無駄
「エンドレスフレイム!」
「合格ッ!」
俺の挑戦も終わった。練習した成果が出た。これで転生者にまた一歩近づくことができたのだ。ランク? もちろんEランクに昇格だよ。
一歩一歩確実に進むのが俺のスタイル。
まぁ実際はEランク以外合格できる気がしなかっただけなんだけど。
「おめでとうシュウ。まさかあれほどの魔法を持っていたとは思わなかった。正直試験官もビビってたと思うぞ」
俺は見逃さなかった。シュウが詠唱して魔力を集めた時の試験官の顔を。
明らかに他の受験者への顔とは違った顔をしていた。
Fランクの少年がまさかここまでやるとは思っていなかったというのもあるだろうが。
「ありがとうございます。まさかここまでうまくいくなんて思ってませんでした。まぐれです」
そう言った瞬間腕組みしながら見ていたアリシアがキレた。
「まぐれ? まぐれとは何なのじゃ!」
え、そこでキレるの? 俺は正直気にしてなかったから意味がわからなかった。
アリシアがシュウの胸ぐらを掴み続ける。
「いいかなのじゃ。あれはまぐれなんかじゃないのじゃ。間違いなくお前の実力なのじゃ。二度と自分の力を過小評価するようなことはやめるのじゃ!」
なるほどそういうことか。確かにまぐれと言ってしまってはあれが本来のシュウの実力ではないという感じになってしまう。それをシュウ自身が言ってしまってはダメだということか。
「わ、分かりました師匠。軽率でした。すいません」
しかしアリシアは勝負師だな。ここまで真剣に考えていたとは思わなかった。
「分かればいいのじゃ。すまなかったな熱くなってしもうて。良い遅れたの、おめでとうなのじゃシュウ」
「ありがとうございます師匠」
「ここからが本番なのじゃ。上へ行ってもサボるのではないぞ」
「もちろんです。変わらず練習に励みます」
上のランクへ行ってしまったら俺達とは別のゾーンで生活することになる。
なのでもう今までのように一緒に特訓するようなことはできない。
だが、シュウなら問題ないだろう。もう昔のシュウじゃないのだから。
「わしはここでまだ教えなきゃならんことがあるからの。少し経ったらわしもそっちにいくのじゃ!」
勿論ここで言う教えなきゃいけない相手とは俺のことである。
すいませんアリシアさん。もう少し付き合ってくださいませ。
「お待ちしてますよ師匠。僕はもっと上へ行ってみせます」
「うむその意気なのじゃ」
こうして俺達の昇級試験は終わった。結果は素晴らしいものとなった。
そしてシュウは次の日から上位ランクゾーンへと移り、俺達はそのままのゾーンで生活を続けることになった。
――――――――――――1ヶ月後――――――――――――
「エンドレスフレイム!」
俺の手から出た炎が人形を焼き尽くす。
以前とは考えられないほどの威力になっていた。
「その調子なのじゃ! やっとものになってきたのう」
アリシアのワンツーマンの猛特訓のおかげでついに俺もここまで来ることができた。
長かった、長かったよここまで。
ワンツーマンになって分かったことがある。
アリシアはマジでドSだった。一体どれだけ特訓させられるんだと死にたくなった。
「そろそろ休憩にしませんか? はいタオルです」
「ありがとうエリー。本当、エリーのその笑顔だけが俺の支えだよ」
「そ、そんな。急にそんなこと言われたら私、私……」
「いや後半は冗談だけど」
「もう!」
エリーは相変わらずマネージャーとして俺を支えてくれた。
だが、エリー自身も実はアリシアに特訓してもらっていた。
どうやらコツを掴むのが上手いらしく俺より遥かに少ない時間で実力を伸ばしていった。
だが本人は攻撃魔法には興味ないらしい。
むしろ誰かをサポートするような魔法を学びたいと言いそっちを学んでいた。
おかげで俺がアリシアの猛特訓で傷ついた時に魔法で治してくれるレベルにまでなっていた。
このような万全な体制が今の俺につながっているということだ。
しかし努力するということは素晴らしいことだ。
自分を見つめなおし、トライアンドエラーを繰り返す。
そんな中で少しずつ努力が実を結んでいくという過程。
俺は自分が勇者になるために修行していた頃を思い出した。
転生勇者に横取りされたショックですっかわり過去の物として忘れていた。
