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第14章

 翌日、午前中に『地球博物館』、それから午後に擬似体験アトラクション・ワールドでXR体験をしてのち、情報諜報庁ESP部門長官と、ゼンディラは謁見するという予定であった。


 専用のエア・カーによって情報諜報庁の屋上駐車場へ到着すると、そこでゼンディラとフォスティンバーグ博士はハイデン大尉やアップル少尉と別れることになった。とはいえ、彼女たちは警察庁ではなく諜報庁直属のボディガードであったから、この外部からは鏡のように外の景色を反射する、地上77階、地下34階の巨大建造物の17~20階に、ふたりの所属する警備局も存在するのではあったが……。


「どうも、お疲れさまっス!そんじゃまここからは、ゼンディラさんとフォスティンバーグ博士の身柄はESP部門お預かりってことで……任務完了の書類に電子サインしてくださってオッケーですよん」


(やれやれ。ESP部門の人間というのは、噂通りどいつもこいつもいいかげんな奴ばかりだな……)


 ハイデン大尉は無事任務を終了できたことに安堵しつつも、やはりゼンディラのことが心配ではあった。情報諜報庁の地下20階からさらにその下はすべてESP部門が占有しているのだったが、その扉の前までを通りかかった者は数多いとはいえ――正直、その中で一体何が行なわれているかを知る者は少ないわけである。


 本星エフェメラの首都エフェメイルに住む住民でさえ、さらにはそこの超高所得者層の特権階級にある大金持ちであってさえ、情報諜報庁という場所へは滅多なことでは入れない。むしろその建物の周囲をうろうろしていただけでパトロール・カーがやって来て不審人物として登録されるということを……フォスティンバーグ博士はともかくとして、ゼンディラは知る由もなかった。


 そんな彼だったから、この先何が自分を待ち受けているのかも、ゼンディラは当然想像してもおらず、これまで故郷の星を出てからの道程、コートⅡでの監禁状態を除いたとすれば、概ね人にも運にも恵まれてきたように感じていたため――少しばかり気の緩んでいるところがあったに違いない。もっともそれは、その日のうちに『地球博物館』や擬似体験アトラクション・ワールドといった場所を巡り、目も眩むような経験をしていたこととも関係していたかもしれない。簡単にいえば、そうしたものに慣れた七十を過ぎているフォスティンバーグ博士より、年齢的にはずっと若いはずの彼のほうが疲れていたということである。


 だが、77階という高さから地下20階まで一気に下りていこうという時、メトシェラの南部地域に住む黒人と同じ肌の色をした青年(彼はまだ17歳くらいに見えたが、そんな若い人間が諜報庁にいること自体奇異だ、といった意識自体、ゼンディラにはない)の、自分をじろじろ眺めまわす視線の中に――ゼンディラは初めて警戒すべき何かを察知していたわけであった。


「あんた、ほんとにESP能力者?その割に……なんかあんまし感じるところがないね。それとも、どっかのど田舎惑星で発掘されて、どうも能力者っぽいようだから、つっとばか訓練でもさせてみようかってことで連れて来られたって口?」


「……おそらく、後者でしょうね。というより、わたし自身は自分がなんらかの能力者だなどとはまったく思っていませんから、特になんの能力も見出されぬ役立たずとして近々放りだされるのではないかと思っているのですが……」


「ふう~ん。でもどうかな。案外そーゆー奴のが、最初から中途半端に力があって自身満々に乗り込んでくるような奴より、よっぽどか使えるってことがあるからなあ」


「ああ~ら。それってもしかして、ゾーイやハリエットのことかしら?」


 ゼンディラとフォスティンバーグ博士はぎょっとした。エレベーター内は円形で、結構な広さがあったが(おそらく三十人以上は軽く乗れたろう)、乗った時には彼ら三人しかいなかったにも関わらず……背後にまだ十六歳くらいの少女が立っていたからである。


「なんだよ、コレット。誰か迎えにいけって校長からアナウンスがあった時にはしぶったくせに、どうせ来るんなら最初から来れば良かっただろ。オレはなあ、誰も来たがらなかったから仕方なくわざわざエレベーターでてっぺんまで来てやったんだぞ」


「べつに、いいじゃないの。よく考えたら新顔がどんな奴なのか、みんなより先に知っておくのも悪くないなって、考え直したのよ。ふうん。お兄さん、結構お年を召してらっしゃるのね。ここへ来る子は平均して、十代前半くらいの子のほうが多いのに……もしかして、戦争か何かで人を殺すか、殺されそうにでもなって能力がどっかーんと開花しちゃったとか、そういう口?」


 コレットという少女の言葉に、ゼンディラは一瞬にして顔が青ざめた。どう答えていいかわからず、その後もただ黙っていることしか出来ない。


「あ、こりゃ図星だな。それか、それに近いことがあったんだよ。コレット、おまえだって人から聞かれたくねえような過去があんだから、最初からそう突っ込んだこと聞いたりすんじゃねえよ。あ、おっさんたち。ちなみにオレの名前はナーサ・オルディスってんだ。能力のほうはPKで、念動能力者だ。その気になれば、結構どでかい岩でも数十メートルは移動させられるし、それで敵兵をぺしゃんこにしたりも出来るんだぜ」


