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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第八章【愛情】

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「シオン様が好きです。大好きです。いつまでも一緒にいたいのです。

アルティウス学園での思い出に約束も、ペンダントに導かれるまま共に過ごした時間も、今も鮮明に残っています」



僕が言葉を選ぼうとした瞬間、彼女の指が僕の唇に触れて閉じた。


「分かっております。シオン様は、私よりもミカロのことをより想っておいでなのでしょう」


僕は何も言わなかった。沈黙は、彼女に多くを助言する。彼女の瞳に、確信の色が宿っていた。


「心配ありません。私も自分の望みが完全に叶うとは思っていませんから。二人目でも構いません。彼女としてお付き合いをしたいのです。既に彼女には、話してあります。ドルフェリアでもロクサリエンでも、複数の女性と縁を結ぶことは禁じられておりません。シオン様が何も悪びれる必要はありません。私は、あなたのすぐ側にいたいのです」


島で拗ねていたとき、嫌われたのではないかと何度も考えた。

そうではなかったと知れて、胸の奥のどこかがほどける。

そう、結論は僕の心の中でもう決まっていた。


「僕は、エイビスと友人でいたい」

「・・・そう、ですか」


彼女の声が少しだけたどたどしくなり、珍しく慌てている様子が見える。


「・・・アルティウス学園で交わした、あの約束は――嘘だったのですか。言ってくれたではありませんか。一緒に、暮らそうと」


今、このタイミング以外に流れよく話し合いができるのはなかなかないだろう。

また、彼女の思った通りになってしまった。


「聖域作戦のことを、もう少し詳しく話すよ。これを見れば、君なら分かると思う」


僕は内ポケットから、薄い封筒を取り出した。

一枚の写真。ある一部屋にソファに並んで座り、指を握り合う僕とエイビス。

その間へ上から覆いかぶさるように笑顔のセインが外から割り込んでいる。


「これは、聖域作戦で再会した日に、学園での約束通り同棲を始めた直後の写真なんだ」


エイビスは写真を手に取ると、珍しく言葉を斬られたように写真を見ることだけを集中していた。

僕もまだ整理しきれていない部分があるものの、確かに辻褄は合っている。これだけは間違いなかった。

僕は、あの時の出来事を話し始めた。



◇◇◇



聖域作戦で招集された時、僕の心は踊っていた。

聖域の敵との闘いに興奮していたわけでも、セインとの合同作戦に高揚していたわけでもない。

ただ、エイビス・ラターシャという名前が見えたことに対して約束を果たす時が、

不意に運命の女性が降って来たように信じがたい出来事に心だけが飲み込めていたからだった。


晴天でも曇天でもないただ太陽と雲が漂っているだけのその日。

僕はセインとのメッセージを確認しつつ彼女が列車から降りてくるのをただ待っていた。

ウェーブのかかった翡翠の髪色に冷静さに内の情熱を混ぜ合わせたような目の色。

僕は直観だけで突き進むと、同じ髪色の女性が僕の前に立ちふさがった。


「御姉様に何か、ご用ですか」

「ああ、話さなくちゃいけないことがあるんだ」


彼女の眉は上がったままだ。あまり話をしたことはないので、確かに疑われても仕方がない。


「シャル、どうかしました?」


シャル、という女性の後ろから出てきた彼女と目があった瞬間、僕の直観は彼女の肩へ手を伸ばした。

シャルが抵抗する声すら押しのけて、気が付けば指は暖かさを求めるように頬を触れていた。


「シオン様、ですか?」

「ああ、会えてよかった」

「私もです」


約束を覚えているのは自分だけだろう。

どうせ時間が経ってしまえばそんなものには錆が付いて砕けてしまう。

そんな童話物語なことを思っていたが、彼女の暖かさを再確認できたとき、

全てはこのためにあったのだと思った。


「お二人共! ここでは目立ちます。ひ、ひとまず歩きながら教えてください」


エイビスは目を開くと、周りのやや冷徹な視線を見て僕から距離を開けた。

