チュートリアルの終わり・2
北に目を向けると、富士山に似た円錐形の山の姿が見える。あちらの天気はあまり良くない様子で、山頂は灰色の雲に覆われていた。
遺跡街は、あの山の南の麓に位置している。見たところ、まだまだ距離は遠い。あの辺りまで僅か一日で到着するには、かなりの速度で移動しなければならない。
この河原を離れれば、そこには深い森が広がっている。この森の中を進むとなると、アマギリイナの言う通りかなり大変な移動となるだろう。
河原での休息時間は三十分。時計がないので大体の感覚になるが、もうそろそろ休憩も終わりのはずだ。
焚き火を片付け、出発の準備を整える。
リフィリシアはまだ半乾きの靴を、解いた靴紐で鞄の肩紐に括り付けている。
程なくして、調子の外れた金管の音が河原の冷たい空気を震わせた。出発の合図となる、トエベンネのラッパだ。
遺跡街への帰還部隊の皆は、それぞれの荷物を背負い、トエベンネの後に続いて歩き始めた。
川を背にして、向かう方角は北北東。アンカルヤたちは、暗く険しい森の中へと足を踏み入れた。
森の空気はとてもきれいだが、風は冷たくて湿度が高い。その寒さにアンカルヤの肩が震えた。
迷宮島の南東に広がる森は、西の森と比べて雰囲気が暗くて重い。
地形の起伏も険しく、そこかしこに大きな岩や穴と窪みがある。特に地面の穴は危険だった。うっかり足を滑らせないように、常に足元に意識を集中しておく必要がある。しかし、鬱蒼と生い茂る木々や草が視線を遮り、周囲の見通しはとても悪い。
「この辺りの森は、川の西側の森とは随分と感じが違うね。あちらに比べると、かなり険しい環境のようだ」
「そうですね。東の森の特徴としては、この様な火成岩があちこちで見られることでしょうか」
アマギリイナはすぐ側にあった苔むした岩をポンポンと叩いた。
「これは昔の噴火の溶岩が冷えて固まったものです。この森は土の層が薄く、少し地面を掘るとすぐにこういった岩に突き当たります。他にも、地中には溶岩が流れた後にできた無数の空洞があるので、気をつけてください。そういった穴に落ちたり迷い込んだりしたら、とても危険ですから」
話のついでということで、アマギリイナは迷宮島全体の環境についても簡単に説明を付け加えた。
この島はとても広く、地域による環境の違いが大きい。
島の南西側に広がる森は今いる東の森とは異なり、地形も天候も比較的穏やかで、動植物の種類と数も豊富だ。狩猟や採集などに適している環境ではあったが、遺跡街から距離が離れているというのが難点だ。また、これは東西両方の森に共通していえることだが、自然が豊かであるということは、狼やゴブリンといった危険な動物が数多く生息しているということでもある。
島の北部には、疎らに低木と草の生える岩がちな荒野が広がっている。一年を通して冷たい強風が吹きすさぶ、生命の気配も希薄な不毛の土地だ。島の中央にそびえる火山も、山頂から山腹にかけては同様の環境だ。よほどの理由がない限り、遺跡街の住人が島の北側に足を踏み入れることはなかった。
遺跡街への帰還部隊は、森の木々の合間を縫うように進んでいく。
緩慢な登り坂が続いているかと思えば、次は急な下り斜面を滑り降りる。
落ち葉や苔に足を取られて、とても歩きにくい。何度かぬかるみに足を突っ込んでしまったため、アンカルヤのブーツは泥まみれになっていた。
この森の中に入ってからずっと続いている険しい足元が、アンカルヤの体力を容赦なく削り取っていく。過酷な道程に、足の筋肉が悲鳴を上げている。
それでも帰還部隊の一行は足を緩めることなく、北北東へと突き進んでいく。
アンカルヤは錬金術で強化されている身体のおかげでなんとか耐えることができているが、これが日本の男子高校生の体力であったら今頃脱落していただろう。
この状況でも、ロウギスとサリイユは平然としていた。狩人らしく森歩きに慣れているサリイユと、高レベルの身体能力でゴリ押ししているロウギス。二人とも流石というほかない。
