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第11話 『好きな人の前だからポーカーフェイスを気取りたい、そんな健気な乙女心』

いつも応援ありがとうございます。

高嶺じれです。

 

前話ではリナの圧倒的な空手演武を

お届けいたしましたが、今回は打って変わり、

体育館でのクラス全体の喧騒と、

団分けじゃんけん大会の様子が描かれます。

 

軍師たる蓮の視線が捉える、

リナの道着姿の隠れたフェチズムと、

完璧な美貌の内側に隠された

彼女の「ウブな本音」のギャップを

どうぞたっぷりとお楽しみください!

 クラス全体が一斉に動き出して、体育館のフローリングの床がざわざわと地鳴りのように揺れた。


 床から立ち上がる気配、衣類の擦れる音、脳天気な笑い声。

 それらすべてがマーブル状に混ざり合って広がっていく。


 リナは道着の袋を持ったまま、列を作る前のほうへと歩いていく。


 誰もが見上げる185センチの圧倒的な金髪モデルスタイル。

 その背中だけが、周りのクソ喧しい騒がしさとは完全に無関係に、どこまでも真っ直ぐ伸びていた。


 列を作る場所に着くと、リナは静かに立ち止まった。


 硬く厚い道着の裾がカサリと小さく音を立てて、完全に剥き出しになった裸足のつま先が、冷たい床の感触をぴたりと捉える。


(……あ、危ねぇ。道着姿の生足があまりにも眩すぎて、また心臓のライフが削られるところだったぞ)


 俺は必死に理性を保ちながら、ごく自然な動作で彼女の真横に立った。


 物理的な距離は死ぬほど近い。

 それなのに、いざ隣に並んでしまうと、声をかけるための正当な理由がどうしても見つからなかった。


 前方のステージ上で、生徒会の上級生がマイク越しに告げる。


「じゃんけん係は準備お願いします。各クラス、前から順に進んでください」


 そのアナウンスを合図に、体育館の空気がまた少しだけ慌ただしく動き出した。


 リナは真っ直ぐ前を向いたまま、演武の熱を冷ますように、呼吸を整えるみたいに胸元をゆっくりと上下させていた。その微かな上下の動きに合わせて、厚みのある道着の胸元が密やかに擦れ、衣服の隙間からほんのりと熱っぽいお寺の香香が俺の鼻腔をくすぐる。


 肘まで露出した短い袖から伸びる、すらりとした白い腕。


 彼女がまとうその絶対的な静けさが、周囲のどんな騒がしい雑音よりもはっきりと俺の五感へと伝わってきて、ドクドクと暴れる心臓をさらに激しく揺さぶる。


 クラスの列が、少しずつ前に進んでいく。


 前のほうで誰かが勝ったらしい歓声が沸き起こり、体育館の空気が一段階だけパッと明るくなった。


 いよいよリナの番が近づいていく。


 リナの前に並んでいた男子が勢いよく走り出して、ステージ前のじゃんけん係の目の前でバッと右手を勢いよく突き出した。

 勝ったのか負けたのか判別がつかない絶叫が響き渡り、またひとつ列が進む。


 リナが一歩、前に出た。


 厚い道着の裾がカサリと鳴り、裸足のつま先が冷たい床の感触を確かめるみたいにわずかに動く。


「……行ってくるね」


 小さく俺にだけそう言い残して、彼女はしなやかに走り出した。


 185センチの長身が風を切って駆けていくその瞬間、周囲のすべての雑音が少しだけ遠くなった気がして、俺の視界はただ一人の金髪大和撫子だけを鮮烈に捉えていた。


 リナはじゃんけん係の前でピタッと止まり、鋭く手を出した。


 ──負けた。


 彼女のクールな表情はピクリとも変わらない。

 リナはすぐさま、もう一度手を出した。


 ──また、負けた。


 お寺育ちの強運はどこへやら、まさかの二連敗である。

 さすがに周囲のクラスメイトたちがざわつき始めた。


「クラインさん、がんばれー!」


「次、いけるっていけるって!」


 そんな男どものテンションの高い応援の声が周囲から騒がしく飛び交う。


 リナは驚くほど静かに呼吸を整え、三度目の正直とばかりに勢いよく手を出した。


 ──勝った。


 ようやく勝利をもぎ取り、他の男どもには目もくれずこちらへと戻ってくる彼女の足音が、さっき走り出したときよりも明らかに速かった。


 誰の目にもクールに見えるポーカーフェイスの裏側で、どう見ても内心、めちゃくちゃ焦っていたに違いなく、その動揺を隠しながら一目散に俺の元へと帰ってくる健気な姿がたまらなく愛おしい。


 リナは少しだけ息を上がらせながら、萌え袖ではなく、肘まで完全に露出した眩しいほど白い手をまっすぐに、世界で唯一の味方である俺へと迷わずに伸ばしてきた。


 パチン、と重なったタッチ。

 彼女の細い指先は、驚くほど熱を帯びていた。


「……次、蓮。おねがい」


 少しだけ上気した顔で上目遣いに囁かれたその声が、俺の胸の奥へとまっすぐに落ちて突き刺さる。


(おいいいい!二連敗してちょっと焦ってる大和撫子とか、可愛さが致死量を超えてるだろ!)


