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幻想世界の紀行録  作者: TaYa
迷宮島の放浪者たち
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チュートリアルの終わり・8

 適度に体を動かしたおかげで、朝の散歩が終わる頃には目覚めたときに感じた体の怠さや重さは幾分ましになった。しかし、まだ手足の動きが鈍く力が入らないなど、違和感も残っている。

 白い息を吐きながら中央の広場に戻ると、そこにはアンカルヤたちのテントだけが残されていた。他の皆は、遺跡街に向かうためにこの広場を去った後のようだ。自分たちだけが取り残されてしまったような光景に、アンカルヤは僅かな寂しさを感じた。


 リフィリシアに朝の挨拶をするのと、ロウギスに先程ギュズマから聞いた話について問い質すこと。どちらを優先するべきか考える。

 重要度で選ぶなら、ロウギスの方だろう。

 しかし、これは女の子とおっさん、どちらを優先するかという選択なのだ。

 ならば答えは考えるまでもなく決まっている。


 アンカルヤは自分のテントの入口の隙間からぶら下がっている紐を引いた。

 テントの中から鳴子の音と、それに続いてパタパタと小さな足音が近付いてきた。

 そしてテントの入口が内側から小さく開き、その隙間からリフィリシアが不安そうな顔を覗かせた。


「――どなたですか? あっ、アンカルヤさん」


 彼女はアンカルヤの姿を確認して、ホッと緊張を解いた。


「ただいま、リフィリシア」


 アンカルヤは肩に乗った雪を軽く払い落としてテントに入ると、ロングコートを脱いでコートハンガーに掛けた。


「おかえりなさい。自分のテントなんですから、わざわざ鳴子を鳴らさなくても」


 エンチャントテントは所有者が離れると自動的に入り口が固定され、外側からは開くことができなくなるように設定することができる。この機能があるからこそ、アンカルヤはテントに寝ている女の子を一人で残して朝の散歩に出掛けたのだ。

 そしてアンカルヤはこのテントの所有者なので、リフィリシアの言う通り中から入り口を開けてもらう必要はない。彼女がテントに近付くだけで、入り口のロックは解除されるからだ。


「いや、キミが中で着替えていたり入浴中だと困るだろう?」

「着替えならロフトの上の見えない場所でしますし、アンカルヤさんに確認なくお風呂に入ったりはしません。バスルームは、顔を洗うときにお借りしましたけど」


 リフィリシアが目を覚ましてからそこそこ時間が過ぎているようで、彼女は既に朝の着替えも洗顔も済ませていた。


「――このテントでの生活について、そのあたりの取り決めをはっきりしておいた方がいいかもしれないね」


 共同生活にはお互いの気遣いも大切だが、それだけに頼った生活が長引けば気疲れしてしまう。無用な気遣いやトラブルの可能性を取り除くためにも、プライバシーやプライベートに関してのルールは明確に定めておくべきだろう。