アマギリイナはまだ体力に余裕が残っている様子だが、表情に滲む疲労は隠せていない。
そして最もつらそうなのがリフィリシアだ。彼女はサリイユに支えてもらってなんとか付いてきているが、限界は近そうだ。
できることならアンカルヤもリフィリシアに肩を貸したいところだったが、そのような余裕はなかった。呼吸が荒い。身体の芯が火照って、汗が止まらない。この寒さにもかかわらず、手と足を温める『保温』の付呪が暑苦しく感じられるほどだ。彼女の身体は瞬発力重視で調整されているため、持久力はさほど高くないのだ。
アンカルヤは水筒代わりのスキットルを一口煽る。冷たい水が熱い身体に染み渡る。そして白い息を深く吐き出した。
帰還部隊の隊列は縦に長く伸びていて、最後尾のアンカルヤたちからは先頭のトエベンネの姿は見えなかった。
アンカルヤは口で息をしながら、同様に息苦しそうなアマギリイナに声を掛けた。
「かなり辛いな」
「そうですね。厳しい移動になると覚悟はしていましたが、これほどのハイペースは予想していませんでした」
「来る時も、こんな感じだったのかい?」
アマギリイナは額の汗を手の甲で拭いながら、首を左右に振る。
「いえ、往路は百人を超える大人数を統率しながらの進行でしたので、移動速度は穏やかなものでした。それに、時間に追われているわけでもなかったので、無理をして急ぐ必要もありませんでしたから」
「つまり、今の私たちは時間に追われているので、無理をする必要があるということか」
「はい。日没までに今日の目的地に着かなければなりませんので」
出発前にトエベンネが説明していた、今日の日程を思い出す。
「ああ、トエベンネが言っていたな。確か――ナントカ基地に向かうとか」
「第一採集基地。森の中に常設されている活動拠点の一つです。周囲を壁で囲んでいて、この森の中では数少ない、安全が確保されている場所です」
「そこなら、安心して夜を過ごせるというわけか」
なるほど、とアンカルヤは一行がかなり無茶なペースを維持して進む理由に納得した。
アマギリイナによると、これでも足元の状態は恵まれているらしい。
百人を超えるゴブリン討伐隊が一度通った跡を、逆向きになぞるルートで進んでいるからだ。
確かに、地面のあちこちに踏み固められた痕跡が見られる。邪魔な枝や下草などは切り落とされ、小石などのめぼしい障害物も排除されていている。
この疲れる道のりが、これでもまだマシなのだと知って、アンカルヤはうんざりした。
遺跡街に向かう。
言葉にすれば一言で終わる、ただそれだけのことだ。だが、それを実際に行うとなると、この有様である。想像することと、実際に行うことは違うのだと、今更ながら思い知らされる。
星去り峰に向かう。
これも、言葉にするだけなら簡単だ。だが実際に向かうとなれば、きっと今のアンカルヤには想像もできないような困難が沢山待ち受けていることだろう。
もちろん、だからといって星去り峰に向かうことを諦める気はない。どのような目標であれ、行動する前に諦めていては、何も達成することはできないのだから。
「しかし、討伐隊はこの森を通った後で、よくゴブリンの奇襲を乗り切り、態勢を立て直せたものだな」
ロウギスが感心した様子で口にした一言に、アンカルヤははっとする。確かに、彼の言う通りだ。
討伐隊はこの険しい道程を踏破し、ようやく森を出て目的地である野営地を目前にしたタイミングで攻撃を受けた。疲労のピークと気の緩む瞬間を狙われたのだ。奇襲としてはこれ以上ない最適なタイミングだが、襲われる方はたまったものではない。よくこの襲撃を乗り越えることができたものだ。
だが呑気に他人の感心をしている場合ではない。
敵の襲撃を受けたらひとたまりもないのは、まさに今のアンカルヤたちなのだから。
見たところ、今まともに戦えそうなのはロウギスとサリイユの二人だけだ。
アンカルヤとアマギリイナは戦えないこともないだろうが、本来の実力は出せないだろう。
リフィリシアは疲労困憊しており、どう見ても戦闘は無理だ。