 えっへん!と、自分の功績を誇るように、ナーサは胸を張った。けれど、ゼンディラの思いは他にあった。こんな、まだ年端もゆかぬ少年が戦場に狩りだされることがあるのだろうかと、そう想像したからである。


「わたしは……メトシェラという下位惑星出身の僧侶で、ゼンディラと言います。それで、こちらは高名な精神科医のフォスティンバーグ博士です」


「いや、高名かどうかはともかくとして……まあ、もしかしたらこれから、君たちとも面談したりすることがあるかもしれない。ESP部門の長官に、そうした仕事のスタッフにならないかと言われてるんだが、まだ決めかねているものでね」


「そうだったんですか。わたしとしては是非博士にいてもらいたいですが……でも、そんなのは我が儘というものですね。わたし自身、すぐなんの能力もなしとして、ここから放りだされることになるでしょうから」


「ううん、そんなことない!ナーサは力持ちのバカと一緒だからわかんなかったんでしょうけど、お兄さんには間違いなく力があるわ。ただ、それがどんなものなのかってのが、あたしにもまだよくわかんない。でもあんなとおおおくからわざわざ呼び寄せたってことは、お兄さんはきっとすごく大きな力の埋蔵量があるのよ。うん、絶対きっとそう!」


「あんな遠く……?今まで、わたしの出身惑星の名前を口にしても、わかる人はほとんどいなかったんですが。コレットさんは、とても物識りなんですね」


「ああ。コレットは、高位惑星系でも中位惑星系でも下位惑星系にあるどんなに遠い辺境惑星でも知ってんだよ。といっても、その全部に行ったことがあるとかじゃなくて――単に好きなんだよ。色んな銀河系にある惑星や、その特色なんかを覚えたりするのがな」


「コレットさんだなんて、ゼンディラ!そんな他人行儀な呼び方よしてよ。わたし、コレット・コニー・コルベット。呼び方はコレットでもコニーでもどっちでもいいわ。あなた、きっととってもいい人ね!やっぱりわたし、みんなより先にゼンディラと知り合えて良かった。わたし、ここでのあなたにとっての一番最初のお友達よ。そういうことでいい?」


「ええ、まあ……お友達が増えるのは、わたしとしても大変喜ばしいことです」


 ゼンディラのこの言葉に、コレットはにっこー!とすると、彼の左腕をぎゅっと掴み、自分のそれを絡ませた。ゼンディラは若干戸惑わなくもなかったが、何分、相手はまだ年端もゆかぬ少女である。それで、そのうちすぐ飽きてどこかへ行くだろうと思い、とりあえず放っておくことにした。


 地下二十階へ降りてきてみると、そこは狭く細長い空間であり、目の前にジェラルミンの光沢を思わせる大きなドアがあった。その右隣に小さな電子ロックキィがあり、フォスティンバーグ博士がそちらに向かって呼びかける。


「あら。あたしの力があれば、四人一緒にテレポートさせることも簡単に出来るんだけど……」


「余計なことすんなって、コレット。それに、施設内じゃ訓練以外で無駄に能力使うなとも言われてるだろーが」


「ああ、力を使えば使うほど寿命が縮む説ってやつ?あんたまさか、あんなの信じてんの?」


「なんにしても、一度ESP能力に目覚めた人間の寿命が短いってのは事実だ。まあ、研究者のジジイどもが唱える説なんぞ、オレも真に受けてねえってのは確かだがな」


「そうよお。あたしのテレポート能力にしたって、一度素粒子レベルで自分の肉体を解体し、次に別の場所へ現れる時に再び構築し直すだなんて説、真顔で唱えてるしょうもないジジイ連中ですもの」


 ナーサとコレットがそんな会話を交わすうち、フォスティンバーグ博士は情報諜報庁のAI<エレクトラ>と話し、『確かに、メルヴィル=メイウェザー長官と会談の予約が入っておりますね』と彼女のほうで確認が取れると、扉のほうは瞬時にして開いた。


「この分厚いドア、核兵器が投下されてもぶっ壊れないって話なんだけど……あんた、そんなの信じる?」


「さあ。どうでしょうか……核兵器なるもの自体、わたしにはよくわかりません。一応、電子書籍なるものを読むうち、そんな恐ろしい破壊兵器があるといったことは、知識として読むことには読みましたが」


「ふう~ん……」


 コレットがゼンディラのことをすっかり気に入ったように、ナーサ・オルディスもまた、ゼンディラに対し――テレパシストのユーリ・ウルノフがよく言うグッド・ヴァイブスとやらを感じ、この辺境惑星の僧侶という男に好感を抱いた。


 このことについて、校長こと、ESP部門長官のメルヴィル=メイウェザーは「彼らの嗅覚はまさに犬並みですからな」という言い方をする。メイウェザー自身、特段自分が能力者たちに好かれているとは思ってないが、とかく超能力者というのは好き嫌いが激しく、第一印象が悪かった人間にその後心を開くというのは実に稀な出来事であるという。


