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第13話 「昨日のあれ、ってどれだよ……!」からの、ずるすぎる「一緒、がいいな」

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!

 

前回の第12話では、部活動紹介翌日の教室内で、朝の不意打ちゼロ距離おはようや、もどかしすぎる視線のチキンレースをお届けいたしました。

 

今回の第13話では、中間テストを前にした学校生活のリアルな日常イベントとして「選択授業決め」のお話になります。クラスメイトの前では完璧な高嶺の花として頼られる一軍女子のリナが、周囲のいなくなった一瞬の隙に、蓮の前だけで見せるウブな本音のギャップをどうぞお楽しみください!

 翌朝の教室の空気は、いつもより少しだけ静かに感じられた。


 ガラガラと扉を開けて、自分の席に着いた瞬間。すぐ左隣の席に座っているリナがこちらに顔を向けて、ほんの一瞬だけ、クラスの誰にも怪しまれないような完璧なポーカーフェイスを保ちつつ、上品に会釈した。その滑らかな動作のとき、彼女の夕日のような美しい金髪がわずかに揺れて、お寺の朝の澄んだ空気を連想させるような、お淑やかでほのかなお香の香りが、教室のありふれた空気の中にふわりと優しく混ざり合った気がした。


(……アカン、朝から直撃した。まじで心臓に悪いって)


 昨日、体育館裏の廊下で囁かれた、二人だけの秘密の「……おつかれ、蓮」が、俺の胸の奥深くに、また静かに、けれど激しく揺れ動く。カバンからプリントを出すフリをして、俺は慌てて視線を右側へとそらした。自分が完全に落ち着きを失っているのは嫌というほど分かっていたけれど、こればかりは自分の力ではどうしようもないほどに、リナの存在感が大きすぎた。


 リナは手元のノートを開く。真っ白なページを押さえる彼女の細い指先が、窓から差し込む朝の光をそっとすくうみたいにしなやかに動いて、その美しい仕草だけで周囲の空気がピンと張り詰める。お母さん仕立ての上品な巾着袋が机の横で揺れる中、彼女がまとうその小さな、凛とした大和撫子の気配が、すぐ左側からずっと途切れることなく俺の五感を激しく刺激してきて、一秒ごとに鼓動が跳ね上がっていく。


 一時間目の予鈴が優しく鳴り響くと同時。左隣の席から、リナがすっと少しだけこちら側に身を寄せてきた。二人の距離が、ほんの指一本ぶんだけ近くなる。


「……おはよう」


 周囲の喧騒にかき消されそうな、本当に小さな小さな声。でも、あまりにも距離が近すぎて、俺の耳のすぐそばに直接落ちてくるみたいに鮮烈に響いた。


(おいいいいいい!指一本分のゼロ距離おはようはまじで心臓のライフが消し飛ぶだろ!)


 脳内全細胞が緊急警報を発令する中、俺は声にならず、マヌケに深くうなずくことしかできなかった。そのまま、一時間目の授業が始まる。黒板にチョークが当たる音が響くたび、すぐ隣でリナの金髪がわずかに揺れた。ノートを取る彼女の手の動きはどこまでも静かで、お寺の娘らしいその洗練された佇まいから醸し出される静けさが、隣の席にいる俺にとっては逆に気になって仕方がなかった。


 時々、ほんの一瞬だけ、授業に集中しているフリをしながら、彼女がこちらのほうを上目遣いの横目で盗み見てくるその視線が、どこか切なげで堪らなかった。その吸い込まれそうなほどに澄んだ青い瞳の視線に、運悪くも触れてしまった瞬間、俺の胸の奥がふっと熱くなったかと思うと、一気に心臓の鼓動が跳ね上がった。まるで肋骨の裏側を直接激しく叩かれているかのような、あまりにも暴力的で容赦のない熱量に、俺の理性の防壁は一瞬にして跡形もなく消し飛んでしまう。


 結局のところ、その無言の視線チキンレースに耐えかねて、情けなく目をそらすのはいつも俺のほうだったし、そのたびに敗北感で耳の後ろが熱くなった。気合を入れ直すように強く握りしめたシャーペンで、ノートの隅に書く文字が、自分でも嫌になるくらいに少しだけ震えていたし、それをリナに見られないよう必死に隠した。ただでさえ狭い二人のパーソナルスペースの中で、このプルプルとした無様な醜態だけは、一軍女子の隣に座る男のプライドとしても絶対に悟られるわけにはいかなかったのだ。


