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「良い案はあるか」
「あります。発動するまでの時間を稼ぐために囮をお願いできますか」
「他の策が無いなら、従う他あるまい」
「フッ。行くぞ!」
アジサイ。雨が雑談を始め騒がしい中に寝起きの欠伸をしているようなお花。
大牛が低く身を沈め、角を地に沿わせて前に突き進んでいく。
ボルディミアスさん角を正面から掴んだ瞬間、角が伸び彼の肩へと入り込んでいく。
「っ――」
彼の背が僅かに縮む。私は伸びた角の二撃目を剣で受け流し、
後ろへ進む隙間に花属性の斬撃を二重に重ねて胸郭へ滑り込む。肉の苦しむ感覚がある。次は足。
「貴様は負けた。飛べ。」
ボルディミアスさんの体が上へ押し上げられ、砂に大きな影が落ちます。
折り返しの体勢を整え、私へ向き直った。体の動きがさきほどより若干遅い。
この速度なら私だけでも戦える。
「ゴアアア!」
違う。勢いが先ほどより速い。一辺倒な割に頭が働くではありませんか。
剣を構える私を無視して影が落ち、巨大な質量。敷き詰められた自然の鱗が大牛との間へ割り込む。
「早く斬れェ!」
言われなくとも、当然ですわ。私は彼を超えてアジサイを添えて右肩へ滑らせていく。
剣を鍛え直すような弾く音。これだけでは終わらせません。
「暁閃輪舞!」
光を刃へ折り重ね、関節のわずかな緩みへ差し込む。光の帯が肉の内を走り、対の足を落ちた。
即座に振り落ちた斧を転がり避け、隙間を作ると、
大牛は斧でボルディミアスを振り払い、赤い痕跡を残しつつ近づいて来る。
「グヌオオオ!」
大牛の目線が合っていない。剣で正面を塞ぐと、鞘に赤い雨が吹きついた。
「きゃあああ!」
満身ではないとはいえ、私を軽々と吹き飛ばすほどの威力。左腕に上手く力が流れ込んでいきませんね。いいでしょう。私も、もう逃げるのはうんざりだったんです。
「モゥ。隙は与えん」
突撃越しに連撃のように見える残像の大振り。あなたのあの技、参考にさせてもらいます。
剣を握りこみ大砲のような風を吹き出すと、大牛の背中はすぐ後ろの位置にあった。
トリカブトを添えて左腕の痛みごと斬撃を連続で重ね合わせる。
「粋華葬送」
痛つっ。腕が握られているように熱い。技は確かに決まった。大牛は左足から徐々に散っている。
「まだだァ」
斧を握るような勢いで顔へと近づく手のひら。斧は近くにない。最後の一撃を。
「水華……」
潤った剣を放つ位置を見ようとしたら、手が、止まった。
大牛は目を空に仰ぐと倒れ、骨を砕いたように肩、足、顔の順番に粉だけが顔を見せていく。
「終わったか」
「ええ。よい囮でしたわ」
「おい嘘だろぉ!」
散った灰を見て後退していく蛇の後ろ姿。家族の姿ではないので、今回は放っておきましょう。
薬を飲み終え剣先を持ち替えて彼女へ向けて真っ直ぐに掲げると、案の定その瞳は獲物を見る目でした。
「次は、あなたです」
彼女の意志を受け継いだような赤く靡いた空は、珍しく火の雨を降らせた。
数は百を超え、それぞれが大牛を押し潰すほどに大きい。何より方向が全く定まっていない。
このような芸当ができるのは、あの方しかいませんね。
目線を合わせると、彼女は手を振りさらに雨を落とす。
敵兵は周壁の内側へ移動し雨が止むのを待っていました。
お礼に後で修理費用を負担してもらいましょう。
「三人共、避けてぇー!」
また聞きなじみのある素直な声。
カリサと私の方向へ挨拶をしてきた炎弾が横から押され、壁へと飛び込んでいく。
箒に乗った二人は喧嘩の夕立を浴びながら降りてきました。本当に飽きない人たちです。
「何してくれてんの! エイビスに当たるところだったじゃない!」
「うるせえ、こっちに集中向けて姉姫様を守るとこのどこが悪いんだ」
「はぁ? 当たり構わず攻撃放つ味方なんてちっとも良くないわよ!」
「その話は後だ。待たせたなぁ、妹姫様!」
箒が風を集め足に炎が混ざり合っていく。
燃え混ぜる加速の蹴りで横へ突き進むと、彼女の檻の留め具を蹴り砕き、檻が地に落ちた。
ミカロの竜巻が道を開き、エルジードさんと焦りを思う彼女が飛び出した。
「遅れてすみません」
城門側から駆ける影が二つ。シオン様が息を整え、シオン様に謝りを見せるエルメインさん。
カリサは槍を肩に立て、手を振り下ろした。
「コイツ以外、生死は気にする必要はない。進め!」
異音の雄たけびが響き、私を避けるように道が分かれる。皆さんなら、何の心配もありません。
「カリサは私が引き受けます。他の敵はお任せ致します」
「もちろんだよ」
「了解した」
「りょーかい!」
「すぐ片付けるから、心配すんな」
こちらまで勇気をもらうような返答を受け、地を踊り駆けると、
槍に雷が絡み、突の芯が稲妻へと姿を変えていく。
有利な属性ではありませんが、やってみましょう。
風に揺られるような横への薙ぎ払い。剣と穂先が触れた瞬間、痺れが腕を駆け走る。
やはり抵抗は無視できませんね。
けれど囚われるほどの勢いではありません。槍を弾くたびに駆けだす速度も落ちていく。
これであれば、拮抗している状況には変わりないようです。
「面白い。これを耐えるか」
カリサの目が細く笑い、前足を上げて駆け出した。朝に微笑むマリーゴールドのイメージ。
足元へ滑り込み剣を構えると、槍が私を笑っていた。
互いの勢いはさほど変わらない。花の剣と雷の槍は互いに火を走らせていた。
「花で雷が止まるとでも?」
彼女は三日月の口をすると、空から雷が彼女の肩口へ落ち、全身を包む。
距離を取ろうと後ろへ飛び上がると、雷を纏い青光をまとった彼女の顔が目の前に迫っていました。
姿が消え背中に寒気が走り、私は即座に反転する。肩、腕、足。全ては守り切れない。
「英翔転雷!」
骨が折れるより痛い。
神経まで焼き切るような暑い一撃。彼女は私の動きを見て、迷いなく攻撃をしてきた。
自分の強さを生かすために、私の身のこなしを封じるために。




