ジェフリー王子とのお茶タイム
ギルフォードも第二王子のジェイクも飛び出して行ってしまったジェフリー王子の私室。
取り残されたレイと、元気を取り戻したジェフリーは仲良くお茶を飲んでいた。
レイが出す手作りのお菓子にジェフリーは頬を薄く染めキラキラした目を向ける。
素直でかわいい年下の男の子にレイはすっかり夢中だ。
(クソ可愛い! こんな弟欲しかった!)
王子様に対し不敬な気持ちかもしれないが、ジェフリーのあまりの可愛さにレイは鼻の下が伸びデレデレ状態だった。
「レイ様、このお菓子は何ですか? 僕初めて見ました」
「これはね、お煎餅っていうんだよ。ジェフリー君は東の国オーストを知ってるかな?」
「はい、聖獣ステゥム様が住まう国ですよね、先生に教えてもらいました」
病気であってもそこは王子様、勉強はちゃんとしているようで、自分の好きなことにしか興味のないレイとは全然違う。オーストのこともステゥムのこともジェフリー王子は知っていた。
「そうなの、ステゥムと私は兄弟みたいな関係なんだけどね、会うたびに東の国オーストの食材を届けてくれるんだー」
「うわぁ! 凄い、聖獣様と仲良しだなんて、流石レイ様ですね! 僕もステゥム様にいつか会ってみたいです」
聞き上手のジェフリー王子に、レイはステゥムからもらった食材でお煎餅を作ったのだと教える。
だから安心して口に入れていいよ。
そう伝えるとジェフリー王子は「はい!」と元気に返事をしてくれた。
もう最初に会った時のような弱々しい、消え入りそうな雰囲気はどこにもない。
十歳の普通の男の子。
そういえるほどの元気を取り戻していた。
「レイ様、僕、元気になれたから、夢が叶いそうで嬉しいです」
「ジェフリー君には夢があるんだね、良いことだよ」
子供の成長には夢が必要だ。
レイの夢はのんびり自由生活。
なので当然ジェフリーの夢も気になった。
「はい、僕はいつかジェシカ姉さまが……従妹のジェシカ姉さまが女王になったら、僕はその手助けがしたいんです」
「うん、うん、そうなんだ、いい夢だねー」
レイとは違う高潔で立派な夢だが、レイは夢見る気持ちだけは良く分かった。
「はい、有難うございます。僕、お勉強をこれからもっともっと頑張ります」
「うん、ジェフリー君なら絶対に大丈夫だよ」
「はい、有難うございます」
ジェシカとは第一王子の娘であるこの国の王女様だ。
ジェフリー王子より二歳年上でレイと同じ年。
いつもジェフリーを心配し優しく声を掛けてくれる彼女のために、ジェフリーは勉強を頑張り、将来的に役に立ちたいようだ。
(王族の皆さん、いい人ばっかじゃないか……)
ギルフォードもそうだけど、先日会った王妃のアンジェリカも、そして今日会った第二王子もジェフリー王子も、皆優しくこの国を考えている人だ。
王都の街が綺麗という時点でレイの王族への評価は高いし、どっかの糞領主が尚更無能に見えてしまう。
そう考えると王家の皆さまが不調和な状態になっているのは、国王と色々な事件の犯人候補であるジュダス・ギャイルのせいだろう。
(あいつらさえいなければいい訳だ……)
レイは勝手にそう決めつけた。
「えっ? ちょっとまって、ジェフリー、なんで元気になってるの……?」
お替りのお茶とお菓子を空間庫から出していると、ギルフォードが慌てた様子で戻ってきた。
「ギルフォードさん、おっつー、お帰りー」
「叔父上、お帰りなさいませ」
レイとジェフリーが笑顔で出迎えれば、ギルフォードはがっくりと肩を落とした。
お仕事に出かけたギルフォードを差し置いて、お茶会を始めてしまって申し訳なかったかな? と思っていると、ギルフォードがもう一度同じ質問を掛けてきた。
「で、レイ、ジェフリーはなんで元気になってるの?」
「えっ? 解呪をしたからに決まってますけど?」
答えが分かり切っている質問にレイは眉間を寄せる。
忙しすぎてギルフォードが壊れた?