 やがて一時間目の終わりを告げるキーンコーンカーンコーンというチャイムが鳴り響き、リナはパタンと大切なノートを閉じたかと思うと、小さく一息をついた。そのお気に入りの革の表紙を愛おしそうに整える彼女の指先に、窓から差し込む春の柔らかな光がまた綺麗に落ちたその瞬間、まるで絵画のような美しさに目を奪われた。お寺の娘らしい洗練されたお淑やかなオーラが神聖な陽だまりと完全に調和しており、俺はただその圧倒的な大和撫子の気配に言葉を失い、喉を鳴らすことしかできない。


「……ねえ」


 すぐ左隣から、耳に心地よく響く鈴を転がすような鈴鳴りの声で、優しくお淑やかに呼ばれる。言葉が紡がれるよりも先に、すらりとした体躯から漂う彼女の甘い気配が、ぐっとこちらの至近距離まで寄ってきたせいで、頭がどうにくなりそうだった。俺がそっちを向くよりも早く、一軍女子のポーカーフェイスを崩したリナは、言葉にならない熱い視線だけで、何かを必死に伝えようとしていた。


 その吸い込まれそうな青い瞳は、少しだけ潤んでいて、彼女自身が過剰に緊張しているのが一発で分かったし、その緊張は隣にいる俺にまで痛いくらいに伝わってきた。


「昨日の、あれ……沢木くん」


 彼女がそこまで言葉を紡ぎ、周囲を気遣うように丁寧なトーンで俺の苗字を呼んだ、まさにその時だった。俺はただ、息を呑んで次の言葉を待つことしかできなかった。


 ガタタッ!


 すぐ前の席の佐々木(男子)が、これ以上ないほどに派手な音を立てて無造作に椅子を引いた。リナの小さな、だけど確かに熱を帯びていた呟きは、その空気の読めない無粋な雑音にあっけなくかき消されてしまうと同時に、俺の淡い期待も粉々に打ち砕かれた。リナはハッと息を飲むようにして、きゅっと薄い唇を結び、そのまま気まずそうに視線を下に落としたまま、完全に心を閉ざしてしまった。


(おいいいい佐々木ィィ! まじで空気読めよ! 今リナがめちゃくちゃ可愛いトーンで何か言おうとしてただろ!? あと一歩で昨日からの生殺し状態から解放されるはずだった俺のピュアな期待を、その無粋な爆音一つで粉々に粉砕してくれた罪はあまりにも重すぎるぞ、末代まで呪ってやるからな!)


 続きが死ぬほど気になるのに、急に一軍女子の完璧なポーカーフェイスに戻ってしまったリナに、俺はそれ以上聞き返すことができなかった。二時間目の授業が始まっても、俺の頭のどこかはあの言葉の続きが気になってしまい、ずっと落ち着かないままだったせいで、意味もなくシャーペンを何度も回し続けた。指先で不規則に回転を繰り返すプラスチックの軽い風切り音さえも、今の俺の張り詰めきった神経をじりじりと逆撫でするには十分すぎるほどのノイズだった。


 すぐ左隣の席で、すらりとした背筋を綺麗に伸ばし、リナはいつものようにお淑やかに真面目な態度でノートを取っている姿すら、どこか神聖に見えて見惚れてしまう。いつもの洗練された動きでカリカリと小気味よく動いていた、彼女のペンの動きが、ふと不自然にピタリと止まる瞬間があった。


 リナは何かを言いかけるように、何度もわずかに長い四肢を、こちらのほうへと躊躇いがちに動かすのだが、結局は何も言えずに机を小さく指先で叩いていた。そのお淑やかな動作のたびに、お寺の娘らしい甘い香りが微かに漂い、俺たちの間の空気が、じりじりと熱を帯びて揺れるせいで、俺は生唾を飲み込むことしかできないほどに息苦しく、ただ張り詰めた静寂の余韻にじっと耐え続けるしかなかった。


 一時間目の終わりに言いかけてしまった言葉の続きを、彼女が必死にその薄い胸の奥へと、健気に飲み込んでいるみたいだったし、その切ない表情を見ているだけで俺の胸も苦しくなった。でも、周囲の席の連中が醸し出す平穏な気配が邪魔をして、彼女は結局、授業の最後まで何も言うことができなかったし、二人の間には気まずい沈黙だけが残された。


 斜め前の席に座っているクラスの一軍女子である三浦が、二人のただならぬ空気をすべて察しているような含み笑いの目で、ちらりとこちらの様子を見てくる。さらに通路を挟んだ後ろの席の佐伯は、授業に退屈そうに前後に椅子をギッコンと揺らした。周りの連中のその何気ない日常の気配が、リナの沈黙をさらに深く、そして狂おしいほどにじれったいものにさせていく。


