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「やっぱりぃ、そう来ると思った」
彼女は懐から別の短剣を引き抜いた。ミカロの姿をしたオルウェラの動きだった。
彼女は僕の隙を突いたつもりだったのだろう。だが、そこへ既に、僕の炎の斬撃が走っていた。
「えぇー。どうして、気付けたのかしら」
オルウェラは炎をまとった一撃を受け、後方へ弾かれながら声を絞り出した。
「ミカロは、助けてなんて直接言わない。素直なところを見せるのが苦手なんだ」
それに、あの庭園で約束もしてくれたしね。
◇◇◇
肉サンドを腹にしまった後、ミカロは僕の肩を叩いた。
「もしさ、シオンと一緒に二人だけで戦うことになったら、お願いがあるの」
次の獲物を狙うような鷹の目みたいな表情に僕の目線も研ぎ澄まされた。彼女は空の風流れを確認しつつ口を開いた。
「ワタシもシオンみたいに一対一で戦ってみたいの。エイビスのために戦った時は偶然そうなったけど、できれば自分だけでどこまでできるのか、見極めたいの」
彼女の凪に似た目を見ると、答えはもう決まっていた。
「分かった。反対側は任せるよ」
「ありがと。でも、ワタシが本当に限界なときは、ちゃんと決めた方法で知らせるから。だから、それまでは自分の戦いに集中してて」
◇◇◇
ただ、その言葉よりも気になっていた部分があるのだけれど。
「それに、君は細かいところでミカロの真似が雑だったよ」
僕はオルウェラをじっと見た。
「ミカロはよく目を見てくるんだ。多分、本人は気づいていないかもしれないけど」
「・・・そんなところまで見ているなんて、本当に厄介」
オルウェラの視線が揺れる。
「それと、ミカロは戦いをただ見ているほど呑気じゃないよ」
僕が言い切ったとき、横から強い魔力の気配が立ち上がった。
「よく分かっってるじゃん」
彼女の杖には、火、水、風の三属性が渦を巻いている。傷だらけの腕で、それをしっかりと支えていた。
「シオンをワタシの姿で騙そうとか、謝っても許さない。本気でいくから。フレアドルフィード!」
溜め込まれた魔力が、一気に解放される。三色の流れがオルウェラへ殺到し、彼女の周囲の煙を巻き込みながら爆ぜた。
衝撃波が回廊全体を揺らし、オルウェラの悲鳴がかすかに混じる。
「・・・やったか?」
僕が息を吐いた瞬間、足元から桃色の煙が伸びた。ミカロの体が、大きな煙の腕に絡め取られる。
彼女の腰から上が吊り上げられ、身動きが封じられた。同時に、僕の正面へ、風属性の衝撃波が飛んでくる。
姿の見えない攻撃だが、空気の歪みで軌道は読めた。体を捻って避ける。
「まぁだ終わってない、から」
肩に傷を負いながらも、オルウェラは笑っていた。桃色の腕を操り、ミカロを床へ叩き落とす。
「んぐっ」
「小さな虫を潰すみたいで、楽しいわぁ」
連続した拳の形の煙が、ミカロの体を何度も叩きつける。見ているだけで胸の奥が焼けるような感覚が広がる。
その一方で、ベルトの気配が再び近づいた。オルウェラの動揺も重なり、周囲の光と影がわずかに揺らぐ。
僕の足元に落ちていた影の位置が変わり、そこから伸びていた湾曲刀の気配が、一瞬ふっと消える。
「このタイミングだな」
僕はベルトが残した闇の気配を剣に吸い上げた。振り下ろした斬撃に、その闇の力を混ぜる。
ベルトは姿を消すために闇へ潜ろうとしたが、潜り込む先の影そのものに剣を突き立てる。
吸い上げた闇の一部を、火属性と合わせて遠距離斬撃として解き放つ。
「焔闇交裂!」