 俺の脳内が再びパニックを起こす中、列がまた前に進み、ついに俺の番が近づく。


 すると、すぐ後ろの列に並んでいた三浦が、体育館の中に満ちているザワザワとした喧騒にうまく紛れ込ませるように前を向いたままポツリと低い声で囁いてきた。


「……二連敗して内心焦ってるのに、表向きは平気な顔してるの、なんか健気で可愛いよね」


 三浦がリナの「好きな人の前だからカッコ悪いところを見せたくなくて必死にポーカーフェイスを気取っている」という、愛らしい乙女心を見抜いて言っているのは一発で分かった。


 全部分かっているのに、今の俺には、リナへの愛おしさで胸がいっぱいで、三浦にまともな返事をするだけの心の余裕なんてこれっぽっちも残っていなかった。


 俺の番が近づくにつれて、体育館の喧騒が少しずつ遠のいていく。


 前方のステージのほうで誰かが勝ったらしく、周囲からひと際大きな歓声が上がった。


 緊張で固まる俺の横で、リナが小さく、本当に俺だけに聞こえる声で囁いた。


「……大丈夫だよ、蓮」


 その優しく透き通った声が、俺の胸の奥に静かに落ちて広がっていく。


 ついに列が進んで、俺の番がやってきた。


 じゃんけん係の上級生の前に立つと、体育館の大きな水銀灯の光がやけに眩しく感じられた。

 握りしめていた手のひらが、自分でも分かるほどにじっとりと汗ばんでいる。


 勝負の一回目。

 勢いよく出した瞬間──負けた。


 周りのクラスメイトたちが一斉にざわつく。


 後ろのほうから佐伯が「沢木、いけるっていけるって!」と大声で叫ぶのが聞こえた。


 運命の二回目。


 お互いの手が交差し、──今度は勝った。


 詰まっていた肺の奥から、息が少しだけ軽くなる。


 And, 勝負を決める三回目。

 気合とともに手を出した瞬間、目の前に立つじゃんけん係の上級生の表情が、ハッと変わった。


 ──勝った!


「よっしゃ!」と心の中で叫び、そのまま自陣の列へと全力で走って戻る。

 フローリングの床の硬い反響がダイレクトに足裏へと伝わって、呼吸が激しく乱れる。


 列の先頭で待っていたリナが、すでにパッと手を差し出してくれていた。


 パチン、と重なったタッチ。

 合わさった彼女の指先は、さっき俺が出撃するときよりも、さらに熱を帯びている気がした。


「……ナイス、蓮」


 少しだけ誇らしげに、けれど照れくささを隠すように小さく言って、リナは周囲に悟られないようすぐに前を向いて、いつもの完璧なポーカーフェイスへと戻る。


(おいいいい!そんな可愛い顔で『ナイス』とか、じゃんけんに勝った嬉しさが全部吹き飛ぶくらいに心臓に悪いわ!俺の全細胞が狂いそうなくらいにキャパオーバーだろ!)


 外見は完璧な一軍女子なのに、そのぶっきらぼうな声は、今日の体育館の中のどんな大歓声よりもまっすぐに俺の心の中心へと届いていた。


 やがてクラスの最後の子が猛烈に走り出して、体育館の空気が一気に大きく揺れる。

 勝ったのか負けたのか分からない絶叫が響き渡り、次の瞬間。


 前方のステージ付近で、クラスの誰かが拳を突き上げて叫んだ。


「勝ったあぁぁぁーーー!!」


 割れんばかりの歓声が、一気に体育館中に広がっていく。

 大拍手と脳天気な笑い声がマーブル状に混ざり合い、館内の空気の色が一気に明るくなった。


 そんなお祭り騒ぎの喧騒の中で、リナはほんの少しだけ白く彫りの深い肩を落とした。

 本当に、心底安心したみたいに。


 俺はその無防備な大和撫子の愛おしい横顔を特等席で見つめながら、胸の奥がまた静かに、けれど激しく熱くなるのを狂おしいほどに感じていた。


 ステージ上の生徒会の上級生がマイクを入れる。


「以上をもちまして、本日の新入生歓迎レクリエーションの全プログラムを終了します。各クラス、速やかに整列して教室へ戻ってください」


 その解散のアナウンスとともに、体育館のざわつきがゆっくりとほどけていく。


 リナが、前を歩くクラスの背中を追って静かに歩き出した。


 厚く硬い道着の裾がカサリと揺れ、裸足のつま先が冷たい床に触れる繊細な音が、この喧騒の中でもなぜか俺の耳の奥へとかすかに、けれど信じられないほど鮮明に届いた。


 俺も慌てて、その眩しい後ろ姿を追いかける。


 体育館の眩しい明るさが背中のほうでまだざわざわと残響のように響いており、リナとの距離を縮めるために一歩一歩と歩みを進めるごとに、その音が少しずつ遠ざかっていく。


 静かな廊下に出た瞬間、ひんやりとした少し冷たい空気が、火照った俺たちの肌を包み込んだ。


 リナが歩調を緩め、すれ違いざまに小さく呟いた。


「……おつかれさま、蓮」


 周囲に誰も聞いていないのを確かめるような、二人だけの秘密の声。


 その響きが、今日のどの瞬間よりもはっきりと俺の鼓膜へと届き、胸の奥をまた静かに熱く焦がした。


 俺は動揺を隠すように前を向き、そのまま、彼女のすぐ後ろについて教室へ向かって歩き続けた。

第11話をお読みいただき

ありがとうございました!

 

リナのまさかの二連敗からの焦り顔、

そしてバトンを受け取った蓮の奮闘と、

二人の熱いハイタッチ。

最後はひんやりとした廊下での、

リナからの密やかな労いの言葉で

締めくくられました。

これぞ二人の距離感、たまらないですね。

 

次回の第12話からは、季節が巡り

「高校最初の衣替え(夏服リナ)」の

エピソードへと突入いたします!

薄手の紺ニットベストをまとった

リナの気品溢れるお姿を、

フェチ特盛りでお届けする予定ですので

どうぞお楽しみに!

 

もし「二人の秘密のやり取りが最高!」

「リナの夏服姿が早く見たい!」と

思ってくださった方は、ぜひページ下部の

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執筆の大きな励みになります!

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