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幻想世界の紀行録  作者: TaYa
迷宮島の放浪者たち
41/71

戦い終わって・1

 リーダーを失ったゴブリンの群れは、烏合の衆に過ぎなかった。

 駆け付けてきた討伐隊の援軍に対抗など出来るはずもなく、散り散りになって森の奥へと逃げ去っていく。

 アンカルヤたちの周囲にも、もはやゴブリンの姿はない。


 こうして、アンカルヤの初めての戦闘は勝利に終わった。

 しかし、その表情に勝利の喜びは見えない。

 そして顔色が悪いのは、アンカルヤだけではなかった。

 リフィリシアとロウギスの二人も、複雑な思いを抱いている様子だった。

 この戦いは、皆の心に重い何かを残していた。

 素直に喜びの表情を見せているのは、デルトカンだけだ。


「皆、どうした? せっかくゴブリンシャーマンを倒したというのに、浮かない顔をして。完璧ではないとはいえ、大戦果だぞ?」

「緊張の糸が緩んで、疲労がドッと来ただけだ。今は嬉しさよりも、安堵の方が大きい」


 ロウギスが額の汗を手で拭いながら、白い息を吐いた。


「そうか、お前たちはこの世界に来たばかりの新人だったな。あの戦いぶりを見ると、それを忘れてしまう」


 それはデルトカンからの率直な賞賛の言葉だったが、アンカルヤたちにはそれを受け取って喜ぶような心の余裕はなかった。


 アンカルヤは深い呼吸をゆっくりと繰り返し、荒い息を整える。

 体の芯が燻るように熱い。なかなか止まらない汗がボロボロの服に染み込んで、乾いていた血を溶かし、体にベタベタと張り付いて気持ちが悪かった。


 ロウギスはゴブリンの血に濡れたグレートソードを軽く一振りした。

 すると刀身に纏わり付いていた血が、フワッと赤い靄となって消えた。

 もともとそういう機能を持つ魔剣なのか、付呪による後付の効果なのかはわからないが、なかなかユニークな魔法の宿った剣だ。

 そして彼は、汚れが消えて金属の鈍い光沢を放つ刀身を気鬱そうに見つめている。


 三人の中で、最も深刻な様子なのがリフィリシアだ。

 口や爪の周辺を赤黒く染めた流星丸を前に、思い詰めた表情を浮かべている。

 そんな顔を向けられた流星丸も、居心地が悪そうにしている。

 やがてリフィリシアは俯いて大きく息を吐き、申し訳無さそうに流星丸の鼻筋を撫でた。

 すると白狼は主に気遣うような視線を送りながら、静かに消えていく。


「リフィリシア?」

「召喚魔術を解除しました。召喚を維持しているのが辛くなってしまって……」


 確かに、彼女の顔には疲労の色も濃い。

 召喚魔術にはゲームのような時間制限はないが、その代わりに疲労による限界があるらしい。

 いや、ゲームの時間制限も、こういった疲労の間接的な表現だったのかもしれない。


