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第8話:『185センチの長身を少し縮こませて、君と歩幅を合わせる夕暮れの帰り道』

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!

前回の第7話では、金曜日の放課後にリナから健気な「日曜日おねだり上目遣い」が飛び出し、グループお出かけが決まりました。

第8話となる今回は、いよいよ待ちに待った「日曜日のお出かけ編」です!

私服のロングスカート姿で現れた185.4cmのクラインさん。友人たちも一緒のグループデートですが、雑貨屋さんでのお買い物や、お昼ご飯のお蕎麦屋さんで、彼女のお寺育ちならではの「極上のギャップ」がこれでもかと溢れ出します。

いつもよりさらに特盛のボリュームでお届けする、二人の甘酸っぱい休日の様子をぜひ最後までお楽しみください!

 駅前のロータリーは、朝の光がまだ白っぽく眩しくて、足元に落ちる人影が短かった。


 集合場所の自販機の前では、すでに到着していた佐伯が缶コーヒーをシャカシャカと振りながら、 「おはよー」と軽く手を上げてきた。

 彼が持つアルミ缶はまだキンと冷たくて、どこかひんやりとした朝の空気と同じ温度をしていた。


 ロータリーのベンチに腰掛けていた三浦は、手元のスマホ画面を見つめたままだった。


「今日、お昼からめっちゃ暑くなるって。なんか、朝から空気が重いもん」


 と天気予報アプリの画面を俺たちに見せてくる。

 中学時代から見慣れた二人の気取らない生活の気配が、そのまま休日の朝の空気に心地よく混ざる。

 待ち合わせの十時を少し回った頃、リナがロータリーの向こうから姿を現した。


 お洒落な黒いショートブーツが朝の光を受けて艶やかに輝き、彼女のしなやかな動きに合わせて、短く濃い影がグレーのコンクリートの上に静かに落ちていた。

 落ち着いた色合いのロングスカートの裾が、歩くたびに静かに揺れた。


 濃紺のブレザー姿の時とは違う、私服のカーディガンの袖口が、彼女の白い手の甲に優しく触れる。

 お母さんに和の作法を教わっている彼女らしく、小ぶりな巾着袋を胸の前で大事そうに両手で持つ姿が、なんとも上品で落ち着いていた。


 学校で誰もが憧れる一軍女子としての圧倒的な金髪モデル風の美貌でありながら、中身は完全なお寺育ちの清楚なドイツ人美少女。

 その極上のギャップ私服姿を前に、俺の心臓は朝一番から大きく跳ね上がった。


「……おはよう、みんな」


 リナが少し照れくさそうに、けれどお淑やかに小さく挨拶をする。


「おう、おはよう、リナ」


 俺がそう返すと、リナは安心したように少しだけ視線を寄せてきた。


 185センチの長身を持つ彼女だが、今は俺の目線に合わせて少し上体を縮こまらせ、首を傾げる。

 そのせいで、驚くほど自然に視線の高さが揃う。


「クラインさん、おはよー! っていうか、今日のクラインさんなんかいつもより私服大人っぽくね?」 


 佐伯がいつも通りの気軽なノリでゲラゲラと笑い、その隣で三浦も口を開く。


「うん、本当。そのロングスカート、すごくよく似合ってる」


 一軍女子同士の鋭い視線で淡々と、けれど好意的に褒める。

 二人からの直球の称賛に、リナは困ったように頬をほんのり赤く染めて笑った。


「そんなことないよ、普通だよ……。お母さんが選んでくれた服だから……」


 カーディガンの萌え袖の手で巾着袋をきゅっと握りしめながら、消え入りそうな声で小さく呟く。

 学校での完璧なコミュ力はすっかり鳴りを潜め、俺たちの前──というか、俺の目の前だからこそ過剰に緊張して乙女になってしまう姿が、反則的に可愛らしかった。


「よし、じゃあそろそろモールに向かって移動しますか!」


 佐伯の元気な掛け声とともに全員でゆっくりと歩き出すと、リナの歩幅がごく自然な動作で、俺の歩調へと吸い込まれるように綺麗に揃ってきた。