その疑問は当たっていたようで、ギルフォードはその場に膝をついてしまった。
「えっ、ギルフォードさん? 貧血?」
「叔父上、しっかりして下さい!」
朝の点滴魔法が足りなかったのか、ギルフォードは膝をつき床に手をついたまま動かなくなってしまった。
レイとジェフリーは慌てて駆け寄る。
「……兄上の感動が……」
どうやらジェイク王子はジェフリー王子の解呪の瞬間に立ち合いたかったようだ。
余りのドタバタに気遣いを忘れていたレイはちょっとだけ反省をする。
でもジェフリー王子の苦しみを早く解除してあげたかったので、それを言訳として全面的に押し出した。
「ギルフォードさん、気持ちは分かりますけど、待たされている間中ジェフリー殿下はずっと苦しむんですよ」
「……」
レイの言い訳は効果てきめん、ギルフォードはジェフリーに視線を送った後「そうだね」と納得してくれた。しめしめ顔のレイに気づかずに。
そしてアンジェリカについて話をしてくれる。
「義母上は、ジェフリーと同じ林檎は食べていなかった。あの林檎はどうやら父上が友人からもらい受けてジェフリーに回したものらしい。国王の贈り物にするほどなので、きっと質のいい特別な林檎なのだろうね……」
「……」
確かに特別だ。
だって『呪い』という毒入りなのだから。
余計な問題ばかり起こす王様に (この国で王様が一番邪魔じゃね?) とレイが呆れ毒を吐いていると、ギルフォードが話を続ける。
「今ジェラルド兄上がどこからの献上品なのか父上の事務官に確認している。緊急のことなのですぐに分かると思うが、それでもしばらくここで待機だ、レイには申し訳ないけれど、泊りも覚悟してほしい……」
レイが貴族嫌いで目立ちたくないと知っているギルフォードが申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「あー、全然大丈夫ですよ。ジェフリー王子と友達になったから遊んで待ちますんで、ね、ジェフリー君」
「は、はい、僕、友達と遊ぶのなんて初めてです。どうしよう、凄く嬉しいです! レイ様、よろしくお願いします」
「ジェフリー君、勿論だよー」
ジェフリーの初めての友人になれたレイは鼻が高い。
だがその横、レイの傍にいるギルフォードは甥っ子の言葉に胸打たれたのか自分の胸元を押さえ「うっ」と小さな声を出していた。
気持ちは分かる。
ジェフリーといると自分の醜い部分が浄化されるのだ。
だからだろう、欲まみれなギルフォードはとても苦しそうな顔をしていた。
「ジェフリー!!」
ジェイクが部屋に戻ってくると、扉を開けてすぐ息子の名を呼んだ。
そしてその後ろから付いてきた女性も、「ジェフリー!」と驚きの声をあげる。
「父上! 母上! 僕、レイ様のお陰で元気になりました! お菓子もいっぱい食べれたんですよ!」
両親の下へ駆け寄るジェフリー。
その姿を見てもう妃様は涙が止まらない。
ジェイク殿下だって無理やり笑顔を作っているが目が潤んでいて崩壊寸前だ。
死にそうだった息子が元気を取り戻したのだ、嬉しくて当然、レイはその様子をふくふくしながら見守った。
「愛し子様、この度はジェフリーの命を救って頂き、有難うございます」
涙が落ち着けば第二王子夫妻にお礼を言われた。
でも気にしないで、とレイは首を横に振った。
「ジェフリー殿下とは友達ですので、お礼はいりません。私自身が彼を救いたかったのです。ジェフリー君と私はこれから一緒にたくさーん遊ぶんだもんねー」
「はい、レイ様と沢山遊びます! 父上、母上、聞いてください、レイ様は僕の最初のお友達になってくれたんですよ!」
「「ジェフリー……」」
第二王子夫妻はせっかく引っ込んでいた涙がまた溢れ出そうになるが、ジェイクは笑顔でそれに耐え、妃様も今度は耐えきった。
それよりも第二王子妃であるキャロル様は林檎を食べていた、ジェイクはそれをレイとギルフォードにそっと報告する。
「じゃあ、キャロル様を診てもいいですか? えっと、首筋だけで……」
流石に高位な女性に服を脱げとはレイだって言えない。
