高校編 第1話 入学式
ご覧いただきありがとうございます!本日より、新連載『(※ここに作品タイトルを入力)』をスタートします。身長差30センチ(!?)の、高身長なドイツ人美少女と贈る、テンポの良い純愛逆転ラブコメです。※本作は「なろう」向けに、完全なる純愛(NG展開なし)・ハッピーエンド固定でお届けします。毎日1話ずつ(※または「不定期」などご自身のペースに変えてください)投稿していく予定ですので、楽しんでいただければ幸いです!
入学式の朝。
校門をくぐった瞬間、昨日、数週間ぶりに玄関先で再会した記憶が、ふっと脳裏をよぎった。
「……蓮?」
不意に背後から、喧騒をかき消すような、透き通った声に呼び止められる。
振り返ると、そこにリナが立っていた。
初めて見る高校の制服姿。
着崩すことなくピシッと綺麗に着こなされた新しいブレザーは、彼女の圧倒的なプロポーションと金髪美少女としてのオーラをどこまでも引き立てていた。
スクールカバンの端には、お母さん仕立ての上品な藤色の巾着袋が揺れている。誰もが憧れるような完璧な美貌。それなのに、どこか凛としたお寺育ちらしい佇まいを崩さない。
昨日よりも少しだけ距離が近い気がして、俺の心臓は早くもマッハで暴れ始めていた。
「おはよう。昨日ぶりだね」
「お、おう。おはよう」
俺のぎこちない吃音交じりの返さに、リナはさらに一歩歩み寄る。
相変わらず俺よりもだいぶ高い位置から、どこか柔らかい視線が降ってくる。リナは一切の迷いのない洗練された所作で、俺の胸元へと細い指先を伸ばした。
「ネクタイ、曲がってたよ。……うん、よく似合ってる」
慣れた手つきで優しくネクタイを整えてくれる。
その瞬間だけ、彼女のまとう一軍女子のツンとした空気が、おっとりとした乙女のものに変わる。
「あ、ありがとう、でいいのか?」
「うん。ありがとうでいいよ」
静かに微笑むリナ。
その自然な距離の近さと、彼女から漂うほのかな良い香りに、朝一番から俺の心臓はもたそうになく、キャパシティは限界突破寸前だった。
生徒玄関で靴を履き替え、新入生たちが群がるクラス発表の掲示板へと向かった。
人間の壁の隙間から必死に名前を探す。
『沢木蓮』
『クライン・カロリーナ』
二つの名前は、綺麗に並んで鎮座していた。
「……一緒のクラスだね」
リナが耳元で、周囲に聞こえないよう声を抑えて囁いた。
表情こそクールなモデル風の美少女のままだが、その綺麗な青い瞳は、隠しきれない嬉しさで子犬のようにわずかに揺れていた。
教室に入ると、すでに担任の教師が教壇の前に立っていた。
「はーい、新入生のみなさん。席は黒板の指示通り、まずは出席番号順に座ってくださーい」
リナは女子列の前のほう。俺は男子列の後ろのほう。
物理的な距離はかなり離れており、完全にディスタンスを取られている。
それなのに、席についたリナは速攻で後ろを振り返り、俺と目が合うと、胸の高さで小さく手を振る。
……頼むからやめてくれ。
周囲の男子から「お前あいつと知り合いなの?」という、羨望と嫉妬がこれでもかと入り混じったデスビームのような視線が一斉にこちらへと集まり、俺の背中を容赦なく焼き焦がしていく。
出席番号順の張り詰めた静けさが、リナのその無自覚な一挙手一投足でバキバキに崩壊していく。
担任が手際よく点呼を終え、いよいよ入学式の説明を始める。
「では、これから体育館へ移動します。廊下に出たら、男子は右側、女子は左側に二列で並んでください。もちろん出席番号順でお願いしますね」
椅子の引く音とともに、教室中がにわかにざわつき始めた。
リナは女子の列へと大股で移動しながらこちらを振り返り、俺を見つめて口パクで言った。
(あとで、隣ね)
声にはなっていないはずなのに、彼女の強い眼差しとその言葉が持つ凄まじい破壊力は、あまりにも真っ直ぐ俺の脳髄の奥深くまで容赦なく突き刺さって離れない。
