真犯人?
「ギルフォード様、愛し子様、お迎えに参りました」
遂に王都へ行く約束の日を迎えた。
ゾーイの兄であり、第一王子の側近でもあるタロイが王家の豪華馬車と共にレイの家にやって来た。
紺地に金の細工が入り見るからに豪華な馬車は、王家の紋章も入っていて目立つことこの上ない。
その上御者も馬車に似たコーチマンコートを着ていて、この田舎にはどうあっても不似合いだ。
レイはこれに乗って本当に行くの? と思わずギルフォードを見てしまう。
ただ多少気を使っているのか、レイの家に迎えに来たのはタロイと御者の二人だけだった。
気を遣う場所を間違えている気もするが、どうやっても目立つ護衛たちは森の外で待機させられているらしい。
少しでも目立たないようにと気を使ってくれたのだろうけれど……
金色の装飾が目立つ馬車だけで、その存在感は半端ないものだった。
「……タロイ……愛し子はお忍びでの登城を希望だと伝えたと思うが……」
「はい、ギルフォード様、申し訳ございません……その、陛下のご希望でして……」
「はー、また父上か……」
「申し訳ございません」
ギルフォードの父親はギルフォードを溺愛しているらしく、どうやらこれ幸いにとギルフォードと愛し子の仲を世間に広めようとしているらしい。
豪華な馬車を選んだのもギルフォードが愛し子にとって大事な存在だとアピールするためのようだ。
傍迷惑な親心。
ギルフォードの笑顔はキンキンに冷え切っていた。
(可愛い馬車は嬉しいけどさー、目立つ旅はマジで面倒、めっちゃ嫌なんだけど……)
お姫様が乗るような馬車をレイがジッと見つめていれば、タロイが申し訳なさそうに頭を下げてきた。
第一王子の側近、タロイ。
ギルフォードに毒を盛ったり、第二王子の息子さんを呪ったり、王妃に罪を着せたり……
いろいろ嫌がらせに忙しい真犯人で第一容疑者だと思っていたタロイは、どうやら悪い人ではないようだ。
まあまずレイに悪感情があれば、この屋敷に入ることは出来ないのでその時点で違うともいえる。
けれど人間は嘘もつけるし、演技も出来る。
だからよーくタロイを観察していたのだけれど、頭を下げるタロイはどう見ても中間管理職。
この人絶対に気を使いすぎていろいろと溜めこむタイプだよね? とレイが心配になるほど申し訳なさそうにしている。
(兄妹だからゾーイさんに似てクール系男子だけど、タロイさんって気苦労多そうだなー)
レイはタロイがあまりにも可哀そうになり、ギルフォードの腕をポンポンと叩いて声を掛けた。
「ギルフォードさん、王様のお願いじゃあタロイさんが断れなかったのも仕方がないよ。あまり気にしないでね、タロイさん」
「愛し子様……」
狐が泣きそうになっている。
タロイの今の表情はそんな感じだ。
王様と愛し子との間で板挟みだなんて可哀そうすぎる。
レイだったら面倒で逃げ出していたと思う。
レイは中間管理職タロイに同情しながら、ギルフォードへともう一度声を掛けた。
「ギルフォードさん、どうします? この馬車だと道中狙ってくれって言ってるようなものですけど……」
「……」
愛し子がいて、王子様がいて、武士がいて、忍者がいて、と過剰な攻撃力も防御力もあるメンバーだけど、たびたび野盗なんかに襲われていたら楽しい旅が盗賊退治の旅に変わってしまう。
そんなの絶対に嫌だ。
レイの希望はのんびり旅なのだ、盗賊退治など勇者とか勇者とか勇者みたいなやりたい人に任せるべきだと思う。
生まれて初めての旅を楽しむ気満々なレイは、そんな面倒な行事から逃げる気満々だった。
「馬車、どっかで借ります? ジェドさんのところでも行きますか?」
「うん、そうだね。よし、ジェドのところに行こう!」
やっぱりギルフォードもレイと同じ意見だったようで、金ぴか馬車は魔法鞄へと仕舞い、オブリ馬屋で一般的な馬車を借りることにした。
「ギルフォード様、愛し子様、申し訳ございません!」
タロイのせいではないのにタロイはずっと恐縮しっぱなしで、胃に穴が開くのではないかと心配になるほどの平謝りだった。
「ジェドさーん、行ってきまーす!」
大好きなジェドに手を振りレイはルオーテの街を出発した。
馬車の中にはレイとギルフォードが乗り込み、王都の旅になれているジュリエッタには初心者なカークが乗り、そしてアーブにはケンが乗り、後は皆各自の愛馬にまたがっている。
森の外にいた護衛は十人ほどだったが、それでも王子と愛し子の護衛だと考えるとかなり少ない数らしい。
この大所帯でお忍びになるのか? とレイは心配だったけれど、商人の旅でもこれぐらいの護衛はつくそうで、それほど目立つことはないと聞いてホッとした。