 やがて四時間目の授業の終わりが近づき、お楽しみの昼休みが始まる少し前のこと。熱弁を振るっていた先生が黒板を消し、ノートを取る全員の手が止まり、教室内が一瞬だけしんと静まり返ったせいで、自分の心臓の音が聞こえそうだった。


 その誰もが口を閉ざした一瞬の隙を突くように、リナがまた、ほんの少しだけこちらのほうを上目遣いの潤んだ横目で見た瞬間、俺の胸は激しく締め付けられた。何か俺に言いたい大事なことがあるのは、隣にいる俺のほうにも、痛いほどよく伝わってくる。


 彼女の吸い込まれそうに透き通るような青い瞳の視線は、すぐに諦めたように前へと戻ってしまったし、その横顔には隠しきれない寂しさが滲んでいた。クラスメイトたちの目が気になってしまい、俺のほうからも、どうしても声をかけることができなかったせいで、心の中で何度も自分の意気地なさをつぶやいた。あと一歩を踏み出す勇気さえあれば、その綺麗なおさげ髪を揺らす彼女の孤独を救えたかもしれないのにという、情けない後悔ばかりが頭の奥でぐるぐると空回りを続けている。


 キーンコーンカーンコーン、と。ついに楽しみにしていたはずの、昼休みのチャイムが学校中に鳴り響いた。お互いに一言も喋れないまま訪れたその無情な音だけが、今の俺たちの間には、やけに大きく寂しく響き渡るのだったし、二人の距離をさらに遠ざけるようだった。


 すぐ前の席に座っている佐々木が、授業に退屈そうに姿勢を直すたびに、古びたパイプ椅子がギィと小さく耳障りに鳴るその音が、俺の神経を逆撫でした。その無粋な雑音が、リナの繊細な“言いかけ”の甘い気配をそっと遮るみたいに、何度も絶妙なタイミングで重なったせいで、俺は心の中で毒づくしかなかった。張り詰めた静寂をこれ見よがしに破壊していく安っぽい金属の軋み音は、未だ言葉にできない二人の間の狂おしいほどの距離感を、これ以上ないほど冷徹に際立たせてくる。


(おいいいい佐々木! お前まじで今日だけで何回俺の心臓のライフを弄べば気が済むんだよ!)


 遠くに見える黒板に書かれた文字はちっとも頭に入ってこないのに、視界の端にあるリナの美しい横顔だけが、やけに近くに感じられて仕方がなかった。やがて二時間目の終わりのチャイムが鳴ると、それまで張り詰めていた教室の空気が、一気にザワザワとざわついたし、俺の焦りはさらに募るばかりだった。


 その喧騒に紛れるようにして、リナが少しだけ、本当にわずかだけこちらのほうへと長い上体を向けるその仕草に、俺の鼓動は激しくなった。だが、斜め前の席からクラスの一軍女子である三浦が「ねえねえ」と満面の笑顔で振り返った瞬間、リナはハッとしたようにお淑やかにすっと視線を下に落としてしまった。


 前の席の佐々木も、机の上のプリントをバサバサと雑にまとめながら、ちらりと後ろのこちらを振り返るものだから、俺は心の中で舌打ちをした。クラスの連中の、その何気ない一瞬の周囲を気にする気配を察するたびに、公の場所である教室を意識したリナは、またしても大切に紡ぎかけた言葉をきゅっと薄い胸の奥へ飲み込んでしまう。


「……」


 何か俺に言いたい特別なことがあるのは、隣に座っている俺が見ていて痛いほどによく分かる。でも、周囲の目が邪魔をしてお互いに声を出すことができないまま、じれったい休み時間だけが無情にも過ぎていったし、俺の焦燥感は募る一方だった。


 続く三時間目の授業中。リナはもう、周囲の目を警戒したのか、こちらのほうを頑なに一回も向こうとはしなかった。ただ、彼女が教科書のページをめくるパサリという静かな音や、夕日のような美しい金髪がわずかに揺れる気配だけが、ずっと左側から途切れることなく俺の五感へと鮮明に届いてくる。


 お母さん仕立ての上品な巾着袋が、机の横のフックで長い脚に触れそうに小さく揺れる中。お寺の娘らしい彼女がまとうその絶対的な洗練された静けさが、隣にいる俺にとっては逆に気になって気になって仕方がなかったし、授業の内容なんてこれっぽっちも頭に入らなかった。


(クソ、周りの目なんか気にせず『さっきの続きは?』って聞けばよかっただろ)


 そんな男らしくないちっぽけな後悔だけが、じわじじわと俺の胸の奥深くに暗く広がっていく。やがて四時間目の授業の終わり、生徒たちが待ち望んだ昼休みのチャイムが鳴る少し前のこと。