「リフィリシア。今の状態でも、魔術は使えるのかい? 流星丸は召喚できるかな?」
「は、はい、多分。――召喚しますか?」
「いや、今は必要ないよ。万一に備えて、確認しておきたかっただけだ。だが、もしゴブリンや狼などの襲撃があったら、迷わずに召喚してキミの身を守るように命じるのだ。いいね?」
「わ、わかりました……」
森の中の強行軍の疲労に、いつあるかもわからない敵襲の不安が重なり、アンカルヤはストレスで目眩を覚えた。胃がずっしりと重く、吐き気がする。
「冒険の旅なんて物語の中で楽しむもので、実際に行うものではないね」
アンカルヤはしみじみとそう思った。
アマギリイナ班は遺跡街への帰還部隊の最後尾を進んでいた。その歩みは遅れ気味で、先を進む班の背中がかなり遠い。もう少しすれば、森の木々の向こうに見えなくなってしまうだろう。
前に追いつくために少しペースを上げたいところだったが、リフィリシアの疲労は限界を迎えようとしていた。アンカルヤとアマギリイナにしても、あまり余裕は残っていない。
平然としているロウギスとサリイユが、何とも心強い。だが他の三人の状態を考えれば、帰還部隊に置いていかれることになっても、少しは休息を取るべきではないだろうか。
アンカルヤがそう提案しようとしたそのとき、前方からこちらに向かって一人の男がやってきた。ロウギスとアマギリイナも近付いてくる男に気が付き、足を止める。
黒の短髪に、日に焼けた赤い肌。その男に、アンカルヤは見覚えがあった。確か彼はトエベンネの班の一員だったはずだ。
「お前たちが最後の班だな。班長は?」
「私です」
返事とともに、アマギリイナが一歩前に出た。
「ああ、アマギリイナの班か。班のメンバーは揃っているな?」
「はい。五名全員揃っています」
「よろしい。先頭とは少し距離が開いてしまっているが、このペースでも日没までには採集基地に到着できる。無理せず、今のペースを維持して進めばいい」
そうは言われても、すでに今のペースに無理があり、それすら厳しい状況だった。
アンカルヤは横目にリフィリシアの様子を窺う。彼女の呼吸は荒く、足はガクガクと震えていた。サリイユの肩を借りて、立っているのがやっとといった状態だ。
その男も、リフィリシアの様子に気が付いたようだ。
「……アマギリイナにサリイユ。お前たちは案内がなくても、ここから採集基地に向かえるな?」
「はい、大丈夫です」
「では、少し休息を取ってから進むといい」
男は懐から小石のような物を取り出し、アマギリイナに手渡した。
両手でそれを受け取った彼女が、目を瞬かせる。
「これは……氷砂糖ですか?」
「そこの魔術師の子に渡してくれ。少しは疲れも和らぐだろう」
「――いいのですか? 貴重品でしょう?」
確かに、この島の環境で砂糖の生産は難しいだろう。そうなると、砂糖は入手困難なとても貴重な品物だ。
「どんな物にも使い所というものがある。出し惜しみは、持っていないのと同じだ。だろう?」
この男はラストエリクサーを惜しまず使うタイプらしい。
「採集基地の門は、日が沈みきるまでは開けておこう」
そう言い残して、短髪の男はアンカルヤたちの前を去っていった。
その後、アンカルヤたちは短い休息を取ったが、リフィリシアの足はもう動かなかった。
彼女はロウギスが背負い、彼の荷物は三つに分けて、アンカルヤ、アマギリイナ、サリイユがそれぞれ預かっている。
「……ごめんなさい、足手まといになってしまって」
ロウギスの背で、リフィリシアが唇を噛んで涙を我慢しながら声を震わせた。
「いえ、気にしないでください。部隊の移動速度についていけなかったのは、私も同じです」
アンカルヤたちの班は休息を取っている間に、帰還部隊から置いていかれてしまっていた。既に、前を進んでいるはずの班の姿は見えない。
「だよね。わたしはアマギリイナちゃんと違ってまだ余裕はあるけど、それでもこのペースはキツイと思うもん」
「そうですね。リフィリシアさんは何も悪くありません。そもそも昼過ぎに野営地を出発して、日没までに採集基地に到着するというスケジュールに無理があるんですよ」