 雲ひとつない朝の眩しい光の中で、リナの長い影が、俺の影のすぐ真横にぴたりと寄り添うように並び、静かに、けれど確かに地面の上に伸びていた。


 歩き出してすぐ、三浦が前を向いたまま弾んだ声で言った。


「駅のすぐそこにある雑貨屋さん、最初にちょっとだけ寄っていい? 来週、妹の誕生日なんだけどプレゼントがまだ買えてなくてさ」


 佐伯が二つ返事で軽く返す。


「いいじゃん、行こうぜ。まだモールに行くには時間あるし」


 その気楽な声が、清々しい日曜の朝の空気に心地よく溶けていった。


 リナはそれを見て少しだけ歩幅を緩めると、俺のほうをあからさまに覗き込むことはせず、ただお寺育ちらしいお淑やかさで静かにこくりとうなずいた。


 駅前の通りはまだ行き交う人も少なくて、半分だけ開いたシャッターが目立つ。

 日曜朝の、世界がゆっくり動き出す独特な空気が、俺たちの足元に優しくまとう。


 目的の雑貨屋の前に着くと、ガラス越しに差し込む朝の光が、棚に並ぶ小物を綺麗に照らす。

 開店したばかりの店内からは、新しい商品の段ボールの匂いや、アロマの香りが外まで薄く流れる。


 三浦が使い込まれたお洒落なドアを押すと、チリンと小さく澄んだ鈴の音が鳴った。


「そんなに時間かからないからねー」


 そう言って楽しげに店に滑り込んでいく一軍女子の背中を追って、俺たちも中に入った。

 爽やかな朝の光が、店内の棚のガラスや金属の金具に静かに反射してキラキラと煌めいていた。


 三浦は迷いのない足取りでまっすぐにお目当てのアクセサリーコーナーの棚に向かい、小さな小箱や可愛らしい包装紙を何度も手に取っては戻していた。


「うーん、妹、こういうキラキラしたやつ好きかなぁ……」


 独り言みたいな小さく悩む声が、店内のお洒落で静かなBGMに吸い込まれていく。


 その間、リナは入り口の近くにある文房具の棚の前で静かに立ち止まっていた。

 プロ並みの腕前を持つ書道女子である彼女の青い瞳が、ずらりと並んだ細字のペンを真剣に見つめる。


 その中から一本、まずはリナが、グレーの無地のボディをした【赤色】のペンを、白く細い指先でそっと慈しむように持ち上げた。


「……それ、買うの?」


 いつの間にか彼女の隣に立っていた俺の口から、気づいたら声が出ていた。

 リナはハッとこちらを振り返り、嬉しそうに小さくうなずいた。


 お母さんが選んでくれたという私服のカーディガンの袖口が、萌え袖のまま手の甲に触れている。

 リナはそのお気に入りの袖の中から、白い指先だけを少し覗かせて、ペンの握り心地を確かめるように愛らしい仕草でそっと指を動かし続けていた


 俺はすぐ隣の列にあった、同じシリーズの無地ボディの【青色】のペンを手に取る。


 最初は文房具なんて買うつもりなんて微塵もなかったのに、指先で握った瞬間、やけに手にしっくりと馴染む感じがして、なぜかそのまま棚に戻せなくなってしまった。


 俺の横でリナがその様子をじっと見つめており、お互いのペンの色が、まるで最初から対になっているかのように赤と青の美しいコントラストを描いて綺麗に並んでいた。


 少し離れたキャラクターグッズの棚へ移動すると、リナがもう一つ、なんだかよく分からない不思議な動物のマスコットを両手で大切そうに手に取った。

 左右の目が妙に離れていて、全体の形もいびつで、おまけに色も地味なグレー系なのに、なぜか不思議な存在感を放っている奇妙なぬいぐるみだ。


「……リナ、それも買うのか?」


 俺が苦笑交じりに尋ねると、リナは自分の選んだ独特なセンスを優しく指摘されて、少しだけ困ったように嬉しそうな照れ笑いを浮かべた。

 カーディガンの袖で口元を隠しながら、小さく呟く。


「……かわいいよ」


 学校での完璧な一軍女子の姿からは想像もつかない、このちょっと抜けた人間味のあるギャップが、相変わらず胸が苦しくなるほどに愛らしかった。


 その時、反対側のポップな棚から佐伯が、怪しげなステッカーをひらひらと振ってアピールしてきた。


「沢木、これ見てみろよ! まじで意味わかんねー柄だけど、なんか直感で好きだわ」


