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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第八章【愛情】

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彼女は最後に鐘を鳴らすように僕を叩くと、拗ねた子供のような顔で僕を見た。


「ハンバーグ、食べに行こうよ」


いつかの約束を思い出す。ようやく胸を張って平和を味わっていい、と心がそっと浮いた。

彼女の考えを受け入れると彼女はお手洗いで着替えを始め、僕も久しぶりにゆったりとしたスウェットとジーンズに手を通した。さすがに相棒を連れていく必要はないな。

彼女が部屋に戻って来るのを待つと、白いブラウスに黒のミニスカ、淡いピンクのポーチを着た上品な女の子が出てきた。あまりの違いに別人と言っても誰も否定しないだろう。


「いつもと変わらないじゃん」

「これが落ち着くんだ。それより、いつもに増して可愛らしいね」

「いつもは余計。ありがと」


頬をそっぽへ向け、手だけはしっかり繋いでくる。

王宮から続く通りを歩くと、視線がいくつも触れてきた。


「ワタシ達のこと、もしかしてバレてる?」

「王宮の方角から歩いているから、王宮の関係者だと思われているだけだよ」

「ま、確かに敵意は感じないかも」


彼女に腕を掴まれながら、すまし顔でグッドサインを送って来る牛が書かれた看板の店へ入った。

なんで、ここにいるんだ。

店内で、忘れようもない輪郭が三つ目に止まった。緑のショートボブ、緑のツインテール、金色の腕になびく髪を持つ大柄な男。三人ともサングラスで目だけを隠すと、沈黙している。


「・・・エイビス?」

「違います。私は通りすがりの……」

「御姉様、その言葉は無理がございます」

「三人共、分かりやす過ぎ」


ミカロがため息をつく。ドルフェリア王は観念したようにサングラスを外した。

周囲の客がざわついたが、王は手を軽く上げた。


「今日は私的な時間だ。挨拶は不要だ」

「別の店に変える?」

「今回はご一緒しましょう」


正直なところ、場所を変えたい気持ちだったが、ドルフェリア王の厚意を無碍にするような気がして、僕達は並んで昼食を共にすることにした。


「どうしてこの店?」

「知り合って間もない頃、御姉様にここのハンバーグを奢っていただいたのです。その思い出の話をお父様にしたところ、皆で行こうとなりまして」


シャルは嬉しそうにメニューを抱えた。エイビスは俯いたまま無言。ふと端末が震え、僕に長文が流れ込む。謝罪と、同席の迷惑を案じる文面だけが消えると、今読むには油が強すぎる。


「気に病む必要はありません。今日はのんびりとこの時を楽しみましょう」

「エイビスなら、自分で作れたんじゃないの?」

「アルティウスさんは管理者教育が中心だったんです。恐らく私の髪色で家系を見抜いたのかもしれません。その考えもあって、自炊も掃除も、学校の用意すら雇っていた給仕係さんのお世話になっていたんです」


エイビスは僕に視線を合わせると、淹れたての紅茶を見る時の目をしていた。


「けれど、何か一品くらいは作る実績が欲しかったのでサンドイッチくらいは、影で練習しておりました」

「御姉様……」


王は堪えきれず涙を落とし、シャルルローゼスが慌てて目を拭くが、滝のような勢いは止まらない。


「宴でサンドイッチ出したら、暴走しそう」


ミカロが小声で肩を寄せた。


「皆さんの気に障ります、お父様」

「そ、そうだな。すまないレチ……エイビス」


エイビスが口を開きかけると、焼きたての皿が並び、肉汁の甘さとソースの酸味がきれいに立ち上っていた。誰も急がない。音と香りを合図に、ナイフが穏やかに進む。戦い疲れた体に染み渡る肉の味に対し、珍しく誰も会話をしようとはしなかった。不思議な席での食後、席を立って手を洗い、廊下に戻ると王と鉢合わせた。


「エイビスについて、何か困りごとはないか」

「ありません。僕に話せないことがあっても、彼女なりに整理してから教えてくれると思います」


王は短く頷き、深く頭を下げた。


「離れている間、エイビスとシャルルローゼスを頼む」

「頭を上げください。むしろ、僕らの方こそ支えられていますから」

「それでも、父として頼みたい」

「二人が成長できるように、全力を尽くします」


店を出ると、僕達は別の用事あると彼女達に話すと、二人で町の中心部を目指していた。

せっかくの時間を邪魔されたことに納得がいっていないのか、彼女は雷雲を頬に溜めていた。


「今日はデートでしょ」

「しょうがないよ。部屋で休んでいるだけなんて勿体ないし。カフェでケーキでも食べようか」

「チーズケーキなら許してあげる」


彼女は膨らんだ頬で少しだけ満足そうに笑い、パンのように反り立つケーキを三ピースも食べた。

甘味を取り終えると、僕達は王宮でいったん解散し、僕は用意されたスパへ向かう。

ちなみに当然ながら王家のルールは適応されない。むしろ適応されていなくて安心した。

湯気の手前でエルメインとボルディミアスが待っていた。


「まさか、彼まで読んでもらえるとは思っていませんでしたよ」

「ボルディミアスは空間魔法で跳んできた。褒美が出ると聞いたそうだ」

「闘技場の端に放置された我の身を思えば当然であろう」

「カリサの群衆を見た後にボルディミアスを見たら、仲間に見えてもしょうがないさ。あの場では隔離が最善だったよ」

「理屈は通っている。相変わらず人間は複雑だ」

「彼に言われると、説得力が増すな」


肩の力を抜いて湯に沈み、ひとしきり揉みほぐされると、体から戦場の音が抜けていくのが分かった。

夕刻、王宮服に戻り宴の会場へ移動する。王家を守った功に対するささやかな宴だ。

王も参加するつもり満々だったが、乾杯の後、アークラインに腕を掴まれて連行された。


「報告をまとめてください」

「今夜くらいは、いいだろう?」

「今夜だからこそ、です」


背中が名残惜しそうに扉の向こうへ消える。手を伸ばした王に、エイビスとシャルルローゼスは静かに手を振って見送った。


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