貴族はお金でできている 7
「…」
気付いたら部屋に入って走っていた、マシューのもとへ。
正直、予想は出来た。
マシューが宰相になろうと、周囲の期待に応えようとしていたことは知っている。
だから、あの日がもたらした影響なんて予想がつくに決まってるじゃないか。
後一歩あれば、ここからから落ちようとするマシューに届く。
ーーだけど、我に帰った彼は自身の命を経とうと
「…落とすわけないでしょ!!」
「なっ!?」
そんなの許せるわけがなくて、ギリギリのところで手を掴む。
「なんで…」
「自殺未遂を止めたこと?それともなんで私達がここにいるのか??」
「私達…?まさか」
あぁ、リクのことは気付いてなかったんだ。
そんな彼の前にリクは現れる。
「…」
「…!せお…ドリ」
「はいはい、どっちなの。今ならなんと、好きな質問に答えてあげます!」
セールスマンの真似事をしてみるが、ちっとも場は和まない。
…こうゆう時ってどうすればいいのかな?私、自殺しようとしている人にかける言葉なんて分からないんだけど。
でも、もっと分からないのはリクだろう。
だって彼はどんな大義名分があれど裏切ったんだ、マシューを。だからそれでも目を合わせようとする彼は、強いと思う。
だから、私が代わりにふざけてあげる。
「ねぇリク、私はこいつになんて言えばいいの?災難だったわね、ご愁傷様??」
「…死んでないからご愁傷様じゃなくない?」
「そうね、じゃあ辛かったわね、可哀想に?…自分で言っててなんだけど、反吐が出るわ」
「じゃあ本人に聞いてみよう。さぁマシュー、なんと言ってほしいか?」
「……なんですか、それ」
リクとマシューにかける言葉探していたが、結局答えは分からなかった。
「なんですか、それ…これでいいの?」
「え…?」
「言って欲しかったんじゃないの?」
「は…」
いや、分かるよ。こんなのかける言葉じゃないくらい。
でもね、こっちはこっちで分からないんだよ。なんて言葉をかければいいかなんか。
ーーそして、彼は怒りだす。自笑しながら、それでも私たちを見据え。
「お前達が…お前達が壊したんだろう…!!
お前達が私の未来を!…私の未来を壊して、宰相になる将来を壊した。
それでなんだ、今度は笑い物にでもするつもりか…?こうやって今から逃げようとする私を責めるのか?
…自分の命ぐらい好きにさせろ!!!」
「…ふざけんな」
いや、分かるよ?
彼には同情するし、罪悪感だって少なからずも感じないこともない。
それでも、こいつは何もわかってないんだ。
「なぁぁぁぁにが!!自分の命ぐらい好きにさせろだ?」
「なんだ!しょうもない善意でも湧いてきたか!?」
「んなわけあるか!お前に死なれちゃ私達の悪評が立つの!!」
「…え、保身なのか?」
リクが私に聞いてきた。
いや、自殺に追い込んだ相手に救われるなんてどんな屈辱よ?
流石に同情はしてるけど言うことなんてできないって。そんな権利ないし。
「保身に決まってるでしょ…。あのね、貴方に死なれちゃ私達が追い込んだっていう噂が立つの。」
「噂…まぁ、そうなるだろうな。でもそこまでバッシングは受けないと思うぞ?俺たちにそこまでの非がないんだから」
いや、そうなんだけどさ…。
確かに私の婚約破棄に加担したり、バカだったりするから断罪はしょうがないと思われるだろう。
「でもね、悪評は悪評なの。それでいつか、それが真実になっちゃうの。…そうでしょ、マシュー?」
「え…?」
「だって貴方達、私の噂と先入観を真実にしようとしたでしょ?」
「…それは」
「貴方達のように噂を鵜呑みにするバカだっているの。それ、分かってる?」
「それで悪評か…」
どうやらリクは腑に落ちたようだ。良かった良かった。
すると、苛立ったような声が聞こえてくる。
「お前の悪評なんか…!!」
「えー、これでも王妃だよ?王妃の悪評とかヤバくね?」
「特にアミティエ公爵とかが嫌がらせしてくるかもな?」
「うわー、やだわぁ」
面倒くさいことこの上ないじゃないか…。
ーーとはいえ、そのくらいでふざけんな、なんて言葉をうかつに漏らしたりはしない。
だから私はそれに、と付け足す。
「…一応言っとくけど、これはここの領民のためでもあるからね?」
「…領民のため?」
「どうゆうこと?彼らはマシューがいなくなると困るモノなの?」
心当たりがないのはどうなんだろう?
…こんなんじゃ日本ではバッシングの嵐じゃない?
「あのね、貴方は民の血税でできているのよ?」
「…うっかりしてた」
リクは察しがついたようだ。
一方のマシューはまだ分からないようだが。
「私達貴族は、民の税金で暮らしているでしょ?」
「あぁ、そして貴族は民のために税を使う」
「なのに、貴方に死なれちゃ税金が無駄になるでしょ?」
「…お金の無駄だと?」
マシューが震える声で問いかける。
「そう、無駄。だからね、せめて国に尽くしてくれないと困るのよ」
「…なんですか、それ」
彼は私を信じられないような目で見る。
なぜそんな目をするんだろうか?
「なんですかって…当たり前でしょ?」
「そんな当たり前があってたまるか…!では、私の意思は!?」
「あるわけないわ」
そんなのがあるわけがない。
貴族は飢えに困らない、だから自由は奪われる。
「…ねぇ、私達はお金でできてるの。その意味がわかる?」
「意味だと?そんなことより貴族だって自由があるはずなんだ…!」
「貴方を養うためのお金があったら、家族を飢えさせることがなかったかもしれない。貴方を養うためのお金があったら、子供を捨てることはなかったかもしれない。」
「え…」
「それくらい、考えたことがないの?」
神童が聞いて呆れるわ。
「平民は今日を生きるのに精一杯…なのに大事なお金は無駄になったって?」
「きっとマシューは、来世まで恨まれるわね」
「それは…」
ミルミルうちに蒼ざめるマシュー。
でもこれは、少し考えて仕舞えばわかることだ。私だってちょっとの良心が目覚めただけで思いついてしまったし。
「だからこそ、貴方の命は国に尽くすべきだって言ったの。もちろん、私だってそのくらいの覚悟があって王妃になったのよ?」
「……」
「それに、貴方は使える。優秀な宰相になることを期待してるわ」
「…何言って」
「未来なんていくらでも変えようがあるでしょ?まるで物語の成り上がりね」
「貴方は…」
残酷だ、なんて知ってるわ。だって自分のことだし。
最後に、何を言えばいいのか決まった様なリクが言う。
「謝らないし謝れないけど…でも、仲直りを望んでる」
「……」
それから喋らなくなったマシューの元を後にした。
最後に言った言葉が、あの日私が思ったことでもあることに、少しだけ驚いたけど。




