A級冒険者の善なる行い
王都へ行く日を明日に控えたレイは、いつも通りルオーテの街へ向かう。
ケンとカークは王都でレイの護衛役を務めるため、メイソンとゾーイから貴族マナーを学んでいる最中だ。
ギルフォードをレイ役とし、護衛の立ち位置や、相手の様子伺い。
それから建物の経路など頭に叩き込まれ、毎日血を吐くような努力を行っている。
それでもケンは元奴隷とあって、主に仕えていたこともありスムーズに知識を取り込んでいる。
問題はカークの方だ。
平民でもカークは孤児院育ち。
丁寧な言葉遣いも付け焼刃。
行動もがさつ。
歩く姿は冒険者そのもの。
それでも「絶対にレイの護衛役は俺がやる!」と気合を入れているところを見ると、カークは負けず嫌いのようで微笑ましい。
きっと王都への旅行に置いて行かれたくないのだろう。
レイは毎晩そんなカークの頑張りを微笑ましく見守っていた。
(カーク兄ちゃんは可愛いねー)
そんな皆を家に残し、レイだけがアーブと一緒に街へ向かったのには訳がある。
それはある人に会いたかったから。
「門兵のおにいさーん」
レイはいつものようにルオーテの街へ着くと、仲良くなった門兵のお兄さんに声を掛けた。
昨日は休日だというのにレイの我儘に付き合わせ、無理やりごみ置き場まで案内させてしまったため謝りたかったのだ。
アーブから降りたレイは規則正しい動きで門兵のお兄さんに一礼する。
社会人としての基本的な行動だ。
「お兄さん、昨日は有難うございました。これ、お礼です。僕が作ったお菓子だけど良かったら皆さんで食べてくださいね」
「坊主、お前、貧乏……いや、俺に礼なんかいらねーのに、気を使いやがって……本当に良い子だなぁ」
「いえいえ、お兄さんにはお世話になりましたから、これぐらいは当然です」
レイは紙袋に入れたお菓子を門兵のお兄さんに渡す。
紙箱だと必ず箱自体がプレゼントだと思われてしまうため、気軽に渡すときは紙袋が良いのだとレイも学んだのだ。
焼き菓子の詰め合わせを渡せばお兄さんは少し困った顔をしていたが、他の門兵さんたちは「やったー」といって喜んでいる。甘味の魅力には抗えないようだ。作ったレイもホッとする。
「お前……あんま無理すんなよ」
「はい、有難うございます」
レイが貧乏だとこの門兵は未だに勘違いしているらしい。
服装や行動を見ればレイが貧乏でないことは普通は分かる。
なので当然そんな勘違いをされているなどレイは知らなかった。
「えっとね、実は今日はお兄さんにお願いもあって来たんですけど……」
礼を言った矢先にすぐお願いをするなど申し訳ないが、今は非常事態。
領主が頼れる人だったならば、領主にお願い出来たけれどあれではそれは無理だ。
あれに出来るはずがない。
だったら自分が信頼できる人にお願いするしかない。
レイはそう思ったのだ。
「あのね、もし街で体調が悪くてポーションも買えない人がいたら、これを飲ませてあげて欲しいんだ……」
「それは構わないが……坊主、これはなんだ?」
綺麗な瓶に入ったレイの栄養ドリンクを見て門兵は怪訝な顔をする。
栄養ドリンクらしい色合いをしている飲み物を見て、もしかしたら門兵さんには毒薬に見えているのかも? とレイはクスリと笑う。
「これはね、栄養ドリンクだよ」
「栄養ドリンク?」
レイはお腹を壊して体調が悪い人が使えば元気になるからと言って、栄養ドリンクを門兵のお兄さんに渡す。
本数は十本程度、あまり多くても悪いことに使われてしまう可能性があるためその数に絞った。
それもただ渡すのではなく飲むところも見て欲しいと門兵さんにお願いすれば、レイの心配はちゃんと伝わったようだ。
せっかくの栄養ドリンクを、売り買い目的にされてはたまらない。
だから門兵のお兄さんが信用した人にだけ使ってほしい。
そうお願いすれば門兵のお兄さんは凛々しい顔で頷いてくれた。
レイの気持ちをちゃんと分かってくれたようだった。
「ごめんね、本当は僕自身がやるべきことなんだけど、明日から王都に行くから時間がなくって」
「いんや、こういうことは街に詳しい俺みたいなのが受け持つべきことだ、だから坊主は気にすんな……それにしてもだがよ、坊主、こんなにも沢山、この栄養ドリンクってやつどうしたんだ? まさか盗んだってことは……」
レイの見た目が幼いからか、門兵のお兄さんは栄養ドリンクの出所が気になったようだ、当然だろう。
なのでレイは予め用意していた答えを吐く。
これなら絶対に怪しまれない。
レイはそんな丸投げ先を準備出来ていた。
「実はね、これ全部A級冒険者のギルフォードさんが準備してくれたものなんだよ」
「A級冒険者のギルフォード様って、あの有名なギルフォード様か!」
「うん、そう、あの有名なギルフォード様だよ!!」
案の定ギルフォードの名を出せば門兵のお兄さんは全く不振がることはなく、やっぱりあの方はスゲーとギルフォードへの憧憬が強くなるだけだった。
(ぬふふん、やっぱりギルフォードさんの名前は凄いね、栄養ドリンクをギルフォードさんが準備したって言っても誰も疑わないよ、うへへへ)
ニヤニヤしそうになる顔を引き締め、レイは決定打を打ち付ける。
