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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第七章【家族】

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「一辺倒で助カッタ」

「誰が……」

「誰が一辺倒だってぇ?」


体に力を入れると血の流れが速まるのを聞き流しながら、箒を杖代わりに空を観察すると、

エルジードの箒が弧を描き、フクロウの側面を抜いた。

右手には拳に代わって、爆ぜる火薬の配列が指の間に並んでいた。


「いいこと教えてやる。俺は喧嘩売られたら、手加減なんか忘れるたちなんだよお!」


握りこんだ手から火の炸裂弾が飛び出す。

フクロウが避けるように姿を消そうとすると、エルジードは羽根を掴んだ。

引火の導線が走り、羽が灰色から黒色に変わっていく。復元は、後二回くらい。ここで決める。

白の柱を編み込み龍の牙みたいな弾丸を形づくる。


魔法魔方陣越しにフクロウと目が合った。もう遅い。準備は整って。ととのっ。

どうして、体が動かない。時間がないの。この指が動けば、それだけでいいのに。風が出ていかない。


「魔法を解除しないナラ、君は呼吸できずに死ヌ」


フクロウの声が静かに落ちた。嘘だ。力を入れればっ。指なんか折れてもいい。この魔法が放てれば。

指はワタシの憧れを貫くように一本たりとも動かない。

喉の燃え上がりが沸き立ってきてる。お願い、動いて。


横からの飛び蹴り。反芻している密度の高い風に突っ込むなんて、考えなさ過ぎ。

目に炎が沸き上がった。


「それを待ってイタ」


エルジードが背中から風に近づくと、龍は彼女に噛みついた。

箒は波打って彼女を地面に擦りながら到着した。

ありがとう。エルジードの分もおまけしてあげる。

指は風を粒のように飛ばすと、灰色の羽が赤く変わった。

飛んで行った弾丸の魔法は風を否定し丸い形となって地面に転がり川と合体した。

間違いなく水属性の魔法だ。今は理由はどうだっていい。

川の水を掴む感覚で引き寄せ風の形に整える。やり方を知らないはずなのに手が勝手に動いた。

形を変えた渦巻きがフクロウの足を掴むとフライドチキンを握った時のような感覚がする。


「ミカロ、風だ!」

「任せて」


左手で彼女の前に発射台を吹き出すと、指の弾くと爆ぜる火炎の砲弾が一直線に走り渦を貫く。

フクロウの胸を打ち抜き、水の渦ごと吹き飛ばした。

敵は見えない壁にぶつかると、彼女はいつもみたいにワタシの肩を叩いた。

時計が鳴る必要なく起きた朝みたいな気分で体を伸ばすと、フクロウは床に寝たまま動かない。


「エルジード、動ける?」


復元を中途半端に使ったから、痛みがワタシにまた襲いかかった。

脇腹の熱で今度はワタシでも炎が打てそう。


「当たり前だろ、治すぞ」

彼女が手を当てると光が脈を打ちながら、筋の張りが緩み、皮膚の赤みが退く。

言葉遣いとは裏腹にいつになく繊細で彼女の本心が見えたような気がした。


「まさか、水魔法が使えるとはな。白い魔法の影響か?」

「実は、よく分かんないの。多分、結界の影響だと思う」

「ま、お前もあんまり考えるたちじゃないのは知ってるから、そんなことだろうと思ったよ」


エルジードが箒にまたがると、ワタシに手を伸ばした。もしかして、あのデート再来じゃないよね?


「待って、お互い傷に響くから」

「姉姫様の命には関係ねぇ。最大加速で行くぞ」


返事をする間もなく、彼女は箒を絞った。空気が軋むような圧が生まれ、銀の線が遠ざかっていく。

残った灰色の羽が地に落ち、遅れて消えた。風がちゃんと頬を撫でる。肺の奥まで冷たい空気が届く。

エイビス、今行くから。



◇◇◇



百の足音が砂を踏み鳴らし、槍の穂先が光を拾う。

カリサが手を振り下ろすと、獣人の隊列が一斉にこちらへ雪崩れていく。

私は右手を上げ、隣の影に声をかけました。


「ボルディミアス、シェトランテさん。前へは出ないでください。巻き添えになりますよ」

「我は小物になど興味はない」

「分かったわ。試しておきたいことがあったけれど、後にしておく」


私は深く息を入れ、彼女との稽古で練り上げたスズランの勢いを剣に優しく添える。

刃筋を水平に払い、目に見えぬ花弁が幾層にも重なって前方へ広げていく。

香りだけが微かに遅れて届き、兵士たちの頬を撫でました。


先頭列が胸に手を当て、思わず足を止める。

いつも思うのです、なんて儚く純粋な花なのだろうと。

兵たちは自分の体を確かめ、私の花を笑う。それもそのはず。傷は一つもありません。


安堵と同時に全員が足を伸ばし、跳躍の軌道に身を投げる。

しかし、彼らは弧を描いたまま地面へ吸い込まれていく。

砂がゆっくり水面のように開き、百の影が沈み焦りの露が落ちていく。


「本当は第二段階を用意していたのですが、その必要はないようです」


私が囚われた蝶達を見て剣を下ろすと、二人まで毒を吸ってしまったような表情をしていました。

やはり、シオン様か、もしくはエルジードがいれば状況は違ったのですが、仕方ありません。

やむなく手を叩くと、二人はいつものか細い目つきに変わってくれました。


「解除までの時間はあまり多くありません。カリサのもとへ参りましょう」

「いいだろう」

「どうぞお好きに。私は囚われの御姫様を助けておくわ」


闘技場の奥、天井から鎖で吊られた檻。その中にシャルの姿が見えます。心配はいりません。

今の私に迷いはありませんから。

シェトランテさんが円盤を構え、火の砲撃を絞り放つ。


「させるか!」


横から声が抜け出ると、軌道が横に逸れ天井から落とし穴のような音。

隠れていれば無視したのですが、これ以上私の家族の姿で邪魔をされるのは気分が悪いです。


「シェトランテさん、援護を——」


剣を構えた私やシェトランテさんごと覆う影。

斧を担いだ三メートルを超える大牛による、真上から斧を振り下ろし、避けるため横にとび抜ける。

今はこの大牛をなんとかしないと、彼女を助けるにも苦労しそうですわ。


「人間の血を吸ったような赤黒い角、何度も太刀筋を受け強化されたような脚、

 人間の肉を幾分にも切り刻んだであろう腕。流石に貴様だけでは分が悪いだろう」


どうやら彼には大物に見えるようです。

素直に戦いたいと言ってくれた方が楽なのですが、これはこれで構いません。

ボルディミアスが一歩前へ出たのを見計らい反対側へと駆け出して行きます。


「重力層!」


大牛に空気が底へ引かれる感触が走っている。

遠距離なら五回くらいでしょうか。


「ゴアアア!」


大牛は喉を震わせ、地を抉って突進する。

線路を逸れない車輪のように、沈んだ地面の縁を押し広げていく。


「ならば、その足を止めさせてもらいますわ」


彼のあの言葉はヒントなのでしょう。相変わらず気になったことには口を挟まずにいられないようです。

今まで抵抗したどなたかのためにも、沁み込むような炎を剣に添える。


「赫焔の星舞!」


左後肢の古傷へ横合いの切り込み。手応えはあっても、足の動きが、止まらない。


「フゥ。小手先に頼る者に勝ちはない」


闇が降り、私とボルディミアスさんだけの箱ができていく。闇に覆われていないのは前と後ろだけ。

これでは、彼の能力もほとんど意味を成しませんわね。


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