「があああっ! コイツっ」
床が大きく揺れ、その中で、皮膚を剥がされたような悲鳴が闇の中から響いた。
「しぶといな」
僕の影の奥から、なおも曲刀が乱れ打ちのように飛び出してくる。
ただ、攻撃方向自体は単純だ。一直線に、こちらを突き刺そうとするだけ。
僕はそれを避け続け、闇が溜まっている黒い池のような部分へ身を滑り込ませた。
そこでもう一度闇属性を吸収し、剣に重ねる。闇の中から、ベルトの体を掴んで空へ放り投げるような感覚があった。
彼はシオンの動きを読んでいたのか、空中で八本もの曲刀が顔を出した。
だが、僕の体はすでに闇の影響を受けていた。
刃は肉体をかすめるように通り抜けていく。刺さる感覚はあるのに、致命傷にならない。
「これで、終わりだっ!」
吸収した闇と火を一つにまとめ、ベルトへ向けて斬り上げる。黒と紅の一撃が、彼の体を包み込んだ。
焼け焦げた闇が霧散し、細身の男の姿は、もうどこにもなかった。
◇◇◇
オルウェラは、加減をする気がない。一発一発が火を通り過ぎるみたいに熱くて皮膚が燃えるほど痛い。
ワタシが距離を取って放つ風の遠距離攻撃で拳を払っても、次から次へと新しい煙の拳が生まれてくる。全部は今の状態じゃ飛ばせない。
ワタシは加速を付けて横へ滑るように移動し、光属性の拡散魔法を放った。
「アイオライト!」
しかしオルウェラも、それを真似たかのように同じ方向の煙を放ち、光と煙が相殺される。
「ホント、厄介ね、その煙」
巻き込んじゃうかもしれないけど、シオンなら問題ない。ドラゴニクスで対抗しようと、両手に魔力を高めたところへ、ロープ状の煙が足元から飛んできた。
足首に絡みつき、体勢が崩される。そこへ真正面から拳型の煙が飛んできた。
「かはっ」
腹部に鈍い衝撃が走る。シオンが近くにいなくて良かった。
「まだまだよ」
オルウェラはロープの煙でワタシの両腕を吊り上げ、拳型の煙を二十ほど連続で飛ばした。一発一発が飛んで来る度、目を閉じたくなる。それでも、彼女は止まらない。
視界の端で、壁が激しく砕けていく。
音が静まると、ロープが強く引き絞られた。オルウェラは、人から奪った宝物を見つけたみたいに残酷な笑いを漏らした。
「さぁて、遊びは終わりにしようかなぁ」
彼女は影越しに煙を投げようとした。けど、煙はワタシのところには飛んでこない。回転するタイヤに触れてるみたいに手が、熱い。
「・・・あらぁ?」
別の方向から声がした。
「もう玉切れ? なら、今度はワタシの番ね」
煙のロープを風魔法で切ると、ロープも煙を集めた風玉に吸い込まれていく。
風玉に障ると手が赤い。でも、落ちた杖を握るには十分だ。
「全部まとめて、お返ししてあげる」
感情が決壊したような気配が、空気を震わせた。
四方に巻き起こる暴風が、中央で待つ彼女を飲み込む。風同士の外にある刃に彼女が手を伸ばすと、みんなは手を乱暴に弾いた。
「【アルストローム・リベリオン!】」
「ちっ、面倒ねぇ」
杖を握りこむと、オルウェラに向かって襲いかかっていく。オルウェラは必死に煙を集め、防御を組み立てようとする。
足りない分を補うように、体の一部をオリハルコンのような硬い金属へ変える。しかし、それでも足りなかった。
暴風は正面からオルウェラを飲み込み、その体を容赦なく押し流す。
「がああああああっ!」
風が解けると、彼女は前のめりに倒れ、そのまま動かなり、桃色の煙も消えていく。
復元魔法で手を治すと、感触もちゃんと戻った。本音を言えば先にやっておくべきだった。ワタシもまだまだ甘いや。




