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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第六章【隔界】

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――――――


妹ができると聞いた時、俺の心にはドラムが弾けるような音が広がっていた。

彼女が生まれた後、病弱であることを聞かされるまでは。

当時の俺は暇さえあれば禁じられていた森に駆け出しては興味のあるものに目を奪われ好奇心のままに探検を楽しんでいた。

木の棒と石で作った槍が懐かしいし、今でもそれらを見るとロープを持ってきて作りたくなる。


「ただいま」

「おかえりお兄ちゃん。今日はどうだった?」

「今日はすごいぞ、ヒカリダケにナツヤムシ、ウンドコゴケもあった」


禁じられていたという理由は当時分からなかったが、悪影響が特にないことから俺の好奇心は留まることを知らず、いつもエリミオラに土産話を持ち帰って話をすると、彼女は目を電球のように光らせて喜びを見せていたが、それ以上に影ができていなかったことをその時は知らず、たまに森に入っていたことを怒られて大人達は臆病なのだと思っていた。

そして好奇心は駆け出した。俺が十七歳になった頃だ。


「兄さん、お帰り」

「エリミオラ、今日は調子いいな」

「うん。兄さんの話を聞いたら、私もなんだか楽しく……コホッコホッ」

「エリミオラ!」


隠しているつもりだろうが、エリミオラの体調は良くなるどころか段階として悪くなっている状況だった。

前は歩けていたが、今は歩いている姿を思い出せないほどに覚えがない。

だが俺もエリミオラが弱っている姿を見ているほど間抜けじゃない。

森に眠っているとされる万能の花、ラフタロリウス。

資料に間違いがなければどんな病でも治せるという魔法治療のような素材。

これがあればエリミオラを助けられる。そう思い俺は森の深部に入りマッピングをして花を探していた。


ただ、誰に尋ねても知っている人がいなかった通り、マップを全て埋めても見つかることはなかった。

あの時の大岩を落とされた時の感情は今でも忘れられない。

だが、俺は納得いかず最後に踏破した遺跡の周辺を訪れ、気が付けば時間は夜になっていた。

虫や鳥の会話は消え地面と木が揺れ踊っている。


「やっぱり古文書を読み解いた通り、昔の幻なのかもしれないな」


鈴の音が森に響く。いつか聞こえた違和感の音だ。

音の方角を見ると、そこには鈴を持った一輪の白い花が月に顔を見せていた。

見たことない花だ。まさか、ラフタロリウスなのか。


手を伸ばした瞬間、横から死神が顔を出した。

手を槍で弾くと、そこには黒い血を流す猪が花という宝を守るように立ちふさがっていた。

見たことない個体だ。今日はついてるな。


「兄さん!」

「エリミオラ?」


声の正体に異変を感じる間もなく、猪は俺と押し合いの勝負を仕掛けてくる。

黒い液体は特殊なものなのか、体に触れた部分が焼けるように熱い。

が、耐えられないほどじゃない。

横目で確認してもやはり夢じゃない。エリミオラは木の裏から俺を見える位置にいた。


「逃げろ、エリミオラ。後で花を持っていく」

「案ずるな。そんな理想は叶わんよ」


さらついたスープのような低い女性の声。姿は見えないが、声の特徴は今でも覚えている。


「誰?」

「知る必要もない。貴様はもう話すこともないのだからな」

「逃げろ、エリミオラ!」


エリミオラが抵抗する時間すらなく、女は手を投げるように振り払うと、エリミオラは胸から噴水をあげた。

俺の目は赤く染まり力が高まる中、エリミオラは俺の目を見て口を動かした。

なんと言ったのは今でも分からない。ただ、ありがとうと言っているようには見えた。


「エリミオラ!」


妹が倒れるように黒い液体は今でも忘れられない。


――――――


「炎剣烈破!」


エリミオラの鎧に触れると剣先が吹き飛び刃がこぼれていく。

魔法による炎の剣先が姿を見せ液体を散らすように渦巻きの勢いを放ち、姿を見せた核へ直線の斬撃を放つ。

今度は砕けた感触があった。


「やった、な」


黒は裂け、液はほどけ、エリミオラの形が一度崩れて――静かに、消えた。

御姉様に一歩近づけた。腕は照らされ続けたように熱く、空に嫌われたように上がりもしない。

私もまだまだ成長が足りないようです


「終わりました。ありがとうございます、オラクリエさん——」


振り返ろうとした瞬間、空気が冷えました。

消えたはずの黒が一滴だけ残り、白へ反転して震えていく。最後の抵抗は声より早く耳へと飛んできた。

オラクリエさんの手のひらが私の肩を押し、私は石畳の外へ滑り出る。

白い針が彼の胸を貫き、触れていた腕ごと、輪郭が灰のように解けて飛んでいった。


口で何かをおっしゃろうとしていた。けれど残酷に声とはならず、ただ空気だけが通り過ぎている。

白に変わった体液は、音もなく散り、残響だけが笑った。

音のない笑い声が石庭の輪郭を冷やし、気配は風に溶ける。

私は駆け戻り、灰をかき集める指を止められませんでした。


「……オラクリエさん」


作業の邪魔をするように水が零れていく。煩わしいと思っていても、これからないと思うと寂しく、何より黒岩が心に溜まっていく。


作業の邪魔です。

袖で拭い、吸った息を並べ袋にまとめあげていく。

石庭の中央、最後のポータルが細い輪郭で揺れている。

彼が開けた行間を、私が閉じなければ。


「御姉様、ミカロさん、シオンさん。すぐ参ります」


誰にともなく告げて、私は杖を握り直した。帰るために。彼の覚悟を伝えるために。


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