第2話:運命の席替えと、萌え袖の距離
第1話をお読みいただき、本当にありがとうございました!高校生活二日目の朝、さっそく波乱(?)の席替えが始まります。楽しんでいただけたら嬉しいです!
高校生活二日目の朝。
ガララと教室のドアを開けて中に入ると、リナはもう自分の席に座っていた。
窓から差し込む朝の光が、彼女の艶やかな髪に少しだけ透けて、
いつも以上に鮮やかな金色に輝いていた。
背筋をピンと伸ばして静かに読書をしているその佇まいは、
まるで海外の美術館に飾られている名画のようだった。
初日のピシッとしたブレザー姿から一転、今日は袖口から指先が少しだけのぞく、
大きめのカーディガンを羽織っている。
高校に少し慣れて、彼女なりにお洒落を楽しんでみたくなったのかもしれない。
誰もが話しかけるのを躊躇うほどの圧倒的な美の暴力を前に、俺が気後れしていると、彼女はいち早く俺の気配を察知してパッと顔を上げた。
「おはよ、沢木くん」
まわりの女子よりも頭一つ抜けてスタイル抜群な、まさに至高のプロポーションを持つ一軍女子が、クラスの注目を一身に浴びながら、ごく自然に俺にだけ声をかけてくる。
……だから、そんな自然に言うな!
いや、自然に挨拶してくれるのは最高に嬉しいんだけど、
お陰で教室中の男子の視線がレーザーポインター並みの鋭さで俺の背中に突き刺さっている。
朝から背中が焼け焦げそうだ。
「今日、提出物の日だよね。……忘れてない?」
「おう、ちゃんと持ってきた。カバンの奥でクシャクシャにならないよう、クリアファイルに入れてな」
「よかった……。実はね、私、写真がちょっと曲がっちゃってさ。藤川先生に提出したら怒られるかな」
リナはその見事な長身をきゅっと縮こまらせ、萌え袖の手で健康調査票を大事そうに持ちながら、心底不安そうに俺を見上げてきた。
最強のオーラは影を潜め、小さなミスに戸惑う、お寺育ちのピュアな乙女がそこにいた。
「いや、写真が数ミリ傾いてるくらいで怒る先生はいないだろ。大丈夫だって」
「ほんと? ……じゃあ、沢木くんの言葉を信じる」
俺の適当な慰めに、リナはパッと表情を明るくして、ホッとしたようにふにゃりと笑った。
「見て、これなんだけど……」
リナが不安そうに手元で広げた健康調査票。
証明写真のズレを確認しようと、俺が何気なくその書類に目を落とした――その瞬間、写真のすぐ横に書かれた『とある項目』が嫌でも視界に飛び込んできた。
【 身長:185.4 cm 】
(ひ、ひゃくはちじゅうご点よんセンチぃぃぃぃぃっ!?)
脳内で緊急警報が鳴り響く。
いや、まわりの女子より頭二つぶんくらい高くて、スタイル抜群の超絶モデル体型だとは思っていたが、まさか日本の男子高校生の平均身長を余裕で置き去りにする大台を叩き出しているとは。
この至高のプロポーションから、あんな子犬系小動物ムーブを繰り出されていたのか。ギャップの破壊力が天元突破して俺の心臓のライフはもうゼロだよ!
「……沢木くん? やっぱり、写真ヘンかな?」
「う、ううん! 全然ヘンじゃない! むしろ完璧! 額縁に入れて飾りたいレベル!」
動揺で裏返りそうになる声を必死に抑えて励ますと、リナはカーディガンの袖に口元を隠しながら、嬉しそうにふにゃりと微笑んだ。
(アカン、中身がピュアな185センチ可愛すぎて死ぬ。今すぐAEDを持ってきてくれ……!)