 ドアを通り抜けた向こう側は、カフェなどがあって心地好い居住スペースといった趣きであったが、人は誰もいなかった。掃除ロボットが一体、ただ黙々と自分の体に床の絨毯のゴミを吸い込んだり、手から洗剤を出してはソファとソファを隔てる透明な仕切り窓をピカピカに磨いたりしている。


「今はまだみんな、地下で訓練中なんだ。でも、訓練やら学校での追試やらが終わったら、どっとここへやって来て、『腹へったー!』なんてって、調理ロボットの作った料理を食べたりするって具合かな」


「そうなんですか……」


 ゼンディラはぼんやりそう答えつつ、螺旋階段の上の、吹き抜けになっている二階席や三階席のスペースを見やった。かなり広いところを見ると、宇宙中から見つかり次第かき集められてくるESP能力者の数は、100名ではきかないように思われた。そして、天井からかかる天の川銀河が一階の床近くまで伸びてきているのだが――ゼンディラは最初、その輝きがなんなのか、まったくわからなかったのである。


「ああ、あれね!ノラ、少しの間だけ電気消して」


「お嬢さま、ノラめはただいまお掃除中でして……お仕事の邪魔はしないでいただきたいものですね。ガーガー」


「ちょっとくらいいいじゃない!ねっ、お願い」


「しょうがないでございますわね……では、ぱちりんこ!」


 その瞬間、どこから洩れてきているのかもわからぬ人工照明が消え、あたりは真っ暗になった。途端、三階天井あたりから伸びてきている天の川銀河が、スーッとゼンディラたちの真上にまで下りてきて、えもいわれぬ輝きで室内を満たした。


「これもまた例の……視覚マジックというものですか?」


「べつにそんなことどうだっていいじゃない!ただ、とにかくもうとおっても素敵じゃないこと?あたし、最初にここへ連れてこられた時、きっとろくでもないところに違いないとしか思ってなかったけど、この天の川見た途端、すっかり気が晴れたの。ゼンディラ、あたしたちはみんな星屑なのよ。この星屑のひとつひとつがあたしたちで、それでいてその全部がまたあたしたち自身とも言えるの。あたしの言ってること、わかってもらえるかしら?」


「ええ。まあ、大体は……」


 隣のコレットに向かってゼンディラが優しく微笑みかけると、彼女は「よかった!」と言って、ぎゅっと彼の腕をさらに締めつける。


「ありがとう、ノラ!もう電気つけていいわよ。そんで、お掃除の仕事に戻って。ノラ大好き!愛してるわ」


「電気を消しただけでそのように喜んでいただけて、ノラも嬉しゅうございます。わたくしめもお嬢さまを心から愛しておりますですよ、ハイ……ピー、ガーガガー」


 その休憩室兼ラウンジのような場所を抜けると、再びエレベーターが8基ある場所へ出た。「校長先生の部屋へ行くには、この右端のエレベーターを使ってくれ。つか、他のエレベーター使っても長官室へは繋がってないもんでね」と、ナーサが言って、そのエレベーターのほうを指差す。


「ほら、オレたちの仕事はここまでだよ、コレット。ゼンディラと博士は校長先生となんかしらオレたちに聞かれたくない話でもするんだろうから、オレたちの姿を見た途端、いつも通り見るからにいやそ~な顔でもして、眉間に縦皺を刻むっていうそれだけさ」


「ええ~っ。なんかつまんなーい。あたし、みんなにゼンディラのこと紹介する役目を仰せつかりたかったのに~!!」


 エレベーターがやって来るまでの間、コレットはゼンディラにしがみついたままでいたが、それでもナーサが彼女の訓練用スーツの襟を掴むと、あえてテレポートまでして逃げようとはしなかったのだった。


「くっすん。ゼンディラ、またすぐに愛しの姫君であるコレットちゃんに会いにきてね。チュッ!」


 ブロンドの美少女に投げキッスまでされて、ゼンディラとしても面食らったが、「なーにが愛しの姫君コレットちゃんだ!」と、ナーサはすっかり呆れ顔をしていたものである。


「どうやらすっかり懐かれてしまったようだね」


「いえ、どうでしょう。子供の気持ちなど、明日にはまったくわからぬものですよ。それに、わたしが実は結構な能力者であることでもわかればいいのですが、なんの力もないみそっかすであることが露呈した日には……コレットの行為は即座に軽蔑に変わるかもしれないですしね」


「まあ、なんにしてもここからが本題といったところかな。私も超能力者相手にカウンセリングなどした経験がないものでね。並の精神科医がしないであろう経験が出来ることを光栄に思う一方――うまくいくかどうかわからないという不安もある。何分、彼らというのは……ゼンディラ、君と同じく能力の顕現と同時に心に深い傷を負っていることが多いということだったからね」


「フォスティンバーグ博士ならきっと大丈夫ですよ。わたしが博士に対して『この人は気を許しても大丈夫な人だ』と直感したように、子供たちはそのあたりのことにもっと敏感でしょうからね。博士のことを信頼できる人であるとして、きっと心を開いてくれるんじゃないでしょうか」