アマギリイナとサリイユの二人が、ロウギスの背で落ち込んでいるリフィリシアを慰めた。
「足手まといというなら、私も同じだよ。今のところはどうにか自分の足で歩いてはいるが、あのまま帰還部隊のペースに付いていけたかどうかは怪しいものだ」
先に体力が尽きてしまったのはリフィリシアだったが、アンカルヤとアマギリイナも日没を待たずに限界に達していただろう。
「私も足が動かなくなったら、そのときはロウギスに背負ってもらうよ」
「いや待て、アンカルヤ。流石に二人も背負うのは無理があるぞ」
「わかっている。冗談だ」
周囲の速度に合わせるために、明らかに限界に来ていたリフィリシアに無理をさせた結果が、今の彼女の状態である。こうなる前に、ペースダウンを決断するべきだった。
リフィリシアは自分を責めているが、これはアマギリイナ班の全員の判断ミスである。
「しかし、ペース配分の難しさを思い知らされたな。周囲のペースに自分を合わせることに、余計な体力を消費してしまっていた気がする。おそらくだが、もっと早くに自分たちのペースを確保していたら、リフィリシアももう少し余裕が持てたはずだ」
「それ、わかるよ。私も今、それを反省しているところだ」
アンカルヤはロウギスの考えに、全面的に同意した。
「そうですね。班の様子を見て、休息の判断ができなかった私の責任です。班長失格ですね……」
「それは違うよ、アマギリイナ。班のメンバーから休息やペースダウンの提案が出て、それをキミが拒否したというならともかく、そうではないだろう? これは判断を下せなかった、この班の全員のミスだよ」
一行の先頭を歩いているサリイユが、皆の会話を聞いて呆れた様子で振り返った。
「あのさぁ、今更そんなのどうでもいいでしょ? 責任がどうとか、ミスがどうとか、そんなことでウジウジと悩んでも、道は楽になったりしないわよ? 今は、暗くなる前に採集基地に着くことだけを考えようよ」
それは反論の余地のない、全くの正論であった。
「そのとおりだね。意識を切り替えよう。サリイユ、今の私たちのペースで日没までに採集基地には到着できそうかな?」
「う~ん、正直に言えばかなり難しいかな? 多分、ギリギリだと思うわ」
「なるほど、厳しそうだね。教えてくれてありがとう、サリイユ」
たとえギリギリであっても、日没前に目的地に到着できる可能性があるなら、それは朗報だ。
「あと、ロウギス。キミにも確認しておきたいことがある。無理はしていないかな? リフィリシアを背負って、まだ歩けるかい?」
「ああ、問題ない。重さについては、もともと背負っていた荷物と大差ないからな。なんなら、もう少し足を早めるくらいの余裕はあるぞ?」
「それは頼もしい限りだ。では、後は採集基地に向かうだけだね。サリイユ、前の班を見失ってしまった今、キミが頼りだ。道案内をよろしくお願いするよ」
「うん、まかせて!」
もし日没までに採集基地に到着できなければ、森の中で野営すればいい。アンカルヤの小型テントなら設置場所にも困らないだろうし、班のメンバー全員を受け入れる広さもある。強力な防護の付呪を施してあるのだから、よほどのことがない限り夜の安全は確保できるだろう。破損部の応急処置だけは、少し不安が残るが。
間に合わなければそれでも構わないと開き直ってしまえば、随分と気は楽になった。
こうしてアンカルヤは気持ちを切り替えて、採集基地に向けて歩みを進めた。
とはいえ、気持ちが前向きになったところで地面が平らになったり体力が回復するわけでもない。森の様子は相変わらずで、アンカルヤたちの気力と体力を容赦なく削り取っていく。
ロウギスの背の上のリフィリシアより、自分も歩けるので降ろしてほしいとの申し出があったが、多数決の結果、一対四で民主的に否決された。
それ以外では一行はお互いに言葉を交わすこともなく、黙々と足を進めていた。
皆の足取りは重い。汗に濡れた服が肌に張り付き、冷たくて気持ち悪かった。
いつから歩いているのだろう?