だけどこの感覚は俺が勇者修行していた時と同じだ。
今日の俺より明日の俺のが確実に成長している。こんなに素晴らしいことはない。
「今頃シュウはどうしてますかね?」
エリーがぽつりと呟いた。
そういえば最近シュウはここに顔を出さない。
最初の頃は笑顔でここに顔を出していた。
確か『上位ランクは皆凄くて大変』『あと少しでアルテアさんに会うことができるんです』みたいな事を目を輝かせながら俺達に語っていた。
毎日が充実って感じなんだろうって思っていた。
「シュウならきっとうまくやってるのじゃ。なにせわしの弟子じゃからのう」
アリシアの言う通りだ。シュウはアリシアのこの地獄の特訓を乗り切った男。
きっと上でもその忍耐力で頑張っているに違いない。
「よし、きりが良いので今日は解散じゃ。明日の試験のこともあるしな。アルス、しっかり体を休めておくのじゃ」
「おう」
実は明日は二度目の昇級試験の日。
俺はこの日を待ちわびていた。今はEランクだけど今度はシュウと同じくCランクを目指す。必ず特訓の成果を出して上へ行くぞ。転生者よ待っていろ。
俺は高ぶる心を落ち着かせるべく、放課後の構内を散歩して帰ることにした。
こうして一人で歩いてゆっくり心を落ち着かせる。
その日はいつもとは違う道を歩いてみた。
そしてその通り道の中には不良や落第者が集まっているゾーンがあった。
そこは毎日、そのような奴らがだべっているところ。
負のオーラが満載だ。この学校はシステム上どうしてもこういう奴らが生まれてしまうと教員が言っていたことを思い出した。
俺は納得がいかなかった。自分を諦めた奴らが環境のせいにしている事が多いからだ。
俺はさっさと通り過ぎようと思って早歩きをしていた。
何かを壁に叫んでいる男がいた。泣きながら叫んでいる。いや発狂していると言ったほうが近いかもしれない。
俺は怖いもの見たさでそいつの顔を見た。
「お前は、シュウ!?」
衝撃だった。その男とはシュウであった。
以前の姿とは比べ物にならないほどやつれて汚れている。
俺達に見せてくれた屈託ない笑顔は一体どこへ。もはや面影すらなかった。
だが間違いなくシュウだ。
「無駄だった無駄だった無駄だった。全ては才能、生まれついての力、努力など無駄だった」
そう何度も叫びながら壁を殴ったり頭を打ち付けたりしている。
どうしてこんなところでこんなことになってしまってるんだ。
俺は声をかけようにもかけられなかった。
それほどの衝撃と悲惨さ。
「お前、また会ったな。どうしたんだ?」
俺の後ろからそう話しかけてきた男が一人。
誰だこいつと一緒思ったのだがすぐ思い出した。
そうだ、俺が初日に会った不良じゃないか。
「お前はあの時の」
「ああ久しぶりだな。あれお前の知り合いか? あいつも壊れちまったんだなぁ。最近多いんだよああいうの」
まるで他にもシュウのような奴がいっぱい居るかのような言い方だ。
俺は改めて周りを見た。
すると確かにシュウほど発狂してはいないが同じようなことを呟いて地面に座り込んでいる少年の姿が目に入る。
「教えてくれ。シュウに何があったのか」
「あいつが今叫んでいることを聞いただろう? あれはアイツの心の叫びだ。素直に受け取ってやれ。アイツはあのままじゃ完全に死ぬぜ。もちろん心がって意味でな」
シュウが叫んでいることが心の叫びだって?
わけがわからない。とりあえずシュウを止めなければ。
あんなことをしていては体がボロボロになってしまう。
「なぁシュウ。覚えてるか? 俺だよアルスだよ。どうしたんだこんなところで。何があったか教えてくれ」
シュウは叫びを止め俺のほうを見た。
「アルス……さん? 貴方も僕を笑うのですか」
「いやいやそんなことじゃないよ。とにかく何があったのか知りたいだけだ」
シュウは俺の言葉など耳に入って居ない様子だった。
まるで妄想に取り憑かれているような感じだ。
そしてそれは俺に向かってきた。
「幾度も空を切り裂いてきた音よ、光よ、我が右手に集え。我が想いを喰らえ。そしてここに命じる、我に力を貸せ」
詠唱をいきなり始めるシュウ。
それは試験で見せた時と同じであった。
まさか俺に攻撃してくるなんて、そう思った時には遅かった。
もうすでに俺に向かってサンダーボルトは放たれていたのだ。