 これは、あくまでゼンディラの感覚的なことに過ぎなかったが、エレベーターは縦ではなく、横に進んでいるように思われた。それもどちらかというと、足許の床がエレベーターの箱ごと滑っていっているというより――床だけがなんらかの力に巻き取られでもするように前へ前へと進んでいるかのようだった。途端、エレベーターと思っていたものは取り除かれ、左右が光る壁へと変わる。その一瞬の発光ののち、その白いパネルからAI<エレクトラ>の声がした。


『情報諜報庁へようこそいらっしゃいました、おふた方とも……こののち、さらに百メートルほど移動していただきますが、何か心地好いサウンドミュージックとともに、映像でもお流し致しましょうか』


「たかが百メートルだ。そんなのは君に任せるよ」


『では、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番とともに、惑星レハールの名峰スーチョン山山頂からの眺めなど、いかがでございましょう』


 途端、この視覚マジックに馴れつつあったゼンディラでも、やはり一瞬ドキリとした。何故といって、左右のパネルだけならばまだしも――床もなくなり、そこが白い雲のたなびく雲海の上へと一瞬にして変わっていたからである。そして、その薄青い峰々というのは、ゼンディラにアストラシェス山頂からのアストラス連山の眺めを連想させるところがあり……ゼンディラは強い郷愁に胸を締めつけられる思いがした。


(今ごろみんな、どうしているだろう。もちろん、わたしひとりがいなくとも、みんな元の、同じ祈りと瞑想に専心する日々を送っていることだろう。そして、わたしには何よりわかっている……突然いなくなったわたしの身を案じ、そのことでも彼らが毎日熱心に熱く祈ってくれているだろうことが……)


 無論、AI<エレクトラ>のほうでは、そんなゼンディラの心の内についてなど知る由もなく、暫くののち、今度は惑星オマリオンの青い森――霧にたなびくブルーフォレストを映しだしていたのだった。


「とても……綺麗なところですね」


「そうだな。キノコ型人類がいるという、非常に危険な森だというのがなんだが……確かにこうして見る分には美しいとは言えただろうな」


「キノコ型人類って……」


 ゼンディラがいつものように疑問に感じたことを聞こうとしたところで、床が移動する感覚が終わり、左右も背後も天井までもを覆う映像美の世界も終わりを迎えた。


「まあ、手短に言うとしたらな、何も知らない地球人がその惑星に降り立ち、もうなんの危険もなかろうということで宇宙服といったものもすっかり脱いでしまってのち……ブルーフォレストに生えるなんの変哲もないキノコの胞子に感染してしまったのだよ。ようするに、寄生されたということなんだが、この胞子は成長すると宿主の思考能力をのっとってしまう特性のあることがのちに判明した。だが、君の故郷の惑星ほどでないにせよ、惑星オマリオンは辺境の星系にあるからねえ。このことがわかるまで長い長い時間がかかり、その頃には何も知らない人間たちが次々この惑星へ降り立ち、『なんと自然の美しい星だろう!』というので暮らしはじめたところ……まあ、キノコに思考能力を乗っ取られた人間というのが次から次へとどんどん増えていき――最終的に今、そのキノコ型人類と化した人々が百万人くらいいるらしいんだ。このキノコの胞子というやつが曲者でね、人間の脳に心地のいい夢を見させつつ行動を操るものだから、なかなかその支配下から逃れるというのが難しいらしい」


「その……おかしな言い方ですが、キノコたちの目的というのは一体なんですか?寄生して操るというからには、操る目的というのが当然存在するわけでしょう?」


「まあ、キノコの胞子の本能といったら当然、増え広がることじゃないかね。つまり、自分たちがよりよく生存していくために、人間に森の手入れをさせたりなんだり……最初はそんな単純なことが目的だったらしい。ところが、オマリオン星のキノコたちはもともと、ある特殊なテレパシー物質を放出し、互いに連絡を取りあうことが出来たんだ。だが、彼らも地球産のキノコと同じく自分で歩ける足のようなものはない。そして、人間が寄生するのに適していることがわかると……自由に移動できるだけでなく、キノコ語という言い方をするのも何か笑ってしまうが、お互い、より深いコミュニケーションを持つことが出来るようになったわけだね。それはキノコたちにはこの上もなく嬉しいことだったらしく――こうして彼らは爆発的にその数を増やしていったんだな」


『おふた方とも、おしゃべりも結構ですが、そろそろお急ぎください。そちらの廊下の角を右へ曲がったところにあるドアが、長官室へ続いておりますゆえ』


 AI<エレクトラ>の促しに従いつつも、磨き上げられたリノリウムの床を歩く間、ふたりは再び会話を続けた。


「だからね、一見なんの危険もないような惑星こそ、実は危険だということが今ではよく知られているんだよ。何故といって、オマリオン星のキノコたちが有していたようなテレパシー物質を持っているのが彼らだけでなく、今日ではある種の植物にも似たものを持つ草花や樹木のあることが知られている。もちろん、同じように人間が寄生されるとは限らないわけだが、そうしたテレパシー物質の仕組みを解明することで、植物とも話をする方法が見つかるかもしれない……というか、実際にそうした研究をしているグループというのはひとつふたつではなく、実にたくさんあるのだよ」


