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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第七章【家族】

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彼の向こうでは、マドクが膝をつき、ベルシュラウドの影が分裂していた。


「一対一で戦う堂々さはないみたいですね」


影が二つに割れ、揺らめきながら消える。拳で戦うにしてはリーチも足りないだろう。

僕は息を整え、エルメインへ言った。


「僕に振動を撃ってくれ」

「・・・私に撃たないでくれよ」


彼は両手を地へつけ、目を閉じた。足元から骨へ伝わる微細な振動が周囲を噴き上げる。

勢いを剣へと集め、火の飛沫と合わせて赤い刃が閃き空を切った。


「赫閃音斬!」


耳の働きを奪うように煩い斬撃はベルシュラウドの体が真っ二つに焼き、

宙を舞って落ちると風に乗って焦げ闇が散り、体は帽子のような音で落ちた。

マドクはベルシュラウトを見下ろし、静かに呟いた。


「よく戦った。友の力、無駄にはせん」


その言葉と同時に、マドクは友人を口に含み体が膨れ上がった。

筋肉が裂け、黒い瘴気が溢れた姿は合体を思わせる。


「どうやら、まとめて倒しておくべきだったようだな」


エルメインが身構え振動を溜める。僕は剣を構え直したが、次の瞬間、マドクの姿が目の前から消えた。


「消えた?」

「影移動だ!」


背後に気配。回避より早く、至高を思わせる方向の拳が飛んだ。

剣で受け止めたが、手が吹き飛ぶような勢いに体は飛んでいた。


「優れた力と、人の目に囚われない俊敏な動き。どうやらお前達に負ける要素はないらしい」


マドクが低く言い、地面に剣を叩きつけると、彼の拳はエルメインに囁いていた。

彼の拳を寄せる構えなど気にすることなく、

彼の強化された拳はぬいぐるみを弾くようにエルメインを王宮端の壁へと押し込んだ。

壁の色が赤く変わっていく。


「エルメイン!」


頬が笑った痛みを無視し足を進める。今ある右手の力をありったけ込め、一撃を狙う。

マドクは拳を下げ、こちらを見た。


「お前・・・まだ立つのか。敵わないと分かっていて立つとは、愚かだな」


マドクが影に沈み、僕の進もうとした先に現れると膝が僕を見て笑っていた。

腹へ牙を剥く攻撃を剣で弾き、足から上へと天へ掲げるように肉を分ける。


「紅蓮翔破ぁ!」

ミカロの瞬間飛翔を思わせる突撃が終わると、恐れの意識は消えた。

肉を千切った感覚はあったが、マドクの横にずれたような残像の感覚が気になる。後ろを確認すると、

マドクの左肩より上部分が削り取られていた。

彼は指で顔を触れ、赤い世界を確認していた。


「確かに避けたはずだ。お前、何をした?」

「敵に教えることは、何一つないよ」

「これでもかァ!」


マドクは黒池に潜ると、僕へ姿を見せる。合体しても性格はそんなに変わらないらしい。

左手の冷静さと右手の真剣さが剣に混ぜていく。

腹から踊るような剣の動きで彼の懐へ抜け肩を弾くと、彼は動きを止めていた。


「貴様、なぜ俺の体に触れられる?」

「実は、僕にもよく分からないんだ」


剣を下すと彼の肩から腹へ蒼炎の軌跡が走り、マドクの体を斜めに裂く。

巨体が止まり、ゆっくりと倒れる中、マドクは口の端を上げた。


「そんな冗談、俺は信じない」


まるで再戦を望むような言葉を置くと、そのまま動かなくなった。


「・・・今度は動かないみたいだ」


剣を下ろし頬の赤い口を閉じると、紅白の服になったエルメインが近づき、手を差し出す。


「本来なら、複数人で倒すべきところをほとんど一人で片付けるとは、見事だった」

「これくらいのことができないと、レチカに怒られるからね」


握手を交わした瞬間、彼の体が傾いた。


「エルメイン!」

「・・・実を言うと、あまり回復していなくてな。」


彼の声は年季の入った通話のように掠れていた。


