三日目・2
アンカルヤとリフィリシアは食事を終え、二人とも熱とスパイスにヒリヒリする舌を持て余していた。
一人だけ傭兵鍋の二杯目に口をつけていたロウギスが、改まった様子でアンカルヤに語りかけた。
「さて、アンカルヤ。自己紹介の後で話が雑談にそれてしまったが、いくつか確認しておきたいことがある。俺もリフィリシアも、そしてお前もゲームの王冠物語のプレイヤーだった。そして気が付いたら何故かゲームのキャラクターになって、この森の中に立っていた。状況から見て、この森はおそらくゲームの舞台である迷宮島だ」
ロウギスの推測に、アンカルヤも同意する。
「ああ、そうだね。ここが迷宮島である可能性は高いだろう」
「つまり俺たちは皆、ゲームのキャラクターとなって、ゲームの中にいるというわけだ。そこでお前に聞きたいのだが、俺たちの身に何が起こったのか知っているか? 元の世界に戻る方法や、元の姿に戻る方法に心当たりは?」
そういう質問が来るということは、ロウギスたちもこの状況について何も知らないということだ。それはアンカルヤにも予想のついていたことなので、そのことに落胆はない。
「私にもわからない。その問の答えが欲しいのは、私も同じだ」
アンカルヤは残念そうに、首を左右に振った。
ロウギスもあまり期待はしていなかったのだろうが、それでも落胆を隠せない様子だった。
「まあ、そうだろうな。次の質問だ。俺たちは、この状況を解決する方法を探して、とりあえず迷宮に向かっているところだ。お前はここで何をしていたのだ?」
「私もキミたちと同じ理由で迷宮――というか、迷宮の入口付近にあるはずの砦に向かっているところだ」
「そうか!」
ホッとした様子で、ロウギスは小さく笑った。
「つまり俺たちは、置かれている状況も目的地も同じというわけだな。ならば、どうだろう? 俺たちと共に迷宮に行かないか?」
それはアンカルヤにとって、願ってもない申し出だった。
「ありがたい。二人が共となるなら、私としても心強い限りだよ」
ここまでのやり取りで、アンカルヤのロウギスたちに対する警戒感はかなり低下していた。行動を共にすることにも、特に不安は感じなかった。
「おお、それは助かる!」
ロウギスは断られる可能性も考えていたのか、明らかにホッとした様子で頷いた。
「そこで、だ。仲間となったアンカルヤに、一つ頼みたいことがある」
今までは前置きで、ここからが本題。
そういう雰囲気を察し、アンカルヤは身構えた。
「頼み? 何かな?」
「リフィリシアのことだ」
アンカルヤがリフィリシアの方を見ると、彼女も不思議そうな顔で視線を返してきた。どうやら彼女にも、ロウギスの頼みに心当たりはないようだ。
「嬢ちゃんは見ての通りまだレベルが低くてな、所持品も貧弱で、特に野営関連の装備が頼りない。で、夜は俺のテントで保護していたわけだが、まぁ……何事もなくとも、若い娘が男と二人で夜を過ごすというのは些か外聞が悪い」
ロウギスは気まずそうな表情を浮かべている。
「それはまぁ、な」
「そこで相談なのだが。お前のテント、最大強化済みだろう? 今夜からリフィリシアはアンカルヤのテントで保護してくれないか?」
「何だ。そんなことなら、かまわな――いや、ちょっと待ってくれたまえ。私のテントでリフィリシアを?」
アンカルヤがリフィリシアの方に視線を戻すと、彼女も目をパチクリさせて驚いていた。
「同郷で女同士となれば、これも何かの縁だ。嬢ちゃんも俺よりお前と一緒の方が安心できるだろう」
「いやいや、キミは私の話を聞いていたのかい? こう見えても、私は男子高校生なのだよ?」
「それでも同じ国の出身で、歳も近い。親子ほど歳の離れた外国人の男とは比較にもなるまい」
アンカルヤとロウギスの間に、リフィリシアが慌てた様子で割り込んできた。
「待ってください、大丈夫です! 自分のテントを使います! お二人に迷惑はかけません!」
「一応聞いておくが、テントに付呪は?」
「もちろん、ちゃんとしてあります!」
「初歩的な防水と保温だけだがな」
アンカルヤの問いにリフィリシアが答え、ロウギスがすかさず補足を加えた。
「――わかった、彼女は私のテントで受け入れよう」
仕方がないと、アンカルヤは頷いた。
いろいろと言いたいことや思うことはあったが、結局の所そう答える以外になかった。
この森の過酷な夜に少女を放置するという選択肢は、アンカルヤの中には存在しないからだ。
ロウギスはようやく肩の荷が下りたと安堵していた。
大人の男性として、異国の少女にどう接していいのかわからず、なかなか難儀していたようだ。