 フォスティンバーグ博士がそこまでゼンディラに説明するうち、情報諜報庁ESP部門長官、メルヴィル=メイウェザーの長官室までふたりはやって来た。地下にあるため、無論窓は存在しなかったが、壁の材質がすべてのっぺりした例の白いパネルと同質のもので出来ているということは、突然滝の風景を出現させたり、果てしもない宇宙空間を魔法のように描き出すことが、ここでも出来るということなのだろう。


『メイウェザー長官、ダニエル・フォスティンバーグ博士と惑星メトシェラの僧ゼンディラさまが到着されたよしにございます』


「ああ、通してくれ」


 メイウェザー長官の声が、ナノ・マイクロフォン越しに廊下のほうまで聞こえてくる。ゼンディラが当初想像していたよりも、ずっと若い男の声だった。途端、ドアがシュッと横に開いたかと思うと、その先は応接室のようになっていた。座り心地の好さそうな、ビロード張りのモダンなデザインのソファ、それにカーネリアンを混ぜたような風合いの大理石のテーブル。そこには三人分、すでにお茶までセットしてあった。そして、その奥に窓から陽光を浴びるような形でFPCフィールド・パーソナル・コンピューターを展開している、メルヴィル=メイウェザーの姿があった。彼は待ちわびていたふたりの来訪者の姿を認めると、一瞬にしてそれらすべての仕事を一時中断した。


「どうも、遠路はるばるお疲れだったでしょうね。これからお互い少しばかりお話をして意思の交流をはかり……まあ、三か月の仮契約を結ぶといった形になるかと思います。これは当方のためというより、博士とミスター・ゼンディラの権利と保障のためです。何分、ここは情報諜報庁の中でも特殊な部門でしてね。私など、ESP能力などカケラもないにも関わらず、情報分析官として失策の責任を取らされる形で左遷されるに等しく、この椅子へ座らされることになったわけですよ。あ、申し遅れましたが、私がESP部門の長官、メルヴィル=メイウェザーです」


 背の高い金髪の男に握手を求められると、フォスティンバーグ博士はもちろんのこと、ゼンディラもまた快く手を差し出した。彼は黒いサングラスをしていたが、博士は(おそらく仕事用なのだろう)と思い、あまり気にしなかった。だが、ゼンディラは気になった。『地球博物館』や『擬似体験アトラクション・ワールド』といった場所でも、ゴーグルと呼ばれるものはしたことがあったが、この場合、彼の目の表情が見えないのが気になったのである。


「ああ、これは失礼」と言って、メルヴィルはサングラスを外した。「私は先天性の目の病気なのですよ。どうも、遺伝子検査によると、祖先にケラー二星出身の者が混ざっているらしくてね。ほら、あそこは太陽が一年のうち四分の一も差せばいいような環境でしょう。ですから、他の大体のところ一年中太陽が差すような場所へやって来ると、陽射しが強すぎて目をやられてしまうのですな。劣勢遺伝でしか遺伝しない特質らしいのですが、私の場合、両親が南国風の温かい惑星ばかりを好んで移住していたもので、そのうち普通の陽射しが普通の人以上に眩しく感じるようになりまして……まあ、病気というほどひどいものじゃありません。もちろん、新しい眼球を入れ替えることだって、眼科のクリニックで日帰り手術で出来ますよ。ですがまあ、こうもなんでも、髪の色でも目の色でも好きなようにカスタマイズできるとなると……なんというか、自分のオリジナリティというんですか?人間ってのはそんなものに強い拘りを持ちはじめるものなんでしょうな」


 ゼンディラは、メイウェザー長官がサングラスを外した途端、ハッとした。右は水晶のように透き通った薄い水色、そして左のほうは灰色がかった紫色をしていたからである。彼はまだ二十代後半くらいであるように見えたが、やはり例によって見た目の年齢=実際の年齢ということはなく、メルヴィル=メイウェザーは現在47歳であった。


 長身だが痩せ型ではなく、情報諜報庁の紺の制服の下には、胸にも腕にも適度に筋肉がついているらしい厚みがある。おそらく、普段からある程度体を鍛えるのが当たり前といった生活を送っているに違いない。


「す、すみません。あなたのことをついじろじろ見てしまったのは、そんな理由からじゃないんです。そもそもゴーグルとかサングラスとか、そんなものをわたしが見るのも、自分の田舎惑星を出て以降のことでしたので……メイウェザー長官、あなたはとても綺麗な瞳をしていらっしゃると思います。いえ、あなたほど綺麗な瞳をしている方を、もしかしたらわたしは見たことがないかもしれません。ところで、あの壁の窓から差す美しい太陽の光は本物のように見えますが、本物ではないのでしょうね?」


 メイウェザーは愉快そうに首を傾げて笑った。彼は同性愛者でも両性愛者でもなかったが、もしそうであったとしたら、ゼンディラが自分を口説いているのではないかと思ったことだろう。


