作戦
俺は試験に合格し上位クラスに上がることができた。
もともと上位クラスの実力を持っていたエリーとアリシアについては何の問題もなかった。
俺が待たせていたようなものだ。二人共ごめんなさい。
上位クラスで過ごして既に一週間が経っていた。
ここの環境はやはり、いや俺が思っていた以上に殺伐としていた。
努力し続ければ必ず報われる。そんな言葉を全面的に信じるほど俺も綺麗ではない。
だが努力しなければ成長できない、昨日の自分を越えることはできないということだけは真実だと知っている。
現に俺はそうやってここまで来た。その想いで一応勇者にもなれた。死んだけど……。
おっとまた暗黒面に落ちるところだった。
全ては俺が悪いんじゃない、チート野郎が悪いのだ。
この王立魔法学校もチート野郎によってかなりの影響を受けていると再確認。
何の努力もせず、ぽっと出の生徒が物凄い力を発揮して、今まで頑張っていた者をごぼう抜きしてトップに君臨する。
そんな現実をまじまじと見せられたら人はどうなるだろう?
それを見ても「自分が歩んできた道を信じて突き進む」という意思を貫き通せる者がどれだけいるだろうか?
ましてやここは学校だ。俺は例外としてほとんどの生徒はまだ少年、青年である。大人ではない。
そんな若い者達の心は影響を受けやすいということは明白だ。
チート野郎アルテア。
こいつは既に上位クラスで確固たる地位を築いていた。
圧倒的な魔法と魔力を持つアルテアにもはや授業など不要であると教師達は判断。
予備棟を丸ごと与えられて、もはやアルテアの城のようになっていると分かった。
アルテアの力に魅せられたほとんどの生徒達は親衛隊を結成し周辺を守っている。
アルテアはその無限の如く溢れ出る魔力を他者に分け与えることができるという。
その魔力欲しさに集まった者達が大勢いるということだ。
自ら努力することをやめてしまった者達。
ただ与えられることに満足してしまった者達。
このままでは人としてダメになってしまう。
アルテアを倒す理由がまた一つ増えたということだ。
しかし、教師達までもがアルテアの味方になっているとは思わなかった。
この学校の実力主義からしたらそれは正しいことなのかもしれない。魔法を使う兵士の育成機関という側面は無視することはできない。
だが今、評価されているそれは本当に実力による評価じゃない。
ただの与えられし力、何もせずに得た力、チートだ。それは実力とは呼ばない。呼ばせない。呼ばせてたまるか。
俺は上位クラスに上がったらすぐにアルテアに接触し何とかするつもりだった。
しかし事はそう簡単にはいかないようだ。
まずアルテア本人に会うために何をすべきか。
俺達は考えた。
……結論は既に出ていた。
もはやここまで来たら正面突破しかない。
というか俺はアルテアへの対策しか練っていなかったのでこのような事態は想定外だったのでしょうがない。
しかし幸いにもこっちには元魔王がついている。
「アリシア、この数ヶ月は師匠としてバックアップにまわってもらってありがとう」
俺は改めてアリシアに感謝の言葉を述べると共に俺の考えを伝えた。
アリシアはニッコリと笑った。小悪魔的スマイル、いや魔王的スマイルであった。
「つまりワシが大暴れすればいいのじゃな?」
本質を完全に理解していた。
そうですね、そういうことです。元魔王の圧倒的な力を見せつけてやってほしいのです。
「ただし手加減はよろしく。あと召喚は禁止で」
前回の力、ほんの一部の力だったがあれを見るに手加減してくれないとそもそも学校ごとめちゃくちゃになりそう。目的はチート野郎を狩ることだ。学校をぶっ壊しに来たわけじゃないからな。
「うーむ。ワシはその加減というものがいまいち分からないのだがのう」
「そうだな……。俺をボコボコにするぐらいの力で頼む」
「なるほどそういうことなら何とかなりそうなのじゃ!」
恐らくこの伝え方で間違いないはず。
何故なら親衛隊はたぶん単純な魔力なら俺より強いから。俺をボコボコにするぐらいで戦えばちょうどよくなるはず。
「エリーは俺と共にアルテアの元へ。もしも俺が倒された時は」
「そんなことは絶対ありえません! ちゃんと見てますからね」
もし俺が倒されたらアリシアと共に逃げてくれと伝えるつもりだった。
アルテアのチートは未知数。
これだけの大多数に魔力を分け与えるということはもしかしたら想定以上のチートなのかもしれないからだ。
チート狩りは俺の仕事。
それが失敗したのなら二人にこれ以上付き合ってもらう事はない。
ということを伝えるつもりだったのだが、エリーは俺の勝利を全く疑っていないようだ。
以前にも二人には伝えたことだが、アルテアとタイマンで向き合って魔法に打ち合いなんてことをしたらまず間違いなく瞬殺される。それがチートというものだ。
だから奴のチートを無効化するための力を努力によって手に入れた。
そのための基本となる力を俺は手に入れた。
あとはこの力を活かすための「状況」を作り出すことだけだ。
俺が想定した「状況」とは密室。
とにかくどこでもいい、できれば空気の通りが少なく、窓も少ない密室だ。
これさえ整えば何とかなる。
「そういうことならここを使いましょう」
エリーは予備棟の部屋を確認して俺にそう言った。
そこは予備棟地下にある実習室。
確かにここなら地下なので窓も少なく、そしてなおかつ密室だ。広さも申し分ない。
「よしアルテアと戦う場所はここで決まりだ」
ここで戦うにはどうすればいいのか。
俺が少ない脳筋をフル活用している時、エリーは何かを思いついたようだった。
「いいことを思いつきました。誘導するんです」
「誘導?」
「そうです。この1週間でアルテアの性格について情報収集していたんです。何か役に立つかもしれないと思って」
アルテアの性格について情報を集めるなんて考えもしなかった。
エリーが集めた情報によるとアルテアはかなりの傲慢、そしてナルシストだという。
確かにシュウとの戦いを見てもそんな感じはしていた。
「そうかそれを利用するんだな?」
「いいえ」
「え?」
この流れからしててっきりそういうことかと思っていたのに。
「例えばアルテアの悪口かなんかを言いまくって逃げまくって誘導するとか?そんな感じじゃないの?」
「相手が並の敵ならそれで問題ありません。でも相手はチート野郎ということを忘れてませんか? もし誘導してる最中に一撃でもくらって死亡。なんてこともありえるのでは? それにその方法だと確実性にかけます。相手を100%挑発できる確実性はありませんから」
完全に論破されてしまった。
ぐうの音も出ない返しである。やはり俺は脳筋だったか。
だけどそれ以外の方法はどうしても思いつかない。
「えっと……エリー、つまりどうすれば?」
「聞いて驚かないでくださいね。実は物凄い事実が判明したんです」
「なんなのじゃ? わしにも教えてくれ」
俺とエリーの作戦会議を眺めていたアリシアが割って入ってきた。
エリーが俺達の顔を引き寄せ小さく、もったいぶったような言い方でつぶやいた。
「つまりですね……。アルテアは実は極度の……」
ゴクリとツバを飲む俺。ここまで焦らす事実とは一体……!?
「女好きなんです」
え?




