第4話:高校生活三日目、一軍女子は私の箸を宝物のように扱います
第4話をお読みいただき、ありがとうございました!
お箸を忘れてしょんぼり縮こまる姿や、まさかのお箸の貸し借りで間接的なアレにドギマギする蓮。そして放課後の「隣にいてくれるから、落ち着くの」というリナの直球すぎるお淑やかな爆弾発言……!
3日目にして二人の距離感が一気に近付いていく様子に、裏方(作者)もニヤニヤが止まりません。
ここから秋・冬の恋人同士になるロードマップに向けて、二人の新しい日々をじっくりと、そしてさらに糖度を上げて描いていきます!
高校生活三日目の朝。
ガララと教室のドアを開けて中に入ると、リナはもう自分の席に座っていた。
窓からの朝の光が、彼女の鮮やかな金髪に落ちる。今日も、神々しいほどに透き通っている。
「おはよう、沢木くん」
「お、おう。おはよう、リナ」
俺を見上げて小さく微笑む彼女の声は、昨日よりも明らかに一段と柔らかい。
クラスの環境に慣れてきたのか、それとも、俺という存在に慣れてくれたのか。
……いや、朝から自意識過剰な妄想をするのはやめよう。
一時間目が始まる直前、リナがそっと自分のノートを俺の方へと寄せてきた。
机が合わさる軽い音がして、至近距離から甘い香りが漂う。
「ねえ、沢木くん。ここ……計算、合ってるかな……?」
「どれどれ? ……ああ、合ってるだろ。完璧に大正解」
「よかったぁ……。やっぱり、沢木くんの隣の席は、すごく落ち着くね」
落ち着くってなんだ。
いや、言ってくれるのは死ぬほど嬉しい。
朝から俺の心臓をバックバクに脈打たせるには十分すぎる威力だ。
だが、周囲の男子からは「朝からイチャつくな」という無言の銃撃が飛んできている。
二時間目の授業の途中。
カツン、と小さく小気味よい音が響いた。
リナの高級そうなシャープペンシルが床を転がり、俺の足元までやってくる。
俺は椅子を少し引いてそれを拾い上げ、「ほらよ」とリナの机へと戻した。
するとリナは、経本を受け取るように萌え袖の両手で恭しくシャープペンを受け取った。
「……ありがと、沢木くん。落としたの、全然気づかなかった。大切にするね」
ただ拾っただけのシャーペンを両手で恭しく受け取る仕草。
それが育ちの良さを物語っていて丁寧すぎる。
お寺育ちのピュアな所作を、学校の授業中に不意打ちで繰り出されるのは反則だ。
胸の奥が妙にざわついて、俺は急いで黒板へと視線を戻した。
続く休み時間。
案の定、リナの周りはお洒落な一軍女子たちに囲まれて、賑やかな華が咲いていた。
けれど、ふとした瞬間に彼女と視線が合う。
リナは女子たちのマシンガントークの隙間を縫って、俺に向かって小さくペコリと会釈をしてきた。
なんでわざわざ会釈なんだよ。
お寺の住職の娘さん感が出すぎだろ。
いや、俺を気にしてくれるのは最高に大歓迎だ。
だが、まわりの女子に気づかれたら、また尋問を受けることになるんだからな。
そして、ようやく訪れた昼休み。
お弁当を開けたリナが、ハッと息を呑んだ。
少しだけ困ったように眉を下げてフリーズしている。
「……どうした? リナ」
「……お箸、忘れちゃった。お母さんが巾着袋に入れてくれたと思ったんだけど、中に入ってなくて……」
「なんだ、そんなことか。購買に行って割り箸もらってくれば?」
「ううん……。お昼の購買は人がたくさんいて混んでるから。ちょっと、行くのが怖くて……」
(おいいいいい! 一軍女子の圧倒的なコミュ力はどこに置き忘れてきたんだよ!?)
学校中の憧れの的が、「人が多くて混んでるから怖い」と長い体を縮こまらせている。
しょんぼりと耳まで赤くしていた。
この見た目と中身のギャップ。
可愛すぎて全男子が悶絶するレベルだろ。
「しょーがねーな。ほら、これ使えよ。俺のお弁当箱、フォークも一緒に入ってるから。箸はまだ使ってないから綺麗だぞ」
「えっ……! いいの、沢木くん……?」
「別に、減るもんじゃないしな」
リナは俺の箸を、またしても両手で受け取った。
宝物でも受け取るみたいに慎重な手つきだ。
そのまま、少しだけ長い睫毛を伏せて呟く。
「……ありがと。沢木くんのお箸、大事に、大切に使うね……っ」
箸を大事に使うってなんだ。
ただのコンビニのプラスチック箸だぞ。
いや、待て。
女の子に自分の箸を貸すって、それって実質、間接なんとやらじゃ……。
「大事に使う」という言葉の、妙に甘酸っぱい響きが脳内を支配する。
俺は自分のフォークを握りしめたまま、顔が赤くなるのを必死に堪えるしかなかった。
午後の授業中。
リナは時々、ちらちらとこっちを見ては、何か言いたそうに唇を小さく動かしていた。けれど、俺と目が合うと慌ててノートへと戻る。
その“言わない”というもどかしい態度が、逆に気になってしまう。
午後の授業の内容は、ほとんど頭に入ってこなかった。
すべてのカリキュラムが終わり、放課後のチャイムが鳴り響く。
スクールバッグを肩にかけたリナが、スッと俺の席のすぐ近くまで歩み寄ってきた。
「ねえ、沢木くん」
「ん? なんだよ」
「今日ね……なんか、学校にいる間、ずっと心が落ち着いてたの」
「そうか。お箸も無事に見つかったしな」
「うん。……でもそれだけじゃなくて。やっぱり、隣に沢木くんがいてくれるから、落ち着くの」
そんな恥ずかしいセリフを、禅寺の境内に流れるそよ風みたいに静かに真っ直ぐ言うんじゃない!
俺の心臓はアイドリングを通り越している。
今すぐ叫び出したいレベルで限界突破していた。
教室のドアを出るとき、リナが小さく、愛おしそうに息を吸った。
「……また明日ね、沢木くん」
バイバイと、萌え袖の手を胸の高さで小さくパタパタと振る。
彼女との距離は、昨日よりも確実に近くなっていた。
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