ジェフリー王子と毒林檎
レイがクライブの妻ジャクリーンの石化の解呪をした日の夜。
良い行いをしたはずのレイたちは、ギルフォードにみっちり注意をされてしまった。
王都の冒険者ギルド長から直接声掛けられて、一冒険者として動いてしまったのは仕方がないかもしれないが、何故一度屋敷に戻り自分やメイソン、ゾーイに相談しなかったのかと、ケンもカークも一緒にたっぷりおしかりを受けた。
前世だったらきっと正座して有難ーいお話を聞いている気分だっただろう。
レイは早くこの煩わしい時間を終わらせたくて、ギルフォードを見上げあざと可愛く見つめた。
「ギルフォードさん、ごめんなさい……全部私が悪いの。クライブさんはケンを救ってくれた恩人だし、私の友人だからすぐに助けてあげたくて……」
疲れからか、それともストレスからか、中々怒りの収まらないギルフォードに対しレイは『友人』という言葉を出してギルフォードに訴える。
クライブのことは出来れば友人とは思いたくはないけれど、背に腹は代えられない。
今はギルフォードの怒りをどうにか鎮めたい。
良いことをしただけで悪いことをした訳ではないレイとしては、お小言はもううんざりだった。
「はあー……友人だったら仕方がないかもしれないけど、ケンとカークにはもっとしっかりしてもらわないと、レイの傍にいるなら尚更だからね」
「「はい!」」
レイと同じく話を終わらせたいケンとカークの返事は良いものだ。
パーティーを組んだばかりだとは思えない連携ぶりで素晴らしい。
「三人とも、今後危険な依頼を受けるときは必ず僕に相談すること! いいね!」
「「「はい!」」」
ギルフォードの有難いお話はやっと終わりを告げたのだった。
そして今日は、ギルフォードの兄であり、この国の第二王子であるジェイクの息子ジェフリー王子の解呪の日だ。
愛し子のレイは今日も元気いっぱい、魔力も満タン、魔法使い放題だ。
「ギルフォードさん、おはよう……もしかして昨日は眠れなかったの?」
レイの行動を兄に報告しているギルフォードは昨日も夜遅くまでお仕事、キラキラな笑顔には疲れが浮かんでいた。
「んん、全然大丈夫だよ、ダンジョンだと眠れない日もあるからねー」
肉体的な疲れより精神的疲れが見え隠れするギルフォードは、爽やかな笑顔も半減している残念王子様だ。
(貴族とか貴族とか貴族って本当に大変だよねー、まあギルフォードさんは王族だけどねー)
ここのところ王城に通いっぱなしのギルフォードは目の下に隈が出来るほど疲れ切った様子だ。
心配したレイが栄養ドリンクを渡そうとしたけれど、勿体ないからと断られてしまった。
「……内緒で点滴しとくか……」
レイはひっそりとギルフォードに点滴魔法を行い、しゃっきりとさせた。
これで今日も働くことが出来るだろう。
レイは無意識にギルフォードを社畜化していた。
「愛し子様、今日は僕のために有難うございます……」
王城に秘密裏に着いたレイは、呪いを受けているジェフリーの部屋へと通された。
ジェフリーを見てレイは驚く。
とても痩せているからというのもある、弱っているからというのもある、でも何よりベッドにいるのにレイには分かる。
十歳とジェフリーはレイより二歳も下で、幼いころからずっと体が弱っていたはずなのに、ジェフリーは何故かレイよりも背が高いのだ。
マルシャ食堂で働くトイが、レイよりも年上に見えた時と同じぐらいショックを受けた。
(くっ、私は病気知らずの健康優良児のはずなのに、何故……)
年下に負けた悔しさを心にしまい、レイは愛し子らしい笑顔を浮かべる。
「ジェフリー殿下、初めまして、ギルフォード様の友人、レイ・アルクです。ジェフリー殿下とは年も近いですし、愛し子ではなくレイと気軽に呼んで下されば嬉しいです」
お姉さん的な雰囲気を出し、レイは優しく微笑んだ。
身長では負けたのだせめて態度では勝とう、そんな気持ちだった。
「有難うございます。愛し子様は、いえ、レイ様は心までお美しいのですね……」
(やだ、ジェフリー王子! いい子!!)