「ねえ、ギルフォードさん、タロイさんって全然怪しくないね。物凄い真面目さん、王様に無理難題押し付けられてて可哀そうになっちゃった。あの人絶対に真犯人じゃないよ、じっちゃんに鍛え上げられた私のシックスセンスがそう言ってます」
「……しっくすせん、んす? ま、まあ、うん、そうだろうね。タロイは昔から真面目だし、色々仕事抱えるし、兄上を裏切るぐらいなら自分の首を切るタイプだと思うよ」
「ふおー、流石忍者、覚悟が違いますねー。んー、そうしますと犯人はまだ王族の方々の傍にいるんでしょうねー? んー、なんて厚顔無恥なんですかねー、んー、可笑しいですねー」
「いや、確かにそうだけどって、レイの喋り方の方が可笑しいでしょ? んーってなにさ、それにその格好も子供のレイには無理があるんじゃないかな」
「……」
有名刑事さんの真似をして足を組んだだけなのに、ギルフォードから冷静な突っ込み受けレイは微妙にショックを受ける。足が短いと言われているようだったからだ。
「まあ、王都に行ったら犯人は分かりますよ。それにもし大事なギルフォードさんが狙われたら、私が全力で守ってあげますから安心してくださいね」
「……」
レイの本心からの言葉を聞き、この国のキラキラ王子は真っ赤になって恥ずかしそうに手で顔を覆ったのだった。
馬車はしばらく走り、次の街に着く前にちょっと休憩となった。
馬に乗っての移動ならばもっと早く進むことが出来るのだが、今回の旅はレイのことを考えてゆっくりな行程となっている。
スピアの森しか知らなかったレイが初めて街の外に出るのだ、道中を楽しんで欲しいとのギルフォードの優しい心遣いでもあった。
「はーい、皆さんお疲れさまでーす。栄養ドリンク欲しい人はいますか? 焼き菓子もたくさんあるので好きなものを食べてくださいねー」
休憩場所に着くと馬車から降りたレイがさっそく動き出す。
空間庫からテーブルを取り出し、その上にレイが焼いた菓子や、果物、飲み物を準備し、疲れている者には栄養ドリンクを渡すという徹底ぶり。
護衛相手が愛し子だと知っている護衛たちは恐縮しているが「守ってもらっているんだからこれぐらいお礼をさせてください」とニコニコ顔で言われてしまえば断れる者はおらず、レイの言葉に甘えていた。
「レイ、レイは何もしなくていいんだよ、お客様なんだから」
「まあ、そうかもしれないですけど、相互理解を深めるのは大事ですし、私は護衛部のマスコット兼マネージャー役だと思っているんで」
「ま、まねーじゃー?」
「そ、可愛いレイ君マネージャーですよ、嬉しいでしょう、てへ」
王城を護る騎士たちを間近で見れたレイの気分はアゲアゲだった。
その上初旅行。
それもタダ!
皆が元気いっぱいな状態で旅を続けられるように気を遣うぐらいお安い御用だ。
肩だって足だって揉んであげたい気分だった。
「ケン、カーク兄ちゃん、お疲れ様、大丈夫? 困ったことはないかな?」
「はい、皆さまが良くしてくれますので、大丈夫です」
「ああ、ゆっくり進んでるからな、全然疲れてないぜ」
レイと同じぐらい旅慣れしていないケンとカークが心配だったけれど、その笑顔を見れば二人とも大丈夫そうだ。
それに護衛の人たちとも馴染んでいて、ホッとする。
愛し子のお気に入りだと認識されているケンとカークをぞんざいに扱うものなどこの場にはいないようだった。
「ねえ、ギルフォードさん、今日はどこに泊まるの?」
「ああ、次の街に宿を取ってある。今日はそこに皆で泊る予定だよ、レイはゾーイと同じ部屋になるからよろしくね」
「そうなんだ、護衛対象同士でギルフォードさんと一緒だと思った」
「まあ、ほら、そこは、男女別でね」
「ふーん、男女別かー」
一緒に寝たこともあるくせに、今更一緒の部屋じゃないのかとレイが聞いただけでギルフォードは照れている。一緒にお風呂にも入った仲なのになんだか今更な気もするが、ゾーイと一緒なのは嬉しいのでレイは笑顔で頷いた。
「そうなんだ、分かった。じゃあ、ゾーイさん、宜しくお願いしまーす」
レイがゾーイの方へ手を振れば、ゾーイは微笑みぺこりとお辞儀をしてくれた。
なんだか修学旅行のようでちょっとワクワクする。
あとでトランプでも出して遊ぼうとレイはニヤニヤと笑った。
「ぬふふん、次の街、ちょっとだけでも見て周れると良いなー」
汚い街がルオーテだけだと思っているレイは、今だけは幸せな時間を過ごしていたのだった。
こんばんは、夢子です。
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やっと出発です。
お城にはいつ行けるのか……