 しかし、流星丸がいないということは、その優れた能力、特に探知能力を頼れないということだ。

 もし視覚外に敵が潜んでいても、それを察知することが難しいという状況に、アンカルヤは不安を覚える。

 これが本来の状況だというのに、自分たちがいかに流星丸の能力に頼っていたかを、彼女はあらためて自覚させられた。






 難しい顔で何かを考え込んでいたロウギスが、急に表情を固くして見つめていた剣を構え直す。

 それに一瞬遅れ、アンカルヤも近付いて来る何者かの気配に気が付いた。さっと腰の片手斧に手を添える。

 森の中から、複数の人影が姿を表した。

 それは一人の大柄なオークに率いられた、十人ほどの武装した集団であった。


 オークは、ゲームの王冠物語においてプレイヤーが選択できる種族の一つだ。

 はるかな昔に邪悪な魔法使いによって改造された、呪われた妖精の末裔である。

 豚か猪を思わせる顔立ちに、口から溢れた大きな牙。

 身長は二メートルを軽く超える、鋼のような筋肉の塊。

 暴力という概念を生物という形で表現するとどうなるか、その答えを示す具体例がここに存在していた。

 邪悪な魔法使いに作られたオークは、本来は一世代限りの兵器生物であった。

 それが自然環境の中で野生化した経緯は不明だ。

 魔法使いの支配から種として独立した後も、オークたちには元兵器としての性質が色濃く引き継がれている。力の強さをすべての価値観の中心に置く独特な文化性から生活環境として過酷な土地を好むため、人類と生活圏が接触することは殆どない。そのため基本的に人類とオークはお互いに不干渉であり、友好関係もなければ明確な敵対関係もなかった。だが、エルフやドワーフといった他の妖精種族との関係は、種の成り立ちを要因として非常に険悪である。


「リゴウズ! お前が来てくれたのか。まさか討伐隊の総指揮官自らお出ましとは」


 デルトカンが嬉しそうに先頭のオークに声をかける。

 友好的なその雰囲気に彼らが敵対的な存在でないことを察し、アンカルヤは肩の力を抜いて片手斧から手を離した。


「よお、デルトカン。先程の黄色信号はお前か。無事な様子で何よりだぜ」


 そしてリゴウズと呼ばれたオークは、デルトカンの後ろに立つアンカルヤたちにギョロリと鋭い視線を向ける。


「で、お前の後ろにいる見慣れない連中は?」

「数日前に、この世界に来たばかりの新人たちだ。善意でこの戦いに協力してくれている」

「ほう。その話も詳しく聞きてえとこだが、とりあえず今は後回しだ。ようやくゴブリン共の主力を見付けたってのに、こっちの戦力が全く足りねえ。俺達だけじゃ、とても倒しきれねえ。こうなったら、せめてゴブリンシャーマンだけでも何とか見付け出して始末してえところだ。今はそれが最優先だ」