断りを入れ、首と手をちょっとだけ見せてもらう。
ジェイクもジェフリーも心配そうにキャロルを見ていた。
家族仲はとても良いようだ。
「多分、キャロル様にも呪いの影響があると思います。血管の色が濃すぎます、解呪の魔法をかけてもいいですか?」
「はい、愛し子様、お願いいたします」
レイはサッとキャロルに魔法を掛ける。
本人に体調不良などの異変はないらしいが、ジェフリーを産んでから子供が出来ていないとなると呪いの影響はあったと思う。
言葉にしなくてもキャロルにはレイの言いたいことが分かったようだった。
「ギルフォード、ジェイク」
「「兄上」」
キャロルの解呪を無事終えると、今度は部屋に第一王子のジェラルドがやって来た。
その後ろには妃さまと思われる女性と側近のタロイも一緒で、レイは忍者に「久しぶり」と小さく手を振った。
「おお、ジェフリー、元気になったのか?」
「はい、叔父上、レイ様に治していただきました。僕はもうすっかり元気です」
「そうか、それは良かった」
どちらかというと女性顔のギルフォードやジェイクとは違い、長男のジェラルドは男顔だ。
凛々しい王様。
そう見える面に、メイソンのようながっちりとした体つき、レイが想像する異世界の男性そのものだった。
(ジェラルドさん、カッコいい王様になりそう)
ジェラルドに対するレイの第一印象はそれだった。
「愛し子様、この度は我が王家に多大なるご加護を頂き、誠に有難うございます」
ジェラルドとその妃が頭を下げると、部屋にいる皆も一斉にレイに向かって頭を下げた。
小心者で一般ピーポーなレイは、未来の王様に頭を下げられきょどってしまう。
「いえいえいえ、第一王子殿下、頭を上げてください! えっと、その、ギ、ギルフォードさんは私の指導係で、私の方がいつもたくさんお世話になっているんです。だからこれは、そう、恩返し! ギルフォードさんへのお礼でもあります!」
「愛し子様、そこまでギルフォードを……」
「はい、ギルフォードさんは私の大切な人なので!」
いつもの通りレイはギルフォードに丸投げだ。
面倒くさいことは大人に任せよう。
それがレイの教訓でもある。
「ですが、お礼はさせて下さい。何か欲しいものとかはございませんか? 爵位や領地など準備できますが」
ジェラルドの恐ろしいお礼にレイは心の中で「ギャー!」と悲鳴を上げる。
爵位や領地なんてそんな面倒なもの絶対いらない。
レイは森に籠って生活し、時折街に出る、それで十分だった。
「えー、えーっと、そう! 私はギルフォードさんのためなら出来ることはなんだってします! だからお礼はいりません。大事な人の家族は大事な人達、家族同然です! なので当然私の中で皆さまはギルフォードさんと同じぐらい大事な人です。だから皆さんにも健康で幸せであってほしい、私の願いはそれだけです!」
レイは言っていることが自分でも分からなくなっていたが、ジェラルドの笑顔を見ればギルフォードに丸投げ出来たことは確実だった。
(良かったー、クライブさんのこともあったし、もうお礼とかはこりごりだよー)
白い金貨の入った袋を思い出し、レイはジェラルドが納得してくれたことにホッと息を吐く。
ただしギルフォードはレイに急に褒められたからか頬を真っ赤に染めている。
キラキラ王子は女性にモテるくせに誉め言葉には弱いようだ。
レイはニヤニヤしながら、恥じ入るギルフォードを見つめて楽しんだ。
「では、サブリナ様の呪いも解かせていただきますね」
「はい、愛し子様、宜しくお願いいたします」
案の定第一王子の妻サブリナも呪いを受けていたようだった。
ジェフリーほどハッキリとした色ではないけれど、血管の色が黒っぽく可笑しいとレイは感じた。
それに子供もお姫様を一人産んだ後は出来ていないらしい。
これは絶対呪いだよね。
レイの言いたいことがサブリナにもやっぱり分かったようだった。
こんばんは、夢子です。
いつも応援ありがとうございます。
呪いが紀夫になってて一人笑っていました。
打ち間違えって怖いですよねー。




