↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第十章【女神】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
116/118

116

「拒絶症状ね。可哀想に」


ベルメディアは苦々しそうにそう言うと、自分の右腕を肘のあたりで切り落とした。落ちた腕は空中で灰になり、すぐに新しい腕が生えてくる。

再生の光を一度確かめてから、彼女は僕の方へ視線を向けた。


「自爆してくれるなんて、最高の贈り物だわ。あの子はもう、持たない」

「ミカロは、そんな安い賭け方はしない。僕は彼女を信じる」


胸の奥から湧き上がる怒りが、呼吸と一緒に溢れ出る。僕はベルメディアへ飛びかかり、斬撃を重ねた。防御は後回しでいい。今この瞬間に、彼女の笑い声だけは止めたかった。

一撃、二撃、三撃。四・五の斬撃に入る頃には、腕の筋肉が悲鳴を上げていた。それでも止めない。ベルメディアが左手を掲げる。

八つの氷弾が、花弁のように開いて僕の顔面へ迫る。


「邪魔ね」


右腕をわずかにずらして、彼女の右肩を狙う。その瞬間、氷弾が顔にぶつかり、皮膚が切り裂かれた。視界が白く霞む。血が頬を伝う感覚だけが、妙に生々しい。

それでも剣は止めない。氷弾の衝撃を押し切りながら、刃をベルメディアの腹へねじ込んだ。


「遊びを終えるには、まだ早いよ」


息を吐きながらそう告げると、ベルメディアの瞳に、ほんのわずかだが驚きが走った。

彼女の視線が、僕の背中へと移る。

いつの間にか、背中にまとわりついていた水のマントが厚みを増し、肩には稲妻を象った肩当てが浮かび上がっていた。

先ほど吸収した風と雷、そして水。その全部が、形になっている。


「・・・嫌な予感がしてきたわ。君の力、何か変よ」


ベルメディアが言い終えると、地上から光の柱が伸びてくる。火、風、光の三属性が絡み合ったレーザーが、ベルメディアの背中を焼いた。


「シオン、今!」


振り返ると、ミカロが空中に浮かんでいた。身体には目立った傷はない。

けれど、銀色だった髪が、夜の光を弾く金色へと変わっている。彼女の面影が、ふっと脳裏をかすめた。


「眺めてる暇なんて、ないよ」


ミカロは短く言いながら、僕の頬を指でつまんだ。いつも通りの軽さに、胸の奥の恐怖が少しだけ和らぐ。

ベルメディアの身体が、黒い球体へと変じていく。表面に赤い模様が浮かび、その周囲に六つのリングと砲台が展開された。


「やっと、少し遊べる相手になってきたじゃない」

「さて、どうかな」


砲台から光と闇の弾が次々と飛んでくる。肌をかすめるたびに、星血の気配が神経を逆なでする。怖くないと言えば嘘になるけれど、今さら引く気もなかった。


「シオン、右上、任せるね」


声だけ投げて、ワタシは風と光で自分の身体を押し出した。視界の端が伸びていく感覚と一緒に、三つの砲台へ一気に肉薄する。風を槍に、光を刃に変えて、一つずつ丁寧に壊していく。

リングが一つ割れるたび、胸の鼓動が少し軽くなった。


「真似事ね。龍を肩に乗せる発想までコピーするなんて」


左肩に火と水を、右肩に闇と光を。それぞれの魔法陣を肩口に固定すると、二つの龍の顔が形を取った。熱と冷たさ、光と影が皮膚の下で混ざり合って、少しくすぐったい。


「真似事かどうか、試してみたら?」


ワタシは肩をすくめた。軽口で自分の緊張をごまかしているのは自覚している。それでも、言わずにはいられなかった。

彼女はその返事が気に入らなかったらしい。細めた瞳に、ほんの僅かな苛立ちが混じった。


「なら、教えてあげる。次元が違うってことを」


両手から伸びた彼女の龍は、ワタシの肩の龍よりもずっと細く、鋭かった。収縮しきった極細のブレスが、空を一本の線で切り裂いてくる。

胸の奥がざわついた。あれを正面から受け止めるのは、正直言って無茶だ。それでも、逃げずに済むなら逃げたくなかった。


「だったら、こっちも本気で行くよ」


両手を前に突き出し、風魔法を集中させる。掌の上で、透明な龍の顔が二つ、形を作る。左肩・右肩・両手。合計四つの龍が揃った瞬間、肺の奥が焼けるように熱くなった。


「ファイロン・ドラゴニクス!」


ワタシの龍たちが一斉に咆哮を放つ。火、水、闇、光、風。みんなの力を混ぜて、一本の奔流にして細いブレスへぶつける。

よし、均衡が取れた。世界が押し合いっこをしているみたいに、視界の中心が揺れる。ベルメディアのブレスは、密度が高すぎて動きが硬い。それでも、じわじわとこちらを押し返そうとしていた。


