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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第八章【愛情】

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「それでー、今日もエイビスちゃんのこと?」

「この前帰ったら、リビングで待ってたよ。セインにこれ以上、迷惑もかけるわけにもいかないから、どうすべきか相談しに来たんだ」


今までにないくらい腹が暗い。砂糖やミルクの甘さで誤魔化そうとしても、腹の気分は変わらない。

捨ててしまえば楽になれるとも思えなかった。


「んー、確かにボクとしても少し不安になる出来事だね。教えてくれてありがとう。ミカロちゃんはどうすべきだと思う?」

「私の知ったこっちゃないよ。どう選んでも、どんな結果になっても、どうでもいいし」


ミカロがそっぽを向くと、セインは足で押さえつけたエサを見つめるフクロウのような目でミカロを見ていた。

距離が近づく度、ミカロの視線が横に映っていく。

口が頬に近づいた瞬間、ミカロがセインの手を取った。

聞いていた通り、確かにセインとは特別な関係らしい。


「あーっもう分かった。アイツは納得しないかもしれないけど、距離、置くべきなんじゃないの?」


思ったよりも冷静な答えが返って来た。

パンを挟んだような口で僕と目線は合わせてくれないが、ちゃんと考えてくれたのだろう。

ジュースを追加で注文したら、彼女は何も言わず受け取ってくれた。


「ボクもそれが最善かな。今回はいつもの内容とは全く違う。前のミスがあれば、戦局が傾くどころかロクサリエンへの挨拶と捉えられかねないからね。もちろん、前の出来事に影の作為がなかったことは確認してるよ」


セインは頭を傾けた。敢えて僕の考えを待っているんだ。

確かに理由は十分、得られる結果もほぼ確実、ただ彼女に届くには一歩足りないような気がする。


「相談に乗ってくれてありがとう。二人で話し合って決めようと思う」

「うん。それと、調査についてはミカロちゃんに手伝ってもらう予定だから、ボクのことは気にしなくても大丈夫だよ」


ミカロは今吹いた風を感じたような顔をしていたが、敢えて気にせずその場を後にした。

珍しく緊張していたのか、彼女の料理を味わっても、味についての感想は浮かばなかった。


「シオン様、何か考え事ですか?」


水を飲み干すと、削れた砂が遠くに飛んで行った。都合の良いことに彼女も考えを読めないらしい。


「話したいことがあるんだ」


彼女は僕の意図を少しは読めたのか。エプロンを取ってワンピース姿で腰かけ僕の水を足した。


「今回の作戦に関することでしょうか」


「そうだ。作戦を成功させるためにも、残り少ないこの五日間は、別々に生活をしようと思う」


彼女は僕を両手で暖かく包み込んだ優しさのような目で合わせたまま、動かない。


「エイビス、正直なことを言うと眠れていないだろ? 他のメンバーと揉め事を起こすのは防ぎたい。この作戦が終ったら僕は——」

「や、です」


彼女は僕から剣を握ったような目を反らすとテーブルに雨が降った。


「嫌です」


僕も彼女の次の言葉が出るまで動かなかった。

思わず空を見上げるほどに雨が強まり、彼女の手は石のように大きく固くなった。


「正直なことを言ってしまえば、作戦のことなんてどうでも良いのです。やっとまた会えた。この喜びを私は一秒でも長くあなたと一緒にいたいっ!」


振るえるテーブルの上で顔を隠して髪が揺らぐ。

雨が雲に戻ろうとする音がコップに染みつくと、手が解けた。


「一緒に過ごせなかったこれまでが嘘だと思いたいんです。私がどうなろうと構いません。メンバーから外れても、彼女達に嫌われても、シャルから何と言われようと、ロクサリエンやドルフェリアから疎まれても」


彼女は僕の手を取ると、行き場を失い空すら曇らせたような表情と子犬のような目で僕を見た。


「シオン様と、あなたと一緒にいたい。それだけのことを願う私は、悪者……ですか?」

「僕は——」


彼女は僕から出てくる言葉を理解してしまったのだろう。寒さを避ける腕で口を塞ぐと、彼女は大雨を溜めていた。


「いや、いやっ、お願い」


彼女の手を取った瞬間、トマトを流し込んだような妙な感覚がした。


「ハッ、ハッ、クハッ」


嵐を渦巻くように空気が矢を吹くように加速していく。エイビスの元へと駆け寄り肩を取っても、その速度は留まらない。


「エイビス!」

「ハッ、ハッ、ごぉめ、なぁさい……」

「エイビスー!」


彼女が目を髪で隠すと、雨を流しきったように体はゆっくりと流れを戻した。

呼吸も剣を握っている時の速さに近い。

納得いかない部分はあるが、僕は止む無くシャルルローゼスを呼び、彼女は息を切らせて駆けつけてくれた。彼女は僕がエイビスへの不安を伝えると、彼女は何も言わず看病を始めてくれた。


「何か、手伝おうか?」

「いえ、一人で問題ないです。明日もありますから、シオンさんも早く寝てください」

「ああ。ありがとう」


僕がソファで寝床を整えると、シャルルローゼスは僕達が食べていた食器を洗い終えていた。


「何があったのか、明日の報告会が終わったら、私にも教えてくださいね」

「もちろんだよ」


明日になれば、また話ができる。この時の僕はそんな楽観の晴天を望んでいた。

予報では、曇天が続いているとも知らずに。



◇◇◇



肩の凝りを両手で伸ばした朝、ベッドルームの扉がいつもよりも静かに開いた。

僕は肩のことを放って彼女の元へ駆け寄ると、白いニットのようなワンピースを着た彼女は僕と目を合わせなかった。


「もう、苦しくないか?」

「・・・はい。今日は外の空気を体に取り入れようと思います」


彼女はそれだけを言うと、シャルルローゼスと共に外へ出た。

何か気になることがあったような気がしたけれど、報告会を前に僕は考えを置き忘れていた。

久しぶりに濃緑を基調とした隊服に手を通し、セインと共に聖域作戦の報告会に参加した。

バンガードの重鎮や意思決定機関の皺寄った顔を見ると、僕達が話している内容がお遊戯会のように思えた。セインが主に話を勧めてくれたので困ることはなく家に戻ると、月の訪れを知らせるように光は姿を消していた。


「エイビス?」


僕の言葉はフローリングに沈み込んでいく。明かりを付けても彼女の姿はない。僕の頭にから悪魔の笑い声がした。


「シオンさん、お帰りなさい」


聞こえた声の彼女の肩に手を置くと、手をブラシで撫でる感触がした。シャルルローゼスは何かを悟ったように伸ばそうとした手を反らした。


「立ち話もなんですから、中で話しませんか?」

「ああ、そうだね」


彼女はまるで自分の家でもてなすようにテーブルへ紅茶を用意してくれた。

赤色がそのまま入ってくれたら嬉しいが、僕の色は変わらない。


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