アルテア
倒れてしまったシュウを部屋へ運んだ。
今のシュウには一刻も早い治療と休息が必要だった。
しかし目覚める度に何度も悪夢を見たように暴れてしまい手がつけられなかった。
俺はその度にシュウを力づくで押さえつけた。
こんなことを繰り返していては本当にシュウはダメになってしまう。
もう元に戻らないかもしれない。そんなことさえ思い始めた時だった。
「頑張るのじゃ。わし達が側にいるのじゃ」
俺の不安をよそにアリシアはシュウの手を握りしめていた。
黙って、何か声をかけるわけでもなくただひたすら握りしめていた。
今は信じること。それが一番大事だという想いからの行動だった。
俺は自分を恥じた。一瞬でもネガティブな考えをしてしまったことを。
アリシアと同じように俺は信じることにした。
あのシュウがこんなことで終わるはずがない。一緒に過ごした時を俺は忘れない。
「もう大丈夫でしょう。落ち着きました。もう暴れることはないでしょう」
そうエリーが俺達に告げたのは部屋に運び込んでから3日が経っていた。
エリーはその間ずっと治療のためにシュウの側を離れなかった。
エリー自身も相当に疲れているはずなのにそんな素振りを俺達に見せることはなかった。
むしろいつも以上に笑顔を作り俺達と接していた。
こんな状況でも俺達のこともちゃんと考えていてくれたのだろう。
俺にはとてもこんなことはできない。
慌てて動揺していた自分が恥ずかしい。
「良かった。良かったのじゃ……」
アリシアはエリーからその言葉を聞いた瞬間に倒れ込んでしまった。
ずっと気を張っていたせいだろう。
いくら強く、芯がしっかりしているとはいえまだ少女だ。
「大丈夫かアリシア。エリー、アリシアを頼む。あとは俺が見てるから二人共休んでくれ」
「分かりました。さぁ行きましょうアリシアさん。アリシアさんも何も食べていないのでしょう?」
「大丈夫、大丈夫なのじゃ」
「もういいんですよ無理しなくて。安心してください」
そう言ってアリシアを連れて部屋を出たエリー。
ありがとう二人共。お疲れ様。
俺はシュウの寝ているベッドの横に座った。
確かにシュウの顔を見るとだいぶ落ち着いているように見える。
涙の後がまだ目の下に残っている。
そして俺はシュウの隣で眠ってしまった。
俺も張っていた気のせいだろうか。
「アルスさん……?」
聞き慣れた声が聞こえて俺は目が覚めた。
俺の記憶が間違いなければこれはシュウの声だ。
それも俺が一番良く知っているシュウの声じゃないか。
「シュウ! もう大丈夫なのか!?」
俺は驚いてシュウの肩を両手でつかみ声をかけた。
喜びと驚きにより思い切り掴んで叫んでしまった。
静かだった部屋に俺の大声が木霊する。
「ちょ、ちょっと。痛いですよ。僕は大丈夫ですって」
「すまん。つい気が動転してしまってな。しかし本当に大丈夫なのか?」
俺は改めてシュウに確認した。
「ここはどこですか? 一体僕はどうしてこんなところに」
「何も覚えていないのか?シュウ」
「はい……」
どうやら話を聞いた限りでは暴れていた時の事を忘れているということが分かった。
あんな事の事を忘れてしまうということがあるのだろうか。
急いでアリシアとエリーを呼び戻した。
アリシアは部屋に入った瞬間シュウに飛びついた。
この時のアリシアの笑顔ったら忘れられない。
「師匠。お久しぶりです」
「なんじゃその挨拶は! わしがどれだけ心配したのかと思っているのじゃ」
「それがいまいちまだ思い出せなくて……」
「そうなのか? うーん困ったのう」
俺はシュウにゆっくりと自分が何をしたのかを説明した。
「……僕がそんなことを。一体何故、師匠にまで攻撃するなんて」
俺はあの人物の名前をぶつけてみることにした。
シュウが憧れていたあの人物の名前だ。
「アルテアって覚えているか?」
その俺の質問を聞いた瞬間シュウの表情が一変した。
「そうだ僕は昇級してから……僕は」
また暴れだしてしまうのかと一瞬思ったのだが、今度はそうではなかった。
そしてシュウはしばらく黙りこんだ後。事の顛末をゆっくりと語り始めた。
シュウはあの試験の後に俺達を別れて上位クラスへ進んだ。
そしてそこでの生活が始まった。
夢と希望と共に始まった憧れの生活。
だが上位ランクの世界はそんな生易しいものではなかったのだ。
常に魔法のの実力によって区別、いや差別される世界がそこにはあったのだ。
実力がない者はゴミ同然に扱われる。そんなことがまかりとっていたのだ。