 見れば本当に何の目的で作られたのか分からない、シュールな柄だった。

 でも佐伯は、高校生らしい全能感に満ちた満足そうな顔でそれを握りしめている。


 そうこうしているうちに、三浦が妹への小物と綺麗な包装紙を選び終えた。


「よし、これでいいかな」


 と満足げに言ってレジに向かった。

 リナも彼女に続くようにして、静かにレジの列へ並ぶ。


 グレーのボディの赤ペンと、あのいびつな愛おしいマスコットを、上品な巾着袋を持つ胸の前で、まとめて大事そうに抱え込んでいる。

 俺もお揃いになった青いペンを持ったまま、ごく自然にリナの後ろに立つ。


 店員の手によってそれぞれ小さな可愛い袋に入れられた俺たちの買い物。

 店の外に出てからも、朝の爽やかな光をいっぱいに受けて、俺たちの手元でかすかに揺れていた。


 モールに隣接する落ち着いた和食街で見つけた、そば屋の暖簾をくぐると、鰹と昆布の上品な出汁の匂いがふわっと鼻腔に広がった。

 店内に張り巡らされた障子越しの朝の光が、柔らかく床に落ちる。


 その中を、俺たちは店員の案内で奥の広々とした木製のテーブル席へと通された。

 自然な流れで、俺とリナは斜めに向かい合う形で席に着き、その隣にそれぞれ佐伯と三浦が座る。


 四角い一枚板のテーブルの上に、窓からの優しい光が静かに落ちていた。

 席に着くなり、佐伯が口を開く。


「うわ、美味そう。俺、天丼セットにしよ」


 一切の迷いなく言い放ち、すぐにパタンとメニューを閉じた。

 その隣で三浦も、写真を指先でなぞりながら言う。


「私は……おろしの冷たいおそばにする」


 静かな声が、お店のどこか懐かしい木目に自然に馴染んでいく。

 リナはというと、あたたかいおそばが並ぶページを真剣な目で見つめていた。


 お母さんが選んでくれたという私服のカーディガンの袖口が、相変わらず萌え袖のまま、彼女の白い手の甲に優しく触れている。

 お気に入りの巾着袋は、185センチの長い脚で揃えられた膝の上できちんと落ち着いていた。


「リナ、何にするか決まった?」


 正面から声をかけると、リナはハッと我に返って少し上体を縮め、首を傾げて視線を寄せてきた。

 

「……うん。私は、山菜そばにする。今日は少し風が強かったから、あたたかいのが、いいな」


「そっか。じゃあ、俺はシンプルにざるそばでいいや」


 店員を呼んで注文を終えると、店内の心地よい静けさがゆっくりとテーブルの上に戻ってきた。


 しばらくして、注文した料理が次々と運ばれてくる。

 器から立ち上る真っ白な湯気が窓からの光に混ざり合い、斜め向かいに座るリナの端正な前髪の影を少しだけ薄く揺らしていた。


 山菜そばの優しくて香ばしい香りが、俺たちの間にほんのりと漂う。

 リナはお寺育ちらしい育ちの良さで、箸を手に取る指先の所作がごく自然に美しく整っていた。


 麺をすくう大袈裟でない一挙手一投足がどこまでも静かで、本当に動きが綺麗だ。

 器の縁では、たっぷりと乗った山菜の影が、出汁の揺らめきに合わせて淡く揺れていた。


 一方、三浦のおろしそばは、たっぷりと盛られた白い大根おろしが実に見るからに涼しげで、三浦はそれを一軍女子らしいスマートさで、淡々と綺麗に口に運んでいた。


 すると、ガツガツと天丼をかき込んでいた佐伯が、リナの手元を見て感心したように声を上げた。


「っていうかさ、クラインさんってば箸の持ち方めっちゃ綺麗じゃね? なんか、こうして見てるだけでこっちまで自然と背筋がピシッと伸びるっていうかさ」


 その言葉に、隣の三浦も小さくうなずいて呟く。


「うん、本当。なんか所作がすごく落ち着いているよね。金髪でモデルさんみたいにスタイル抜群なのに、和服が似合いそうな佇まいっていうの? ギャップがあって格好いい」


 学校での誰もが憧れる一軍女子の姿から、純和風な内面を鋭く褒められたリナは、驚いたように綺麗な青い瞳をパチパチと瞬かせた。


「え……そんなことないよ、普通だよ?

