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「地震とは違うようね」
少し離れた位置にいたシェトランテが周囲を見回す。
「設備の稼働か、外部からの衝撃か、どっちかだろうな」
間もなく、別の足場からエルジードとボルディミアスが合流してきた。
「お前ら、無事か」
エルジードが端末を耳に当てながら駆け寄ってくる。
「今、コタツから連絡が入った。俺たちの馬車に姉姫様達がやって来たそうだ」
エルジードが短くまとめる。
「理由は、水色の大型の龍が海から出てきて、バンガードの兵士はそっちの対応で手一杯だとさ」
水色の龍。頭の中に、鉱山と女神とドラゴンの記述がつながる。
「アルカルドからも変な連絡が来てるな。翡翠色の龍がドルフェリアに現れたそうだ。ま、第一隊長がなんとかしてくれるだろうな」
「ついに、始まったのね」
奥で猫耳の女性が低く呟くと、シェトランテが素早く距離を詰めた。
「何が起こっているのか、説明してもらえますか」
「全部話す時間はない」
ニャルテシアは口元から血を腕で拭う。
「とにかく、今は仲間全員と合流して上を目指しなさい。ここに長居したら、本当に巻き込まれるわ」
耳元にシェトランテだけに聞こえるような声で何かを囁き、それからこちらを見ないまま言う。
「私は置いていって。どうせすぐ動けないから」
「後で迎えに行くわ」
シェトランテは短く答えた。
「相変わらず、甘いわね」
「お互い様よ」
僕たちはその場を離れ、コタツたちがいる搬出口へ向かった。
途中、バンガードの通信と警告音が耳に届く。龍の接近を告げる声、砲撃準備の指示。
施設全体が、外の巨大な何かに振り回されている。ようやく、合流地点が見えてきた。
コタツ、エイビス、シャルルローゼスの姿がある。
「皆さん、ご無事で何よりです」
エイビスがほっとしたように微笑む。
「シオン様、また傷が……」
「シャル」
ミカロに向けて、シャルルローゼスが一歩前に出た。
「お怪我はありませんか」
「ちょっと派手にやられたけど、もう治療したから大丈夫」
ミカロが肩を回して見せる。
「心配かけてごめん」
シャルルローゼスはそれでも心配そうな顔だったが、無理に踏み込むことはしなかった。
エイビスは僕の顔を覗き込むようにして小さく首を傾げる。
「シオン様、少しお顔色が優れませんね」
「後でゆっくり話します」
僕はそう返した。今、立ち止まるわけにはいかない。
そのとき、バンガードの方角から長い地響きが伝わってきた。地面の中からではなく、空気そのものが押されるような感触だ。
「今のは」
エルジードが空を見上げると、持っていたセインのキーカードが、突然強く光り始めた。
手元から白い光が溢れ、僕たち全員を包み込む。
「ちょっと待って、なにこれ!」
ミカロの声が聞こえた直後、足元の感覚が消えた。次に目を開けたとき、僕たちは見知らぬ場所に立っていた。
周囲は開けた甲板のような構造で、空気は冷たい。遠くにバンガードの施設が見えるが、視点は明らかに高い。
「どうやら、どこかの飛行艇まで移動させられたようね」
シェトランテが周囲を確認する。甲板の向こうで、巨大な影が動いた。水色の鱗を持った龍が、こちらをまっすぐに見つめている。
金色の瞳と視線が合った瞬間、全身の毛穴が一斉に開く感覚がした。次の瞬間、龍が咆哮する。
浮遊船が大きく旋回し、その軌道を外れた。船体からクリスタルの光が迸り、砲撃となって龍の側面に叩き込まれる。
龍の体表で光が弾け、鱗の一部が剥がれ落ちた。
「どうやら、他の龍もここを目指しているようですわね」
エルジードが砲座を見上げる。
「バンガードのおもちゃにしては、なかなかの火力だ」
「通信を傍受してみるわ」
シェトランテが端末を操作し、バンガード向けの指令回線を拾い始めた。ノイズ混じりの声が流れ込んでくる。
『ロクサリエン王より通達。国宝を狙う龍を引き連れ、遠方で決着をつける模様。対象を市街地から引き離せ!』
『王が自ら出陣か。側近も動いているらしいぞ』
『なら負けられん。全砲門、龍の進路へ集中砲火ああ!』
バンガードの兵士たちは、王や側近が動いたことに勇気づけられているようだった。
声の調子に、それがよく出ている。
「あの計画について、ちゃんと姉姫様達にも共有しておいてくれよ」
エルジードが僕を見る。
「ああ、もちろんだ」
僕はうなずき、エイビスとシャルルローゼス、コタツ、そしてミカロ以外の仲間たちにも、先ほど読んだ内容を伝えた。女神の発見。ロクサリエンの戦力強化に関する過程。実験の犠牲。
そして、今も実験が続いていること。
ボルディミアスは最後まで黙って聞いていたが、話が終わると拳を握りしめた。
「ロクサリエンは、女神を返すつもりはないようだ」
ボルディミアスが低い声で言う。
「自らの国を守るために、彼女を国宝として縛り、龍も呼び込み空で決着をつける気か」
「やはり、あなたのお知り合いでしたか」
僕は龍の姿を見た。
あの視線の先にいるのは、ただの王ではない。
女神の力を利用し続けてきたロクサリエンそのものだ。
「聖域に戻すべきなのですね」
エイビスが静かに言う。
「本来あるべき場所へ」
「うん、そうするべき」
ミカロが答えると、床が空へと走りだした。
壁がなく風が巻き上がっていく。
「女神と呼ばれている彼女を、元の聖域に戻す。そのためにロクサリエン王を倒しましょう」
「そうなったら、シオンが王になるしかないな」
エルジードが何でもないことのように口にした。
「それは後にするよ」
僕は乱暴に手を振ると、エルジードは箒を握り直した。
「今は女神と、セインと、ミカロたちの未来を先に考えさせてもらうよ」
ミカロは小さく笑っていた。エイビスもシャルルローゼスも、特に反対はしない。
シェトランテもボルディミアスも、黙って頷いた。
「異論はないようだな」
エルメインが眼鏡の位置を直す。
「ロクサリエン王を探し、あるべき姿を取り戻そう」