「そうです。ここは地下20階なものでね。そう思うと時々気分の滅入ることがあって、あんな偽の太陽の陽射しを浴びることにしているのですよ。本物にしか見えないような光景ですが、偽物の太陽の光であるがゆえに、わたしの目にも影響がない……まあ、そんなところですな」


「メイウェザー長官、先ほどESP能力者ふたりにここへ続くエレベーターまで案内してもらったのですが、長官は彼らに校長と呼ばれているのですか?」


 フォスティンバーグ博士の問いに、メイウェザーは今度は遠慮なしに大声で笑った。


「そうなんですよ。私はね、博士……教員の免状なんぞ持ってもいないし、この世で何より一番なりたくないのが学校の教師というやつでした。ですがまあ、あの子たちが私のことを校長なぞと呼ぶのは、おそらくこのオッド・アイのせいかもしれません。私になんのESP能力もないのは明らかですが、彼らにしてみたら『こいつは何かやりそうだぞ』という気がするんでしょうな。もっとも彼らには、ESPが相手にあるかどうか、また、その能力値をある程度推し量る力も備わっているようなので、そう考えると不思議なことなんですがね。なんにせよ、私の前の長官はこの部門で長続きせず、次々やめていきましたから……私も、他の部署への異動願いを出してるんですが、なかなか受け付けてもらえなくて、困っています」


 溜息を着きつつ、メイウェザーは茶を飲むようふたりに勧めた。それからカステラやドーナツ、マドレーヌやマカロンといったお菓子類も……もしかしたら彼は、甘いものに目がないのかもしれない。


「ESP部門の仕事というのは、具体的にどのようなものなのでしょうな」


 抹茶味のマドレーヌに手を伸ばしながら、フォスティンバーグ博士はそう聞いた。


「そうですね。フォスティンバーグ博士には、子供たちのカウンセリングをお願いしたいのですよ。ここの下の地下21階に、ESP能力封じの部屋がいくつかあります。何分、カウンセリング中に感情的になった場合、能力が暴走する危険性がありますので……ESP能力がもしなければ、あの子たちは本当にただの普通の少年・少女といったところですからね。というより、先にご説明させていただきますと、これまで彼らのことを見てきた精神科医や神経科医などは、ESP能力者を大体三つのタイプに分けています。過剰型と欠損型、それと、そのうちのどちらでもないが能力が発現したといったタイプです。ところで、ここまであなた方のことを案内してきた子たちは、誰でしたか?」


「ナーサ・オルディスと、コレット・コニー・コルベットです」


 そうゼンディラが答えると、メイウェザーは(やはりな)というようなしたり顔をした。


「ふたりとも、過剰型ですね。過剰型の子は基本的に、なんにでも積極的に取り組み、人生を生きることにも前向きです。あと、欠点としては好奇心が旺盛すぎて向こう見ずといった傾向にありますが……まあ、そうでない子もいます。だから、何か不幸なことがあって能力が顕現した場合でも、その後の導き次第によっていくらでも良い方向へ人生を切り開いていけると言えるでしょう。正義感が強かったり、保護欲という言い方はおかしいかもしれませんが、ある程度自己犠牲を払ってでも仲間や自分たちのチームを守ろうとする傾向が強い。だから、どこかの惑星の戦争などを止めに行くといったような時も、リーダーになるのは大抵が過剰型のESP能力者です」


「戦争って……あんな小さな子たちがですか!?」


 ゼンディラは愕然とするあまり、紅茶のカップを乱暴にソーサーへ戻した。


「ああ、誤解させてしまったかもしれませんが……彼らESP能力者は大抵、自分でシールドを張ることが出来ますし、普通の兵器で死ぬとか殺されるといったことはまずないんですよ。また、誰よりそのことをわかってるのは彼ら自身です。そこで大抵の場合、幾人かでチームを組むことが多いわけですが……ええと、そうですね。先に欠損型の説明をしましょうか。彼らは自己評価も低い上、生きる意欲もあまりないように見えます。とりあえず、表面上はね。ところが精神科医の先生方に言わせると、それは生きる意欲が無意識内であまりに強いがゆえに、逆に表面的にはやる気のない、無気力として現れるのだとか……まあ、今は私が何を言っているのかわかっていただかなくて結構です。あの子たちに会えば、そのあたりの見分けというのは大体のところつくでしょうから。そして、最後の三つ目のタイプというのは、過剰型・欠損型、そのどちらにも当てはまらないというタイプで、能力的に物凄いものを持っていることは少ないにせよ、ある程度バランスが取れている中間型と言えるかもしれません」


 ここで、メイウェザーは一息入れるように紅茶を飲み、チョコドーナツを摘んだ。彼の大学時代、一緒にドーナツを食べていると『このドーナツ、どーなってんだ?』と必ず言う友人がいたが、彼は今、どこでどうしているだろう……そんな思いが一瞬脳裏をよぎる。