体育館へと続く長い廊下は、新入生たちの緊張と興奮が混ざり合いたざわめきで満ちていた。
「ねぇ、あの金髪の子……」
「歩き方きれいじゃね?」
「なんか雰囲気あるよな」
男子たちのひそひそ声が聞こえる。
リナは周囲の視線に全く気づいていない。
ただ前を向いて真っ直ぐに歩いているだけなのに、彼女がそこを通るだけで周囲の日常の空気が一瞬にしてトップモデルの歩く華やかなランウェイへと変わっていくのを感じた。
5歳から鍛え上げた空手の賜物だろうか、その誰もが見上げるほどの抜群のスタイルを支える体幹は、1ミリもブレることがなく、一歩一歩の身のこなしが息を呑むほどに美しいのだ。
体育館に入ると、クラスごとに整然と並べられたパイプ椅子が視界に飛び込んできた。
だが、無情にも座席は男子列と女子列にきっちり分かれていた。
リナは女子列の指定された席に腰を下ろしながら、ごく自然な動作でまたこちらを振り返った。
ばっちりと目が合う。
するとリナは、ほんの少しだけ肩をピクッと揺らした。
まるで見つめ合えたことが嬉しくて、必死に笑いをこらえているかのように。
……なんだよそれ。
厳かな式が始まる前だというのに、俺の胸の奥はさっきからずっと、もどかしいほどに落ち着かなくなっていた。
開式の言葉が響き渡ると、体育館の空気がすっと静まり返った。
ワックスの匂いと、パイプ椅子の金属が擦れ合う小さな音だけが、張り詰めた空間に微かに残る。
リナは女子列の前のほうで、定規で引いたように背筋を真っ直ぐに伸ばして座っていた。
お寺の厳しい環境で培われた美しい姿勢だけで、周囲の空気まで少し整って見える。
やがて校長先生の式辞が始まった。
長い。
内容は……定番の退屈な話で、とにかく長い。
ふと視線を横に流すと、いつの間にかリナがこちらをじっと見つめていた。
目が合った瞬間、リナはほんの少しだけパチパチと瞬きをした。
「ちゃんと聞いてる?」とでも言いたげな、悪戯っぽい瞳。
(聞いてるよ)
と心の中で悪態をつきながら見つめ返すと、満足したようにリナは小さく息を吸い、まるで何事もなかったかのようなお澄まし顔で再び真っ直ぐ前を向いた。
……声を出さずに会話するな。
続いて来賓の祝辞が始まる。さらに長い。
お決まりの退屈な時間が続き、体育館の空気が少しずつ重く沈んでいく。
すると、俺の前の席の男子が小声でポツリとつぶやいた。
「……眠い」
「おい、声でかいって」
そんな男たちの緊張感のないやり取りが聞こえたのか、リナの肩がほんの少しだけピクピクと揺れた。
完全にツボに入ったらしく、必死に笑いをこらえている。
(お前も眠いのかよ)
と目線で問いかけると、リナは目元だけで「ちょっとね」と茶目っ気たっぷりに返してきた。
……だから、声を出さずに会話するな。心臓に悪い。
続いて、校歌の紹介として吹奏楽部の演奏が始まった。
リナは静かにその音色に耳を傾けていた。
目を閉じるでもなく、ただ真っ直ぐに前を見つめている。
それだけなのに、彫りの深い横顔が妙に大人びていて、息を呑むほどに綺麗だった。
(……こういう真面目で凛としたところ、ずるいよな)
やがて演奏が終わり、閉式の言葉が告げられる。
一礼を終え、体育館中が新入生たちの安堵のざわつきに包まれた瞬間──
リナが立ち上がりながら、こちらを振り返った。
さっきは隣に座れなくてしょんぼりしていたくせに、今度は不敵に微笑みながら、リベンジとばかりにしっかりと口パクで言った。
(次こそ、隣だからね)
……厳かな式中より、よっぽど破壊力があるんだが。
教室に戻ると、出席番号順の席の上に、真新しい教科書がうずたかく、そしてきれいに積まれていた。
国語、数学、英語、理科、社会。その上にはさらに分厚い副教材とプリント類。
めくる前の新品の紙の匂いが、教室のあちこちから少しだけ漂っている。