「まあ、そういうややこしい話はまたの機会にしよう。今日はあまり頭を使わずに、のんびり休みたい気分だ」

「そうですね。せっかくのお休みの日ですから、今日はゆっくり過ごしましょう」


 アンカルヤは愛用のソファーに腰を下ろすと、大きく息を吐きながら全身の力を抜いた。


「テントの中は暖かくていいね。外は雪がちらついていて、かなり寒かったよ。キミも外に出るときは防寒に気をつけたまえ」

「そういえば、どちらに行っていたんですか? 目が覚めたらアンカルヤさんの姿が見えなくて、心配したんですよ?」

「すまない、不安にさせてしまったようだね。眠気覚ましに、朝の散歩に出掛けていたのだ」


 今更ではあるが、リフィリシアの起床を待って二人で散歩に出掛けてもよかった。どうやら体だけではなく、頭の方も動きが鈍くなっていたようだ。


「昨夜はゆっくり休めたかな? 私は、どうも疲れが抜けきらなくてね。キミの調子は?」

「筋肉痛が、少し辛いです」

「うむ、それは今のキミの様子を見ればわかる」


 リフィリシアは足が筋肉痛を起こしているらしく、歩き方がぎこちなかった。アンカルヤも筋肉痛というほどではないが、太ももに違和感がある。


「二人共に、今日を休養日としたのは正解だったね」


 治癒の魔法薬は筋肉痛にも効果があるが、アンカルヤはリフィリシアに薬の使用を勧めなかった。怪我と違い、筋肉痛は自然治癒の方が好ましいからだ。


「それと、肌が少し熱っぽくてヒリヒリします」

「ゴブリンとの戦いでは、強烈な炎に炙られたからね。私も同じだよ」


 魔法薬のストックの中に、火傷用の薬があったことをアンカルヤは思い出した。しかし、それは肌がヒリヒリする程度の症状には強力すぎるものだった。使用するなら、かなり効果を薄める必要がある。

 だが、今のアンカルヤにその様な魔法薬の調整は可能なのだろうか?

 錬金術も、広義には魔法の一種だ。

 リフィリシアが魔術を使えないのと同様に、今のアンカルヤには錬金術の調合ができない可能性があった。

 だから、これはちょうど良い機会だと彼女は考えた。後で火傷用の魔法薬の調整を試して、それを確認してみようと。


「すごく熱かったし、火の粉もすごかったですよね。ロウギスさんのマントに、焦げ跡がついてしまっていました。私の帽子やローブは、エルフの魔法がかかっているので平気でしたが」

「もともとボロボロのマントだ。焼け焦げが多少増えたくらい、彼も気にしていないだろう」

「あっ、そうだ。ロウギスさんといえば……」


 会話にロウギスの名前が出てきたところで、リフィリシアは何かを思い出した様子で簡易キッチンの方に向かった。彼女はキッチンに置いてあった編みカゴを手に取り、その中身をアンカルヤに見せた。


「アンカルヤさんが出掛けている間にロウギスさんが来て、これを――」


 カゴの中には四個の卵と厚切りのベーコンが二枚、それと輪切りにしたライ麦のパンが二つ。


「卵は、今朝この基地の人が分けてくれたもののお裾分けだそうです。パンとベーコンは、ロウギスさんのテントの食料庫のものです」

「そういえば、基地の中で鶏を見かけたな。その卵か」


 アンカルヤのテントにも、保存のエンチャントが施された食料庫がある。その他にも、キッチンの床下に小さな氷室とワインセラーも備えていた。

 だが、それらは全て錬金術用の素材の保管庫と化している。素材の中には食べられる物もあるが、その量と種類は多くない。

 錬金術師の焼き菓子のレシピを入手したときに、それ以外の食料は不要だと処分してしまったのだ。随分とすることが極端である。


「ロウギスは今日の予定について、何か言っていたかね?」

「はい。朝食を終えてから、今後のことについて話をしたいとのことです。二時間ほどしたらこちらのテントを訪ねるので、それまでに朝の用事は済ませておいてほしいと」

「了解だ」


 二時間とは、随分と時間に余裕をとってくれたものだ。

 しかし、アンカルヤとリフィリシアは既に着替えも洗顔も終えている。朝の用事といっても、後に残っているのは朝食くらいだ。


「では、朝食を済ませてしまうか。あの焼き菓子は手間がなくていいが、せっかくだし今朝は貰った食材をいただくことにしよう」

「ベーコンエッグですね! 私に用意させてください。キッチンをお借りしても?」

「もちろん、かまわないよ」


 これまでにアンカルヤが口にした食事は錬金術師の焼き菓子に傭兵鍋、そして島ポトフの三種類。どれも元の世界にはない、この世界独自の料理だ。

 しかしベーコンエッグはそうではない。日本でも馴染み深い料理である。元の世界を思い出させてくれるメニューに、二人は期待をふくらませながらキッチンに向かった。






 アンカルヤのテントの簡易キッチンは、長らく調理に使われていない。だが、その代わりに錬金術の調合に使用していたので、手入れは行き届いている。なので、料理をするのに支障はなかった。

