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僕とセインの調査が進めば、聖域をより簡単に攻略することができる。
それを考えると、気になったポイントを調べようとしては成果を得られないことに対して笑いつつ、深夜に変えるようになっていた。聖域作戦決行の日は変えられない。
むしろセインも笑顔を見せているが、焦りがないとは思えない。
リビングを訪れると、エイビスは毎日テーブルの料理と一緒に寝ている。
本音を言えば食事を一緒にしたいが、今回の作戦ばかりは仕方がないので分けて食事をしようと言っているのだが、彼女は譲らない。
今という時間だからこそ、一緒にいたいのだという。彼女の意志でなくとも眠っている姿を見てしまうと、少なからず心に剣を刺されたような気がした。
髪に触れると、敵襲を悟ったかのように姿勢を整えると、寝ぼけ眼で僕の目を見た。
「おかえりなさい、シオン様ぁ」
「今日も待たせたね」
僕は手早く食事を済ませると、エイビスのためにも早めに休みを取るようにしていた。
これで何の問題も起こらなければいいと思っていたが、そうはいかなかった。
エイビス達の立てた作戦にセインが工夫を加え、聖域作戦の連携を高めるため、バンガードが練習場として用意している猛獣の多いアウルスの森で訓練をしていた。
「ミカロちゃん、風魔法で足を止めて。その隙にエイビスちゃんの攻撃で畳みかけるよ」
「オッケー!」
「かしこまりました」
「ブモオオ!」
ミカロの手に風が集まりフォレストベアの足を貫き、膝を着く。エイビスは右から剣を構えた。
「紅蓮葬送!」
炎が斬撃に乗り加速した列車のごとく突き抜けていく。ミカロは敵から距離を取ると、フォレストベアは腹を黒くして倒れた。
セインはバイクから珍しく降りると、フォレストベアの近くへと歩き出した。
「アンタ、舐めてんの?」
「申し訳ありません。・・・私のミスです」
確かにミカロが後ろに下がっていなかったら、彼女ごと燃えていた。ミカロの風に有利な火を向けられていれば、確かに連携に悩みがちなミカロが疑いを向けるのも分かる。ただ、エイビスの炎がいつもより強かったのは事実だ。
「わざとじゃないの?」
「そんなことは……」
「こっち見て話——」
「ちょーちょちょちょっ、ミカロちゃん、ストーップ。エイビスちゃんも謝ってるんだし。許してあげようよ」
あと一歩遅かったら、ミカロは殴っていたかもしれない。現に僕はタオルを拾っただけで手を叩かれた。
結局その日はメンバーの人間関係に亀裂を与える可能性があるため、訓練を終了し、僕はセインに呼ばれ、専用の作戦室でホワイトボードの前にあるベンチに腰掛けていた。
「一応確認するけど、シオン君がエッチだから、エイビスちゃんが寝不足だったりする?」
「そ、そんなわけないだろう。何時に帰ってるのか、セインも知ってるだろ」
セインは相変わらず冗談に対する僕の反応に部屋を超えて廊下まで響く声で大笑いしつつ、刃物のような目つきに変わった。
「ジョーダンだよ。でも、今の状況が続くのあれば、ミカロちゃんどころか、ボクも彼女とは一緒に戦いたくないのが堅実かな」
「相変わらず、厳しいね」
僕は言い訳にならないよう、エイビスと相談した内容について伝えると、オアシスを見つけたような目で
「そーいうことだったんだ。んー。エイビスちゃんも健気だねえ。ま、しばらく聖域について夜に調査するのはボクだけでなんとかしておくよ」
「そうだね。いつもすまない」
「別にいいよ。シオン君がエッチなのはよく知ってるから」
「違う意味に聞こえるからやめてくれ」
セインと調査を進める時間を減らしたので、エイビスと時間を合わせられることが増え、彼女がリビングで寝ている姿を見ることはなくなった。
エイビス自身もミカロへ対面でお詫びを改めてしていたので、亀裂も修復できていた。
ただ、一週間経ってセインのクマに深みがかかっているような気がしていた。
「セイン、最近眠ってないんじゃないか」
「そーなんだよね。シオン君が眠らせてくれないから、困ってるの」
「違う意味にも聞こえてくるけど、まさか自分の時間を増やしてるのか!」
セインは珍しくトラップを見破られたような顔をすると、僕に背中を向けた。
「いつもの冗談だよ。気にしないで」
彼女が僕へ振り返ると、本が傾いた。疲れたその瞬間を狙うかのように本たちは彼女に牙を剥く。
ページを勢いよくめくるような音と巨大なしおりが挟まるような音が響くと、僕は背中に乗った本を掃った。
「あんまり無理はしないでくれ」
「ボクが助けられるなんて、やっぱり強くなったよね、シオン君」
「今日は手伝うぞ。断りは受け入れないからな」
「はいはーい」
彼女はまた何か冗談を言うような悪魔の角が見えたので、口を塞いだ。
僕が不在の時にセインが集めていた情報は興味惹かれるものであったこともあり、気が付けば今日を終えても調査を続けていた。もちろんエイビスには先に寝るよう伝えてある。
寝落ちした僕をセインに起こしてもらうと、僕は急いで家に駆けだした。
扉を開けると、いつもの光景が広がっていた。野菜魚肉にパン。
整えられたバランスのよい食事と待ち耽る彼女。僕は気づけば右拳を握っていた。
「おはようございます、シオン様。昨日の調査は進みましたか?」
「あ、ああ。悪くなかったよ」
「それは、良かったですわ。こちらも良い策を思いついたのです」
確かに全てが思い通りになるとは思っていない。好きな食べ物だって違うし、興味のあるものもそれぞれだ。けれど嫌いなものを腹に詰め込まれたように僕の心は色を変えていた。
また、同じいざこざが起こってしまう。それを考えると、いつも彼女と冗談を交えながら話していた、いきつけの喫茶店へ足が進んでいた。
彼女は僕が入って来たのを見つけると、いつものように手を振って来た。
僕が座る間にメニューを見ることなく僕のアイスコーヒーを頼むと、棘のある声が聞こえた。
「お姉ちゃん、戻ったー。え、なんでコイツがいるの?」
「相談したいことがあるからだよ、ミカロちゃん。振られていないといいけど」
彼女の冗談を聞いていると、心を手で包まれたような気分になれた。
相変わらず、ミカロは腕を組んで僕を睨むと、オレンジジュースを吸い込んだ。意外と子供っぽいな。
「ま、お姉ちゃんがいいなら、構わないけど」
「その前に。ミカロには迷惑をかけた。申し訳ない。あれは僕のせいで起こってしまったんだ」
彼女はまたジュースを優先すると、横を向いた。
「別にもう気にしてないから」
「ミカロちゃんもちょーっと怒り過ぎちゃったって反省してたよねー」
「お姉ちゃん、違うからっ!」
セインは彼女の頬を指で小鳥の口みたいに突くと、ミカロは立ち上がって慌てふためいた姿を見せた。
が、僕の目線を再確認すると、澄んだ目をして改めて腕を組んだ。
どんな女の子でも、彼女には歯が立たないようだ。