にこにこ笑うジェフリーに対し、レイは素直に敗北を認める。
ジェフリーは純粋いい子であってレイは養殖いい子だ。
レイはいい子の振りをしている金と自由の亡者ともいえた。
「さあ、さあ、話はそれぐらいで、レイはジェフリーの体を隅々まで見たいだろう?」
ギルフォードの言い方だとレイが変態のようだが呪いは気になるので頷く。
ジェフリーはレイの林檎やお弁当などのお陰で痩せている以外は元気に見えるが、先日まで死にかけていた病人だ。疲れさせてはいけない。
今この部屋にはギルフォードとレイ、それに第二王子であるジェイクとその息子のジェフリー王子の四人だけ。
レイが頷いたのを見て、ジェイクが息子の服を脱がせ始める。
「あ、ギルフォードさん、ちょっと待って!」
ジェイクがジェフリーの服を脱がし始めてすぐ、レイはギルフォードに声を掛けて止めてもらう。
今はパジャマのボタンを外したところだったけど、もうその時点で違和感があった。
首筋に見える血管が余りにも目立つ。
色も黒色に近い。
絶対に血が可笑しい。
レイにはすぐに分かった。
「ジェフリー殿下、腕を見せて貰っても良いですか?」
「はい、もちろんです」
ジェフリーは頷き、パジャマの袖をたくし上げる。
腕に見える血管も首元と同じで黒黒しい。
ケンの呪いのように、見るからに刺青のようなアザが出来る呪いならば誰だってハッキリと分かるけれど、血を使って呪う呪いではお医者さんも分からなかったのだろう。
ていうかその医者が一番怪しい気がする。
名探偵レイはとりあえず近場の人間をすべて疑っていた。
「ねえ、ギルフォードさん、ジェフリー殿下のお医者様はちゃんとした人だよね?」
「あ、ああ、勿論。身元もきちんとした王族の専属医師で、長く勤めている者だよ」
「ふーん、長くかー」
ギルフォードの答えにレイは探偵らしく顎に手を置き頷く。
皆の視線が集まっている気がするが、レイは推理を続けた。
「そうなのか、じゃあ食事かなー? ジェフリー殿下が好きな食べ物や飲み物は何?」
「はい、ジェフリーは何でも食べる子ですが、体調を壊していたこともありここのところは果物を好んで食べていました。体調が悪くなってからは特に食事というものを摂るのが辛かったようなので……」
レイの質問に父親のジェイクが答える。
子供の好きな食べ物を把握している時点でジェイクの好感度が上がる。
王様よりもよっぽど王様に相応しいぐらいだ。
(果物かー、それなら簡単に紛れ込ませられるよねー)
レイは自分の推理が正しい気がしてうんうんと頷く。
そしてジェフリー王子の部屋を見回し、果物が盛られた銀皿を見つけた。
バナナ、オレンジ、メロン、葡萄と、豪華な果物が並ぶ中、レイはある果物が気になった。
色があからさまに可笑しいからだ。
「ねえ、ギルフォードさん、この林檎ってどこ産? 色が紫っぽくって気味悪い……いや、ちょっと変わってるけど?」
この世界には紫色の林檎がある可能性もある。
レイはそれを踏まえギルフォードに問いかけた。
「色? 僕には普通の赤い林檎に見えるけど?」
「赤い林檎……?」
愛し子フィルターなのか、レイにだけ目の前の林檎は紫っぽく見えるらしい。
そんな不思議な現象もレイが呪いを解呪できる愛し子だからだろうか?
だが疑問と共に怖い考えも浮かぶ。
この毒林檎、王家の皆様が食べているってことはありませんよね?