「ああ、深追い無用。ゴブリンシャーマンはすでに仕留めた」


 デルトカンの報告に、リゴウズと彼に率いられたプレイヤーたちが目を見開く。


「マジかっ?」

「すぐそこに死体があるから、確認したらいい」

「お手柄だぜ!」


 リゴウズがニヤリと凶悪な笑みを浮かべ、大きな手でデルトカンの肩をバンバンと叩いた。






 デルトカンを先頭に、一行はゴブリンシャーマンを仕留めた場所まで引き返していく。

 南の方から木々の燃え上がる音が聞こえてくるが、戦闘の音はもう聞こえない。

 周囲にゴブリンの気配はない。

 だが、もし仮にゴブリンが襲ってきても、今の一行の戦力ならば容易に返り討ちにできるだろう。


「どういう状況で、ゴブリンシャーマンを仕留めた?」

「俺達四人で敵の中枢に殴り込み、シャーマンを仕留めて撤退した」

「たった四人、それも新人を含めてか? 随分と無茶をしたもんだ」

「連中に発見されてしまい、無茶をせざるを得ない状況に陥ってしまったからな」


 デルトカンとリゴウズの会話に耳を傾けながら、アンカルヤは彼らの様子をうかがう。

 リゴウズという名のオークのことを、デルトカンは討伐隊の総指揮官と言っていた。つまりこの巨漢のオークこそが、彼ら討伐隊を率いるトップということなのだろう。

 ロウギスすら凌ぐ巨体が身に纏うのは、ところどころにサビの浮いた無骨な金属鎧。腰に吊るした分厚い鉄の剣は、刃物というよりも鈍器だ。

 ただそこに立っているだけで、周囲の空気が重くなるほどの威圧感。

 彼が只者でないことは、その佇まいからも明らかだ。


 リゴウズ自身はもちろんのこと、彼に付き従っている十人のプレイヤーも、身に漂わせている気配が他のプレイヤーとは明らかに違う。

 泥と灰と煤、返り血にまみれたその姿。

 全員が、歴戦の戦闘者の風格をまとっていた。

 その迫力に、敵ではないとわかっていても、アンカルヤは緊張を解くことができなかった。

 リフィリシアも完全に萎縮していて、涙目で腰が引けてしまっている。

 平然としているのはロウギスだけだ。


「ところで、そこの灰色髪の女」

「――わ、私か?」


 アンカルヤはこっそりと様子をうかがっていたところを、リゴウズに突然声をかけられてギョッとした。


「その服装のダメージ、相当な重症を負っていたはず。だが今のお前からは怪我の影響が見られねえ。かなり強力な治癒薬を使用したんじゃねえか?」


 リゴウズの声は肉食獣の唸り声に似ている。人間とは異なる声帯で人間の言葉を発音しているため、少し聞き取りにくい。


「ああ。かなりのダメージだったが『伝説級の回復薬』のおかげで命拾いした」

「なら、その服は早く脱いだほうがいいぜ。自分は強力な治癒薬を持っていると、周囲に喧伝しているようなもんだ」


 アンカルヤはその忠告の意味するところを察して、顔をしかめた。


「それが問題になるような状況なのか?」

「残念だが、そうだ。強力な治癒薬は、いわば命のストックだ。しかし薬もその素材も、ここじゃ入手が困難だ。だから治癒薬は度々トラブルの原因となっている」


 治癒薬が希少だという話は、確かに事実なのだろう。

 アンカルヤはリゴウズの話を聞いて、夕刻に立ち寄った野営地の様子を思い出していた。

 そこでは、大型のテントの中で多くの怪我人が治療を受けていた。治癒薬が気軽に使用できる状況であれば、彼らはすぐに回復してこの戦いに復帰していたはずである。

 嫌な話だと、アンカルヤは気が重くなった。






 アンカルヤたちの足元には、先程の戦闘の痕跡が『月明け』の魔法の下に照らされていた。

 ロウギスに切り裂かれた無数のゴブリンの残骸。

 ゴブリンシャーマンの魔法に焼かれた地面。

 入り乱れる足跡。

 そして、大量の血痕の上に横たわるゴブリンシャーマン。その命は、すでにここには存在しない。

 戦いの最中は興奮状態で気にもとめていなかったが、こうして改めて自分たちの行為の結果を目の当たりにすると気分が沈む。アンカルヤは、自分のしたことが今更ながら恐ろしかった。


「ワノノン、コネイア、二人はこの場に残って周囲の調査と確認だ。他は散開して、辺りにまだゴブリンが潜んでいないか警戒しろ」


 リゴウズは仲間たちに指示を出すと、ゴブリンシャーマンの死体を見下ろした。


「デルトカン、こいつがゴブリンシャーマンの死体で間違いねえか?」

「ああ。首も近くに転がっているはずだ」

「やったのはお前か?」

「いや――」


 デルトカンがアンカルヤを見ると、リゴウズも彼女に鋭い視線を向けた。


「マジか? こいつは最近この世界に来たばかりなんだろう?」

「そうらしい。大した新人だ」


 リゴウズが腕を組んで険しい表情を浮かべる。


「ううむ。こいつは少し面倒なことになるかもしれないぜ? ゴブリンシャーマンを仕留めたのは、デルトカンだとしておいたほうがいいんじゃねえか?」

「待て、リゴウズ! 彼らは善意で俺たちに手を貸してくれたんだぞ! 命の危険まで犯して。なのに、その手柄を奪うような真似ができるか!」


 憤慨して食って掛かるデルトカンを、リゴウズは片手を上げて制した。


「まあ、落ち着けよ。こいつは功績がどうとか、そういう話じゃねえ。お前の話が本当なら、こいつらはここ最近の新人の中でも頭一つ飛び抜けた存在だ。このことを迷宮街の連中が知ったら、どんな反応をすると思う?」

