第3話 席替えの翌日、窓際席は二人だけのゼロ距離空間
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!
高校生活が始まり、少しずつ新しい日々に慣れていく二人。
周りからは「完璧な高嶺の花」として一目置かれているクラインさんですが、蓮の前でだけは見せる表情が少し違うようで……?
お寺育ちで185.4cmの長身、だけど中身はピュアすぎる彼女の可愛さを、ぜひお楽しみください!
席替えの翌日。
ガララと教室のドアを開けて中に入ると、リナはもう新しく決まった窓側の席に座っていた。
昨日と同じ場所。
昨日と同じ、パーソナルスペースを容易く突破してくるゼロ距離。
なのに、一日経っただけで、お互いの存在が昨日よりも少しだけ近く感じられた。朝一番から俺の心臓は、激しくアイドリングを始めている。
「おはよ、沢木くん」
こちらを振り返ったリナは、昨日よりもずっと自然に、そして嬉しそうにふにゃりと笑った。
「昨日ね、帰ってからずっと考えてたんだよ。お風呂の時も、ベッドに入ってからも──“明日も明後日も、ずっと沢木くんの隣なんだなぁ”って」
そんな気恥ずかしいカウントダウンを、登校早々から当たり前みたいな顔をして言うな。
いや、言ってくれるのは死ぬほど光栄だし最高だけど、お陰で俺の脳内は朝から大爆発寸前だった。
リナは窮屈そうに185センチの長い脚を折り曲げると、机の中を覗き込む。昨日押し込んだ教科書の山をトントンと整えながら彼女は言った。
「ねぇ、沢木くん。やっぱりこうやって隣にいるのって、なんかすごく落ち着くね」
「そうか? まだ二日目だし、周りの席の奴らの視線が痛くて、俺は全然落ち着かないんだけどな」
「ううん、そんなことないよ。……なんか、蓮がすぐ横にいるだけで、私、すごく安心する」
普段は学校中の誰もが憧れる、最強一軍女子。
そんな彼女が、俺の前でだけ見せる、この無防備な乙女の顔。
不意に紡がれた「安心する」という、本音混じりの呟き。
それは俺の胸の奥深くに、いつまでも消えない確かな熱を残していった。
そこへ予鈴のチャイムが鳴り響き、担任の藤川が教壇に立つ。
「はーい、朝の会を始めまーす。今日からの連絡事項が書かれたプリントを配るので、前から順番に後ろまで回してくださいね」
カサカサと小気味よい音を立てて回ってきたプリントを受け取った瞬間。
リナは長い上半身を俺の方に少しだけ傾け、限界まで身を寄せてきた。
ふわりと、彼女の髪から甘くて良い香りが漂ってくる。
俺のパーソナルスペースは、一瞬で崩壊した。
「ねえ、沢木くん。これ、先生が言ってるのって、どの行のこと?」
「ここだよ、ここ。この太文字になってる締切日のところ」
「ありがと。……ふふ、やっぱり隣だと、ほんとすぐに聞けて助かる」
小声で囁かれたその「助かる」という言葉の響きが、妙に甘っぽく鼓膜に残る。
俺は必死にプリントへ視線を落として、平静を装うしかなかった。
やがて一時間目の授業が始まると、リナは前を向いて超真面目にノートを取りつつも、時々ノートの端を指先で押さえながら、ちらちらとこっちを見てきた。
「ねぇ、沢木くん。この問題の答え、これで合ってる……?」
リナが萌え袖の手で隠すように見せてきたノートを覗き込む。
「いや、合ってるだろ。っていうか、完璧。さすが金賞レベルの書道女子、字がめちゃくちゃ綺麗だな」
「よかったぁ……。私、数学のこの公式ちょっと苦手なんだ。だから隣に沢木くんがいてくれて、心から安心できたし本当に助かったよ」
完璧無比に見えて、実はちょっとだけ勉強に不安を抱いているリナ。
そんな彼女に「助かった」なんて、185センチの上から上目遣いで言われたら、俺の心臓のライフはゴリゴリと音を立てて容赦なく削られていく。
だからいちいち、大袈裟に助かったって言うな。
いや、頼りにされるのは男冥利に尽きるから、いくらでも言っていいんだけど。