俺は真っ赤になった顔を隠すように、大急ぎで提出物のファイルへと視線を落とすしかなかった。
リナは健康調査票の端を、細い指先で丁寧にぽんぽんと押さえながら嬉しそうに笑っている。
その笑い方は、昨日のどこか緊張混じりだったものよりも、ずっと柔らかくて温かい。
それから彼女は、その長い脚を机の下で窮屈そうに折り曲げると、机の中を覗き込んで、昨日配られた大量の教科書をなんとか押し込もうと格闘し始めた。
「ねえ、沢木くん。これ、ほんとに全部入らないんだけど……」
「だから昨日、どう考えても無理だって言っただろ」
「うん…….でも、こういう風に机の上がいっぱいいっぱいになるのって、なんか“高校生”って感じがしてちょっと楽しいよね」
そう言って、リナは萌え袖の手で教科書の山を抱えたまま、いたずらっぽく小さく首を傾けた。
普段の誰もが恐れ多いと感じるほどのクールな美貌で、こんな無自覚に可愛い仕草をしてくるのだから、男として本当にずるいと思ってしまう。
俺の心臓は今日も今日とて過呼吸一歩手前だ。
今すぐ教室に酸素ボンベを搬入してくれ。
そこへ予鈴のチャイムが鳴り響き、ガララとドアを開けて担任の藤川が入ってきた。
「はーい、朝のホームルーム始めまーす。まずは昨日言った通り、提出物を出席番号順に前に出してください。それから──いよいよ今日、さっそく席替えをします。机の間隔もバラバラだから、その時に一気に整えますからね」
その言葉が落ちた瞬間、教室中が待ってましたとハチの巣をつついたようなざわめきに包まれた。
誰が誰の隣になるか、一軍女子のリナがどこに座るかで、男子たちのボルテージは一気に最高潮だ。
そんな喧騒の中、リナがくるりとこちらを振り返り、少しだけ眉を下げて小声で言った。
「ついに今日だ……。沢木くん、どこになるかな」
……だから! それを俺の目をまっすぐ見つめながら、さらっと言うな!いや、言ってくれるのは死ぬほど嬉しいけれど、周囲の男子たちが「おい、まさかあいつら朝から何を話して……」と一斉にこちらをマークし始めたのが嫌でも伝ってくる。
新学期早々、クラスの全男子を敵に回すギルティを犯している自覚はある。勘弁してくれ。
「よし、じゃあ提出物を持った人から、廊下側に並んで前に持ってきてー」
藤川の指示に従い、俺がクリアファイルを持って席を立つと、提出物を出しに行くクラスメイトの列の中で、リナがごく自然な動作で俺のすぐ隣に並んだ。
その並び立つ姿は、抜群のスタイルも相まってまるでモデルのランウェイのようだ。
「ねえ、沢木くん」
「ん?」
「もし席が……遠くなっちゃったら、どうしよ」
「どうしよって言われても、こればかりは完全に運だしな」
「うん…….でも、なんかちょっとだけ不安」
リナは長い睫毛を伏せて、本当に心細そうに呟いた。
その“ちょっとだけ”という言葉に含まれた熱量が、全然ちょっとじゃない気がして、俺の心臓はまたしても不規則な爆音ビートを刻み始める。
周囲の男子からは「おいクラインさんとあいつ、なんであんな距離近いの!?」「付き合ってんのか!?」という無言の銃撃がハチの巣レベルで飛んできているが、今のリナの美しい青い瞳には、どう見ても俺しか映っていなかった。
提出物を出し終えて席に戻ると、リナは机の上の教科書をトントンと整えながら、何度もちらちらと俺の方を振り返ってきた。大型犬がそわそわと飼い主の様子を伺っているみたいでめちゃくちゃ可愛い。
「ねえ、沢木くん」
「なんだよ、落ち着きがないな」
「……沢木くんって、くじ運強い?」
「いや、普通だろ。大吉も出れば凶も引くレベル」
「普通かぁ……。私、おみくじもいっつも末吉とかだし、くじ運すごく弱いんだよね。だから、こういうの流線に心臓に悪いっていうか、ドキドキする」
そう言って、リナは萌え袖に包まれた両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。学校中の誰もが恐れ多くて近づけない最強の一軍美少女が、ただの高校の席替えにここまで本気で怯えて乙女になっている。
そのギャップはあまりにも反則だし、なにより破壊力が限界突破していた。
俺の心臓の残りHPはもう、完全にゼロ寸前で風前の灯火と言わざるを得ない。
そして、運命の席替えの時間がやってきた。
担任の藤川が、手作りの怪しげな段ボールのくじ箱を抱えて教壇に立つ。
「はーい、それじゃあ出席番号順に前から順番に引いていってくださーい。一喜一憂するのは全員がきれいに引き終わってからにするのよ」
教室のボルテージが一気に最高潮へ達し、あちこちから神頼みの悲鳴が上がる。
女子列の先頭であるリナの順番が回ってきた。
彼女がくじ箱に細い腕を伸ばすと、カーディガンの萌え袖が上品に少し揺れた。
お寺の娘らしい、どこか厳かな手つきで箱から紙切れを一枚引き抜き、恐る恐るそれを開いた瞬間。
リナの美しい青い瞳が一瞬だけ、信じられないものを見たかのように丸くなった。そのまま、リナは周囲の喧騒やクラスの視線を一切無視して、真っ直ぐに俺の席へと、長い脚で大股に進めて歩いてきた。
「……沢木くん、何番? どこになった?」
上目遣いで、すがるように聞いてくるリナ。
必死すぎてちょっと顔が近いです。
「俺はこれ。えっと……窓側の中段、後ろから三番目の席だな」
リナは自分が握りしめていた紙切れと俺のくじを交互に見つめ、限界まで張り詰めていた肩の力を抜くように、小さく深く、ホッとした息を吸った。
「……隣だ」
どこか救われたような、それでいて心の底から湧き上がる喜びを噛みしめるようなその言い方は、こちらが参ってしまうくらいにあまりにもずるかった。
新しく決まった席へ机を大移動させると、当然のようにリナがすぐ横の席へとやってきた。
「改めて、これからよろしくね、沢木くん」
窓際の席。
差し込む陽光に照らされた彼女との距離は、昨日よりも格段に近かった。
それなのに、不思議なほどにしっくりときてしまう。
リナは椅子を引きながら、クラスの男子たちの嫉妬の視線をその見事なスタイルで完全に遮るようにして、ちらっと俺の方を見た。
「ねえ、沢木くん。私、今日、ちょっとどころじゃなくて、もの凄く嬉しいかも」
「……なんでだよ。ただの席替えだろ」
「なんでって…….だって、沢木くんの隣だよ? これ以上の大当たりなんてないでしょ」
そんな当たり前みたいな顔をして、極上の殺し文句をさらっと言うんじゃない!