「僕がね、祭りのごみを見に行ったのもギルフォードさんの指示があったからなんだぁ」
「ギルフォード様の?」
「うん、僕、冒険者になったばかりなんだけど、小さいから心配だってギルフォードさんが教育係になってくれて、ギルフォードさんのお陰でお祭りにも参加出来て、ギルフォードさんはその後のごみのことまで心配してくれたんだよ」
「そ、そうなのか……」
「うん、そうなんだよ!」
ギルフォードがダンジョンでカークを助け出した話が広まっていることもあり、ギルフォードの善行に対し疑うものは誰もいない。
聞き耳を立て話を聞いている他の門兵の人たちも「あの方ならやってくれそうだよな」とレイの話を信じ切っていた。
「じゃあ、あの時ごみが全部消えたのも……」
「そう! ギルフォード様の魔法鞄のお陰なんだよ!」
門兵の皆の間で「おおー!」と歓声が上がる。
これでギルフォードの善行はまた噂として広まり、その教え子であるレイが可笑しなことをしてもギルフォードの指示だと皆信じてくれるだろう。
有難い隠れ蓑であるギルフォードに対し、レイは心の中で手を合わせ (ギルフォードさん、ありがとう)拝んでいた。
「坊主、話は分かった。それと俺はキット、キット・ポルタだ。ギルフォード様によろしくお伝えしてくれよな」
「うん、キットさん、栄養ドリンクを宜しくね。じゃあ、またね、僕他にも行くところがあるから」
「おう、坊主、気を付けてな、王都楽しんで来いよ」
「うん、ありがとー」
門兵のお兄さんことキット・ポルタと別れたレイは、今度はオブリ馬屋へ向かい、ジェドにも栄養ドリンクを預けた。
ジェドは少し心配していたけれど、「お腹が痛くなったら栄養ドリンクを飲めば大丈夫だから」と笑顔を向ければ困ったような顔になっていた。
ポーションとは違うものだから不安だったのだろうか。
いや、栄養ドリンクならばレイこそ飲むべきだと言っていたので、王都に行く前にあちこち遊びまわっているレイのことを心配しているのだろう。
ジェドはとても優しい親友だとレイは心の中で感謝した。
(ジェドさんには一番いいお土産を買ってくるからね!)
いつまでも心配そうにレイを見つめるジェドにサムズアップし、心の中で誓ったレイだった。
そしてマルシャ食堂とサラ商店にももう一度栄養ドリンクを預けた。
「何かあった時のために」と話せば快く受け入れてくれた。
有難いことだ。
ただし、申し訳ないが奴隷屋ゴアにだけは行けなかった。
時間がなかったから……という言い訳を自分にし、レイはクライブに会うのを避けた。
(クライブさんはお金持ちそうだし、ポーションもいっぱい持ってそうだし、行かなくてもいいよねー)
ストーカー疑惑があり、あのきな臭い笑顔を浮かべるクライブとの接触を避け、レイは冒険者ギルドへ向かう。
やっぱり冒険者ギルドにも栄養ドリンクを預けておくべきだと思う。
何といってもレイは冒険者。
大事な冒険者ギルドを忘れる訳にはいかなかった。
「エイリーンさん、こんにちはー」
「レ、レイ君……もしかして、またギルド長に用事、なのかしら?」
流石出来る受付嬢エイリーンだ。
レイの笑顔を見ただけでギルド長に会いたいと分かったらしい。
レイはニッコリと笑い頷いた。
「そうです、ギルド長に会いたいです」
「……」
エイリーンに頼んでギルド長との面談を申し込む。
忙しいはずのギルド長だったけれど、領主の一件があったからかすぐに会うことが叶った。
レイは好々爺のような笑顔を浮かべるギルド長の前に栄養ドリンクを置いた。
「ギルド長、これ預けておくので、もしお腹が痛いよって人がいたら飲ませてあげて下さい、代金はいらないので」
「……オナカガイタイヨ?」
「はい、街のごみは片づけましたけど、体調を崩す人は必ず出ると思います。ポーションを購入できる余裕がある人は良いのですが、もしどうしても困っている人を見かけたらでいいので、これを渡してあげて下さい」
「レイ……」
「領主はともかく、ルオーテは皆の大事な街ですからね、お世話になっている私も少しは役に立ちたいです」
「レイ……」
エドガーは栄養ドリンクを抱きしめ「流石愛し子」だと感動しているが、レイの本心としては自分が住む街に色々なブツが落ちているのが嫌なだけだった。
せっかく祭りで出たごみを領主に返してあげたのだ。
このまま綺麗な街を維持してほしい。
『世界一綺麗な街、ルオーテ』
もしギルフォードの言う通り領主が変わり、そして次の領主が決まったならばまた面会をお願いしてそれスローガンに掲げ是非実行してもらおう、レイは本気でそう思っていた。
「ギルド長、よろしくお願いします!」
「ああ! レイ、俺に任せておけ!」
綺麗好きという真っ黒な心を持つ愛し子の笑顔に、ただただ感動するエドガーだった。
こんばんは、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
またブクマなどの応援も有難うございます。
栄養ドリンクを預かったエドガーは勿論親友のモーガンを呼び出しギルド長室にある金庫に栄養ドリンクを入れました。