少し寂しいが、確かにこの状態で待機しているシャルからすれば、たまったもんじゃない。


「そう、ですわね。シオン様、シャルの提案は最もですわ」

「確かに。ひとまずバンガードに挨拶も必要だろうし、またの機会にしよう」

「まあ今日は前乗りでやって来たので、私はお二人の邪魔というのであれば、一人行動も止むを得ませんが」


冷徹な視線を受けてか、彼女も考えが寄ってしまっているらしい。

僕は彼女が一人逸れる道を正面で塞いだ。


「いや、バンガードにもドルフェリアを良く思わない人達はいる。ここは三人で動くべきだ」

「それなら、案内役として同行をお願いします。御姉様も移動でお疲れですので、寄り道せず向かってくださいね」

「もちろんだ」


列車を出てからは、エイビスは僕が住んでいる町だから何かしらの魅力があるとか、

移動には三時間くらいしかかかっていないので、僕の好きな食べ物を味わってみたいとか、

シャルルローゼスにも口実を作って、僕と話をする時間を作ってくれた。

そして二人が泊まるホテルにたどり着いた。


「やーっと着きましたぁあー! 御姉様、旅行ではないんですよ」


エイビスを叱りたいのだろうが、部屋に着くなりベッドに飛び込んでいるので、説得力には欠ける。


「シャル、ごめんなさい。シオン様に会えたことが嬉しく、思わず旅行のように楽しんでしまいました。このお詫びは後程させてくださいな」

「御姉様がそこまで言うのであれば、仕方ありません。私も受け入れます。ただ、シオンさんはこの部屋には泊めませんからね」


エイビスの考えが読めていたのか、恐らく最悪となるパターンだけは防ぎたかったのだろう。

ただ、僕もいきなりエイビスと再会できたので、心構えができていなかった。

ドルフェリアと停戦協定を結んでから戦場へ出ることは減ったが、互いを行き来するルールが厳しくなり、

会おうと思っていても今回みたいに上手く作戦内容が嚙み合わないと会えないと分かっていたから。


「さて、案内も終わったし僕はここで失礼するよ。明日からよろしく」

「シオン様、降りる所までお送りします」


無理する必要はないよ、と言いたかったが、目線で、当たり前のことですわ、と返事の来る気がした。

けれど、彼女は僕の考えを超えて扉を出るなり自分の腕を僕の腰に回した。

チョコレートのような潤いを見せた目が僕を見る。


「シオン様、あの時の約束、覚えていらっしゃいますか?」


本当は二人で食事に行ったり、夜景を眺めたりしてこの話をしたかったが、彼女にとっては重要じゃなかったらしい。


「もちろん、覚えてるよ」


桃のように潤いのある感触が口へ流れると、僕達は互いに目を閉じた。


「今から、始めましょう」


確かに当時は誰かと暮らすわけでもないのに二人分の広さを持つ部屋をバンガードに用意されていたので、準備は整っていた。

翌日、僕達はシャルルローゼスに叱られると、一緒に暮らす準備を整えつつ、聖域作戦のミーティングと調査を始めていた。


僕はセインと現地での気候や怪奇現象までまとめて対策を考えつつ、エイビスは全員の能力を把握しつつシャルルローゼスと一緒に作戦を立てていたので、

とてもではないが二人で過ごせる時間なんて、ほぼなかった。けれど、彼女はこの写真だけは譲らなかった。


「ほらほら二人共、もっとくっついて! このカメラだとあんまり幅が取れないんだから」

「セインさん、これはこれで少し恥ずかしいのですが」

「大丈夫、エイビスちゃん! バッチリ可愛く撮ってあげるから!」

「いえ、そういう問題では……」


エイビスの肩を取ると、確かに心臓の動きが速く聞こえてくる。

確かにテンション高く二人の時間を撮られるというのは、少し気まずい。


「あの、よろしければセインさんも映りませんか?」

「えー、しょうがないなぁ。じゃ、二人とも行くよー!」


カメラのボタンを押してバイクでも乗ったかのように僕らの背中へ勢いよく駆けだしたあの時を今でも思い出す。


「これが、この写真を撮るまでの話だ。僕の目を見れば、これが本当かどうかは分かるはずだ」

「はい、信じます。それに、この写真の私は本心から笑っていますから」


彼女は僕の話の全容を理解しているかのように僕と目線を合わせ直した。


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