「体を張っただけの無駄よ。意味なんてない。吹き飛びなさい」

「無駄かどうか、この攻撃を跳ね返してみてよ! 女神様!」


勝ち慣れたベルメディアの声がした。強すぎるからこそ、疑うことを忘れてしまった声。

ワタシは、つい笑ってしまった。


「ベルメディアと違って、ワタシは皆の力を借りて戦う。一人じゃないから、怖くない」


思い浮かぶ顔がある。私がドルフェリアの図書館で古代魔法について調べていた時、本をいっしょに開いて、夜更かしして、眠そうな目で笑っていたシャルの顔。


「古代魔法、最後まで付き合ってくれてありがとね、シャル」


呟きながら、両手の陣に氷の龍を上乗せする。冷たさが骨まで染み込んで、指先が痺れる。それでも、痛みごと受け止めて前へ押し出した。

五体だった龍の咆哮に、氷の咆哮が重なる。色とりどりの光が入り混じって、ベルメディアのブレスを押し返し始める。

彼女も出力を上げようとしていた。だけど、極限まで細く絞りすぎたせいで、そこから先に力を足せない。綺麗に磨きすぎた刃が、逆に折れやすくなるみたいに。


「な――」


ベルメディアの声が、初めて揺れた。


「試してみたらって言ったでしょ。無駄かどうかは、最後まで分かんないんだよ」


ワタシの咆哮が、彼女のブレスを呑み込んでいく。黒い球体だった分身体が、輪郭を崩しながら霧になって消えていった。

胸の奥に残ったのは、勝利の高揚だけじゃない。予感もあった。


「こっちはやっぱり、分身か」


視界の端で、別の場所にいるベルメディアの気配が跳ねる。シオンの魔力の揺れ方も、一段階違っていた。きっとそっちが本体だ。


「シオン、今、行くよ」


小さく呟きながら、ワタシは風を足元に集めた。身体が軽くなる。仲間の顔が、次々に脳裏をよぎる。


「皆も、あと少しだから、踏ん張って」


そう心の中で約束して、シオンのいる方角へ、ワタシは風に乗って飛んだ。


黒い大剣が、僕の首筋を刈り取る角度で降り注ぎ、視界の端が一瞬だけ暗くなる。怖いのは刃じゃない。刃にまとわりつく黒が、触れた瞬間に身体の感覚まで奪っていきそうなところだ。


「異変はあったけれど、その程度。あの女ほどの抵抗はなさそうね」


ベルメディアが笑った。

その笑い方が、妙に腹に来た。戦いの最中に余裕を誇示する相手は何人も見てきたけど、彼女のは、余裕じゃない。僕らの積み上げを、最初から価値がないと言い切る顔だ。


「どうかな」


僕は剣を構え直した。


「自分が優位であることを話す割には、僕にはあまり攻撃できていないぞ」


言い終えた瞬間、背中に冷たい汗が伝った。挑発はいつだって、自分の首を差し出す行為だ。けど、今は引けない。ここで黙ったら、ミカロの覚悟まで踏み潰される。


「そんな見え透いた言葉には乗らないわ」


ベルメディアの声が低く沈んだ。

次の一撃は軽い。軽いのに、速い。大剣の重さで押し潰すんじゃない。黒そのものを滑らせて、僕の防御の間を抜いてくる。僕は右肩に風を足す。肩甲骨の奥が熱くなって、羽のない背中に無理やり翼を縫い付けたみたいな感覚が走る。

刃が触れた。触れたのに、切れない。黒い大剣の勢いが、途中で止まった。


ベルメディアの瞳が細くなる。吸収の反応を読まれた。僕の狙い通りでもあるけど、僕の身体も同時に縛られた。

剣を構えたまま、足が一歩遅れる。吸収は万能じゃない。受け止めた瞬間、僕の中の黒が重くなる。骨の内側に鉛を流し込まれたみたいに、動作が鈍る。


「愚民が。私の欠片を拾っただけで、黒を使えるとでも?」


ベルメディアが吐き捨てた。


「欠片で十分だ」


僕は歯を食いしばって前に出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。