俺みたいな下位ランクにそのような話は伝わってこなかった。
むしろ上位ランクはシュウの思っていたような所だという話が主流だったぐらいだ。
そんな厳しい世界だったがシュウは勿論諦めなかった。
今まで以上に努力した。実力が足りないのは自分の努力が足りないからだとシュウは考えたのだ。シュウの性格からすれば当然の事だったのかもしれない。
そしてその努力によって魔法の力はより強くなっていった。
ある日、自分より上のランクの学生を相手に力を試すというカリキュラムがあった。
上位ランクではこのようなカリキュラムによってより実戦的な魔法の力を磨くという。
シュウは嬉しかった。自分の力を存分に試すことができる機会が来たからだ。
ここで皆を見返してCランクから上がってやろうと思ったのだ。
そしてシュウのカリキュラムが始まった。
相手は『アルテア』だった。
憧れの相手と初対面。そしてその相手に自分の力を見せることが、試すことができるという機会。
聞くだけでもシュウの喜びようが目に浮かぶ。本当に嬉しかったんだろうな。
だがこのカリキュラムが全ての引き金となってしまったのだ。
その様子は非常に生々しく重いものだった。
俺は聞いていた自分の中に湧き上がる怒りを抑えるのに必死だった。
アリシアがシュウの記憶を魔法により俺に見せてくれた。
――――――――――――シュウの記憶――――――――――――
「お前が試験官を驚かせたとかいう期待のルーキーか?」
カリキュラムの最初にアルテアはシュウにそう話しかけたという。
まさか自分のことをアルテアが知っているとは思わなかったシュウは驚いた。
と同時に嬉しくてたまらなかったという。
そりゃあそうだ。今まで雲の上の存在だった人物が自分の事を知っていたのだから。
シュウはアルテアに自己紹介をした。
自分がどれだけアルテアにあこがれていて、そのためにここまで来たという事も伝えた。
アルテアは喜んでくれると思っていた。シュウはそう勝手に思っていたのだ。
だが実際は違った。
「あーうぜーな。いるんだよなこういう奴。いいから早く見せてみろよ魔法を。めんどくせーから全力で来いよ」
シュウはアルテアのその言葉に動揺した。
だがこれは自分を奮起させるためにわざとやっていることだと思い込むことにした。
そして言われたとおりに全力の魔法でアルテアを攻撃した。
その魔法、サンダーボルトは今までで一番強いものだったという。
見事にアルテアに直撃した。
だがアルテアは傷ひとつついていなかった。
シュウは驚かなかった。これがこの学園最強の者の力だと知ってむしろさらに憧れが増した。自分が目指すのはこれだと強く再確認したのだ。
「なんだこれ。それで終わりか? カスだな。お前もカス。そんな魔法を俺に見せて何がしたいの?」
最初の態度と変わらなかった。
シュウは何も答えられなかった。今までで一番いい出来の魔法をカス呼ばわりされたのだ。こんなにつらいことはないだろう。
「もっと努力します。そしてもっと強くなってみせます」
シュウは必死にこの言葉を振り絞った。
精一杯の返し、反論。そして自分を奮い立たせるための言葉だった。
だがアルテアはそんな想いなど気にしなかった。
「努力? 何だそれ。無駄だよ無駄。お前には才能がない。努力なんてしてもたかが知れている。お前は俺のようには絶対なれない。そんな魔法はカスだ」
容赦無い罵声を浴びせるアルテア。
その顔の憎たらしさったらありゃあしない。
クズの顔そのものだった。
「でも僕は今までそうやって生きてきたんです。ここまでもそうやって辿り着いたんです」
その通りだ。俺はそういうシュウの生き方を知っている。そして尊敬していた。
そういう生き方を出来る人間は本当に少ないから。
だがアルテアはそんなことどうでもよかったようだ。
「あーうざってーな。いいよ、見せてやるよ。その今までの努力とやらがいかに無駄で、カスでゴミだったということが分かるぐらいにな。二度と俺の前で、いやこの上位ランクでその言葉を口にするなよ」
そう言ってアルテアは右手をシュウに向けた。
魔力が右手に集中する。物凄い魔力だ。しかし詠唱も何もなしにここまで魔力を圧縮できるなんて。
「これが俺の力だ。努力とやらで耐えられるかな?」
そしてアルテアはシュウに向けてその魔力を魔法にして放った。
こんなもの耐えられるわけがない。
この世界の理を超えている。あり得ない力だ。
俺はここで完全に分かった。
そう、こいつはチート転生者だ。間違いない。




