束した。それは、フィリシアが自分の意志でこの件は秘密にするべきだと判断したのであれば、アンカルヤは仲間としてその意志を尊重するべきだと考えたからだ。
だが、この前提が間違っていたとしたら。
この秘密に関するリフィリシアのリアクションは不可解だ。
秘密の内容については明かさないが、秘密の存在は隠さない。
そこから、ある一つの可能性が浮かんでくる。
もしかしたら、この秘密は彼女自身の意志ではなく、何者かに要求されたものなのではないだろうか? そして彼女の意志としては、この秘密をアンカルヤたちに明かしたいと思っているのでは?
そう考えると、この件に関するリフィリシアの矛盾した態度にも納得がいく。
迂闊にも、この秘密が彼女の意志によるものではないという可能性に、今まで考えが至らなかった。
だが彼女のこれまでの言動を思い返してみると、こちらの可能性のほうが高いように思える。
もしこの推測が正しければ、この秘密に対するアプローチを根本的に見直さなくてはならない。なぜなら、これはリフィリシアの意思による秘密ではなく、黒幕の意思による秘密だからだ。
この黒幕は、状況からみて黒葉会である可能性が高い。そして黒葉会は、魔女の秘密結社であるらしい。
これらの条件から、とても厄介な推測が成り立ってしまう。
霧の中で孤立していたリフィリシアは、魔女と何らかの契約を交わしてしまったのではないだろうか。その契約に、契約内容についての沈黙が含まれていたとしたら。
だとすれば、リフィリシアにこの秘密について追及しないと約束したのは正解だった。彼女に対する秘密の追及が、契約反故の強要になってしまうからだ。
魔女との契約に違反した際のペナルティについては、碌でもない逸話が無数に語り継がれている。この件でリフィリシアを追及すると、その逸話を一つ増やしてしまう恐れがある。
――ならば、追及の矛先は黒幕のほうだ。
ソファーに腰掛けて全身の力を抜いていても、こうしてあれこれ考え込んでいては休息にはならない。
アンカルヤは目を閉じて、ゆっくりと呼吸を繰り返した。しかし、なかなかリラックスはできそうになかった。彼女は小さく息を吐くと、もう少しだけ現状について考えてみることにした。何かしらの結論を出さなければ、気を休めることができそうにないと思ったからだ。
霧の中でリフィリシアの姿を見失う。これだけであれば、魔法の世界の不思議な自然現象という可能性も否定はできない。
しかし、その後にアンカルヤを襲った偽ロウギスまで自然現状だと捉えるのは、流石に無理がある。どう考えても、あの偽ロウギスは人為的な存在だ。
つまり、アンカルヤたちを取り巻く不可解な出来事は偶然巻き込まれた自然現象などではなく、背後に何者かの意図が確かに存在しているのだ。
黒葉会か、あるいはそれ以外の何者か。それはわからない。だが、偽ロウギスを操る何者かは、間違いなく存在する。
黒幕の目的は、未だ不明だ。
もしかしたら、既に黒幕は目的を達しているのかもしれない。
だが、そうでなければ、いつか再びアンカルヤたちに対して黒幕からの接触があるはずだ。
その時が勝負だ。次の機会は逃さない。必ず尻尾を掴んでやる。
これ以上、黒幕の好き勝手を許す気はない。何しろアンカルヤは、危うく殺されるところだったのだ。必ず、相応の報いは受けてもらう。
アンカルヤは閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
その瞳には、鋭い輝きが宿っている。それは、未だ姿を見せぬ獲物を狙う狩人の眼光であった。




