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【10.5話 リナ視点(演武の裏側)】

いつもお読みいただきありがとうございます!

 

今回は、前回お届けした空手部の演武の裏側を、ヒロインであるリナの視点(一人称)から描いた特別な幕間エピソードとなります。

 

学校中から『高嶺の花』として崇拝されている彼女が、あの圧倒的な演武の瞬間に一体何を考えていたのか――。

 

一軍の仮面の下に隠された、お寺育ちならではのウブな緊張と、蓮への真っ直ぐで甘酸っぱい本音をぜひお楽しみください!

 

それでは、第10.5話をお送りいたします。

「続いて──空手部の演武です。ステージ前にお願いします」


 上級生に名前を呼ばれた瞬間、体育館を埋め尽くしていた新入生たちのざわつきが、波が引くように少しだけ遠くなった。


 ずっしりと重い道着の袋の持ち手を、私はきゅっと力強く握り直す。


 お父さんの厳しい禅寺の環境で何年も鍛え上げられ、どんな過酷な寒稽古にも耐えてきたはずの私の指先が、今だけは奇妙なほど冷たくこわばっていた。


 普段の冷徹なポーカーフェイスとは裏腹に、皮膚の薄い指先だけが、大勢の視線に晒される緊張と蓮へのウブなときめきで、じっと小さく震えている。


 ステージへ歩き出す前に、私は引き寄せられるようにして、列の中にいる蓮のほうを見た。


 周りの誰もが私を遠巻きに見上げる中、どうしても、彼の顔だけが見たかった。


「行ってくるね」


 周囲の喧騒に紛れるくらいの、本当に小さな小さな声。


 けれど、確かにその言葉を声に出したあと、私の胸の奥は嘘みたいにすこしだけ軽くなった。


 蓮がマヌケなくらい深く、コクコクとうなずいてくれたのが見えた。


 それだけで、張り詰めていた私の呼吸は、驚くほど綺麗に整っていく。


 ステージの横にある控室で、急いで道着に着替える。


 慣れ親しんだ真っ白な袖に腕を通した瞬間、カーテンの隙間から差し込む薄暗い体育館の光が、まるで私の覚悟を促すように少しだけ色を変えたように思えた。


 織りの粗い純白の生地が、窓からの頼りない光を鮮烈に反射して、私の身体の輪郭を優しく、けれどどこまでも凛とした戦士のものへと染め上げていく。


 演武が始まり、三年生の先輩たちの気迫に満ちた型が始まる。


 先輩たちの足が力強く床を打つ重低音が、重い空気の奥を静かに揺らしていた。


 けれど、自分の番が刻一刻と近づくにつれて、不思議と私の指先の温度は暖かく戻ってきていた。


 蓮が、私のことを見てくれているから。


 一歩、ステージの前へと出る。


 何百人もいる新入生の中で、意識しなくても、視界の端に蓮の姿があるのがはっきりと分かった。


 あえて蓮のほうを直接見ないように意識して、呼吸だけを深く整える。


 一歩。


 フローリングの床が、鋭く鳴り響いた。


 その鋭い音が、私の中にある雑念や、余計な緊張を全部きれいに落としていく。


 お父さんの禅寺で教わった、心を無にする静寂が身体の中心を満たしていく。


 しなやかに腕を伸ばすたびに、道着の白い袖が揺れて、水銀灯の光がキラキラと跳ねた。


 一つひとつの型を、そこに美しく置いていくように動く。


 ただ速さに任せるのではなく、私の中にあるお寺仕込みの静けさを、一ミリも崩さないように。


 鋭い突きを正面へと放った瞬間、体育館のいちばん奥の壁が、ほんの少しだけ明るく見えた。


 そして、最後の強烈な決め。


 足が激しく床を打つ音が、自分の体の中心へと心地よく戻ってくる。


 完全なる静止、そして、お淑やかな礼。


 その一瞬だけ、地鳴りのようだった体育館が完全に止まったみたいだった。


 定位置へと下がるとき、緊張から解放されて、背中の力が少しだけ抜けた。


 肘まで見える短い袖の、硬く厚い生地がカサリと擦れて、私の呼吸が深く、そして熱くなる。


 ふっと正面の席へと視線を上げたら、蓮が、魂を奪われたような顔でこっちを真っ直ぐに見ていた。


 本当に、ほんの一瞬だけ。


 ばっちりと目が合った瞬間、私の胸の奥が、トクンと静かに熱く揺れた。


 ……あんな顔をして私を見てくれるなんて、ずるいよ。


 波のような拍手とともに、体育館に騒がしいざわつきが戻ってくる。


 生徒会の上級生の声が、スピーカーを通じて遠くで響く。


 次の新入生歓迎レクの説明が始まる気配がして、私は大切な道着の袋を再び持ち直した。


 蓮がいる、この体育館の空気が、また少しずつ動き始めていた。

第10.5話をお読みいただき、本当にありがとうございました!

 

一軍女子のポーカーフェイスの裏側で、実は蓮の視線ひとつで呼吸を整えていたリナの本音……ずるすぎるくらい可愛かったですね……!

 

あんな表情で真っ直ぐに見つめ合っていた二人の距離感に、裏方としてもニヤニヤが止まりません。

 

次回からは、再び蓮の視点に戻り、いよいよ白熱の新入生歓迎レクリエーション(じゃんけんリレー本番)が幕を開けます!

 

もし「リナ視点のウブな本音が最高に可愛かった!」「これからのレク編の続きも早く読みたい!」と少しでも思っていただけましたら、ぜひページ下部から【ブックマーク登録】や【いいね】、評価の【☆☆☆☆☆】をポチッと押して応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!

 

それでは、次回の第11話でお会いしましょう!

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