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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第九章【残火】

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「その女を吹き飛ばしなさい、合成獣」

「ゴゾオオオオ!」


アルテシアの声が足場の上から響くと、合成ギガメノスが雄たけびを上げた。

青い血が四本の腕に一斉に流れ込み、筋肉が膨れ上がる。

四つの拳が同時に振り下ろされる。狙いは完全にワタシ一人。後ろに下がっても間に合わない。

胸の奥が冷たくなる。でも、次の瞬間、別の熱がそこに重なった。

ワタシがほんの少しだけ弱音を吐いたとき、あの人は当たり前みたいに『心配いらないさ』とそう言ってくれた。相手のことも良く分からないのに。


ふざけているのか本気なのか分からない、あの約束。でも、ワタシは本気でその言葉を信じたい。

それに、二人きりの思い出がアレで終わるなんて、ぜーったいに嫌だから!

五つの指に色が混ざり合っていく。

ワタシは息を吸った。腹から喉まで魔力を引き上げる。傷の痛みは消えない。でも、その痛みさえも燃料に変える。

火、水、風、光――闇。五つの違う温度と重さが、手の腕で渦巻く。熱いのに冷たく、重いのに軽い。矛盾だらけのエネルギーを、ただ一つの方向へ押し込んでいく。


「解き放つ! アルストローム・リベリオンっ!」

 

タシは迫る四つの拳の中心に向けて、合体魔法を放った。視界が白と黒で埋め尽くされる。

火が筋肉を焼き、水が内部の圧力をめちゃくちゃにし、風が破片を吹き飛ばす。光が骨格を砕き、闇が残滓を引き裂く。

上半身が、まとめて消し飛ぶ感覚が伝わってくる。

皮膚に当たる微細な破片が、次の瞬間には粒子になって消えていく。

残った下半身だけがその場に沈み込み、やがて動かなくなると、ミンチのように細かくなって落ちた。


「・・・勝った」


声が自分のものじゃないみたいに掠れていた。

痛みが一気に戻ってくる。腕も横腹も、細かく千切られたように痺れている。このまま放っておくと、魔法どころか歩くのも難しくなる。


「早く、復元しないと……」


ワタシは片膝をつき、自分の体に手を当てた。古代語の詠唱が口から零れ出る。

時間の流れを少しだけ巻き戻すような魔法。傷口が塞がっていく感覚はある。

けれど、完全には元通りにならない。痛みの記憶だけは、ちゃんと残っている。赤い手も腕も白く戻っていく。


「これだけあれば、いい、かな」


ワタシは立ち上がった。足は震えているが、まだ動ける。彼女の元へと走ると、別のギガメノスが頭を忘れて倒れていた。


「シェトランテ」


彼女の名前を呼び、ワタシは足場の奥へ走った。

銃声も、咆哮も、いつの間にか止んでいた。

静かな廊下の奥、開けた足場スペースで、二つの影が向かい合っている。

一人はシェトランテ。武装具を構えている。もう一人はアルテシア。猫耳と尻尾を揺らしながら、短剣を構えていた。


「もう力の差では勝てないわよ。降参しなさい」


シェトランテが淡々と言っても、彼女は立ち上がらない。

シェトランテは距離を詰め円盤を彼女の正面に構えると、アルテシアが横に逸れた。

猫の筋肉の反応速度が、そのまま人型に乗り移ったみたいだった。短剣が低い軌道から滑り込む。

シェトランテは武装具の盾で受け、すぐに薬品を仕込んだ刃で反撃する。


「私が、こうなったのは――」


アルテシアは刃と刃を交差させながら言った。


「あなたと一緒に選んだ道の結果でしょ?」

「そうね」


シェトランテは呼吸を乱さずに答えた。


「けれど、その先まであなたと同じ道を進むとは限らないのよ」


攻防の合間に、アルテシアの視線が一瞬ワタシの方へ向く。何か狙ってる。

その隙を、シェトランテは見逃さなかった。武装具の推進力を最大まで引き上げ、空中戦へ持ち込む。足場から飛び上がり、アルテシアの頭上へ抜ける軌道を選んだ。


「相変わらず、集中するのが苦手ね」


空中で姿勢を反転させながら、シェトランテが武装具の中央部分の稼働を止める。

本来なら防御に使う位置のユニットをオフにして、あえて相手の懐を通り抜けるルートを作る。その一瞬の隙を自分の体で受けながら、薬品短剣を振るった。

刃が、アルテシアの猫耳先を斬った。

毛と血が舞い、アルテシアの動きが止まる。


「頭の上に耳がある生活は、まだ慣れてないのよ」


アルテシアは苦笑した。

着地したシェトランテの膝が、わずかに崩れる。

さっきからずっと、黄色の煙が二人の周囲を薄く漂っている。確か神経麻痺。シェトランテも自分の限界が近いのを理解しているようだった。

武装具を支えきれず、その場に座り込んでいた。


「諦めなさい。降参すれば命までは取らないわ」


シェトランテはそれでも武装具の砲身だけはアルテシアに向けたまま言った。


「あなたの神経麻痺は、褒めてあげる」


アルテシアは指を握り開きしながら笑った。


「でも、私は負けたくない!」


彼女はふらつきながら後ろの壁へ歩き、スナイパーライフルに手を伸ばす。

その瞬間、武装具の一部が自動的に起動した。

さっき停止させていた中央ユニットだ。シェトランテが予め仕込んでいた安全装置が、敵性武器への接近を感知して光属性の砲撃を放った。

光の線がライフルを貫き、銃身が砕け散ると、アルテシアの顔は砕けた鏡のような表情をして短剣を落としていた。アルテシアは鏡の破片が割れるような声で笑った。


「最初から戦う意思があれば、こう上手くはいっていなかったわ。何か作戦でもあったの?」


シェトランテは息を整えながら言った。

アルテシアは立ち上がろうとしたが、脚にも麻痺が回り始めている。

それでも、彼女の目にはまだ自分の姿が映っているように見えた。


「降参しなさい。別にあなたに興味はないもの」


シェトランテは座ったまま、もう一度言った。


「シェトは私を殺せないものね。相変わらず甘い」


アルテシアは静かに答えた。


「幼馴染を、自分の手で撃つなんて」

「珍しく二回尋ねたのに、勿体無いわね」


シェトランテの声が少しだけ震えた。

次の瞬間、円盤から炎の砲撃が四連で放たれた。

アルテシアの体が炎と衝撃に包まれ、足場の縁を越えて落ちると、鉄の擦れる音がした。背中で着いたみたい。


「辛いわね、幼い頃からの友を攻撃するのは」


シェトランテが小さく呟いた。その横顔は、戦闘中よりもずっと幼く見えた。


「見惚れている時間なんてないわよ。シオンと合流するわよ」

「うん、そうだね」


ワタシは彼女の腕を突くと、珍しく肌が震えていたので拳が飛んできた。

拳をかえした時、思いのほか彼女も本人に見せ返したいほど、自然に笑っていた。


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