 リフィリシアはローブを脱ぐと、少し厚手のベージュ色のエプロンを身に纏い、気合の入った顔でキッチンに立った。

 そしてコンロに薪をセットして木屑の火口にマッチで着火すると、息を吹きかけて火を育てる。煙が目に染みるのか、リフィリシアはまぶたをしきりにパチパチさせていた。


「『点火』の魔術が使えればよかったのですが。マッチや火打ち石と違って、使い減りしませんし」

「コモン魔術だから、遺跡街に行けば『点火』の魔導書なら入手できるかもしれないね。いや、そもそも薪ストーブの火をコンロに持って来ればよかったのでは?」

「あっ!」

「まぁ、私も今気がついたところだ。うっかりしていたのは、お互い様だよ」


 リフィリシアが火起こしをしている間に、アンカルヤは調味料の用意をする。彼女のテントに食材は少なかったが、スパイス類は錬金用の素材として豊富なストックがあった。

 乳鉢と乳棒で岩塩と黒胡椒を細かく砕いてブレンドする。塩に対して胡椒の割合が少し多くなってしまったが、気にしないことにする。

 コンロの火が安定してきたところで、リフィリシアは鉄のフライパンを五徳に乗せた。

 煙が出るくらいに熱したフライパンに二枚のベーコンを置く。ベーコンはとても分厚くて、まるでステーキだ。少なくとも四百グラムはあるだろう。

 肉の焼ける匂いに、燻製とスパイスの香り。バラ肉のベーコンからたっぷりの油が滲み出て、フライパンの上でバチバチと弾ける。

 リフィリシアが薪のコンロや鉄のフライパンを使うのは、今回が初めてだった。使用経験のない調理道具では火加減や熱の伝わり方がわからないので、ベーコンと卵は別々に焼くことにする。同時に焼くと、どちらかが焦げるか生焼けになってしまう可能性が高いからだ。

 ベーコンは焦げる直前まで焼いて、皿に移す。それから、ベーコンの油でギトギトに黒光りする鉄のフライパンに四個の卵を割り入れる。そしてアンカルヤが調合した塩と胡椒を振り掛けた。挽きたての黒胡椒の香りは、ベーコンの焼ける濃厚な匂いにも負けていなかった。黄身が固まるまで、しっかりと火を通す。半熟は衛生面で不安があるからだ。白身の周囲が少し焦げてしまったが、生焼けよりはよいだろう。

 皿の上のベーコンに目玉焼きを添える。次にライ麦のパンをフライパンに乗せて、ベーコンの油を染み込ませながら焼き上げる。そしてパンの表面に美味しそうな焼き色がついたところで、ベーコンと卵が待つ皿の上に乗せる。

 リフィリシアが調理を進める間に、アンカルヤは薪ストーブの上のケトルの湯でお茶を淹れる。

 二人分のカップにお湯を注いで温めながら、横目でリフィリシアを盗み見る。キッチンに立つ少女のエプロン姿に、何故か胸が高鳴るアンカルヤだった。






 朝食の用意が整った。

 ソファーの前のテーブルに、白い湯気が揺れるベーコンエッグの皿とティーカップが並ぶ。

 アンカルヤのテントは、来客を全く想定していない。なので、内装は全て一人で使用することしか考えられていない。キッチンにある食事用のテーブルも一人用のコンパクトなもので、椅子も一脚しかなかった。