「それで、話のほうは少し戻りますが、彼らはテレパシストもいるにも関わらず、コミュニケーションを取るのが非常に下手なのです。ですから、ここの訓練施設で彼らがしていることというのはようするに……そのあたりの連携を取るということなんですよ。ありとあらゆる戦略シミュレーションをAIが立て、その場合どのように動いて相手を倒すのが一番効率がいいか――そんな勉強をするのですな。また、普段から助けあい協力しあうことで、それが最終的に作戦がうまくいく可能性が高まる結果を生む……といった、大体そのようなところです」


「その、非常に言いにくいことなんですが……わたしの故郷の惑星メトシェラで、対惑星任務に就いている特殊部隊員という方に、わたしは苦境を救っていただいたのです。その時、なんというかまあ、いわゆるESP能力が顕現したと言いますか、そのようなことがあって……ですが、わたしが力を使えたのはその時たったの一度きりですし、以降、そうした力の片鱗が発現したり、発現しそうだとの気配を自分の身内に感じたことすら一度もないんです。ですから……」


「ああ、その点はまったく心配いりませんよ」


 メイウェザーはにっこり微笑みつつ言った。フォスティンバーグ博士のカルテであれば、彼もすでに目を通している。そしてその上で、メイウェザーは(このゼンディラという人物は、必ず役に立つ)と確信していたのだった。


「私が長官として任されているこのESP部門というところは、その昔は非常に評判の悪いところでした。ある特殊なESP能力を誘発させる薬剤によって人体実験を行なっているとか、色々悪い噂があったのですよ。でも、今は一切そうしたことはありませんから、ミスター・ゼンディラはどうかご安心ください。あなたの無意識下深くに眠る重力位相能力なるものを大きく揺り動かそうというより……その点についてはシミュレーション・ゲームをしていただくということでいかがかと考えています。そういえば、ハイデン大尉の報告によりますと、今日の午前中と午後にかけて、『地球博物館』と『擬似体験アトラクション・ワールド』へ行かれたということでしたが……」


「はい。大変興味深く、有意義な時間でしたが、わたしはいわゆるVR酔いというのですか?あんまり長い時間ゴーグルを装着していたせいで……ミッションをクリアーする前に気分が悪くなってきてしまいまして」


「そうでしたか」


 そんなことも電子報告書を読み、すでに把握していたメイウェザーだったが、もちろんまったく何も知らぬ存ぜぬという顔をしたままでいる。


「まあ、そのシミュレーション・ゲームというのもですな。あなたが自分のESP能力によって世界を救うとかいう、実にくだらん趣向のものなのですよ。それで精神に何か悪影響があるといったこともありませんし、それすらも馬鹿らしくてやるのが嫌だとなったら、私どものほうでも無理強いなど決して致しません。まだはっきりしたことは言えませんが、それで能力がまったく顕現しなくても、ゼンディラさんの場合、まったく問題ないかもしれませんね。というより、私のほうからひとつ提案させていただきたいのですが……このESP部門という施設では、常に教員が欠けているのです。その昔は教師の免状を持っている職員を募集したこともあったのですが、まあそんな免状あるかないかなど関係なく、大抵の場合長く勤まらないというのが現状でして。おそらくあなたに適任の職でないかと思うのですが、いかがでしょう?」


「……まだよく、詳しいことはわかりませんが、わたしで役に立つことがあれば良いと思います。長官殿には少々筋違いのことのように聞こえるかもしれませんが、わたしはこれでも恩義に感じているのです。もしあの時……ロドニアス隊長やヨセフォスといった人々がわたしを助けてくれなかったら、間違いなくわたしは国の高貴な人を殺した罪で、今ごろ死刑になっていたことでしょう。本来ならば死んでいたはずのところを生かさせていただいたのです。それのみならず、ここに至るまで、色々な人に親切にしていただきました。大変ありがたいことだと心しています。ですから……」


「いえいえ、そうスタリオンに恩義を感じる必要はありませんよ。ミスター・ゼンディラ、基本的にあなたは自由なのです。そして、その上で今後のことについてはお考えください。まずは暫くこの施設に滞在して、自分に合うか合わないか、様子を見てください。その後、『こんなESPを持ってる以外ではクソ生意気なだけのガキの面倒を見るなぞごめんだ』ということになれば、本契約の書類のほうは破棄することにしましょう。本星の好きなところへ行ってどうぞ自由にお暮らしください。そのための資金もスタリオンのほうで用意されています。というのも、エフェメラは観光目的でやって来る他星からの訪問者でさえ、厳しく制限していますが、一度、ほんの短い間でも星府の仕事をした者は元職員であったとみなされ、恩給がでます。もし万一そうした身分が保証されなくても、下層階級マンションでなんの費用も一切かかることなく一生、毎月電子マネーを支給してもらって暮らせますから……ただ、ミスター・ゼンディラ、あなたが惑星メトシェラを出て、どのような経路でここまでやって来たか、ここでの働きぶりはどうだったかといった記録などは、この先ほとんど半永久的に残ります。また、情報諜報庁にほんの短い期間在籍しただけでも、他星からやって来た人間であれば特に、その後もどうしていたかなど、ある程度追跡される可能性が高い。まあ、こうしたところが本星のなんとも嫌なところと言えたでしょうが、それ以外では人権も保証され、概ね住みよい惑星だとは言えるかもしれませんね」


