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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第八章【愛情】

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反省した子供のように昨日あったエイビスとの出来事を伝えると、

シャルルローゼスは何を聞くわけでもなく、僕が口を止める度に会話を続けてくれる糸を作ってくれた。

そのおかげもあって、僕の行動を改めて確認できた。彼女は出来事を飲み終えると、カップを置いた。


「そんなことがあったんですね。御姉様はいつも約束していたあの日のことを話してくれていましたから、その思いの強さは、良く分かります」


紅茶を飲み終えても、中身は空のままだ。

話をまとめたいが昨日のことを考えると、作戦のためには今は近づくべきでないのかもしれない。


「シャルルローゼス、エイビスのことなんだけど」

「その前に一つ、ご報告があります。端で話すと、御姉様がシオン様とここで暮らしていた時の出来事を覚えていないようです」

「え?」


僕の心は黒を超えて、白い灰へと切り替わっていく。

カップから手を離し、頭を押さえると灰の落ちる速度が遅くなっていくような感覚がする。


「詳しくは聞かなかったのですが、今日はあなたのことを私と同じようにシオンさん、と言っていたんです。もしかすると、記憶を封印することで自らを守ろうとしたのかもしれません」


一週間もすれば聖域作戦を終えて、また元の暮らしに戻れる。

そんな甘いクッキーは簡単に割れて砕けた。

コーヒーの苦みを頭に抱えつつ、僕はエイビスのことを彼女に頼み、今は聖域作戦に集中するよう伝えた。

彼女は僕の考えを受け入れた後、僕に何かを聞きたそうに見えたが、すぐに帰らせた。

エイビスのことは確かに何とかしたいが、作戦を疎かにできるほどの余裕はない。

もう、このままでいた方が楽になれるんじゃないか。そんなショートケーキみたいな考えが僕の口へ苺を垂らした。


いや、僕の道はそっちじゃない。

棚を開けて、中の物品を確認した。青と桃色のカップ。エイビスと一緒に暮らし始めた初日に買ってきてくれたものだ。

隣には僕の誕生日に一緒にアフタヌーンティーをしたいと買ってきてくれた食器類がある。

二度くらいしか使っていないのに、二か月経った今でもさっき洗ったように純白に覆われている。

 

僕はカップを掴むと右手に血を流し込んだ。電球の弾けたような音がすると、カップの小さな叫び声がした。確証はない。けれど、もし彼女が僕の部屋に来たら、昨日のことを思い出してしまうかも。

それを考えたら、僕は彼らの叫び声を聞かずにはいられなかった。

思い出は僕に剣を向けていた。隙間の時間を見つけて購入した花柄の丸皿。三度目も必要ない。

思い出の山が連なっていくと、手は赤い涙を流していた。

一番下の棚がわずかにズレている。彼女が何かを補充した後だったのかもしれない。


暗闇に手を伸ばすと、木で突かれたような力が走って来た。持ち上げると球が糸を吐き出しベッドルームに消えた。

くみ上げたままタオルの端切れに似た形の糸は次の仲間を待っている。僕を待っている間、編んでいたんだろう。

約束を味わうようにバランスの整った料理を用意し、一緒に何を話すのかを考えながら、糸を束ねる。

そんな情景が頭に浮かぶと、僕は切れ端を千切った。彼女じゃない、悪者は僕だった。


立ち上がると、テーブルで白いリボンが破片と踊っていた。エイビスが、自分のために買って欲しいとお願いしてきたものだ。ただ大理石のように色が綺麗だと思っただけ。これもいらないな。


『似合いますか?』


彼女がこのリビングでリボンを付けたあの暖かく安心な情景が浮かぶと、僕は相棒で棚を振り飛ばした。棚は足を挫いたように横から勢いよく倒れると、扉が開くような音がした。


「シオンくーん。様子、見に来たんだけど、来て正解だったね」


セインは部屋に入ると、僕の手に布を巻き付け始める。

手をほどこうとしても、彼女の手はダイヤモンドのように動かなかった。

独り言のような思い出話を聞くと、弟を思うように手を置いて僕の頭を撫でる。

強くなったと思ったが、まだ彼女の隣には遠い。悔しさの汗が今日は目からしか流れてこない。


「苦しかったよね。ボクも止めるべきだった。明日もあるから、今日は早く寝よ」

「そう、だな」


止め忘れた水の粒みたいな声を残して立ち上って部屋を移動すると、僕は彼女をベッドに押していた。

腕を退くと彼女はまた腕を掴んで離さない。


「甘い時間があれば、忘れられそう?」


彼女が目を閉じると、僕は彼女に顔を近づけた。ハーブの香りを確認して彼女の肩を掴み上げる。


「いや、僕が決めたことだ。その全部を飲み込むよ」

「・・・そっか」


彼女は枕にその言葉だけを残すと、僕の傍を離れ入り口の閉まる音がした。

そして五日後に聖域作戦を迎えることになる。



◇◇◇



「・・・これが、僕達が約束した全てだ」


風は僕達に笑いかけて通り過ぎると、彼女は枷を落とした。もう反論はないらしい。


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