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鱗の壁を登り王妃の位置を確認すると、箒で距離を取るシャルとエルジードを追っている。
「妹姫様、これで攻撃してくれ」
「どうして私の杖を持っているんですか?」
「護衛役として、当然だろ!」
エルジードの加速に押され、王妃の剣を避け周辺の蛇へ光の魔法を放つ。
彼らは撫でられたようにまた舌を出して全身を続ける。
彼らは主を守るように僕らの正面で動きを止めた。二対三。斬っても再生するので、このままじゃジリ貧だ。
そんな悩みを吹き飛ばすような勢いが飛んできた。
「二人共、斬撃魔法を飛ばすから、ちゃんと避けてよ!」
「頼むよ」
「シ、シオン、様っ……」
エイビスに肩を回し体を鱗に置くと、遠慮のない闘技場すら切り裂くような勢いを持った龍の衝撃波が奥へ飛んで行った。信頼しているんだろうが、威力に遠慮がない。
蛇達は時を巻き直しているが、王妃は空から僕達の位置を確認していた
「これでも喰らえ!」
空から紫の紐、いや蛇が鉄の矢みたい張った状態で飛び込んで来る。
弾いたらエイビスに当たる。彼女は僕の考えを読むために目線を合わせてきた。
「シオン様、私に合わせてください」
「分かった」
彼女の潤った剣に合わせ彼女の体を掴み水の剣で飛び込むと、蛇は空気を求めるように空へと逃げた。
「エルジードさん、さっきの火炎弾を頼む」
「気が合うなあ! ちょうど考えていた所だっ」
「エルジード、それでは先ほどと、かわわぁっー!」
御姫様の悲鳴を裂き、乱雑な方向に複数の火炎弾が飛んでいく。
子蛇は顔を失ったかと思えば、毒色の結晶が姿を見せた。
「見えたぞ。お前の弱点は、コレだろぉお!」
エルジードの蹴りが結晶を貫くと、蛇の鱗が灼熱を受けたように溶けだしていく。
「小娘が生意気なぁああ!」
王妃が爪を空に押されたような言葉を放つと、皮膚が風を纏い時計に回っていく。
鱗を握り締めると、僕の腰を支えるような感覚が乗った。
箒に乗り逃げる彼女達を捕えるように、王妃は手を向ける。今なら、先に進める。
砂の交じる音の後、突風が聞こえた。
『みんな、核が修復しかけてる。時間はあんまりないみたい。シェトランテ、何かいい案ある?』
『あるわけないでしょ。とりあえず、燃やして様子をみるわ』
ガラスの割れたような音と、面倒そうにため息の交じった声が聞こえる。
「シオン様、次に核を破壊したら、私を空へ飛ばしてください。王妃へ正面から攻撃を仕掛けます」
「分かった」
僕らを笑うように蛇が空へと波打つと、皮膚から詰まらせた結晶の形が飛び出していた。
エルメインが僕に目線を揃えると拳で空を切った。
確かに、通信せずとも分かる。
相棒は僕の意志を確認もせず、茹だるような暑さの剣を構えていた。
「赫閃斬」
核めがけて突き刺し、駆けるように斬り絶つと、蛇の頭が落下していく。
自分を影で覆うようにエイビスは姿を見せた。
「シオン様!」
「頼む」
上段へ相棒を振るうと、桃花のような香りが通り抜け、エイビスは蒼い剣を構えていた。
「ワタシの風に、ちゃんと合わせてよ」
「お前の攻撃に遅れる我ではない」
紫の風が蛇頭を貫こうとした瞬間、蛇は尻尾を出して飛び出した。
今までと動きが違う。四メートルはあるであろう八体の子蛇が地へ逃げ壁を這い、僕達と目を合わせる。
エイビスの手を取ると、正面には蛇から人へ皮膚を塗り替え右手に蛇皮を編んだ紫の剣を持った王妃と子蛇一体が前傾に構えていた。
「やっと蛇壁から解放されそうだぜ。降ろすぞ妹姫様」
「はい、あなたも降りてくださいね、エルジード」
僕らのすぐ隣でエルジードとシャルルローゼスが合流しこれで四人。
ミカロ達は反対の南側に他7体の蛇と近くにいる。さすがに全員合流して戦うのは効率が悪そうだ。
「解放されたなんて、考えが甘いわね」
子蛇がシャワーを掛け合う音がする。紫色の雲や水蒸気は僕とミカロ達への柔らかく固い壁を作っていく。