「そんな……わたしは、出来る限り自分が受けた恩くらいのものは返すのが道理と心得ている者です。ですから、もしそのわたしにあるというESP能力というのがうまく顕現してコントロール出来るといいとは願っています。それがもし、人の役に立つというのであれば、なおのこと……」


「そうですか。ミスター・ゼンディラ、そう考えた場合、あなたもまたナーサやコレットと同じ、過剰型なのかもしれませんね。そういえばあなたは僧侶でもあられるし、もしかして人を救いたいという救済願望が強い方なのではありませんか?」


「救済願望だなんて、そのような恐れ多い思いは抱いていません。ただ、僧という者の生き方というのは基本的にそうしたものなのです。自分よりも他者の身を常に慮るべし、という……もちろん、いつでもそう出来るわけではありません。ひねくれた愛せない人間に出会えば、当然心の中に葛藤も生まれます。けれど、そのためにこそ祈りと瞑想といったものは必要なのです。フォスティンバーグ博士であればともかく、わたしは自分が教師職に向くとはまったく思っていません。それでも、いくらかなりと子供たちに良い影響を与えられるのであれば……喜んでそのその職業に身をやつしたいとは思います」


「ええ、確かにいい影響があるでしょう。何分、今ここにいる子供たちの数というのが……127名ばかりといったところだったですかね。うち、対惑星任務に就いていて、留守にしてる子が……」


 正確な数字がわからなかったためだろう、メイウェザーは手のひらに端末を開くと、そこにファイルを呼びだしていた。


「惑星エルヴァーナに派遣されているのが12名、惑星フォルトナに派遣されているのが7名、惑星ゴッサムに5名、惑星キドゥンに3名……といったところでしたかな。計27名……ほんの偶然ですが、この計算でいくと、今ESP訓練施設学校にはちょっきり100名のESP訓練生がいるということになりますな」


「そうですか。となると、結構な大所帯ですね。ではわたしは、自分に能力があって操れるかどうかを探るのと同時に、その子たちと同じ身分でありつつ、先生にもなるということでしょうか?」


「そうですね。でも、そうご無理なさることはありませんよ。ゼンディラさんはまず、暫くの間は長旅の疲れを癒しつつ、少しずつここのESP能力開発のためのシミュレーション・ゲームに慣れていってください。まあ、慣れてくるとただのくだらんヴァーチャル・リアリティゲームとなんら変わるところはありませんが、あなたはその中でどんなことでも自由に出来ます。もしあなたにPK(念動力)のESPがなかったとしても、大きな岩を十メートル吹っ飛ばしたり、あるいはそれを粉々に砕くことも出来ます。ただほんのちょっと、頭の中でそう強く願うという、それだけのことでね……同じ法則によって空を飛んでいくらでも山を越え海を越え、草原を越えて移動することも可能です。また、時々敵にも襲われますが、その時も相手に『死ね!』とか『消えろ!』と願えば、その敵はなんらかの形でダメージを食らって死ぬなり消えるなり退散するなりします。『右腕だけちぎれろ』と念じれば、そのようになるでしょうし、『左足だけ破壊しろ』と念じれば、大体そのとおりに……」


「そんな残酷なゲームを、子供たちにさせてるんですか!?」


 ゼンディラの顔は再び青ざめたが、メイウェザーは今度はどちらかというと、そんな辺境惑星僧侶の初心な反応を楽しむような表情を浮かべている。


「いえいえ。こんなもの、ほんとにただのつまらんゲームです。敵なんて言っても、ゴブリンとかトロールとかサイクロプスといったような、醜い怪物ばかりですしね。大体、このゲームを累計68時間とか72時間くらいやり続けても、まったくなんのESP能力なしと認められれば……その人はまあESPの素養がないということになるでしょう。大抵のESP能力者はね、このゲームを数時間もやらずして、ゲーム内で起きたことを外の現実の世界でもまったく同じように出来る場合が多いんですよ。欠損型の、なんらかの理由によって心を閉ざしている能力者の場合でも、その後ゲーム時間を積み上げていけば、そのうち、ね」


「…………………」


 とりあえずゼンディラは、この件についてそれ以上言及するのはやめておいた。実際に自分の身をもって経験してから、異議申し立てのほうは行なうべきだと思ったのだ。


『メイウェザー長官。そろそろ、軍諜報部とのESP捜査官派遣についてのことで、ネヴィル・ローゼンバウアー少将と会談の予定時間となります。残り、9分37秒』


「ああ、そういえばそうだったか。真犯人逮捕のために、テレパシストを派遣してくれだなんて……うちの子たちの繊細さをあの筋肉ダルマはまったく理解してないんだから、まったく困ったものだよ。さて、今回はどんなふうに言って煙に巻いたらいいものかな。あ、エレクトラ、背景のほうは、少将殿の失礼にならないよう、何かそれっぽいのを用意しておいてくれ」


『かしこまりましてございます』




 >>続く。






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