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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第六章【隔界】

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目が覚めたとき、天井の木目がやけにくっきりしていた。

枕元ではミカロがベッドをテーブル代わりに眠り、ソファではエイビスが膝掛けを肩にのせて浅い呼吸を繰り返している。

腕を伸ばし、ミカロの髪にそっと触れる。

銀糸が指先を逃げ、彼女は弓のように体を起こして僕の胸に抱きつき、顔を押し当てた。


「シオン、起きたんだね。よかった……」

「何言ってるんだミカロ。起きるなんて当然だろう」


物音に気づいたのか、エイビスが立ち上がり、目の端で涙をぬぐいながら近づいてきた。


「シオン様・・・」


エイビスは卵から孵った雛を見るような目で僕を見ると、見えない殻を割り始めた。


「シオン様は四日間、眠ったまま目を覚まさなかったのです」

「え・・・」

「ワタシ、もう嫌だよ。無理しないで」


ミカロの顔を流れていく星屑を素直には見ていられない。

こんなに眠った経験はないが、僕の時計が何か狂い始めているのかもしれない。


「今は脈も呼吸も落ち着いておられますね。ですが、心配事が消えたわけではありません」

「体の違和感は特にないよ。」

「当然の務めでございます。ですが、どうか・・・」

「無理はしない、だね。もちろん理解しているよ」


ほどなく、エイビスが送った連絡に応じてシェトランテが来た。

寝不足の二人に休めと目で合図し、「私が引き継ぎます!」と簡潔に告げる。

ミカロとエイビスは最後に短い挨拶を置いて、部屋を後にした。

シェトランテは珍しく柑橘や林檎がぎっしり詰まった大きな籠を差し出す。

つまみ食いはしていないようだ。


「栄養を取ってから話すわよ。慎重に素早く食べなさい」

「相変わらず無茶なことを言ってくれるね」


急ぐあまり、僕は切らずに果実をかじり、喉に詰まらせたので、シェトランテが無言で水差しを渡してくれた。


「さて、あなたが寝込むのは何回目」

「正確な回数は覚えていないけれど、数回以上であることは確実だよ」

「期間、誘因、戦況を時系列で。箇条書きで書いて」


事情聴取のような細やかさで、僕は最近の戦闘を順番に伝えた。

吸収を発動した場面、相手属性の負荷、目覚めるまでの時間。

シェトランテは途中から、研究対象のネズミを見るような目になった。


「結論。相手の属性を吸って返す戦法は、やめるべきね」

「理由を聞いても?」

「蓄積の反動が来ているのよ。あなたは抱えている器を自前で補修しているみたいだけど、綻びが見え見え。目覚めない期間は今後さらに伸びて、最悪、戻ってこない確率すら上がっていくはずよ。

 君は仲間のピンチで躊躇なく投げ込むって聞いているから、なお悪いわ」


客観から飛んでくる正しさの記録は痛い。僕はここにいない三人の顔を思い浮かべながら息を整えた。


「仲間を守るための選択に、迷いはないよ。シェトランテ、君も含めてね」

「口論の準備はできていたけれど、まさか私まで入っているとはね」


彼女は視線を逸らしてため息をひとつ落とし、表情を引き締め直す。


「ま、結論は後でもいいわ。十三時にセインを見送るからロビーに集まりなさい」

「分かった」


シェトランテが出ていくと、静けさが戻る。僕は枕元の端末を手に取り、三日前のメッセージを遡った。ミカロの乱れた文字とエイビスの丁寧な経過報告。迷惑が僕の胸を槍で突くような音がする。

二人に礼を返し、身支度を整える中、ペンダントが胸元で冷たく、少し重たく垂れ下がった。


十三時にロビーへ集まると、最初にいたのはエルジードだった。

狐色の外套に塔の炎を思わせる表情からは暴力の言葉すら消えていた。


「よし、揃ったな。段取りは全部、俺が持つ。ついて来い」

「頼むよ、エルジード」


僕らは墓地の縁にある小屋へと移り、薪の匂いと海風の湿気と出会った。

白布で包まれたセインが棺に納められ、全員で顔を確認する。

眠っていると勘違いしそうなほど静かな顔だ。エルジードは帽子を脱ぎ、短く言った。


「一言ずつだ。長い弔辞は彼女を傷つけちまうからな」


シャルルローゼスは礼儀正しく小さく手を挙げると、セインとの距離を縮めた。


「セインさん、あなたに守ってもらったこの命、自分の理想を実現するために使わせていただきます。天国で見守ってください」


エイビスはシャルルローゼスの肩を並べると、

思いを伝えるかのように深々と頭を下げ、空を忘れたように彼女は顔を動かさなかった。


「私は、あなたが私たちに仇なす不届き者とずっと疑っていました。私達を守るために動いてくださったのに・・・あなたの恩を私は忘れません」


後悔の雫が零れていくなか、エイビスの肩を叩き彼女は顔を起こすと、解放された顔を改めて確認した。


「セイン、君の道標を僕達が繋ぐ。だから安心して眠ってくれ」


ミカロが先に進む。震える膝を自分で叱りつけて、棺の前に立つ。


「お姉ちゃん。ありがとう。ワタシ、まだ整理がついてないけど、前に行くよ。見てて」


言葉はそれだけで十分だった。

エルジードが火の式を置くと、炎は無駄なく仕事を始め白布が、骨が、静かに灰が顔を出した。

灰は壺に収められ、僕らは海の内側へ移動した。断崖の上、波が遠い。

エルジードは蓋を外し、風と相談し、灰が飛び出した。


「手紙にあった通り、彼女の意向に従おう。迷惑にならないよう、静かに還してやる」

「彼の灰はそのまま墓標にしまっておこうと思います。恐らくオラクリエさんはまた冗談を言ってきそうですが、こちらとしてはそれが丁度良いですし」


灰は光に溶け、海に散った。

ミカロは目を閉じ、エイビスは胸に手を当て、シャルは手を合わせ続けていた。

オラクリエとセインの墓標が整うのを待つ間、僕はセインのペンダントを取り出した。

胸の内側で、僕のものと触れ合う。


次の瞬間、ふたつのペンダントは青い光を帯び、ミカロやエイビスとシャルルローゼスの首元でも同じ光が灯った。

五つが近づくと、微かな機械音が起き上がる。

縁がわずかに開き、中から薄い紙片が顔を出した。


「これは・・・」


エイビスがテープを取り出し、膝をついて紙片を並べていく。

シャルルローゼスが位置を読み、ミカロが端を押さえる。

最後の一片が収まったとき、写真がひとつの風景を結んだ。


聖域作戦の前、だろう。隠し撮りの角度で、五人が写っている。

セイン、ミカロ、僕、エイビス、シャルルローゼス。誰も真面目にカメラを見ていない。

僕は横顔で、エイビスは微笑み、シャルルローゼスは目線を外し、ミカロは手を振り、セインだけはこちらを見ていた。

あの人らしい、少しだけ悪戯の混じる目だ。


「御姉様、この写真はシオンさんに持ってもらいましょう」

「そうですわね」

「こんな仕掛け、最初から用意してたのか。やられたな」


エルジードが小さく笑い、海の方へ頭を下げた。

僕らは彼らの墓標に祈りを捧げ、写真を胸に戻し、宿へ戻った。


部屋に集まると、空気は自然に仕事の色になる。

シェトランテが端末を広げ、エイビスとシャルが並ぶ。


「んじゃ、血液検査の結果発表だ」


エルジードの顔は今にも炎を吹くような顔をしていた。


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