 このテントの中で二人分の食事を並べることができるのは、ソファーの前に置いてあるテーブルだけだった。

 しかし、このテーブルはソファーに座ると天板の位置が低い。軽いお茶を楽しむ程度なら問題はないが、食事となると姿勢が辛いことになる。

 仕方なく、アンカルヤたち二人はソファーではなく床のラグの上に直接座ることにした。


「マナー的には褒められたものではないな」

「いえ、ちゃぶ台で食事すると思えばいいんですよ」

「なるほど。日本人なら、それで問題ないな」


 アンカルヤとリフィリシアはテーブルを挟み、向かい合って腰を下ろした。薪ストーブが近くて、アンカルヤの背が少し熱かった。


「それでは、いただきましょう」

「ああ。いただきます」


 二人は朝食に手を合わせると、ナイフとフォークを手に取った。

 こうして皿に乗っているベーコンエッグを見ると、思いの外ボリュームが有る。

 卵が二個に、ステーキサイズのベーコン。それよりもさらに大きく分厚いライ麦のパン。

 皿の上はベーコンの油でギトギトだ。

 朝食の内容としては、かなり重い。

 とはいえ、朝食は一日の活力源だ。これぐらいしっかりと食べておいたほうが良いことは、アンカルヤもわかっている。無理矢理にでも胃の中に詰め込んでしまおうと覚悟を決めて、食事に取り掛かった。

 まず、分厚いベーコンにナイフを入れる。

 そして適度なサイズに切り分けたベーコンを口に含み、しっかりとした弾力のある肉を噛みしめる。口内は豚バラとスパイスの味わいに満たされ、燻製の香りと僅かな灰の匂いが鼻腔に広がる。

 工場で機械的に加工される日本のベーコンと違い、このベーコンには豚肉の質感が色濃く残っていた。繊維が密で噛みごたえがあり、肉を食べているのだと強く実感させられる。

 卵は少し臭みがあったが、胡椒の香りがそれをうまく誤魔化してくれている。岩塩と黒胡椒を纏った堅焼きの黄身は、濃厚な味わいが舌にしっかりと絡みつく。

 フライパンで焼いたパンの表面は染み込んだベーコンの油で揚げたようになっていて、サクサクとした食感だ。少し酸味のあるパンに濃厚なベーコンの風味が加わって、なかなか悪くない。

 ただ、総合的な評価として美味しいかと問われると、すんなりとは頷けなかった。

 間違いなく、悪くはない。

 スパイス類が過剰な傭兵鍋、味のない焼き菓子、論外の島ポトフ。この世界に来てから口にした食べ物の中で比較すれば、間違いなく一番だ。また、この世界の食の水準と比較しても、美味しいに分類されることは確かだ。

 では、何がこのベーコンエッグの評価を難しくしているかといえば、味に対する慣れだった。

 日本で食べていたベーコンエッグとは、あきらかに異なる味わい。ベーコンもパンも加工感が少なく、そのため素材の主張が強い。

 もちろん、間違いなくこれもベーコンエッグだ。しかし、アンカルヤやリフィリシアの舌が記憶しているそれとは、全く異なる味であった。

 つまり、日本のベーコンエッグとこの世界のベーコンエッグの差が違和感となって、味の評価を複雑なものにしているのだ。


 皿の上の食べ物が半分ほどになったところで、ナイフとフォークを持ったリフィリシアの手が止まった。


「――私の家の朝食は和食がメインだけど、日曜日の朝だけは洋食だったんです。週に一度だけの洋風の朝食には特別感があって、いつも楽しみにしていました。お母さんは、よくトーストとベーコンエッグを作ってくれました。小学生の高学年になった頃からは、たまに私も作るのを手伝っていました」


 その寂しそうな声に、アンカルヤは自分の皿から視線を上げて彼女の顔を見た。


「だから私にとってベーコンエッグは、そんな思い出のある少しだけ特別なメニューなんです。でも、これは違います。どちらの方が美味しいとか、そういうことではなく、ただ違うんです」


 アンカルヤも食事の手を止めて、ベーコンの油で濡れた唇をペロリと舐めた。

 彼女にもリフィリシアの言いたいことは理解できた。

 ベーコンエッグの味の違いに、ここが日本ではないことを改めて思い知らされたのだ。


「そうだね……。気持ちはわかるよ。日本を思い出させてくれる味を期待していたのは、私も同じだ。だが、そういう考え方は良くない。それを解決する術がない現状では、ストレスを溜めてしまうだけだ。同じお好み焼きでも大阪と広島では味が違う、みたいなものだと気楽に考えて、味の違いを楽しもうではないか」

