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「手で魔法を使えるのは、あなたお一人ではありませんよ」
シャルルローゼスが静かに言った。彼女は両手を前に突き出した。
誰かを思うように花開いた氷が映ると、彼女と練習している顔が浮かんだ。
「アイクルシア・ラスタリウス!」
氷の紋が鎖のように繋がり、セリアへ向かって伸びる。
「やらせるかああああああ!」
セリアは風魔法で、それを上方へ弾き上げた。氷の連鎖が軌道を外れたのを見て、彼女はわずかに肩の力を抜く。
「ハッ、ハハッ。残念だったね、奇策ではあったけど所詮は浅知恵のようだ」
「どうやら、魔法は私にほほ笑んでくれたようです」
「は?」
氷が黒く光ると、セリアの足元の地表から、六つの氷の太槍が突き上がる。地面に刻まれていたシンボルが、遅れて発動したのだ。
「・・・っうぁぁあああ!」
セリアは胸から腹を貫かれた。白いトップスが、ゆっくりと赤く染まっていく。
「まだ……だ……」
彼女は悔しそうにそう呟き、そのまま力を失って倒れると、赤い池が広がった。
シャルルローゼスの腕や手は、衝撃の強さを物語るように紫になっていた。
血管が浮き上がり、痛みで小刻みに震えている。
「シャルルローゼス!」
僕は彼女の元へ駆け寄ろうとした。
「止まってください」
シャルルローゼスが首を横に振った。
「私は大丈夫です。それより、先に御姉様のところへご移動を」
「でも、その腕は」
「御姉様はお一人かもしれません。優先すべきです!」
その言葉に、彼女の本気度がにじんでいた。僕は躊躇しながらも、頷いた。
「必ず戻る。ボルディミアス、彼女を頼む」
「いいだろう」
ボルディミアスが頷いた。僕は左右に分かれた道まで戻った。先へと進める中央の扉は一度無視し、左の通路から先へ進む。
そこで、エイビスとエルジードの二人と合流できた。
「シオン様」
エイビスが安堵の表情を見せる。
「二人でこの制御室も確認しましたが、船の電気系統は既に稼働しておりませんの。自動浮上は謎ですが、制御が奪えないようです」
「別の方法を探すしかねえな」
エルジードが腕を組んだ。
「このまま放っておいたら、どこまで上がるか分りませんし、残りの時間は短いのかもしれません」
「ここはひとまずシャルルローゼス達と合流しよう。一度、中央の扉に戻ろう」
僕は二人にそう提案した。再び中央の大広間へ戻ると、大きな扉の前に、九つの色違いのタイルが並んでいるのが見えた。
赤、青、緑、黄色――それぞれが淡く光を放っている。
「何か、仕掛けがありそうですわね」
エイビスがタイルを見下ろした。
「色の選択か、法則があるのか……」
「考えすぎると頭が燃えるぞ。とりあえず、押してみようぜ」
エルジードは軽い調子で言いタイルへ手を伸ばそうとしたとき、僕は扉を見た。
「・・・いや、もっと単純な解決策がある」
僕はタイルには触れず、自分の右拳で扉を叩いた。全力ではなく、それでも、気持ちを込めた一撃。
鈍い音と共に、扉全体が軋み、そのまま仕掛けごとゆっくりと倒れ込んだ。タイルの光が同時に消え、隠されていた内側の通路が姿を現す。
「・・・」
エイビスが呆然と入口を見つめた。
「シオン様、それは……少々、強引が過ぎますわ」
「いいじゃねえか。正々堂々で俺は好きだぜ」
エルジードが笑った。
「御姉様! 合流できて良かったです」
少し遅れて、シャルルローゼスとボルディミアスも追いついてきた。
シャルルローゼスの腕の色はまだ痛々しいが、意識ははっきりしている。
「ミカロは、どこにいるのでしょうか?」
「いや、彼女は大丈夫だ。僕達は先に進もう」
僕たちが足を踏み出そうとした、その瞬間だった。シャルルローゼスの上半身に、白く透明な重たい液体が降りかかった。
度の高いそれが、生き物のように彼女の体を包み込んでいく。彼女は液体を引き裂こうと肩を広げるが、紫の腕の影響か肩はむしろ縮まっていく。
「解け、ない……」
「シャルルローゼス!」
僕は彼女へ駆け寄ろうとした。
「シオン様」
エイビスが僕の腕を掴んだ。
「ここは私にお任せください。シオン様には、先へ進んでいただきたいのです」
エイビスはそう言って、自分の剣を引き抜いた。
液体に抵抗を与えないよう、細かく刻むように刃を動かし、シャルルローゼスを包んでいる膜だけを切り離していく。
白い液体は糸のように裂け、床へと落ちていく。解き放たれたシャルルローゼスが、苦しそうに大きく息を吐いた。
「御姉様、ありがとうございます」
「シャル、ここはお任せください。シオン様、エルジードさんと共に先へ」
エイビスは振り向き、まっすぐ僕を見る。その目に込められた信頼と覚悟を見て、僕は頷くしかなかった。
「分かった。先の安全が確保出来たら、連絡する」
「行くぞ、シオン」
エルジードが肩を並べた。僕とエルジードは、エイビスの願い通りに奥の通路へと走った。
そこを抜けた先は、雰囲気のまったく違う空間だった。高い天井まで届くパイプオルガンが一台、壁際にそびえている。
その前には長椅子が幾列も並び、まるで礼拝堂のような造りだ。静かな空気が、断りを入れるような雰囲気で僕たちを迎えていた。