続く休み時間、案の定、圧倒的なオーラを放つドイツ人美少女であるリナの周りには、お洒落な女子たちが瞬く間に群がり、華やかな輪ができていた。
それなのに、ふとした瞬間に彼女と視線が合う。
リナは女子たちのマシンガントークの隙間を縫って、俺に向かって胸の高さで小さくパタパタと、まるで秘密の合図を送るように手を振ってきた。
周囲の女子たちが「え? クラインさん、今誰に手振ったの?」と、一斉に周囲を見回し始める。
なんで女子のコミュニティのド真ん中から、ピンポイントで手を振るんだよ。
いや、振ってくれるのは心臓が飛び出るほど可愛いから大歓迎なんだけど、お陰で男の輪に戻った俺が、今度は「お前、あいつと一体どういう関係なんだよ」という、デスビーム(嫉妬の視線)を四方八方から浴びる羽目になるんだ。
ようやく訪れた昼休み。
リナが、お母さんが仕立てたという綺麗な風呂敷包みを、慣れた手つきでパパッと小気味よく解き、お弁当箱を開きながら言った。
「ねえ、沢木くん。昨日ね、家でお母さんに言われたの」
「何をだよ」
「“席替えはどうだった?”って。だから私、嬉しくてつい“一番なりたかった隣の席になれたよ”って、周囲の女子たちの前でそのまま素直に言っちゃったら──」
そこでリナは、大ぶりで形の良い耳のあたりまで、少しだけ頬をポッと赤く染めた。
「“あら、その子、どんな子なの?”って詳しく聞かれて……なんか、全然うまく説明できなかった」
「説明って……俺の特徴なんて、普通の男子、運動そこそこ、成績は中の上、くらいだろ」
「だって、なんか……ただの言葉にすると、全然足りないっていうか、うまく言えないんだもん」
リナは、すらりとしたその長身をきゅっと縮こまらせるようにして、萌え袖の手でお弁当の箸をいじりながら、恥ずかしそうに視線を彷徨わせている。
その“うまく言えない”という照れ隠しが、逆に俺への特別な感情を全部物語っている気がして、俺の胸の奥の熱は一気に沸点を突破した。
そして、訪れた午後の授業。
リナは背筋をピシッと伸ばして、超真面目にノートを取りつつも、時々こちらに長い上半身を寄せて、俺のノートを覗き込んできた。
「ねえ、沢木くん。これ……沢木くんの書く字、ちょっとちっちゃくない?」
「いや、普通だろ。お前が金賞レベルの精密な書道女子だから、俺の字が余計に細々と見えるだけだ」
「えー、やっぱりちっちゃいよ。……でも、ちんまりしてて、なんか可愛い」
彫りの深い完璧なモデル風美少女の顔で、俺のノートの文字を覗き込みながら「可愛い」とか言うな。
いや、褒めてくれるのはめちゃくちゃ嬉しいけど、お前の方が何億倍も可愛いし、そのギャップのせいで俺の心臓はさっきから、AEDが必要なレベルでバクバクと激しく鳴り響いているんだ。
すべての授業が終わり、終礼のチャイムが鳴り響いた放課後。
リナはスクールバッグを肩にかけ、萌え袖の手でストラップをぎゅっと握りながら、帰る間際に俺を真っ直ぐ見つめて言った。
「ねえ、沢木くん」
「ん?」
「今日も一日、隣でいられて、本当によかった。……明日も、ちゃんと隣だよね?」
「明日も明後日も、当分の間は席替えなんてしないだろ」
「そっか。……うん、本当によかった」
俺の呆れたような返事を聞いた瞬間、リナはほっとしたように、今日一番の乙女の笑顔を咲かせる。
その破壊力抜群の微笑みを見届けた俺の心臓は、完全に激しいオーバーヒートを起こしていた。
第3話をお読みいただき、ありがとうございました!
お淑やかに振る舞おうとしつつも、蓮の隣にいるとどうしても素のピュアさや大和撫子な一面が溢れてしまうリナ。二人の絶妙な距離感に、書いていて私自身も終始ニヤニヤが止まりません……!
ここから秋・冬の恋人同士になるロードマップに向けて、二人の新しい日々をじっくりと描いていきますので、あたたかく見守っていただけると嬉しいです。
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