第6話 名前を呼んだ翌日
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!
前回の第5話では、誰もいない放課後の廊下で、クラインさんから不意打ちの「名前呼び」が飛び出しました。
第6話となる今回は、その翌日の朝から放課後にかけてのお話です。
お互いに名前で呼び合うようになった二人の、初々しすぎる「名前呼びの余韻」と、周囲に隠れてこっそり交わされる甘酸っぱいやり取りにぜひご注目ください。
学校中の憧れの的が、蓮の前でだけで見せる、さらに糖度の上がったピュアな姿をお楽しみください!
朝の教室は、まだ登校してきている生徒の数も少なくて、静かな空気が満ちていた。
斜めに差し込む窓の外の光が、新調されたばかりの木製机の端だけを白く鮮やかに照らしている。
自分の席に着いたとき、前の席に座っていた佐々木が軽く手を挙げて声をかけてきた。
「おはよ、沢木」
「おう、おはよう」
そんな何気ない挨拶を交わした瞬間、その声にタイミングを合わせるかのように、廊下の方から規則正しい足音が近づいてきた。
5歳から鍛え上げた空手の体幹がもたらす、ブレのない美しい身のこなし──リナだった。
けれど、学校でのランウェイのような歩き方と比べると、今日の彼女は少しだけゆっくりに見える。
教室の入り口のドアの手前で、リナは一瞬だけピタッと立ち止まると、
ブレザーの袖から覗くカーディガンの萌え袖を、愛おしそうに引っ張って整えた。
──昨日、俺の名前を呼ぶため必死に練習していた、あの恥ずかしそうな姿がフラッシュバックする。
動揺を悟られないよう、俺は彼女のその健気なルーティンに気づいていないふりをして前を向いた。
リナは自分の窓側の席へと向かう途中で、意を決したように胸いっぱいに小さく息を吸い込んだ。
「……おはよう、蓮」
周囲にギリギリ聞こえるか聞こえないかというボリュームで紡がれたその名前は、
昨日の廊下での告白の時よりも、ずっと優しく、そして自然に俺の鼓膜へと染み込んできた。
「おはよう、リナ」
俺の声は、内心心臓がバックバクに暴れている割には、驚くほど落ち着いたトーンを保てていた。
すぐ後ろの席では、早朝から元気な女子たちが小さく笑いながら他愛のない恋話を咲かせている。
そんなにぎやかな教室のざわめきの中で、
185センチの長身の金髪美少女の静かな視線が、俺だけを真っ直ぐに見つめていた。
朝の会が終わり、一限目の授業の準備が始まる。
リナは真新しいノートをそっと自分の机の上に置いた。
綺麗にページを整えるフリをしながらも、美しい青い瞳の視線だけは、こちらへと寄せられている。
「……昨日の、あの、名前の呼び方……変じゃなかった……?」
「別に。全然変じゃなかったし、普通に嬉しかったよ」
俺の答えを聞いた瞬間、リナは心底ホッとしたように眉を下げ、
カーディガンの指先を萌え袖の中で嬉しそうに動かした。
一限目の授業が始まり、教師の登場とともに教室の空気が少しだけキリッと締まる。
授業中、いつもなら小まめにこちらを覗いてくるリナだが、今日は妙に意識しているのかいつもより真っ直ぐ前を向いたまま、真面目な顔をして必死にノートを取っていた。
けれど、お寺育ちの礼儀正しさゆえか、
彼女が教科書のページをめくる音が静かすぎて、逆に俺の意識が猛烈にそっちへ引っ張られてしまう。
やがてチャイムが鳴り、休み時間。
前の席の佐々木がくるりと振り返った。
「沢木、これ昨日の学活で配られたプリントの残りのやつ。はい」
「ああ、サンキュー」
そんな男同士のやり取りが終わるのを見計らうように、
リナがノートをパタンと閉じて、185センチの上半身を少しだけこちらに向けた。
「……ねえ、蓮」
「ん? なんだよ」
「今日、放課後の帰り道……少しだけ、一緒に歩ける?」
不意打ちの下の名前での誘いに、俺の喉の奥がほんの少しだけキュッと熱くなった。
周囲の男子から、「おい、今クラインさんが沢木の下の名前を……!」という動揺のデスビームが飛んでくるが、そんなものはもう知らん。
「……まあ、別にいいけど。お寺の方向も一緒だしな」
「うん!……よかった」
リナは嬉しさを噛みしめるように小さくうなずいて、ふっと恥ずかしそうに視線を落とした。
はにかむ彼女の美しい彫りの深い横顔が、昨日よりもずっと近くに感じられて、
俺の心臓は早くも放課後に向けて高鳴り始めていた。
続く昼休み。
佐々木たちに「沢木、購買行こうぜ!」と呼び止められて席を立つと、リナが一瞬だけこちらを見た。
声をかけて呼び止めるわけじゃない。
ただ、俺の存在が“そこにいる”のを愛おしそうに確かめるみたいに、その青い瞳で見送ってくれた。
そして、待ちに待った放課後。
すべての終礼が終わり、教室を出ると──
少し短めのスカートからスラリと伸びた黒ニーソの脚を揃えて、
リナが廊下の壁際で静かに俺を待っていた。
「……行こ、蓮」
俺の姿を見つけるなり、ふにゃりと柔らかく微笑んだ彼女の声は、
昨日の「また明日ね」という約束の続きを、そのまま紡いでいるみたいだった。
二人で並んで校舎を歩き出すと、185センチの長身を持つリナの歩幅が、
俺の歩調に合わせて自然にゆっくりと、心地よくシンクロしてきた。
「蓮と並んで歩くの、なんかすごく心が落ち着くね」
「そうか? 俺は一軍女子のクラインさんと2人きりで、心臓がもたなくて落ち着かないんだけどな」
「クラインさんって言わないでってば。……でも、嬉しいな」
185センチの長身を少し縮こまらせ、歩調を合わせて歩いてくれる
その健気な姿に、俺の胸はさっきからバクバクと高鳴りっぱなしだ。
校門を一歩外へと出ると、夕方の遮るもののない風が少しだけ強く吹き抜けた。
リナの美しい金色のストレートヘアが夕日に透けながら綺麗に揺れ、
ブレザーのカーディガンの萌え袖が、風をはらんで柔らかく動いた。
「……ねえ、蓮」
「ん? なんだよ」
「呼んでいい? ……明日も、その次も、これからもずっと、こうやって呼んでもいい?」
「……だから、好きにしろよ。わざわざ確認すんなって」
照れ隠しで少しぶっきらぼうに答えると、リナは本当に嬉しそうに小さく笑った。
お寺の厳格な環境で育った彼女らしい、声に出さない、お淑やかな笑い方。
「……うん。ありがとう、蓮」
優しく響いた俺の名前が、茜色に染まり始めた夕方の穏やかな空気に、心地よく溶けていった。
「『蓮』呼びをこれからもずっと、に悶絶した!」「二人の放課後をもっと見守りたい!」と思ってくださった方は、ぜひページ下部の【ブックマーク登録】や、評価の【☆☆☆☆☆(星)】をぽちっと押して応援していただけると、執筆の凄まじい原動力になります!
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次回の第7話もどうぞお楽しみに!