小さい頃から、お父さんやお母さんに厳しく教えてもらったから、かな」


 カーディガンの萌え袖の手で器を大事そうに支えながら、リナは頬をほんのり赤く染めて恥ずかしそうに小さく言った。

 蓮にだけは見慣れたお寺育ちの乙女の顔が、佐伯たちの前で少しだけ覗く。


 俺の頼んだざるそばは、冷たさがちょうどよく締められていて、喉を通るツルリとした感覚がとても静かで心地よかった。

 斜め向かいに座るリナの美しい所作が、あたたかい湯気の向こう側で柔らかく揺れているのを眺めながら、俺の心臓はやっぱり静かにドクドクと高鳴っていた。


 四人で賑やかに食べ終わるころ、外の光はいつの間にか少しだけ強くなっていた。

 足元の影が少しずつ細くなり、きらきらとした午後の気配が、静かに街の中へと広がっていく。


 モールの裏手にある小さな神社に着くころには、お昼過ぎの強い光が少し柔らかくなっていた。


 青々と茂る木々の影が石畳の上に長く伸びており、一歩足を踏み入れた境内の空気は、どこか張り詰めたように心地よく落ち着いている。

 先行して歩いていた佐伯が、周りの木々を見上げながら言う。


「ここ、前に夏祭りのとき来たときより、なんか妙に涼しくね?」


 気軽な調子で言葉を投げ、隣の三浦がクールに返す。


「そりゃ、周りに遮る影が多いからじゃないの」


 二人のいつもの掛け合いが、静かな境内に響いた。

 リナは古い石造りの鳥居をくぐると、大きな歩幅を少しゆるめ、俺の歩調へと綺麗に合わせる。


 私服の柔らかなカーディガンの袖口が、相変わらず萌え袖のまま彼女の白い手の甲に優しく触れる。


 お母さん仕立ての巾着袋は、胸の前で大事そうに両手で抱え込まれるようにして、

すっかり落ち着いた様子で収まっていた。


「……ここ、すごく好き」


 周囲の佐伯たちには聞こえないような小さな声で、リナがぽつりと呟いた。


「やっぱり、静かだからか?」


「うん。……なんだか、お家にいる時みたいで、とっても落ち着くの」


 そう言ってふにゃりと柔らかく笑うリナ。

 曹洞宗系の禅寺が実家である彼女にとって、たとえ神道と仏教の違いはあれど、こうした和の厳かな静寂は、一番心が休まる空間なのだろう。


 手水舎(ちょうずや)に差し掛かると、リナは慣れた手つきで柄杓(ひしゃく)を手に取った。

 冷たい水を汲み、片手ずつ、そして口をゆすぐ。


 一連の指先の動作は、恐る恐る見入ってしまうほどに無駄がなく静かだった。

 透き通るような水の流れに合わせて整う彼女の所作は、まるで流れる型のようで息を呑む。


「……めちゃくちゃ慣れてるな、

 リナ」


 俺が思わず感心して声をかけると、リナは少しだけ体を縮こませ、首を傾げるようにしながら恥ずかしそうにこちらへと視線を寄せてきた。

 綺麗な青い瞳が、少しだけ照れたように揺れる。


「私のお家、お父さんもお母さんもすごくちゃんとしてるから……自然と、体が動いちゃうの」


 学校での完璧な一軍女子の姿からは想像もつかない、お寺育ちらしい古風で礼儀正しい育ちの良さ。

 その極上のギャップに、俺の心臓はまたしてもバクバクと暴れ狂い始めていた。


 本殿の前へと進み、四人で並んでお賽銭を入れる。

 その瞬間、境内を心地よい五月の風が通り抜け、リナの美しい金髪がふわっと揺れた。


 差し込む木漏れ日を受けて、彼女の長い髪の影が白く彫りの深い肩のあたりでサラサラと揺らめく。


 リナはそっと目を閉じ、胸の前で綺麗に手を合わせていた。


 二礼二拍手一礼の作法すら完璧にこなす彼女の凛とした横顔は、言葉を失うほどに静かで、まるで午後の優しい光の中にそのまま溶けていってしまいそうだった。


 小さな神社を出るころには、午後の光が少しだけ傾き始めていた。

 周りの木々の影が道路へと長く伸び、肌に触れる風がゆっくりと心地よい冷たさを帯びていく。


 駅前のロータリーが近づくと、佐伯がエスカレーターの方を指差した。


「俺ら、こっちの路線だからここで」


 その隣で三浦が小さくため息をつく。


「あーあ、この後すぐに塾の講習があるんだよね。早めに帰って準備しなきゃ」


「じゃあな、沢木。クラインさんもまた明日学校で!」


 佐伯の気楽な声を背中に受けながら、俺とリナは自然と彼らとは反対の、家へと続く方向へ歩き出す。


 住宅街へと続く静かな道を並んで歩く。