いや、言ってくれるのは心臓が跳ね上がるほど嬉しいけれど、俺のメンタルは朝からフルボッコだ。
天然一軍女子の無自覚な攻撃力、本当に恐ろしすぎる。
やがて次の授業が始まる直前、リナが長い上半身をこちらにしなやかに傾け、俺の机のプリントを上からのぞき込んできたのだ。
ふわりと、彼女の金髪からお寺の線香とは違う、甘くて良い香りが鼻腔をくすぐる。
甘い。
あまりにも女の子の匂いだ。
「ねえ、沢木くん。これ、先生の言ってるのってどこのページのこと?」
「ここだよ、ここ。この上のグラフのところ」
「ありがと。……ふふ,やっぱり隣だと、色々と聞きやすくていいね」
小声で囁かれたその「聞きやすいね」という言葉の響きが、妙に甘っぽく鼓膜に残り、俺は必死に教科書へ視線を落として平静を装うしかなかった。
続く休み時間、案の定、圧倒的な一軍女子であるリナの周りには、他の中学出身のお洒落な女子たちが瞬く間に群がり、賑やかな輪ができていた。
さすがは学校中の憧れの的、一瞬でヒエラルキーの頂点に君臨している。
それなのに、ふとした瞬間に彼女と視線が合うと、リナは女子たちの会話の隙間を縫って、俺に向かって胸の高さで小さくパタパタと手を振ってきた。
カーディガンの萌え袖が小動物みたいに揺れている。
(おいいいいい! なんでわざわざ俺に手を振るんだよ!?)
周囲の女子たちが「え? クラインさん誰に手振ったの?」と振り返る前に、俺は光の速さで視線を斜め下へと逸らしたのだった。
振ってくれるのはめちゃくちゃ可愛いから大歓迎なんだけど、男の輪に戻った俺が今度はいわゆる「お前あいつとどういう関係だよ」という熱烈な尋問(という名のリンチ)を受ける羽目になるんだよ!
ようやく訪れた昼休み。
お互いの机を向かい合わせにする勇気はまだなく、並んだ席のままで、リナが上品な風呂敷包みを解いてお弁当箱を開きながら言った。
「ねえ、沢木くん。こうやって隣に座ってるの、なんかすごく落ち着くね」
「そうか? まだ二日目だし、周りもガヤガヤしてて落ち着かないだろ」
「ううん。そんなことないよ。……なんか、沢木くんがすぐ横にいるだけで、私、すごく安心する」
誰もが見惚れる完璧な美貌に、一軍女子としての圧倒的なコミュ力。
そんな彼女が、俺の前でだけ見せるこの無防備な乙女の顔。
不意に紡がれた「安心する」という本音混じりの呟きは、俺の胸の奥深くに、いつまでも消えない確かな熱をじっくりと残していったのだった。
そして、すべてのカリキュラムが終わった放課後。
リナはスクールバッグを肩にかけ、萌え袖の手でストラップをきゅっと握りしめながら、帰る間際に俺を真っ直ぐ見つめて言った。
「ねえ、沢木くん。今日、本当に隣になれてよかった。……じゃあ、また明日ね」
寂しげに、でも明日を楽しみにするようなその言い方が、今日いちばんずるくて、俺の心臓のライフは完全にゼロになった。
第2話をお読みいただきありがとうございました!隣の席を勝ち取った蓮ですが、リナの無自覚なギャップに早くも心臓が限界を迎えています(笑)。もし「リナが可愛い!」「続きが気になる!」と思ってくださったら、画面下部にある【ブックマーク登録】や、【☆☆☆☆☆】の評価ポイントで応援していただけると、執筆の凄まじい励みになります!