その可能性があるだけに、レイは毒を盛った犯人が許せなかった。
「ギルフォードさん、多分この林檎、毒林檎です」
「毒林檎?!」
「はい、ジェフリー王子の呪いはこの林檎が原因だと思います」
「何だって! それじゃあーー」
「はい、どこから入手したのかと、誰が食べたのとかをちゃんと調べた方が良いかもしれません、王族の皆様が食べているかもしれないので」
「……っ!」
レイの意見を聞き、ギルフォードはすぐに動き出す。
この素早さは流石王子様というべきか、いやきっと危険があるA級冒険者として活躍しているからだろう。
「メイソン、ゾーイ、すぐに兄上に声掛けを」
「「はっ」」
扉の外の守りをケンとカーク、それとジェイク王子の護衛たちに任せ、二人は迅速に動き出す。
「ジェイク兄上は、この林檎を食べていらっしゃいますか?」
「いや……だが妃は……」
ギルフォードの問いかけにジェイクは首を横に振る。
自分の分の果物は全てジェフリーに回していたそうだ。
優しい親心だったのだろうが、毒林檎だと知ったジェイクの顔は真っ青だった。
だが、自分の妃が気になると言ってジェイクは部屋を出て行った。
そしてギルフォードさんも 「もしかして義母上も……?」 とアンジェリカのことが気になりだしたようで、影をそっと呼び出し部屋から出て行った。
(えっと、なんか大事になっちゃたけど……)
そもそも呪いの毒を盛られた時点で大事なのだが、毒林檎を見つけてしまったレイは、まるで自分が毒を盛ったような気分になり居た堪れない。
これで違いましたとなったら非難もの。
絶対に毒林檎であってくれ! そう祈るほどだった。
「愛し子様? どうされましたか?」
小心者のレイにいち早く気が付いてくれたのは天使な王子ジェフリーだった。
レイは神にすがるような気持ちでジェフリーの傍に行き手を握った。
「ジェフリー殿下、皆がバタバタしてるので、今のうちに解呪しておきましょうか」
「はい、レイ様よろしくお願いいたします」
レイはジェフリーの手をそっと握る。
そしてこの天使が元気になるようにと祈りながら「解呪」と魔法を発動させた。
「うわぁー、愛し子様の魔法、すごく綺麗です」
きらりと光った自分の体を見ながら、ジェフリーがレイに喜びの声を掛ける。
レイはそれににっこりと笑顔で答え、「回復」魔法とついでに「浄化」魔法もかけた。
天使なジェフリーについた悪い奴の念を振り払いたかったのだ。
「愛し子様……いいえ、レイ様、有難うございます。僕、体が凄く楽になりました! レイ様のお陰です!」
ジェフリーが嬉しそうな笑顔を浮かべ、恐る恐る体を動かし出す。
そして大丈夫だと分かると、ベッドから抜け出し歩いて見せた。
「レイ様、僕、普通に歩けます、凄く嬉しいです!」
レイに笑顔を向けるジェフリー王子。
もうそれだけでレイは解呪のお礼を貰った気分だ。
(こんな良い子、中々いないよねー)
呪ったやつに怒りを覚えながらも、部屋の中を歩くジェフリー王子を見守る。
そしてジェフリーの心も落ち着き、解呪が終わって暇になったレイは、ソファーに座りジェフリーとお茶タイムをとることにする。
空間庫からレイ自慢のお菓子を取り出し、勝手にお茶を入れ二人でティータイムだ。
「僕、お菓子なんて久しぶりです! レイ様、有難うございます」
「うんうん、ジェフリー君遠慮せず沢山お食べ」
「はい、いただきます」
美味しいね、元気だと楽しいよね。
二人でそんな会話を交わしていると、部屋に戻ってきたギルフォードが固まった。
「えっ? ジェフリー、なんで元気になってるの……?」
ギルフォードの呟きに「解呪が終わったからだよ」と軽く返したレイだった。
こんばんは、夢子です。
今日もお読みいただきありがとうございます。
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ジェフリーは本当にいい子で病気の間も我儘は言いませんでした。