蛇が噴き出しているんだから、毒だろう。
『そっちに行きたいけど、霧ごと巻き込みそうだから、シオン達に任せるよ』
『ああ、頼んだ』
右にいるエイビスの呼吸が浅い。花属性の大技の反動がまだ抜けていないのか。握った剣はわずかに震えていた。
王妃はそんな彼女の状態を確認すると、蛇剣を構えた。
「シオン様、前はお任せします」
「任されました。――王妃、ここで終わりにしましょう」
「護衛が勇者気取りかっ!」
自分を影で覆うほどの大きさを持つ鉄のブロックが飛び込んできたような一撃。
睨みついた斬撃を受けるたびに肩から骨に衝撃が響く。カリサを吸収した影響か。
正面から押し返すだけで体力が削れていく。
「御姉様、回復しますので、準備ができたらシオンさんの元へ」
シャルが杖を掲げると合図のように蛇の一体が床をするりと這い、翻弄するような軌道で二人の間に割り込む。癒しの光は寸断され、小さな光弾に分けて牽制に回る。
「そんなものか、シオン」
「あなたと違って、守るものが多いんですよ」
「減らず口がぁあ!」
王妃の剣を大きく弾いて受け流し、右手が透明のマラカスを振る間にエイビスを抱え上げ外壁方向へ飛び込んで距離を取る。
走る足を蹴る度に右手が地面に寝転がろうとする。彼女が回復するまでは、何度だって受けてやる。
護衛役を引き受けたのだから。
「シオン様、来ます!」
王妃が剣で蛇を吸い、紫の斬撃が飛んできた。
避けたいところだが、選択肢は一つしかない。僕だけで倒す必要はないのだから。
木材のような斬撃を斬ると、紫の液体が膝にちょっかいを仕掛けてきた。
息を通すと体は縮こまり、気がつけば膝は戦う意思を折っていた。
それでも、視線だけはブラさない。
「そこで終わりだ、護衛役っ」
大剣が振り上がる。立てない。間に合わない――
鉄の意志がぶつかり合う音が響く。足音が二回近寄る音が聞こえると、また鉄の音が響いた。
鉄の音へ目線を伸ばすと、エイビスが踏み込み、王妃の剣を跳ね上げていた。
傍らでシャルルローゼスはエイビスの剣を魔法で補助している。
が、それ以上に二人に頬や二の腕へ痣が浮いていることが目を反らせない。
「私達は、毒と良くも悪くも縁深いのです。今までの経験を元に薬を作っていますので、残念ながら毒は効きませんよ」
「それで私に勝ったつもりか」
王妃が蛇をばらまき、足場を攪乱する。
「赫焔の星舞!」
「ホーリーショット!」
エイビスが火で薙ぎ、シャルの光が散弾で視界を散らした。僕も散った。
赤青白、黄色まである様々な花びらが舞う。
「咲き誇り小時を持って儚く散る。この一撃に力をお貸しください」
剣を振るうたびに色が変わり、まるで咲かすように潤い、斬撃が花を描いたようにも見える。
「彩花連舞!」
横薙ぎ王妃の胴が縦に割れ、下半身はシャルが光の鎖で留めると、転がった王妃にエイビスは剣を向けた。
「降伏なさってください」
エイビスの声は澄んでいる。
外縁では分裂蛇の核が次々と砕け、ミカロの風が毒霧を一箇所に集めると、エルジードの炎が霧を焼き払っていく。
シャルルローゼスは鎖で押さえつけた体に目線を合わせつつ後退すると、僕に小瓶を差し出した。
「遅れてすみません、シオンさん。こちらを」
「いや、おかげで助かったよ」
薬を飲み込むと喉が焼けるように熱く、次いで冷たくなる。体の芯へ薬が落ちていくのを感じた。
その時、エイビスが小さく息を呑んだ。
「なぜ、あなたは笑っているのです」
「お前が知る必要はない」
視線を向けた先で、王妃が前へ飛び上がると、エイビスの剣を自らの胸へ、まっすぐに押し当てた。刃が心臓を貫き、赤紫の血を零すと、王妃は前のめりに倒れた。
彼女の体が風に揺れると、剣が砂に落ちエイビスの指が震えていた。
「なぜ私とシャルを排除する計画を立てたのです!」
叫びは空を滑り、王妃は何も答えない。目から落ちた月は白い。
エイビスはその体を静かに土へ座り、剣を抜くと僕達の元へ駆け出した。
右手の指に力が集中していく。なんだ。何かが変だ。