「こんなところで休んでいる暇なんてないですよ」

「ああ、背負ってもらえると助かる」


そんなことを言いつつも、動かそうとした右靴は地面を擦った。自然と力が入っていない。

エルメインは僕の靴を見て笑った。


「情けない」

「同感だ」


仕方なく、僕はエルメインを背負い直す。

足元の草を踏みしめ、遠くの闘技場を見据えた。

エイビス、無事でいてくれ。

その祈りを胸に、僕は歩き出した。



◇◇◇



大木の幹みたいに恰幅の大きいフクロウが琥珀の目でこちらを射抜く。

翼は閉じ、くちばしだけがわずかに持ち上がった。


「運が悪かったナァ。お前たちの魔法はこの場で掌握されてイル」

「俺の炎はお前なんかに収まるほど軟じゃねぇ」


エルジードの声が低く落ちる。


「試してミロ。火でも風でもイイ」


フクロウの瞼が細くなる。

エルジードが指先を弾いても、火花は生まれなかった。空気が乾いているのに、燃えない。

舌先が渇いてきたみたい。ひとまず守りを固めるのが先。

火が塞がれているなら、エルジードを守る側に回さないと。


「エルジード、下がってて」

「守られる必要はねぇよ」


ワタシの考えを燃やしてエルジードが一歩踏み出すと、

灰色の羽が渦を描き、フクロウの巨体がこちらへ滑り距離が歪んだ。狙いはもちろん彼女だ。

ワタシは彼女の前へ出る。杖に風の勢いを組む。けれど風は纏まらない。

間をすり抜けるだけで言うことを聞かず離れていく。

そんな間にエルジードは箒へ跳びだした。


「エルジード、戻って!」


返事は来なかった。フクロウの翼がわずかに開いた。見えない刃がワタシに嚙みついた。

冷たい線が脇腹をなぞり、皮膚の下へ深く沈む。体の芯が揺れる。足が勝手に沈んだ。


「ミカロ!」


エルジードの声が硬い。心配はしてくれる、みたい。


「今、回復する。耐えろ」


彼女の手に光が集まり温かな気配が走り出した瞬間、フクロウが箒の柄を蹴り上げた。

エルジードの体勢が崩れて、癒やしの光が軌道を外れる。

曲がった光がフクロウに吸い込まれ、落ちた分の羽が増えていた。

遠距離で使うと損するだけだから、至近距離で決めないと。


「これは結界ダ。風と火、その向きを私が決めル」


呼吸を整え、もう一度風魔法を試す。今度は古代式。

読んだ通り、風は私に微笑みフクロウに飛び上がると、フクロウは姿を消した。

これなら何とかなりそう。復元で傷を治すと敵は姿を見せた。


「ホゥ、面白イ。掌握しきれない魔法があるトハ。だがもう遅イ」

「おい、俺のこと忘れてる余裕があんのかぁ」


エルジードは箒で一気に間合いを潰して右の拳を叩き込む。

フクロウの頭が少しだけ揺れると、首が縦にリズムを取った。


「結局、君は魔法が使えないノカ。まだまだ子供ダナ」


子供の喧嘩みたいな言葉遣いだが、エルジードにとっては十分な薪になったみたい。

彼女の肩は燃えていた。


「上等だ。逃げるなよ」


彼女はフクロウに近づいたけれど、羽の影が壁の影と重なって、位置がずれちゃう。

追いつく足と、届かない間合いに頭は噴火しているように赤かった。

二人で戦った方がいいけど、今はエルジードを解放した方が早そう。動きが速すぎるけど、体格に合ってない気がしてワタシは空間把握の魔法を放った。


「空間把握」


フクロウは魔法を放ってもエルジードの攻撃を避けるだけでワタシのことを気にしていない。

迷路のように絡む結界の内側で、ひとつだけ反響が吸い込まれる窪みがあった。風のステップで飛び出し、龍の口を開いた。


「ドラゴニク——」

龍が咆哮を放とうとした瞬間、脇腹に熱が刺さった。

この柔らかさと反発高い枕みたいな肌ざわりが好きだったのに、最悪。

龍は咆哮を空に向けて放ってしまった。膝も勝手に力が抜けた。

視界の端で、フクロウがゆっくり頷いた。


「よくぞ見つけた小娘。だが、攻撃の瞬間を狙わないとデモ?」

何これ、ただの炎弾じゃない。呼吸を食べられてるみたいに、呼吸が落ち着かない。

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