 リナのお洒落な黒いショートブーツがアスファルトの上で静かに足音を落とし、落ち着いた色合いのロングスカートの裾が、夕暮れの光の中で浅く揺れている。


「……今日ね、とっても楽しかったな」


 お母さん仕立ての巾着袋を胸の前で両手で持ちながら、周囲の静けさに合わせ、リナが小さく呟く。


「そうか。モールは結構混んでたけどな」


「うん。でも、その後にみんなで行った神社がすごく静かで、落ち着いてて……私、ああいう和風で静かな場所、やっぱり大好き」


 そう言ってふにゃりと柔らかく笑うリナ。


 大通りの喧騒を抜けて少し狭い住宅街に入ると、風が一気に冷たくなった。

 リナは寒さをしのぐように、私服のカーディガンの袖口をそっと手元に寄せた。


 長い手首がすっぽりと隠れ、白い指先だけがちょこんと覗く綺麗な萌え袖になる。 リナは185センチの長い上体を少しだけ縮こまらせた。


 首を傾げるようにして下から俺の顔を覗き込んできた。

 完璧な上目遣いの青い瞳が、夕方の光を反射してきらきらと揺れている。


「……ねえ、蓮」


「ん? なんだよ」


「今日ね、本当に一緒に来てよかった。なんだか……ずっと心が落ち着いたの」


「そうか。俺はリナの私服姿が大人っぽすぎて、朝からずっと緊張しっぱなしだったけどな」


「もう、からかわないでよ……。でも本当に、蓮と並んで歩くと、歩幅がすごくちょうどいいの」


 彼女の不意打ちの言葉に、俺の胸の奥で心臓が一拍だけ、ドクンと強く熱く鳴った気がした。


「別に、お前の185センチに合せて歩幅を広く取ってるわけじゃないけどな」


 照れ隠しで少しぶっきらぼうに視線を逸らすと、リナは嬉しそうに、けれどお寺育ちらしいお淑やかさで小さく笑った。


「……うん、知ってる。蓮はいつも通り歩いてくれてるよね。でもね、それが私にとっては、本当に言葉にできないくらいとってもちょうどいいの」


 そんな当たり前みたいな、けれど特別すぎる事実を嬉しそうに噛みしめる彼女の横顔は、ずるいという言葉では足りないくらいに愛らしかった。


 住宅街の角を曲がると、リナの父親が住職を務める禅寺へ続く一本道が見える。


「……じゃあ、私はこっちだから。ここでね」


「うん。お疲れ、リナ」


 リナは胸の前で巾着袋を持ち直し、雑貨屋で買ったあのいびつなマスコットの入った袋を、お寺の風呂敷包みのように胸の前で優しく抱きかかえた。

 5歳から空手や和の作法で鍛え上げられた彼女のその一挙手一投足は、この騒がしい場所で今日いちばん静かで、誰もが思わず息を呑むほどにどこまでも綺麗だった。


「また明日、学校でね、蓮」


「……あ、あの日曜日のモール、本当に楽しかったよ。また明日」


 俺の少し不器用な返事を聞いて満足したように微笑むと、リナはゆっくりと歩き出した。


 夕方の光の中に、彼女の黒いショートブーツと185センチの長身が作る細長い影が静かに伸びていき、グラデーションの空の中に溶けるようにして消えていく。

 

 その美しい影が完全に角を曲がって見えなくなるまで。


 俺はオレンジ色に染まる通学路の真ん中で、激しく高鳴る心臓を押さえながらしばらく立ち尽くす。

第8話をお読みいただき、ありがとうございました!

お揃いになった赤と青のペン、お寺育ちゆえの美しすぎる箸の持ち方や神社の手水舎での流麗な所作、そして帰り道での「蓮と並ぶと、歩幅がとってもちょうどいいの」というふにゃりとした笑顔……!

185.4cmの凛とした美貌を持ちながら、中身はどこまでもウブで純情な大和撫子であるリナの破壊力に、裏方(作者)も終始悶絶しながら過去最高の文字数(約7000文字)を全力で書ききりました!

二人で並んで歩く歩幅がシンクロしていく様子に、これからのロードマップ(秋・冬の恋人化)への確かな一歩を感じていただけたら嬉しいです。

【作者からのお願い】

「私服リナの上目遣いと所作の美しさに胸を撃ち抜かれた!」「7000文字の特盛デート回、最高だった!」と思ってくださった方は、ぜひページ下部の【ブックマーク登録】や、評価の【☆☆☆☆☆(星)】をぽちっと押して応援していただけると、今後の執筆の凄まじい原動力になります!

皆様の応援一つ一つが、この作品を支える最高の宝物です。どうぞよろしくお願いいたします!

次回の第9話(月曜日の学校編)もお楽しみに!

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