「そうですね、食事は楽しくないと」


 リフィリシアは弱々しく微笑みながら、目玉焼きの黄身にナイフを入れた。






 朝食を終え、アンカルヤはベーコンの油でネトネトする口内を熱い香草茶で洗い流して、ホッと息をついた。リフィリシアもちびちびとティーカップに口をつけている。

 動物性の油分たっぷりな、量も質もかなり重い朝食だった。疲労の溜まった体にはかなり厳しい食事ではあったが、それでもなんとか完食した。しかし、体の疲れに胸焼けが加わって、かなり辛い。


「朝食にこれは、少しきついな。胃が重くて、しばらく動けそうにない」

「でしたら、ゆっくり休んでいてください。後の片付けは、私がしておきます」

「――ん?」


 アンカルヤと同じ食事を食べたはずのリフィリシアだが、彼女は平然とした様子で立ち上がった。足の筋肉痛は辛そうだが、胃の方は問題ないようだ。

 食は生物の燃料補給。どうやらリフィリシアの燃料タンクは、アンカルヤのものよりも優秀らしい。

 記憶を振り返ってみると、アンカルヤは食事のほとんどを錬金術師の焼き菓子で済ませていた。そのせいで、胃がその食生活に慣れてしまっていたのだ。食が細いというのは食い溜めができないということであり、旅をする上ではあまり好ましいことではない。その点ではリフィリシアの方が旅人として優秀だといえる。アンカルヤの意外な弱点であった。


「では、すまないが後片付けはキミに任せよう。キッチンの洗い桶の横に私が調合した洗剤があるから、好きに使ってくれてかまわないよ」

「はい、わかりました」


 二人分の食器を手に簡易キッチンに向むかうリフィリシアを、アンカルヤは座ったままで見送る。

 後片付けをリフィリシア一人に任せるのは心苦しかったが、今の自分では手伝おうにも足手まといになりそうなので、アンカルヤは彼女の厚意に甘えることにした。


 それからしばらくして、洗い物を終えてキッチンから戻ってきたリフィリシアが、少し不安気にアンカルヤに尋ねた。


「フライパンは灰で洗った後に水で流して水分を飛ばし、油を引いておきました。鉄のフライパンのお手入れって、これで良かったですか?」

「かまわないよ。私も正しい手入れ方法など知らない」


 リフィリシアの問い掛けに、いい加減な答えを返すアンカルヤ。それで今まで、よくフライパンが錆びつかなかったものだ。


 こうして朝の間に済ませておくべき用事を全て終えた二人は、ソファーに腰掛けてのんびりとロウギスがやってくるまでの時間をつぶすことにした。

 アンカルヤは目蓋を閉じ、じっと胃もたれが収まるのを待つ。

 リフィリシアは食後にアンカルヤが淹れなおしたお茶のカップを両手で持って、洗い物で冷たくなった指先を温めている。


「食事の片付けも終わったし、後はロウギスが来るのを待つだけだな」

「ロウギスさんの話って、何でしょうか。何だか重要なことみたいで、少し怖いです」

「もちろん気楽な雑談ということはないだろうが、だからといって怖がる必要もない。多少、不安に思うところは、私にもあるが……」


 引っかかるのは、ロウギスが他人の耳のない所で、三人だけで話すべきだと判断した理由だ。

 彼はちょっとした情報収集などと言っていたが、取るに足らない情報ならば他人に聞かれても問題はないはずだ。つまり逆の言い方をすれば、他人には聞かせられないような重要な情報を掴んだということだ。

 それに加えて、今朝ギュズマから聞いた話も気になる所である。元の世界への帰還方法の調査について話し合うと、彼はそう言っていた。

 ロウギスが入手した情報によって、手詰まりを感じていた状況に何らかの進展がもたらされるかもしれない。そんな期待と不安を胸に、アンカルヤたちはロウギスの訪れを待った。


 それから一時間と少し、静かな時間が流れた。

 テントの入口に設置した鳴子が揺れて、乾いた木の音が僅かな緊張の漂う静寂をかき消した。


誤字報告ありがとうございます。修正しました。

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