「はい、席はそのままで。教科書は今日のうちに全部配っておきますから、失くさないように今のうちにしっかり名前を書いておいてくださいね」
担任の藤川が前に立ち、黒板に小気味よい音を立ててチョークを走らせた。
国語:三浦
数学:大谷
英語:佐伯
理科:中原
社会:岸本
各教科の担当教師の名前が並ぶたびに、教室のあちこちで「うわ、厳しそう」「大谷ってあの噂の?」といった小さな反応が起きる。
すると、俺の前の席に座っていた男子が、椅子の背もたれに体を預けるようにして振り返った。
「沢木だよな? 俺、佐々木。よろしく」
「あ、よろしく」
「っていうかさ、教科書、いくらなんでも多すぎね?」
「重いな。帰り、まじで腕ちぎれそうなんだけど」
そんな他愛のない愚痴から、自然に会話が紡がれていく。
さらに「お前どこの中学?」と隣の席の男子まで声をかけてきて、
気づけば俺の席のまわりには、男子が集まっていた。
男子特有のノリで盛り上がっているその間、リナは女子列の前のほうで、自分の教科書の角をトントンときれいに揃えながら、じっとこちらを見ていた。
男だらけの輪に割り込んでくるわけでもなく、ただ静かに、どこか安心したような、嬉しそうな表情を浮かべて俺たちの様子を見守っている。
──完全に、息子の初めての友達作りを見守る母親の目線なんだよな。
そんな俺たちのささやかな賑わいを断ち切るように、藤川がパンパンと手を叩いた。
「はーい、お喋りはそこまで。
では、これから自己紹介をしていきましょう。まずは男子から、出席番号順にいきますね」
ついに恐れていた時間がやってきた。
教室中が独特の緊張感に包まれる中、テンポよく順番が回ってきて、ついに俺の番が来る。
椅子を引いて立ち上がる。
「沢木蓮です。中学の時はそこそこ運動してました。高校でも勉強と両立できるように頑張りたいと思います。よろしくお願いします」
無難すぎる挨拶を終えて座ると、前の席の佐々木が小さく笑いながら声をかけてきた。
「沢木、めちゃくちゃ緊張してたろ。声上ずってたぞ」
「まあな……こういうの、何回やっても慣れないわ」
苦笑いしながら一息つき、ふと視線を感じて横を見ると、女子列の前のほうからリナが見ていた。
目が合った瞬間、彼女の美しい目元が少しだけ和らいだ。
まるで「よくできました」とでも言いたげな、包み込むような優しい乙女の笑顔。
……お前、あとでやる自分の自己紹介のハードルが、どれだけ爆上がりしてるか分かってないだろ。
そんな俺の心配を余所に、男子の自己紹介がすべて終了した。
「では次、女子の番になります」
という藤川の声とともに、自己紹介の波が女子の列へと移っていく。
そして、いよいよリナの番が回ってきた。
彼女が凛とした動作で立ち上がる。
「カロリーナ・クラインです。両親ともドイツ人で、私はドイツのハンブルクで生まれました。でも、小さい頃から日本で暮らしているので、日本語は完全にネイティブです。……あ、みんなからはよく『リナ』と呼ばれているので、気軽にリナって呼んでください」
誰もが聞き惚れるような、一点の淀みもない完璧な日本語。
一軍女子らしい抜群のコミュ力と親しみやすさを見せたかと思うと、リナはそこで少しだけ息を整えた。端正な顔立ちをさらに引き締めて、全く同じ内容をそのまま流暢なドイツ語で紡ぎ始めた。
「Ich heiße Karolina Klein. Meine Eltern sind beide Deutsche,
und ich wurde in Hamburg in Deutschland geboren.
Aber ich lebe seit meiner Kindheit in Japan,
also ist Japanisch für mich kein Problem.