「……争奪戦になるか?」

「おそらく、くだらない勢力争いに巻き込まれることになるだろうな」


 デルトカンは苦虫を噛み潰したような様子で、申し訳無さそうにロウギスを見上げた。


「手短に言うと、お前たちがこの戦いで活躍したという事実は、逆にお前たちに良くない影響をもたらす可能性があるのだ。だからお前たちが決めてくれ」

「それは、どちらがゴブリンシャーマンを倒したことにするかということだよな?」

「すまない。本来なら、きちんと説明してから決めてもらうのがスジなのだが……」

「いや、今は長話ができる状況でないことくらい、俺もわかっている。だが、シャーマンを倒したのはアンカルヤなのだから、俺ではなく彼女に聞いてくれ」


 ロウギスから決定権を委ねられたアンカルヤは、特に悩むこともなくリゴウズに即答を返した。


「何が問題になるのかはわからないが、君たちがそういうのならそうなのだろう。ゴブリンシャーマンについては、君たちが倒したということでかまわない」

「――新人のお前たちにこっちの問題を押し付けるような事になっちまって、すまんな。この件は借りということにしといてくれ。いずれ、何らかの形で返させてもらうつもりだ」

「ああ、それで構わないよ」


 実際のところ、アンカルヤはこの判断について特に不満を感じてはいない。

 このオークの大男は、ゴブリン討伐隊のような大集団のリーダーを任されるほどの人物なのだ。

 おそらく、迷宮街と呼ばれているらしい王冠物語のプレイヤーたちが集まる街でも、それなりの地位にいる存在なのだろう。

 そんな人物に恩を売ることができたのだから、当初の目的はこれで達成できたことになる。

 不満など、あるはずもなかった。






 話が一段落するのを見計らい、魔術師の男がリゴウズの傍らにやって来た。そして周辺状況の報告を初める。彼はリゴウズの指示でこの場に残っていた二人の内の一人だ。


「デルトカンの言う通り、あちらにゴブリンシャーマンの首を確認しました。これはゴブリンシャーマンの死体と見て間違いないでしょう。あと、護衛の大型ゴブリンの死体の数も、我々が把握していた数と一致しています」

「よしよし、ならこれで作戦は終了だな。作戦終了の信号を用意しろ」

「はい。ですがその前に、もう一つ報告しておきたいことが……」

「どうした?」

「これを見てください」


 魔術師の男が、持っていた杖をリゴウズに手渡す。

 ゴブリンシャーマンが手にしていた、節くれ立った枯木の杖だ。


「魔法の杖か。これが、どうかしたか?」

「サイズと装飾が、ゴブリンの持ち物にしては違和感があります」


 違和感という言葉が気になり、アンカルヤもリゴウズの手元を覗き込む。

 そして魔術師の言いたいことに、すぐに気がついた。


「確かに、この杖は奇妙だ。ゴブリンが手にするには少し大きすぎる。かといって人間が持つには小さい、中途半端な大きさ。石突や装飾の留め具に、金属の加工品が使われている。飾られている宝石類の仕上げも――この杖の作者はゴブリンではないね」


 ゴブリンの技術力では、このような杖を作ることはどう考えても不可能だ。


「はい、私も彼女と同意見です。おそらく、この杖は人間の手によるものでしょう」

「つまり、この杖は人間の魔術師から奪われた物ということか?」


 ゴブリンの杖を胡散臭そうに眺めているリゴウズに、魔術師は「いいえ」と首を左右に振った。


「人間の魔術師は、このような形状の杖を使いません。もしこの杖が人間の作ったものであるとするなら、その製作者は最初からゴブリンが使用することを前提に、これを作ったものと思われます」