いつまで歩けばいいのだろう?
どれだけ歩こうとも周囲の景色に変化は見られず、前に進んでいるという実感が全くわいてこない。まるでずっと同じ場所で足踏みをしているような錯覚に陥る。
次第に時間の感覚が曖昧になっていく。
いつの間にか太陽は森の木々の下に姿を隠し、東の空には星が瞬き始めていた。
徐々に濃くなる夕刻の影の中、先頭を歩いていたサリイユが嬉しそうに笑顔を浮かべてアンカルヤたちを振り返った。
「みんな、もうすぐだよ! この丘を登りきったら、沢を挟んで向かいの丘に採集基地が見えるわ!」
アンカルヤは、サリイユの言葉の内容が直ぐには理解できなかった。
どんなに歩いても、目的地には到着しないのではないか。そんな錯覚に陥っていたからだ。
疲労にぼやけていたアンカルヤの意識が、徐々に形を取り戻す。
「えっ? あれっ? 着いたの? どこに?」
「どこって、だから採集基地だよ。アンカルヤ、大丈夫?」
重く沈んでいたアンカルヤたちの心に、パッと明るい光が灯る。
引きずるような足取りに、僅かながらも力が宿る。
一歩、さらに一歩。
そして丘を登りきったとき、皆の顔に表情が戻ってきた。
「ふ、ふふっ……」
「あはっ。あははっ」
思わず笑いが溢れる。
眼前に広がる光景に、顔がだらしなく緩むのを止められなかった。
広々と森が拓かれている。
見下ろす沢には小さな橋がかかっていて、そこから向かいの丘の頂に向けて階段状に石を並べた道が繋がっている。
丘の上には、木製の防壁に囲まれた小屋や倉庫、そして壁の外を見下ろす物見櫓が立ち並んでいる。討伐隊の野営地ほどの広さはないが、かなり規模の大きな施設だ。夕闇の中に灯された無数の篝火が、第一採集基地を明々と照らし出していた。
その光景に、アンカルヤは思わず息を呑んだ。
「これが、採集基地――。想像していたよりも、ずっと広くて大きいな」
「そうですね。第一採集基地は、森の中に常設されている施設としては最大のものです。さあ、目的地まであと一息。頑張りましょう!」
沢から採集基地のある丘を登る道に、先行していた班の背中が見える。一時はかなり引き離されていたはずだが、いつの間にかすぐ近くまで追いついていたらしい。先行集団も、かなりペースダウンしていたようだ。彼らにしても、最初のハイペースは維持できなかったのだ。
サリイユを先頭に、アンカルヤたちは丘を下った。
そして沢にかけられた小さな木製の橋を渡り、丘の上へと続く道を登っていく。
道の先を見上げると、篝火に照らされた木の門の前でトエベンネが両手を振っていた。
「どうにか間に合ったな。心配したぞ。君たちで最後だ。ほら、早く中に入るんだ!」
アンカルヤはホッと息を吐き、笑顔を浮かべて彼に手を振った。
「遅れてすまない。心配をかけてしまったようだね」
アマギリイナ班の五人は覚束ない足取りで採集基地内に入ると、そこでようやく歩みを止めた。
体は熱く、呼吸は荒い。のどが渇いて痛い。
そんな彼女たちの後ろでトエベンネがラッパを鳴らすと、それを合図に木製の分厚い門がゆっくりと閉じられていく。
こうして遺跡街への帰還第一陣は、全員が無事に今夜の目的地である第一採集基地に到着した。
既に太陽は西の地平線に姿を隠し、広大な森が夜に沈んでいく。
果ての見えない闇の中に、篝火に照らされた採集基地だけが明るく浮かんでいた。
誤字報告ありがとうございます。修正しました。




