合否
試験官の顔が渋い。
しまった力を抑えすぎたか……?
俺は試験の本番を迎えていた。前回からの連続参加ということで一番最後の順番だった。
実力を示せと言われたのでこの前と同じようにして炎の魔法、エンドレスフレイムを唱えた。計画通り全力は出さなかった。ここで全力を出して力がバレてしまったら意味がない。
しかしその力の抑え方を間違えてしまったようだ。
シュウの時のような「合格」という一声がなかなかかからない。
かといって「不合格」という一声がかかるわけでもない。
なんとも言えない間が会場に流れる。俺の試験を見ていた会場の客達もざわついている。
アリシアも俺の試験の様子を見学していたのでチラっと見てみたら特に怒っている感じではなかった。アリシアなら試験官にキレてそうだと思ったのに。アリシアは何か分かっているのだろうか?
しかし力の調節って難しいわ。
威力を高めることよりも魔法をコントロールすることのほうが難しいのかもしれない。
それからさらに時間が経った。
試験官は腕組みしてずっと俺が放った炎を見つめていた。
そうしている間に会場の客達はアリシアとエリーを残して全員帰ってしまった。
「あの……?」
俺はしびれを切らして試験官に合否を聞いた。
もう不合格なら不合格といっそきっぱり言ってくれたほうがマシだ。
「……合格だ」
その一言を言って試験官は去っていった。理由は語らずただその一言だけだった。
おいおいこんだけ待たせてその対応かよ。まぁとりあえず合格だからいいんだけどさ。
なんとも言えない気持ちのままこうして俺の試験は終わった。
「なんだかなぁ」
「良かったの。優秀な試験官に当たったのじゃ」
「え?」
優秀な……試験官……?
一体どういうことだこれは。まさかそんな事を言われるとは思わなかった。
俺から見たら優秀な試験官とは全く思えなかったのだが?
「なんじゃ。分かってないようじゃの」
「すいません師匠。よろしければ私に理由を教えてくれないでしょうか?」
「しょうがないのう。理由はお主が放った魔法の『長さ』じゃ」
「長さ?」
「そうなのじゃ」
理由は単純なことだった。
魔法を使った俺でさえ気付いていなかったのだが、俺の炎は放った後も燃え続けているのだ。エンドレスフレイムとか名づけておいて文字通りずっと燃えていた事に気付かないとはね。
前回の試験の時は普通に放った後はすぐ消えてしまっていた。
ただの火をつける魔法そのものである。名前負けの魔法だったということだ。
「全く自分でも気付いていなかったとは情けないのう。魔法とは何も威力ばかりを高めるものではないぞ。コントロール、持続性なども重要な要素なのじゃ」
アリシアの言う通りである。
試験官はそれをずっと確認していたので時間がかかったということか。
確かにこれを確かめているのであればすぐに合否判定はできない。
試験官が優秀だったということはこういうことだ。
すいません試験官さん。さっきまで心の中で愚痴ってばかりでした。俺がただのヘボ野郎でした。
「分かったらさっさと燃え続けている魔法を解くのじゃ」
こんな話をしている間も俺が放ったエンドレスフレイムは燃え続けていた。
そうか、俺の名付けた名前通りの魔法になったんだな。ありがとう師匠。
しかしこの燃え続ける炎。これはうまく使えば武器になるな。戦略の幅が広がる。
「難しい話は終わりましたか? もういいですよね? あの、えっと、合格おめでとうございます!」
「ありがとうエリー!」
横で話を黙って聞いていたエリーから祝福を頂いた。
流れ的にハグかなと思ってハグしようとしたら普通に避けられてしまった。
ちょっと調子に乗りすぎたということだろうか。ともかくお祝いありがとう。
「えっと、その、あの、ちょっとドキドキしましたけど信じてましたよ。体は大丈夫なんですか?」
「大丈夫。エリーの一言もあったし、ちゃんと自分の体と相談して魔法を唱えたからね」
「そうですか。無事がなによりです」
無理をしないで無事合格できた。これほど効率のいい内容ない。
今回の試験は100点満点といえるだろう。
「なんだかエリーはよそよそしい感じがするのう。さっき何かあったのかの?」
アリシアがエリーに突っ込む。確かにそれは感じていた。何だか俺と話すのも普段より距離があるように感じるし。目も微妙に合わせてくれていない気がする。
「なんでもないですってば! 変なこと言わないで下さい!」
「お~怖いのう。そんなに怒るってことはやはり何かあったのじゃろう。なぁアルスくん」
「いや~俺もよく分からないんだよね。特に何もなかったと思うんだけど」
と俺が答えた瞬間であった。
エリーは今度は俺の目を真っ直ぐ見つめてきた。
え? 俺なんか変なこと言ったかな?