「はあ? それはつまり、ゴブリン共に味方してる人間がいるってことか?」


 そのような可能性は想像もしていなかったのであろう。リゴウズが素っ頓狂な声を上げる。

 だが、アンカルヤはある可能性に思い当たっていた。彼女のキャラクター側の記憶に、引っかかるものがあったのだ。


「いや、待ってくれたまえ。私もこの杖が人間の手によるものという点には同意するが、ゴブリンのために作ったにしてはサイズが合わない」

「ほう? それでは、貴方にはこの杖がどういうものか心当たりがあるのですか?」


 魔術師の男が、興味深そうにアンカルヤに問いかけた。


「心当たりというか――私も話に聞いたことがあるだけで、実物を見たことはないので断言はできないが、確かハッグがこの様な形状の杖を使用していたのではないだろうか?」

「――なるほど、ハッグの杖ですか!」

「ハッグ?」


 アンカルヤと魔術師の男以外の全員が、首をかしげる。


「ええ、ハッグ。近年ではその姿を見ることもなくなった、とてもとても古い魔女の一種です。なるほど、連中の杖だといわれれば納得ですね」

「魔女だと? まさか黒葉会かっ!」


 リゴウズの手の内で、ゴブリンの杖がミシミシと悲鳴を上げる。


「なるほど。今回の一件、ゴブリンシャーマンの仕業にしては随分な大事だと奇妙に思っていたが、背後に黒葉会の連中がいるのであれば、それも納得だ」

「――コクヨウカイ?」


 アンカルヤはリゴウズの口から出た聞き慣れない言葉を、呟くように繰り返した。


「む? ああ、黒葉会ってのは……いや、これ以上の話は、また後日に時間をつくることにしよう。長々と俺らに付き合わせちまって悪かったな。ゴブリンシャーマンの死は確認できたし、今日はもう戻って休め」

「しかし……いや、そうだね。そうさせてもらおうか」


 アンカルヤは黒葉会という言葉が気になっていたが、休息が必要なくらい疲労していることも確かだ。特にリフィリシアの疲労は、もう限界であろう。

 話はこの辺りで切り上げて、休息を取ることを優先するべきだ。


「デルトカン、彼らを野営地まで案内してやれ」

「ああ、まってくれ!」


 先程のリゴウズの指示でこの場に残っていた二人の内のもう一人、金属鎧で武装した戦士の男が駆け寄ってきた。


「ここから引き上げるなら、その前に一つデルトカンに確認しておきたいことがある」

「なんだ?」


 戦士の男が地面を指差す。


「この周辺に、ゴブリンや人間の他に大型の獣の足跡が残っている。心当たりはないか?」

「ああ、それはリフィリシア――そこの魔術師の少女の召喚獣のものだな」


 デルトカンの説明に、リゴウズたちの視線がリフィリシアに集中する。彼女は小さな体をビクリと震わせて、思わずロウギスの背に身を隠した。


「おいおい、召喚獣を呼び出して戦闘ができるとか、どういう新人だ? だが、そのことも口外しねえ方がいいな。おそらく、面倒なことになるぜ」


 リゴウズの言葉にアンカルヤは眉をしかめた。

 流星丸の存在は、すでに複数のプレイヤーに知られてしまっている。

 折角のアドバイスも手遅れだった。


「まったく、末恐ろしい新人もいたものだぜ」


 リゴウズは獣が唸るような声で、そう呟いた。






 リゴウズたちと別れて討伐隊の前線拠点に戻ろうというところで、先導するデルトカンをロウギスが申し訳無さそうに呼び止めた。


「あ~、皆。少し待ってくれ」

「どうした、ロウギス」


 振り返ったデルトカンに、ロウギスは言いにくそうに話を切り出した。


「すまないが、戻る前にこの剣の鞘を一緒に探してもらえないか?」


 言われてみれば、確かにロウギスのグレートソードは抜身のままだ。

 そしてアンカルヤは思い出す。

 彼はゴブリンの集団の中に飛び込む直前に、鞘を投げ捨てていた。


「おいおい、ロウギス……。少しは後先というものを考えたまえよ」


 アンカルヤの呆れた声に、ロウギスの眉がハの字に歪む。


「いや、だってだな。流星丸がいれば、どこに鞘を投げ出しても、後ですぐに見つけられると思っていたから……」


 確かに、流星丸の嗅覚を頼れば、彼の剣の鞘もすぐに見付けることができるだろう。

 だが、残念なことに肝心の流星丸はこの場にいない。


「ご、ごめんなさい!」


 ペコリとリフィリシアが頭を下るが、アンカルヤは「いやいや」と首を振る。


「リフィリシア、この件についてキミが謝る理由は何一つない。全面的に、この間抜けなおっさんが悪い」

「うぐっ!」


 ロウギスは、情けない表情で体を小さくしている。

 二メートル近い大男の滑稽な様子に、アンカルヤとリフィリシアの唇に小さな笑みが浮かぶ。

 そして二人は、重々しい心が少しだけ軽くなるのを感じた。


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