仇
「やっぱりゴミはゴミだな。努力? 才能のないお前みたいなゴミがいくら努力しても無駄なんだよ」
アルテアが放った魔法の直撃を受けたシュウ。
高圧縮された魔法に耐えられずにボロボロになって倒れた。
力を示すだけならここまでやる必要あるのか? しかも努力を完全に否定するような言動。
体のみならず心までも打ち砕く一撃だった。
転生者特有の言動。相手の事など何も考えない行動。
そしてこの力。
恐らくこいつは努力など全くしないで手に入れた力を元にここまで辿り着いたのであろう。
自分がたまたま手に入れた力をあそこまで自慢気に、そして才能と言い切ってしまう態度。
つくづくクズという言葉がふさわしい。こいつは絶対に俺が狩らねばならない。
こうしてシュウの試験は終わった。
俺はシュウに何も声をかけてやることができなかった。
『よく頑張った』『次がある』そんな言葉をかけるべきだったのだろうか。
いや恐らくそれは違う。だが、何て声をかけていいのか分からなかった。
「辛い記憶を思い出させてしまってすまなかったのじゃ。わし達は出て行く。もう少し眠るといいのじゃ」
「すいません師匠。まだ心の整理がつかなくて」
「分かっておる。いいのじゃ」
こうして俺達は部屋を後にした。
今のシュウは一人になる時間もきっと必要なはずだ。
その後シュウがどうしたのかはルーシーが教えてくれた。
シュウ自身の口から話させるのは酷だからだ。
ルーシーにシュウの事を教えてくれたのはあの不良だという。
実はあの不良は上位ランクから落ちてきた生徒であった。
そのため上位ランクにいる知り合いを通じて情報を集めることができたのだ。
どうしてここまで俺達に力を貸してくれたのかは分からない。
だが助かった。後で礼を言わねばならない。
シュウはその後も努力を続けた。
今まで以上に自分をいじめ抜き鍛えた。何度も何度も。
しかしそれは通じなかった。
アルテアばかりか他の生徒にも敵わなかった。
近頃の上級クラスは魔力が強い者ばかりになっていた。それもある日突然そうなったらしい。才能を開花させたとその者たちは口をそろえて言っているそうだが、恐らく後ろにいるのはアルテアだろう。奴が何かしたに違いない。
そしてシュウを含むいわゆる『普通の生徒』達は日に日に居場所がなくなっていった。
この学園のモットーは良くも悪くも魔力至上主義。
そのため普通の生徒達は教師などからも露骨な差別を受け始めたという。
それでもシュウはそんな環境の中でも弱音を吐かずに努力を続けた。
体の傷は恐らくその時のものだろう。
しかし、やはり努力は実を結ばない。というよりも周りが強すぎた。
そして次第にシュウは自分を壊していく。
目標だった人物に罵倒されたという事実。そしてクズ呼ばわりされたこと。
全てがシュウの心を蝕んでいた。
あてのない努力はもはや努力とは呼ばない。
アリシアから教わった基本も忘れてただ闇雲に突き進むしかなかった。
そんな日々を送り続けたシュウの心はある日ついに壊れた。
上級クラスを追放となったシュウ。それが俺が出会った時のシュウだった。
こんな出来事があったらシュウの心が壊れてしまうのも無理はない。
想像していたよりずっと過酷な日々だ。
シュウの強い心が折れるほどに上のクラスはおかしくなっているなんて。
「わしが本気を出して戦うしかないようのじゃ」
アリシアはエリーの話を黙って聞いていた後にこう呟いた。
確かにアリシアが本気を出せば勝てるかもしれない。
この世界の魔力のレベルから考えるとアリシアが本気を出せば負ける相手はいないだろう。なにせ元魔王だからな。前の世界で見せた力も全然本気じゃなかったようだし。
それに弟子をこんな目に合わせた奴らに対する怒りは相当なものなのだろう。
ほうっておくと今にでも一人で突撃しそうな勢いだった。
これほどまでに怒っているアリシアは初めて見る。
「私も手伝います。アルテアとかいうバカを狩りましょう」
エリーも同調していた。優しいエリーも今はいない。
同じような怒りを持っている。
二人の言う通りかもしれない。今二人が乗り込めばカタが付いて解決するだろう。
だが本当にそれでいいのか?
相手は異世界から転生してきた転生者。そしてあり得ない力をただ与えられただけの存在だ。そんな奴を異世界から来た二人が普通に倒す。それでいいのか?
いやそうじゃない。
「待ってくれ二人共。ここは俺にまかせてくれないか?」
二人は不思議そうに俺のほうを見た。
当然の反応だ。今この状況で一番弱いのは間違いなく俺。
なにせまだEランクなんだからな。
「アルスの気持ちは痛いほど分かるのじゃ。でも今のアルスでは無理なのじゃ」
アリシアの言う通りだ。
だがそれは「今の俺には無理」ということに過ぎない。
「そうだ。確かに今の俺には無理だ。だが俺は強くなる。そして俺がアルテアを狩る」
「何を言っているのじゃ? わしが行けばすぐ終わるのじゃぞ」
「そうだ。だがそれではシュウの無念ははらせない。このままで終わってしまっては結局努力は負けることになる。アリシアは確かに強い。恐らくアルテアにも勝てるだろう。だがそれじゃあ意味がないんだ。頼むアリシア、エリー。俺に協力してくれないか」
努力とは無駄だったのか?
才能がある者、チートがある者には敵わないのか?
それはまだ結論が出たわけじゃない。
俺が鍛え続けても恐らくアルテアを魔法だけで倒すのは無理だろう。それぐらいは分かる。だが俺には転生者を狩るための力がある。その力を使うためには奴に触れる必要がある。遠距離が基本の魔法使いに対しそれを行なうのは困難だ。
それを努力によって打ち破ること。それこそが努力が無駄じゃないという証明になるはずだ。
「……やれやれなのじゃ。アルスのそういうところ嫌いじゃないのじゃ」
「本当、根っからの勇者ですね」
俺の言っていることがどうやら二人に通じたようだ。
我ながらワガママ言っているということは分かる。
それに俺が成功するという保証もどこにもない。
「必ず俺はやってみせる。シュウの想いも背負って頑張るから。だから……」
アリシアが俺の手を力強く握りしめた。
「了解したのじゃ。じゃがわしは厳しいのじゃ。覚悟しておくのじゃ」
「ありがとうアリシア。いや、師匠。これからよろしくお願いします」
俺はアリシアの手を強く握り返した。
アリシアの思いが伝わってきて胸が熱くなる。
「シュウの事は私に任せて下さい。そして出来る限りサポートします」
エリーが俺とアリシアの手に自分の手を重ねた。
「ありがとうエリー。よろしく頼む」
ここにアルテアという転生者を狩るための訓練の日々が始まったのである。




