0.5話 幕間:リナの独白
高校生活が始まった、その初日の夜のお話です。
昼間の賑やかな教室から離れた静かな部屋で、彼女が何を考えていたのか。
本編の裏側にある、リナの小さくて静かな独白を、少しだけ覗いてみてください。
部屋に入って、制服のまま机の前に座ったら、そこに置いたままの筆巻きが目に入った。
沢木くんに借りた大切なもの。明日すぐに返さなきゃいけないのに、触れるのが少しだけ
ためらわれて、もったいないみたいにそのまま机の真ん中にぽつんと置いていた。
手を伸ばして、そっと指先で布の端をなぞる。柔らかい感触が、今日のことを思い出させる。
「……これ使うか?」
あの言い方、なんか嬉しかった。
困っているのを見て、すぐ差し出してくれた。ああいうの、普通なのかな。普通じゃない気がする。
“ありがとう”って言ったとき、沢木くん、少しだけ目をそらした。あれは、……なんだったんだろ。
別に、好きとかじゃない。たぶん。
でも、胸の奥が静かにざわついて、落ち着かなくて、なんか変。
筆巻きを両手で持ち上げると、布がふわりと揺れた。その揺れだけで、心が少しだけ熱くなる。
明日、返さなきゃ。返すだけなのに、なんでこんなに緊張するんだろ。
ねえ、沢木くん。今日の“これ使うか?”って言い方、覚えてるかな。
覚えてなくてもいいけど、覚えてくれてたら……ちょっとだけ嬉しい。ほんとに、ちょっとだけ。
机の上にそっと置き直して、小さく息を吐いた。
明日、ちゃんと返そう。
それだけなのに、今日は眠れそうにない。
読んでいただき、ありがとうございました。
ほんの少しずつ、けれど確かに変わっていく二人の距離を、これからものんびりと描いていきます。
もし気に入っていただけましたら、画面下のブックマークなどで、これからの二人をそっと見守っていただけると嬉しいです。
また次回の本編でお会いしましょう。