…Bitte nennt mich Rina.」
教室の空気が、一瞬にして完全に凍りついた。
何を言っているのか、その意味は分からなくても誰もが理解してしまう。
脳髄に響く音の滑らしさと、目の前の圧倒的な美しさだけで脳を直接支配される。
──本物だ。
本物の、最強クール系帰国子女美少女だ(実際はただの日本語ネイティブお寺っ子なのだが)。
クラス中の男子が「おいおい、まじかよ……」「高嶺の花すぎるだろ……」と息を呑む。
その静謐な気配をまとわせたまま、リナは凛とした佇まいで自席へと戻っていった。
その途中、彼女はちらっと俺の方に視線を向けた。
その青い瞳が、俺にだけ伝わるレベルで「上手く言えたよ」と小さく誇らしげに笑っていた。
……お前、自分でハードルを天元突破させてどうするんだ。
周囲の男子のデスビームがさらに鋭利になって俺に刺さってるぞ。
全員の自己紹介が終わると、担任の藤川が黒板に大判のプリントをパチンと貼った。
「はい、じゃあこのままオリエンテーションに入りまーす。まずは大切な学校生活のルール説明からね」
自己紹介の興奮が冷めやらぬ中、教室が少しだけ静かになった。
校則の話、スマホの取り扱い、登下校のルートやルール。
みんな真面目に前を向いて聞いているフリをしているが、入学初日の緊張も相まって、実際は半分くらいしか頭に入っていない。
ご多分に漏れず、俺の脳内もリナのドイツ語の余韻で埋め尽くされていた。
「よし、ルールは以上。次、残りの副教材の教科書を配りまーす。受け取ったらすぐに名前を書いて、冊数を確認してね。足りないものがあったらすぐ言うように」
教壇から次々と回されてくる追加のテキスト群。
ただでさえうずたかく積まれていた机の上の山がさらに高くなっていく。
大柄な身体を縮こまらせるようにして、パーソナルスペースが目に見えて狭くなっていく。
すると、前のほうの席から、教科書を胸元に抱え込んだリナが小声でこちらに囁きかけてきた。
すらりと長い彼女の腕の中に、大量の新品の紙が収まっている。
「ねえ、沢木くん。これ……本当に全部スクールバッグに入るの?」
「どう考えても入らないだろ。分散して持って帰るレベルだわ」
「だよね……。私のカバン、もうパンパンになりそう」
リナは長い上体を少し縮こまらせ、教科書に顎を乗せて、困ったようにふにゃりと笑った。
普段の「最強一軍女子」のはどこへやら、容量オーバーで途方に暮れる女子高生そのものである。
そのギャップの破壊力に、俺はまたしても心臓がもたなくなりそうだった。
そんな俺たちのささやかな秘密のやり取りを置き去りにして、藤川が追い打ちをかけるように告げる。
「各種提出物は明日まで。写真と健康調査票ね。あ、それから、明日の朝一番でさっそく席替えをしまーす。今日の出席番号順は仮だから、机の間隔もバラバラだし、その時に一気に整えますからね」
その言葉が落ちた瞬間、教室中がハチの巣をつついたようなざわめきに包まれた。
リナがこちらを振り返り、少しだけ眉を下げて小声で言った。
「席替えかぁ……。沢木くん、どこになるかな」
……それを俺の目を見つめながらさらっと言うな。
いや、言ってくれるのは死ぬほど嬉しいけれど。
周囲の男子たちが「おい、まさかあいつら……」と一斉にマークし始めたのが嫌でも伝わってくる。
「はい、じゃあ最後に年間行事の予定が書かれたプリントを配りまーす。今日の連絡はこれで終わり。みんな教科書が重いだろうけど、気をつけて帰ってね」
藤川の解散の合図とともに、初日の緊張から解放された安堵の空気が教室に広がった。
ずっしりと肩に食い込むスクールバッグの重さだけが、高校生活初日の実感として俺の体に残った。
第1話をお読みいただきありがとうございました!ドイツ語で格好よく自己紹介を決めたのに、主人公の蓮の前ではネクタイを直してくれたり口パクでアピールしちゃうリナ……可愛いなと思ってくれた方は、ぜひ応援をお願いします!画面下側にある【ブックマークに追加】と、そのすぐ下にある【ポイント評価(☆☆☆☆☆を★★★★★に!)】をポチッと押して応援していただけると、執筆の凄まじい原動力になります!明日の第2話は、体育館の廊下でのあのランウェイのような美しい移動、そして厳かな式中での「声を出さない二人のイチャイチャ空間」をお届けします。お楽しみに!