「もういいですよ! 知りません」
そう言って走り去ってしまった。
「どうやら魔法だけでなく他のことにも師匠が必要みたいじゃのう」
アリシアが俺の肩後ろからポンと叩きながらそう言ってきた。
よく意味が分からなかったがどうやらまだまだ俺は成長しなければいけないことがあるみたいだ。
「伊達に青春を勇者道にささげてないみたいのう。ま、お主は若い。これからの成長に期待なのじゃ」
「はぁ……。ありがとうございます」
とりあえず返事したけどよく考えたらアリシアって俺より年下じゃねーか。
アリシアのが圧倒的に若いじゃないか!
というツッコミが喉からでかかったかが話が長くなりそうなのでグッとこらえた。
「ともかくこれでいよいよアルテアがいるクラスへと進むことができるのじゃ。いよいよ決戦の時というわけじゃの」
「そうだな。アルテアにどう立ち向かうのか、もっともっと策を練らないといけない。これからもよろしくお願いします師匠」
「任せておくのじゃ」
アルテアとの決戦のこともそうだが、俺はこれで上のクラスが今どういう状況になっているかを知ることができる。この目で確かめることができるんだ。
チート転生者という存在がどういう影響を与えているのかを知って救わなければならない。
アルテアを倒しただけで今のこの学園にはびこる空気やルールを変えることができるのかどうか分からない。
俺はそのような既に影響を受けてしまって変わってしまったモノたちを元に戻す、正さなければならない。
それも俺に与えられた使命だからだ。
「ところでシュウは今日の会場にはいたの?」
試験前に俺はシュウに戦う意思を感じて欲しいと思っていた。
だが試験内容を考えるとその意思がシュウに伝わったかどうか不安だった。
「ちゃんと見ていたのじゃ。お主の魔法の成長、そしてその先のアルテアとの戦いへの意思。ちゃんと分かっていたから安心するのじゃ」
アリシアは俺の不安に対する答えをすぐに教えてくれた。
ここまで俺が聞きたかった答えをくれるとは。
「シュウは判定を聞いてからすぐに会場を出て行ったのじゃ。きっと自分も何かをしなければと思ったのじゃろう」
それを聞いてもっと安心した。
シュウは再び歩み始めたということだ。もう何も心配はいらない。
俺の今回の試験が少しだけでもキッカケの一部となっているのなら嬉しい。
「もう倒れてもいいのじゃ。ワシとお主しかここにはおらんのじゃ」
アリシアは小悪魔的な笑顔で俺に優しく語りかけた。
小悪魔的っていうのは魔王だから相応しくない言葉なのかもしれないが。
アリシアはやはり分かっていた。
プレッシャーから開放された俺は今にもこの場に倒れ込んでしまいたいと思っていた。
でもエリーには試験前にああ言った以上そういうところは見せたくないみたいな意地があったので頑張って平穏を装っていた。
アリシアと俺しかいないのならもうそんな意地も張らなくてもいいな。
「よく頑張ったのじゃ。今回は特別にワシの膝を枕にする権利をやろう。頑張ったご褒美なのじゃ」
今度はアリシアの膝枕。やはりこの女の子は魔王、只者ではなかった。




