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魔神の使徒(旧)  作者: ドラゴンフライ山口 (飛龍じゃなくてトンボじゃねえか!)
第一幕 初戦
15/68

これこそ油断大敵

 一方、左翼の戦場では2人の勇者と三元帥筆頭である最強の魔族が、文字通り将同士が残る戦場で激突していた。


 三元帥筆頭にして、個人の戦闘能力においては魔王ルシファードを上回る強さを持つ蝿の魔族ベルゼビュート。

 赤城から協力に際する条件として安全の保障を約束することになった対象である異世界人、光の属性魔法を駆使する勇者である日向の確保に成功した直後、新手の勇者が来たことによりベルゼビュートはその勇者の足止めのために戦っている。

 気絶している人を抱えた状態での戦闘となったが、2対1という数の不利まで背負う状況にもかかわらず、ベルゼビュートは2人の勇者を相手に余裕を崩すことなく渡り合っている。



「こんの………! その子を返せ、ハエ野郎!」



 木の属性魔法を駆使する勇者の1人、橘が左手を長大な竹槍に変えてベルゼビュートを貫こうと突き出す。

 それに対し、ベルゼビュートは躱す素振りもみせない。


 だが、槍はベルゼビュートの身体に届くと、その身体を貫くことができぬまま幻のように消え、属性魔法を無効化されたことで本来の片手の形に戻ってしまった。



「これならどうよ!」



 すかさずベルゼビュートの背後に回っていたもう1人の勇者、樋浦が自身の属性魔法である氷で形成した槍をその背中に突き刺そうとする。


 しかしそれもベルゼビュートの身体に触れた先端から消えていき、貫くつもりで突き出した樋浦の氷の槍は半分ほどの長さにまで削られた。



「ちょっ、反則–––––––ッ!?」



 先ほどから繰り出す属性魔法の攻撃を片っ端から消していくベルゼビュートに、樋浦が悪態つく。

 しかしそれは途中で途切れ、振り向きざまに振るわれたベルゼビュートの攻撃を食らって、樋浦は側頭部を蹴り飛ばされた。


 氷の槍の残った部位で防ごうとしたが、それもベルゼビュートの攻撃に当たった瞬間に消えてしまい、防ぐ手段をなくした樋浦は直撃を食らってしまった。


 本来ならば、女神の加護により属性魔法を使いこなせる勇者は、己の肉体さえもその属性に変えて敵の攻撃を凌ぐことができる。

 だが、属性魔法に対する耐性が強い魔族の肉体はその魔法の行使を妨害し、強力な魔族になれば属性魔法そのものを破壊、無効化することもできる。


 国造りの聖剣アルフレードと女神の属性魔法である蒼炎を駆使する光聖でなければ、いかに高位世界の異世界人といえど属性魔法に対する絶対的とも言える耐性を持っているベルゼビュートに属性魔法だけで戦うことは非常に困難だった。



「綾音!」



「余所見をしている暇があるのですか?」



 吹き飛ばされた樋浦に橘の意識がそれる。

 その隙に一瞬で間合いを詰めたベルゼビュートが、橘の首を片手で掴み取り持ち上げた。



「うっ………!」



 その首を容赦なく締め上げる。

 虫のように細い触手のような指しかないベルゼビュートの手だが、そんなものは見せかけでしかなく、人1人の首をへし折るくらいの握力はある。


 骨があげる悲鳴に、息が止められる中で橘はベルゼビュートの細い手首を逆に掴むが、うまく力が入らない。



「あがっ………!」



 そしてそのかすかな抵抗をあざ笑うように、日向を片手に抱えたままベルゼビュートはより力を込めた。


 まるで巨大なトンボのような、人間のそれとはかけ離れた方向に進化してきたベルゼビュートの目。

 それを睨み、意地でも屈しないと歯を食いしばり、ベルゼビュートの手首を握る手に力を込める橘。


 だが、それは虚しい抵抗でしかなく。




 –––––––グキッ



「…………………」



 その、首から鳴ってはいけない音がやけに大きく聞こえ、白目をむいて口元から泡を吹いた橘は抵抗をやめ、ベルゼビュートの手首から両手が離れた。



「終わったようですね」



 抵抗がなくなったのを確認したベルゼビュートは彼女の首を握っていた手から力を抜き、意識を失った橘を地面に下ろす。

 その場に崩れ落ちた橘は、白目をむいたまま動く気配がない。


 遠くにうつぶせで倒れている樋浦も、頭にくらった一撃で意識を失ったらしく、起き上がる様子はない。


 左翼に駆けつけた勇者たちを、ベルゼビュートは1人で残らず無力化して見せた。

 全員が属性魔法を主軸に据えてそれを武器にしているタイプの戦い方という相性の面においてベルゼビュートが最も制圧を得意とする相手だったというのもあるが、それでもこの世界で超人的な力を持つ彼女たちをこの短時間で倒せる存在は、魔族軍にはこの三元帥筆頭しかいないだろう。


 日向も確保した。

 増援の勇者たちも無力化した。勇者といえど、今日の戦線に復帰することはさすがに無理だろう。足止めという目的はこれで達成したとみていいだろう。


 そう判断したベルゼビュート。

 確保した日向をシェオゴラス城まで運ぶか、それともこのまま右翼の戦場まで飛んでいくかという2つの選択肢があるわけだが、シェオゴラス城では勇者の本隊が戦っているはずである。

 そうなると右翼の魔族軍と合流したほうが、安全かもしれない。


 ルシファードたちと合流することにしたベルゼビュートは、日向を抱えたまま背中の羽を開く。

 羽毛に覆われたルシファードのそれと違い、ベルゼビュートの背中にある羽は膜でできている虫のものだ。


 右翼の戦場に向かうべく飛び立とうとする。

 だが、飛び立つ寸前に、それに待ったがかけられた。


 広げたベルゼビュートの羽の一枚が、突然何者かに掴み取られて破かれた。



「バカな–––––––ゴァッ!?」



 その犯人が誰であるか。

 ベルゼビュートは即座に理解したが、彼女がこの短時間で復活するとは思っていなかった。

 振り向きざまに閃光による目くらましをくらい、真っ白になった視界の中で思わず日向の体を離してしまう。


 直後に腹部に強い衝撃を覚え、そのまま先ほどの樋浦のように吹き飛ばされてしまった。



「不覚を………」



 想定外の一撃はベルゼビュートの意識を刈りとるほどに強いもので、かすかに戻った視界の先で眠らせたはずの日向が橘の元に駆け寄って聖属性の癒しの魔法をかける姿が入ったのを最後に、ベルゼビュートの意識は沈んでしまった。


 その後ベルゼビュートはこの戦場に1人倒れこんでいるのを味方に発見されて保護してもらったのだが、日向を取り逃がしてしまう結果となった。





 ………こうして、魔神クテルピウスと女神アンドロメダがそれぞれ召喚した異世界人同士が激突しあい、魔王ルシファードも最前線に立ったシェオゴラスの一大決戦は、両軍ともに大きな犠牲を払い、最終的に魔族軍の勝利で幕を引いた。

これにて第一幕は終了となります。

登場人物が次々出てきて、視点もめまぐるしく切り替わり、そのくせ戦闘描写が少ないなど至らぬ点が多々ある出来と思っています。


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