 教壇の先生が教科書をパタンと閉じ、教室内が一瞬だけ、まるでエアポケットに入ったようにしんと静まり返ったその瞬間、俺の緊張はピークに達した。その誰もが喋らない一瞬の静寂を突くように、リナがまた、ほんの少しだけこちらのほうを上目遣いの横目で見たその瞳には、言い知れぬ期待が宿っていた。


 昨日の、あの秘密の場所である体育館裏の冷たい廊下での、二人きりの囁きの続きが、まだ確かに彼女の青い瞳の奥にそこにあるのを、俺は確信していた。でも、クラスメイトの気配が邪魔をして、お互いの言葉にはならない。結局、ヘタレな俺のほうからも、どうしてもその続きを聞き出すことができなかった。すぐ真横から漂うお線香の仄甘い香りに意識をハッキングされながらも、周囲の日常の雑音に気圧されて声をかけられない己の不甲斐なさに、ただ静かに唇を噛み締めるばかりだ。


 キーンコーンカーンコーン、と。ついに午前中の終わりを優しく告げる、賑やかな昼休みのチャイムが学校中に鳴り響いた。その賑やかな日常の音だけが、今の俺たちの間のじれったい空気の中、やけに大きく響き渡るのだった。


 チャイムの余韻が教室に広がると同時、斜め前の席からクラスの一軍女子である三浦が「ねえねえリナ! 2年の芸術選択、音楽と美術と書道どれにするー?」と、笑顔でリナの席へと机をすり寄せてきた。それを合図にするかのように、周囲にいた他の女子生徒たちも「あ、私もそれ気になってた!」「クラインさん何にするの?」と、自然な流れで彼女を中心に賑やかな輪を作っていく。


 圧倒的に目立つ容姿でありながら、リナは「私はね、もう決めてるよ。実家が禅寺だから、小さい頃から手ほどきを受けていた『書道』にしようと思って」と、一軍女子らしいフランクさと気品を湛えた笑顔で、実に楽しそうに応じている。それを聞いた女子たちが「えー! マジでかっこいい!」「リナの書道とか絶対絵になるじゃん!」「じゃあ私もリナと一緒にする!」と口々に声を弾ませており、彼女がみんなからどれほど慕われ、教養面でも一目置かれているかが嫌というほど伝わってきた。


 周囲に憧れられる完璧な人気者としての社会的立場を見せ、進路の雑談でひとしきり盛り上がった女子たちが「じゃあ購買でパン買って用紙書こ!」と教室の後ろへ離れていった、まさにその直後のことだった。ふいにリナが上目遣いでこちらの様子を窺うように、またすっと小さく俺のほうへ長い上体を寄せてきた。彼女が纏う仄かなお香の甘い香りが再び鼻腔をくすぐると同時に、二人の間にあるパーソナルスペースの密度が、文字通り息が詰まるほど一気に跳ね上がっていく。


 さっきまでみんなの中心で見せていた完璧な笑顔から一転、おさげ髪の先端を細い指先できゅっと握りながら、まるで捨てられた子犬のような潤んだ碧眼で俺の用紙を覗き込んでくる。


「……沢木くんは、何にするの? その、もし迷惑じゃなければ……一緒、がいいなって」


 周囲の目を警戒して声を低く潜めながらも、一軍女子のフランクさを装いきれず、俺と同じ授業を受けたいというトクベツな本音をゼロ距離で放り込んできた。おい勘弁してくれ、みんなの前では完璧な高嶺の花のくせに、俺の選択だけ異常に気にしてそんなウブな爆弾を落としていくのは反則だろ、おかげでさっきまでのじれったい焦燥感が一瞬で消し飛んで脳内全細胞が再び大パニックなんだが。

第13話をお読みいただき、ありがとうございました!

 

朝一番の「指一本分のゼロ距離おはよう」から始まり、授業中の視線チキンレース、そして前の席の佐々木の無粋なカットインによる悶々とした焦らしを経て、昼休みの「選択授業決め」へと繋がる日常回でした。

 

女子グループの中心で実家の禅寺を活かした「書道」を選ぶ完璧な一軍の笑顔と、みんなが去った直後におさげ髪の先端を握りながら「……一緒、がいいなって」と声を潜めるウブな爆弾の落差は、書いていて本当に胸が熱くなりました。蓮の心臓の残りライフが再び大パニックになるのも無理はありませんね。

 

もし「リナのウブな本音にニヤニヤした!」「二人のじれったい距離感が最高!」と思ってくださった方は、ぜひページ下部の【☆評価】や【ブックマーク登録】で応援していただけると、毎日の執筆の大きな励みになります!

 

次回は、このまま同じ書道選択の未来へ向かって二人の時間がどうバグり散らかしていくのか……どうぞお楽しみに!

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